BEAUTY / EXPERT

サボっていない、ラグジュアリーな“抜け感”メイクの作り方

「飾り立てる」「覆い隠す」のではなく、真のラグジュアリーなスタイルに似合うメイクアップをプロが分析。血色感を引き立てるリップスティック探しや光との付き合い方など、さまざまなアプローチを紹介する。

さぼって作る抜け感は、ただの“抜け”

印象的な目もとに必要なフレームラインの匙加減。まばたきの余韻を少しだけ後押しするような、さりげない黒の効かせ方がいい。トレ ドゥ エルメス マスカラ ボリューム 01 ¥8,800 シューズ ¥158,400/ともにHERMÈS(エルメスジャポン)

今、上質な服を着こなすために必要なのは自尊心だ。自分自身であることを受け入れて楽しむ姿勢が、余裕となってしぐさや表情にも表れる。ならば、そこにフィットするメイクアップとはどんなものだろう。メイクアップ・アーティストの松井里加さんは「抜け感をどうつくるかがとにかく鍵」と話す。「抜く=その人の個性を見せるということ。たとえばアイメイクを過剰にすると何かが隠れてしまう。本来持っているものを無理に変えようとする必要はありません。結局、その人自身の魅力が表に出てこないと、上質なファッションが単なるシンプルスタイルに見えてしまいますから」(松井さん)。必要以上にカバーをする姿勢は今のラグジュアリーにそぐわない、という点にはスタイリストの上杉美雪さんも同意する。「隠す行為は、自分のネガティブな面にフォーカスしている証拠。もっと自分自身が持っている本質的な魅力に気づき、そこに光を当てるべき

ピアス ¥42,900/SIRI SIRI(シリシリ)

たとえば、キリッと引いていたリキッドアイラインをペンシルによる点描に変える、マスカラのカラーや強度を柔らかくする、眉は軽くリキッドで描く、チークは幅広くのせて透けさせるなど、メイクアップの抜きどころは意外と多い。「抜くのとサボるのは違います。やりすぎないように意識しながら、手はかけていくという意識が大切」(松井さん)。抜くほどに洗練が宿ると言えそうだが、なかでも特に意識したいのが、肌と唇の作り方だ。

探すべきは一本の究極のリップスティック

肌は、内面の美しさを透けさせるくらいトランスペアレンシーな仕上がりが理想だと松井さんは分析。「どこまでも薄膜でありながら、品格のツヤを仕込むこと。大人の肌には上品な光が不可欠。下地やハイライト、またブラシのテクニックもうまく使いながら質感を整えて。ただ、土台となる素肌の美しさは大前提です。丁寧なクレンジング保湿を怠らず、日々のケアをコツコツ積み上げた肌にしか出せない透明感が必ずあります

〈左〉ハイカバーなのにヌーディで気品ある仕上がりを実現。タンフェティッシュ ルフルイド 全13色 ¥10,780/クリスチャン ルブタン ビューティ 〈右〉スキンケア後のようなピュアな肌を再現するプライマー。シェイド アンド イルミネイト ソフト ラディアンス プライマー SPF25 ¥12,100/トム フォード ビューティ

ここで気をつけたいのが、フェイスパウダーの使い方だ。「近年はパウダーの粒子が細かいぶん、パフでしっかりつけると密度高く肌にのってしまい、ツヤが消えてしまう結果に。昔からの習慣で仕上げにパウダーを使っている方はご注意を。ブラシを使って部分的に軽くのせるならOK。もしくは、粒子の粗いプレストパウダーを利用すると、抜け感がつくれます

自分にぴったり合う血色を得たときに唇が放つ気高さは、宝石にもまさる。〈左〉ル・ルージュプレシュー 06 ¥13,200(レフィル ¥9,900)/クレ・ド・ポーボーテ 〈右〉トランテアンルルージュ 01 ¥25,300(リフィル ¥11,550)/シャネル カスタマーケア

