クリエイティブディレクターの就任と退任、若手デザイナーの台頭、そしてセレブリティやインフルエンサーをはじめファッションウィークを取り巻く構造の変化。2024年春夏は、ポストパンデミックの混乱の中、ジェネレーション交代を強烈に印象づけるシーズンとなった。後世に語り継がれるであろうエポックメイキングな今季、記憶に留めておくべき9のトピックを振り返ってみよう。
ヘルムート・ラング復活、ピーター・ドゥによる新たなビジョンは?
SNS世代の間でヘルムート・ラングの古着がブームになる中、ピーター・ドゥによる新生ヘルムート・ラングのコレクションが、NYファッションウィーク期間中に発表された。ショーの開催前には、1998年の伝説のキャンペーンへのオマージュとして、ブランドのロゴ入りのイエローキャブを写したティザー動画を公開。創設者へのオマージュはランウェイでも見受けられ、ミニマルなテーラリングやフューシャピンクのカラーブロック、ロゴ入りのTシャツなどリアリティのあるワードローブを披露、堅実なデビューを飾った。
84歳の現役、ラルフ・ローレンが4年ぶりのランウェイで見せた、レジェンドの威厳
比較的若手に注目が集まりやすいNYファッションウィークだが、そんな中で圧倒的な存在感を見せつけたのがラルフ ローレン コレクション(RALPH LAUREN COLLECTION)。4年ぶりとなるランウェイでは、デニムやウェスタン風のフリンジといった“オールアメリカン”な要素をはじめ、ラルフ・ローレンのシグネチャーをぎゅっと詰め込んだ49のルックを披露。フィナーレではスーパーモデルのクリスティ・ターリントンが、ゴールドのワンショルダードレスを纏って登場した。
ラルフ ローレン コレクション 2024年春夏コレクションレビュー
悪天候もなんのその、サバト・デ・サルノによるグッチが鮮烈にデビュー
今シーズン何と言っても最も高い注目を集めたのが、サバト・デ・サルノによるグッチ(GUCCI)のデビューコレクション。悪天候により、ショー前日に急遽会場を屋外からグッチのミラノ本社、通称「グッチ・ハブ」に移動することになったが、それが逆に功を奏し、ミニマルなステージセットの中で、スリークかつ都会的なワードローブを際立たせた。クワイエット・ラグジュアリーに通ずるテーラリングやデデニムのルックをはじめ、煌びやかなクリスタルを纏ったマイクロミニドレスなど、今のムードを余すところなく詰め込んだ珠玉のリアルクローズが出そろった。
新生トム フォードがデビュー、ティモシー・シャラメは早速私服で着用
トム・フォードによるグッチに憧れてファッションの世界に飛び込んだサバトと同シーズンにデビューを飾ったのは、まさにそのトム・フォードの右腕としてグッチ時代からクリエイションを支えたピーター・ホーキングスによるトム フォード(TOM FORD)。シャープなショルダーラインのジャケットとスリムなペンシルパンツのセットアップや、大ぶりなゴールドのバックルのベルトを合わせたジャージードレスなど、トム フォードのプリンシプルを継承し、ラディカルな変革はないものの、タイムレスエレガンスを体現するワードローブを披露した。
また、ショー発表直後にあたる9月30日には、NYで開催されたシャネルのフレグランス「ブルー ドゥ シャネル」のイベントで、ティモシー・シャラメがピーターによるトム フォードのブラウンのセットアップを着用。レッドカーペット御用達ブランドのトム フォードが、今後どのように進化していくのか楽しみでならない。
21世紀ファッション史に残る、アンダーカバーの“テラリウム”ドレス
NY、ロンドン、ミラノでは比較的リアルクローズに注目が集まった一方、パリではファッションとアートの境界線を押し広げるようなクリエイションが“IRL(現実世界)”でも、SNSでも話題を集めた。アンダーカバー(UNDERCOVER)のショーでは、ドイツの現代アーティストのネオ・ラオホや、今年の8月に日本で開催された個展で披露された高橋盾自らが筆をふるったオイルペインティングをコレクションの中で取り入れたほか、フィナーレではぼんやりと光に照らされた“テラリウムドレス”が登場。ファンタジーを具現化したような見事なコレクションに、破れんばかりの拍手が送られた。
若手デザイナーが群雄割拠をなすミラノ とパリ、次なるスターデザイナーは?
イギリス版『VOGUE』のアレックス・ケッスラーも注目するように、ポストパンデミックの影響もあり、若手デザイナーが勢いを増している。相変わらずシニカルなステージでSNSを席巻したアヴァヴァヴ(AVAVAV)、観客が審査員として参加したスンネイ(SUNNEI)、そして初となるランウェイ参加で、ジャーナリストだけでなく同業のデザイナーたちからも熱い視線を集めたジ・アティコ(THE ATTICO)、そして風船のようなシルエットでミームファンたちを熱狂させたデュラン・ランティンク(DURAN LANTIK)。果たして彼ら、彼女たちはジャックムス(JACQUEMUS)のように自身のブランドの事業拡大に注力するのか、はたまたビッグメゾンのクリエイティブディレクターに登用されるのか。今後のステップアップに注目したい。
アレキサンダー・マックイーン第二章の幕引きに、女王が涙
NYファッションウィーク期間中にあたる9月12日に、アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)のクリエイティブディレクター退任が報じられたサラ・バートン。リー・マックイーンの意思を継承し、20年にわたりため息のでるようなクリエイションを生み出し続けてきた輝かしい第二章の幕を下ろした。フィナーレを締めくくったのはナオミ・キャンベル。圧巻のウォーキングを披露しながらも、ポロリと涙を流す姿が見られた。
なおパリ ファッションウィーク閉幕翌日にあたる10月4日には、ショーン・マクギアーが新クリエイティブディレクターに就任したことが発表された。
アレキサンダー・マックイーン 2024年春夏コレクション レビュー
ガブリエラ・ハースト、クロエの卒業はアップビートなラテンサウンドでセレブレート
ガブリエラ・ハーストによるクロエ(CHLOÉ)のラストコレクションとなった今シーズン。セーヌ川沿いの開放的なランウェイで披露されたのは、ブラック&ホワイトを基調としながらも、クロエらしい柔らかさ、フェミニンさを際立たせたワードローブ。フィナーレではラテン音楽のライブ演奏の中、モデルたちと共にガブリエラがパワフルなサンバを披露し、アップビートに卒業を彩った。
これぞランウェイグラマー、ミュグレーの勢い留まるところ知らず
往年のティエリー・ミュグレーのシアトリカルな世界観を、見事にSNS世代の感性に合わせてチューニングし、セレブリティから揺るぎない支持を集めるケイシー・カドワラダーによるミュグレー(MUGLER)。今シーズンも引き続き、シアーファブリックやボディコンシルエット、そしてパワーショルダーといったシグネチャーは打ち出しながら、トランスペアレントなフィルムをフリンジのようにあしらった新たなアプローチにも挑戦した。
フィナーレで登場したのは、アノック・ヤイ。ブラックとピンクベージュのグラデーションに彩られたボディスーツの数メートルはあろうかというトーレーンをたなびかせ、優雅に歩く様はさながらSF映画に登場するヒロインのよう。
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Text: Shunsuke Okabe