FASHION / TREND & STORY

デザイナー交代、勢いを増す若手。2024年春夏シーズンで記憶に留めておくべき9のこと

新クリエイティブディレクターを迎えたグッチ(GUCCI)トム フォード(TOM FORD)、そして現役クリエイティブディレクターによるラストコレクションとなったアレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)クロエ(CHLOÉ)など、2024年春夏シーズンを象徴する9つのトピックをプレイバック。

クリエイティブディレクターの就任と退任、若手デザイナーの台頭、そしてセレブリティやインフルエンサーをはじめファッションウィークを取り巻く構造の変化。2024年春夏は、ポストパンデミックの混乱の中、ジェネレーション交代を強烈に印象づけるシーズンとなった。後世に語り継がれるであろうエポックメイキングな今季、記憶に留めておくべき9のトピックを振り返ってみよう。

ヘルムート・ラング復活、ピーター・ドゥによる新たなビジョンは?

NYの雑踏を再現したようなフィナーレ。ランウェイに取り入れられた詩は、ベトナム出身の作家オーシャン・ヴオンによるもの。

SNS世代の間でヘルムート・ラングの古着がブームになる中、ピーター・ドゥによる新生ヘルムート・ラングのコレクションが、NYファッションウィーク期間中に発表された。ショーの開催前には、1998年の伝説のキャンペーンへのオマージュとして、ブランドのロゴ入りのイエローキャブを写したティザー動画を公開。創設者へのオマージュはランウェイでも見受けられ、ミニマルなテーラリングやフューシャピンクのカラーブロック、ロゴ入りのTシャツなどリアリティのあるワードローブを披露、堅実なデビューを飾った。

ヘルムート・ラング 2024年春夏コレクションレビュー

84歳の現役、ラルフ・ローレンが4年ぶりのランウェイで見せた、レジェンドの威厳

Apple TVドキュメンタリーシリーズ「ザ・スーパーモデル」で、衰えない美貌で圧倒したクリスティ・ターリントン。悠々とランウェイを歩く様は、まるで神話に出てくる女神のよう。

比較的若手に注目が集まりやすいNYファッションウィークだが、そんな中で圧倒的な存在感を見せつけたのがラルフ ローレン コレクション(RALPH LAUREN COLLECTION)。4年ぶりとなるランウェイでは、デニムやウェスタン風のフリンジといった“オールアメリカン”な要素をはじめ、ラルフ・ローレンのシグネチャーをぎゅっと詰め込んだ49のルックを披露。フィナーレではスーパーモデルのクリスティ・ターリントンが、ゴールドのワンショルダードレスを纏って登場した。

ラルフ ローレン コレクション 2024年春夏コレクションレビュー

悪天候もなんのその、サバト・デ・サルノによるグッチが鮮烈にデビュー

グッチらしいグラマラスさと、軽やかなモダンさが共存するコレクション。マーク・ロンソンによるサウンドスタイリングでは、コレクションタイトルの「Ancora」にちなんで、イタリアの国民的アーティスト“ミーナ”の楽曲「Ancora, Ancora, Ancora」が用いられた。

今シーズン何と言っても最も高い注目を集めたのが、サバト・デ・サルノによるグッチ(GUCCI)のデビューコレクション。悪天候により、ショー前日に急遽会場を屋外からグッチのミラノ本社、通称「グッチ・ハブ」に移動することになったが、それが逆に功を奏し、ミニマルなステージセットの中で、スリークかつ都会的なワードローブを際立たせた。クワイエット・ラグジュアリーに通ずるテーラリングやデデニムのルックをはじめ、煌びやかなクリスタルを纏ったマイクロミニドレスなど、今のムードを余すところなく詰め込んだ珠玉のリアルクローズが出そろった。

コレクション発表に先立ちキャンペーンに登場した伝説のモデル、ダリア・ウェーボウィはフロントローのゲストとして来場。

グッチ 2024年春夏コレクション レビュー

新生トム フォードがデビュー、ティモシー・シャラメは早速私服で着用

ベルベットやサテンなど、光沢感のある素材がセンシュアリティを際立たせるワードローブ。今後ピーターの個性がどう進化していくか注目だ。

トム・フォードによるグッチに憧れてファッションの世界に飛び込んだサバトと同シーズンにデビューを飾ったのは、まさにそのトム・フォードの右腕としてグッチ時代からクリエイションを支えたピーター・ホーキングスによるトム フォード(TOM FORD)。シャープなショルダーラインのジャケットとスリムなペンシルパンツセットアップや、大ぶりなゴールドのバックルのベルトを合わせたジャージードレスなど、トム フォードのプリンシプルを継承し、ラディカルな変革はないものの、タイムレスエレガンスを体現するワードローブを披露した。

フロントローのゲストが、コレクションと同じテーマのカスタムメイドのルックを着用するなど、ファッションウィークとセレブリティの関係性にも変化が。

また、ショー発表直後にあたる9月30日には、NYで開催されたシャネルのフレグランス「ブルー ドゥ シャネル」のイベントで、ティモシー・シャラメがピーターによるトム フォードのブラウンのセットアップを着用。レッドカーペット御用達ブランドのトム フォードが、今後どのように進化していくのか楽しみでならない。

