「史跡佐渡金山」の観光坑道に設置されている人形=8月30日、佐渡市相川地区
「史跡佐渡金山」の観光坑道に設置されている人形=8月30日、佐渡市相川地区

 世界遺産登録に沸く「佐渡島(さど)の金山「相川鶴子金銀山」と「西三川砂金山」の二つの鉱山遺跡で構成。17世紀には世界最大級の金の産出量を誇った。金の採取から精錬までを手工業で行っていた時代の遺構が残っているのは、世界的に例が少ないとされる。」。観光スポットの一つ、江戸時代初期に開かれた手掘りの坑道「宗太夫坑」では、排水や採掘など作業の様子を再現した機械仕掛けの人形が人気を呼んでいます。この人形の制作には、映画「シン・ゴジラ」(2016年)などで知られる樋口真嗣監督ら日本特撮界のトップランナーたちが関わっていました。樋口監督に人形制作の裏話を聞きました。

 人形は江戸時代の採掘作業の様子を再現するため、坑道内に60体以上が置かれています。「なじみの女にも会いてえなあ」のせりふでも知られる、まさに佐渡金山の“名物”です。

 樋口監督はガメラシリーズの特撮監督、日本アカデミー賞に輝いた映画「シン・ゴジラ」や、「シン・ウルトラマン」(22年)で監督を務めるなど多くの特撮映画に携わってきたことで知られています。

「史跡佐渡金山」の観光坑道に設置されている人形=8月30日、佐渡市相川地区

 交流サイト(SNS)では「佐渡島の金山」の世界遺産登録が決まった後から樋口監督が人形の制作に携わったとして話題になっていて、監督本人もX(旧ツイッター)で反応しました。

2023年のインタビューに応じる樋口真嗣監督=新潟市中央区の新潟日報メディアシップ

 新潟日報社の取材によると、樋口監督は1983〜84年に東宝で特殊造形のアルバイトをしていました。人形の制作を担ったのは、当時の東宝の特殊美術担当で「ゴジラ」の原型をつくった安丸信行さんと小林知己さんでした。樋口監督は安丸さん、小林さんの下で造形のアシスタントをしていたそうです。

 樋口監督は人形の下地となる鉄骨を溶接したり、皮膚のように水粘土を盛り付けたりする作業に携わったそうです。 

「史跡佐渡金山」の観光坑道に設置されている人形=8月30日、佐渡市相川地区

 樋口監督はXで「作ったなんて烏滸(おこ)がましいです」と謙遜し、「こんな感じ」として骨組みの写真も掲載しています。

 「そこから先は、名人によって神の手を操り、まるで生きているかのような金鉱掘のおっちゃんに命が吹き込まれるのです」とつづっています。

 制作した安丸さんと小林さん二人はいずれも故人となられましたが、小林さんは新潟県阿賀野市(旧水原町)出身。佐渡金山と日本の特撮界のレジェンドたちとの意外なつながりに驚かされます。

観光客でにぎわう史跡佐渡金山=佐渡市

 施設を運営するゴールデン佐渡によると、当初は外国人のマネキン人形が置かれていましたが、あまりにも実際とかけ離れていたことから1981年に大改装。84年には「コンピューター駆動の人形」に替えたそうです。その後、佐渡金山開山400年の記念事業として2001年にも人形を増やしました。

「史跡佐渡金山」の観光坑道に設置されている人形=8月30日、佐渡市相川地区

 制作に当たっては、当時の社員や付き合いのある会社の従業員の顔写真などをモデルにしたとのこと。「ヤマトマネキン」(東京)に制作を依頼した記録はありますが、東宝が手がけることになった経緯は不明だそうです。

 ゴールデン佐渡の名畑翔さんは「愛されている人形に有名な監督が関わっていたなんてすごい」と声を弾ませます。「監督と今後もつながりができたらうれしい。ぜひ佐渡に遊びにきてほしい」とアピールしています。

■機械人形に宿る特撮魂

 世界遺産に登録された「佐渡島(さど)の金山」。佐渡市相川地区の観光施設「史跡佐渡金山」の手掘り作業を再現した人形を制作したのは、「ゴジラVSビオランテ」(1989年)以降の平成ゴジラシリーズの怪獣造形を手がけた...

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