個別株よりも手軽な高配当投信 購入する際の留意点は?
配当・優待生活入門(7)
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国内公募投信の資金流入動向を見ると、海外株に投資する投信に偏っている。今年の上半期に進行した日米の金利差拡大による円安・ドル高や米国株の値上がりを受け、「オルカン」という通称で知られる全世界株式指数など、海外の株価指数に連動するインデックス型投信に資金が集中している。低コストの商品が増えた影響もあり、新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まってからは、その傾向が一層強まった。
なかなか日本株に目が向きにくい状況だが、日本株を投資対象とする投信の中で、高配当株は健闘している。QUICK資産運用研究所副部長の石井輝尚さんは「上半期の資金流入ランキング上位を海外株のインデックス型投信がほぼ独占する中、唯一食い込んだのが高配当株投信だった」と話す。
東証の要請を機に資金が流入
資金を集めるきっかけとなったのが、2023年3月に東京証券取引所が上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請したことだ。中段のグラフは、配当に着目した日本株投信の資金流入動向を示したものだが、23年3月以降は大幅な流入超に転じている。株価純資産倍率(PBR)1倍割れ解消に向けた株主還元強化に対する期待から、高配当株ファンドに急激に資金が集まっている。
日本株投信では高配当株ものへの流入が目立つ
日本株投信に限った上半期の資金流入額ランキングを見ても、その傾向は明らかだ。資金を集めているファンドの上位15本中、6本を高配当株投信が占めている。石井さんは「個別株投資でも高配当株が人気なので、当面このトレンドは続きそうだ」と見る。
高配当株投信は証券会社によっては100円から購入できるため、高配当株投資を始めたいが個別株を買う資金余力がない人でも、高配当株に投資できる商品だ。NISAのつみたて投資枠や成長投資枠の対象となっている商品もあり、NISA口座で買えば非課税メリットが得られる。
銘柄の売り時・買い時もプロが判断してくれ、自分で考える必要がない。とりわけ高配当株の場合、業績やバリュエーション(投資尺度)のみならず、配当政策や株主還元方針でパフォーマンスが大きく変わる。こまめに確認しなければならない点を考えると、投信にお任せできるメリットは大きい。
だが、注意点もある。投資先からの配当収益が、すべて投資家に分配金として支払われるとは限らない点だ。分配金の額は運用会社が決めるため、投信の収益とは必ずしも連動しない。また信託報酬などのコストもかかるため、個別株投資よりは資金効率が悪くなる。
資金を集めている高配当株投信の特色
資金を集めている人気の高配当株投信の特徴をじっくり見ていこう。前出の資金流入額ランキングで首位になったのは、三菱UFJアセットマネジメントが運用する「日経平均高配当利回り株ファンド」だ。日経平均採用銘柄の中から配当利回りの高い上位30銘柄に、流動性を勘案して投資する。
次いで3位に付けたのは、野村アセットマネジメントの「日本好配当株投信」。銘柄や業種の分散にも配慮して投資するのが特徴だ。さらに4位には予想配当利回り上位の銘柄に均等投資するSBI岡三アセットマネジメントの「日本好配当リバランスオープンⅡ」が並んだ。
「高配当株」という同一のジャンルに分類される投信でも、銘柄の選び方や組み入れ比率、業種のバランス・リバランスの頻度などはすべて異なる。目論見書や運用報告書を読み、運用方針を事前に確認しておきたい。
石井さんは「配当利回りが上位という点だけで銘柄を抽出している場合は、流動性の低い銘柄や株価の下落で利回りが高くなっている銘柄も入ってしまう」と注意する。こうしたリスクへの対策を確かめるのも大切だ。
例えば日本好配当リバランスオープンⅡは、業種バランスを考慮せず、日経500の配当利回り上位70社に均等投資するが、銘柄は月次で入れ替えている。頻繁な入れ替えで、株価上昇で利回りが低くなった銘柄を売り、割安なものを買う効果も出ていそうだ。
「日本版ダウの犬」を投信で実践
「定性判断を最小限にし、あくまで予想配当利回りの高い上位30銘柄を選んでいます。シンプルな構成のファンドです」
上半期で最も資金を集めた「日経平均高配当利回り株ファンド」のファンドマネジャー、松田淳さんは特徴をこう説明する。
ダウ工業株30種平均の構成銘柄から、配当利回りの高い上位10銘柄に投資する「ダウの犬投資法」は、ダウ平均を上回るパフォーマンスを実現したことで有名となった。同ファンドはその日本版といったところか。
新NISAのつみたて投資枠の投資対象となった唯一の高配当株投信である点も、人気の理由の一つになっている。松田さんは「『インデックス投資の次』を考える人にお薦めしたいファンド」と話す。
ETFは積み立て投資のしづらさがネック?
投信の他にも、ETFで高配当株に投資する方法もある。昨年6月、東証がアクティブ運用型ETF(アクティブETF)の上場を解禁。それに伴って、国内にも高配当株を投資対象にしたアクティブETFが登場した。上に掲げたアクティブETF全体の純資産残高ランキングでも、高配当株型は数多くランクインした。
しかし、まとまった資金を集めるには至っていない。アクティブETF全体の純資産残高の推移を見ると、2024年3月頃から横ばいだ。QUICK資産運用研究所の石井さんは「定額での積み立て投資や少額での投資のしづらさが残高の伸び悩みにつながっているのでは」と分析する。
もっとも、ETFにもメリットはある。信託報酬が投信より低い傾向にあるほか、個別株と同様にリアルタイムで取引できる。分配金は決算期になると全額投資家に支払われるため、投信のように、配当収益と実際の分配金額に差が生じるようなことも起こらない。分かりやすさという点ではETFに軍配が上がる。
分配金は全額払い出し
だが、長期投資を前提に分配金を再投資する場合は、ETFと投信ともに注意が必要だ。ETFは決算期になると分配金を全額払い出してしまうため、再投資する場合は、自分で手続きする必要がある。また、新NISAの投資枠でないと、分配金は課税されてしまうので、気を付けなければならない。
一方の投信は、購入時に「分配金再投資コース」を選べば自動的に再投資できるので、毎回の手続きは不要だ。ただ、新NISAの投資枠を使って再投資する場合は落とし穴がある。「あまり知られていないが、再投資する分配金の額だけその年のNISA投資枠が消費されてしまう」(石井さん)
分配金の処理をめぐっては、ETFも投信もそれぞれ課題がある。他のメリット・デメリットとも照らし合わせて、総合的に利点の多いものを選ぼう。
(勝間美月)
[日経マネー2024年10月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
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