トム フォード 2024年春夏コレクション レビュー

21世紀ファッション史に残る、アンダーカバーの“テラリウム”ドレス

仄暗いランウェイに浮かび上がるドレス。生花の周りを生きた蝶が舞う様は、まるで映画のワンシーンを閉じ込めたよう。

NY、ロンドン、ミラノでは比較的リアルクローズに注目が集まった一方、パリではファッションとアートの境界線を押し広げるようなクリエイションが“IRL(現実世界)”でも、SNSでも話題を集めた。アンダーカバー(UNDERCOVER)のショーでは、ドイツの現代アーティストのネオ・ラオホや、今年の8月に日本で開催された個展で披露された高橋盾自らが筆をふるったオイルペインティングをコレクションの中で取り入れたほか、フィナーレではぼんやりと光に照らされた“テラリウムドレス”が登場。ファンタジーを具現化したような見事なコレクションに、破れんばかりの拍手が送られた。

アンダーカバー 2024年春夏コレクション レビュー

若手デザイナーが群雄割拠をなすミラノ とパリ、次なるスターデザイナーは?

目の覚めるようなブライトカラーやスパンコール、フェザーなどを多用したアイキャッチーなルックで人気のジ・アティコ。初のランウェイには、名だたるデザイナーたちがフロントローに顔を並べた。

イギリス版『VOGUE』のアレックス・ケッスラーも注目するように、ポストパンデミックの影響もあり、若手デザイナーが勢いを増している。相変わらずシニカルなステージでSNSを席巻したアヴァヴァヴ(AVAVAV)、観客が審査員として参加したスンネイ(SUNNEI)、そして初となるランウェイ参加で、ジャーナリストだけでなく同業のデザイナーたちからも熱い視線を集めたジ・アティコ(THE ATTICO)、そして風船のようなシルエットでミームファンたちを熱狂させたデュラン・ランティンク(DURAN LANTIK)。果たして彼ら、彼女たちはジャックムス(JACQUEMUS)のように自身のブランドの事業拡大に注力するのか、はたまたビッグメゾンのクリエイティブディレクターに登用されるのか。今後のステップアップに注目したい。

ミラノコレクションの喜劇王、アヴァヴァヴ。優雅に見えるファッションショーも、実は裏では逼迫している?

ランウェイをモデルが全速力で駆け抜けたり、オーディエンスの中にモッシュしたり、ユーモラスなプレゼンテーションで人気のスンネイ。目の前で自分が着用したルックの点数を出される、モデルの心境やいかに。

アレキサンダー・マックイーン第二章の幕引きに、女王が涙

シルバーのビーズ全面に縫い付けた構築的なドレスを纏ったナオミ・キャンベル。長年ランウェイを共にしてきたサラ・バートンへの想いが込み上げて思わず涙。

NYファッションウィーク期間中にあたる9月12日に、アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)のクリエイティブディレクター退任が報じられたサラ・バートン。リー・マックイーンの意思を継承し、20年にわたりため息のでるようなクリエイションを生み出し続けてきた輝かしい第二章の幕を下ろした。フィナーレを締めくくったのはナオミ・キャンベル。圧巻のウォーキングを披露しながらも、ポロリと涙を流す姿が見られた。

なおパリ ファッションウィーク閉幕翌日にあたる10月4日には、ショーン・マクギアーが新クリエイティブディレクターに就任したことが発表された。

アレキサンダー・マックイーン 2024年春夏コレクション レビュー

ガブリエラ・ハースト、クロエの卒業はアップビートなラテンサウンドでセレブレート

クロエのサステナビリティの指針を強く打ち出し、ラグジュアリーメゾン初「B Corp認証」を取得するに至った立役者のガブリエラ。自身のブランドはもちろんのこと、他メゾンからのオファーも多数来ているはず。

ガブリエラ・ハーストによるクロエ(CHLOÉ)のラストコレクションとなった今シーズン。セーヌ川沿いの開放的なランウェイで披露されたのは、ブラック&ホワイトを基調としながらも、クロエらしい柔らかさ、フェミニンさを際立たせたワードローブ。フィナーレではラテン音楽のライブ演奏の中、モデルたちと共にガブリエラがパワフルなサンバを披露し、アップビートに卒業を彩った。

クロエ 2024年春夏コレクション レビュー

これぞランウェイグラマー、ミュグレーの勢い留まるところ知らず

巨大なファンの強風に吹かれながら歩くだけでも大変であろうに、この余裕。ランウェイモデルの鑑とはこのこと。

Kristy Sparow/Getty Images

往年のティエリー・ミュグレーのシアトリカルな世界観を、見事にSNS世代の感性に合わせてチューニングし、セレブリティから揺るぎない支持を集めるケイシー・カドワラダーによるミュグレー(MUGLER)。今シーズンも引き続き、シアーファブリックやボディコンシルエット、そしてパワーショルダーといったシグネチャーは打ち出しながら、トランスペアレントなフィルムをフリンジのようにあしらった新たなアプローチにも挑戦した。

フィナーレで登場したのは、アノック・ヤイ。ブラックとピンクベージュのグラデーションに彩られたボディスーツの数メートルはあろうかというトーレーンをたなびかせ、優雅に歩く様はさながらSF映画に登場するヒロインのよう。

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Text: Shunsuke Okabe

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