リップメイクに関しては、究極の一本を探すことに大きな意味がある。唇は体の内部を感じさせるセンシュアルなパーツだからこそ、立体感か濡れ感のどちらかを操作すれば、ジュエリーに匹敵する存在感を放つことが可能。自分自身を魅力的に見せるリップカラーがあると、心強い。そこで今、改めて着目したいのがベージュリップだ。「少し赤みを帯びた、自分の顔にしっくりとなじむ美しいベージュを一本持っておきたいですね。どんなスタイルにも合い、素肌から浮かずに芯のあるフェミニニティや洗練を手にすることができます」(松井さん)。「質感は、マットでもツヤでも。ただし過剰さのない洗練ある、ある種“中間地点”なテクスチャーが良さそう」(上杉さん)。レッドやブラウンのリップカラーでも、血色感があって肌になじむものが今はたくさんある。メイクアッププロダクトにはエターナルな名品もあるが、時代のムードを反映した新しいものを選び取る好奇心と知性は持っていたい。

〈左から順に〉しなやかにしどけなくブラウンを仕込んで、奥行きあるリップへ。ローズ・パーフェクト 117 ¥4,620/パルファム ジバンシイ もぎたての桃をイメージしたピーチピンクの血色カラー。キヌケアグローアップ BG 936 ¥4,840/シュウ ウエムラ プラダのテキスタイル、サフィアーノ レザーを思わせるマット。モノクローム ウェイトレス リップカラー マット レザー B01 ¥6,930(リフィル ¥4,840)/プラダ ビューティ

あれこれつまみ食いをするような選び方ではなく、自分に本当に似合うものだけを選ぶことで、メイクアップのプロセスもシンプルになる。「上質なものを必要なだけ持つ、という姿勢はサステナビリティにも通じます。今はメイクアッププロダクトもリフィラブルになってきていますし、過剰包装も減っています。ブランドが姿勢を明確に表明する時代、よく理解しながら選びたい」(松井さん)。エステティシャンの田中由佳さんは「美しさってどんなものなのか、それを意識することで人生は充実する」と話す。その秘訣は後悔しないことだ。失敗まで含めたすべての経験を糧としながら、必要なものを見極めていくこと。虚栄心は捨てて、自分への自信を一歩一歩積み上げていくこと。ファッションもビューティーも、生き方という一本の糸で繋がっていれば、そこには抗えない魅力が生まれるのだ。

話を聞いたのは……
MIYUKI UESUGI
上杉美雪。本質を掴む圧倒的なセンスで、数々のモード誌・ブランド・広告のヴィジュアルを手がけるスタイリスト。2023年よりアパレルブランド「newnow」のクリエイティブ・ヴィジョン・ディレクターに就任した。また、ヨガをライフワークとする。

RIKA MATSUI
松井里加。メイクアップ・アーティスト。NYを拠点に世界のバックステージで活躍した後、2006年帰国。広告やモード誌、セレブリティのメイクを手がけるほか、ブランドのコンサルティングも行う。2022年よりスキンケアブランド「SELALY」を手がける。

YUKA TANAKA
田中由佳。三宿のエステティックサロン「サロン・ド・スウィン」オーナー。整形外科、大手エステサロン勤務後に独立。医療やスピリチュアルにも精通し、多角的な美容と健康の可能性を追求。心と体に響くトリートメントをひとりひとりに合わせ提供している。

問い合わせ先/エルメスジャポン 03-3569-3300
クリスチャン ルブタン ビューティ 0120-449-360
クレ・ド・ポー ボーテ 0120-86-1982
シュウ ウエムラ 0120-694-666
シャネル カスタマーケア 0120-525-519
シリシリ 03-6821-7771
トム フォード ビューティ 0570-003-770
パルファム ジバンシイ 03-3264-3941
プラダ ビューティ 03-6911-8440

Photo(image): Yuki Kumagai Styling(fashion): Tomoko Kojima Styling(prop): NAZUNA  Hair& Makeup: Yoko Okuno Text: AYANA Editor: Toru Mitani

※『VOGUE JAPAN』2024年5月号「贅沢が宿る、クワイエット・モーション」転載記事。