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2000年代後半に活動を開始したバルムング（BALMUNG）は一貫して、時代と共に移り変わる、東京とインターネット上におけるカルチャーを眼差してきた。2000年代の原宿で青春時代を過ごしたデザイナーのハチは、2010年代初頭に、でんぱ組inc.のメンバーらが所属していたライブイベントスペース・秋葉原ディアステージでのファッションイベントに参加するなど、当時隆盛していた地下アイドル周辺のムーブメントと交わり、近年は、歌舞伎町や新大久保など新宿周辺の若年層のカルチャーとムードに着目。同エリアにあるアートギャラリーの「デカメロン」と「WHITEHOUSE」でインスタレーションを行った。楽天ファッション・ウィーク東京での初の本格的なランウェイショーでは“movement / circle”をテーマに掲げ、バルムングの世界観をより立体的かつ鮮明に描き出した。
円状になった2階建ての鉄骨が中央に鎮座する会場に到着し、ショーに登場する29人のモデル名とそれぞれのSNSアカウントなどが記載されたリーフレットを眺めていると、アーティストvqによる儚さと無機質な響きが同居するトラックが鳴り響くとともに、グリッチ調のグラフィックが効いたファーストルックが登場。モデルたちは円形のランウェイをぐるぐると歩き、時折挟まれる2階から地上のクッションへ飛び降りる演出に観客の視線が集まる。
「灰色」をキーワードのひとつに挙げるバルムングは、グレーのハイネックビッグパーカーがアイコニックだが、今シーズンは特有のデザインコードに、グラフィカルなプリント、ヴィヴィッドなカラー、迷彩やボーダーなど、新たなアプローチを組み合わせた。過去最大規模である29人のモデルが歩くショーを開催するにあたり、ブランドの様々な要素を出し切り、色々な側面を持つ人が行き交う街をイメージしたという。オタクやギャルなど特定の文化圏を彷彿とさせるアイテムやスタイリング、ヘアメイクも取り入れ、多様なシーンからモデルを起用した。
バルムングのこれまでのインスタレーションに出演したお馴染みの顔ぶれはもちろん、コスプレイヤーやDJなど様々なバックグラウンドを持つモデルがランウェイを歩いたが、中でもショー中盤以降に登場したCwondo、iVy、loli主語、MON/KU、towa..、vq、yanagamiyukiらコロナ禍以降に東京のインディー電子音楽シーンや音楽ストリーミングプラットフォームSoundCloudから現れたアーティストらの存在が、テーマに据えた「ムーブメント」と「サークル」を際立たせる。
ハチはショー終了後、ランウェイの鉄骨が解体される傍ら、ショー中にモデルが登った階段に腰掛け「もちろんSoundCloudで新しいアーティストを聴いたりはするんですけど、個人的な趣味というだけでなく、そこには明らかに東京の（良い）未来への兆しがあると思っています。なので、東コレに出る以上、自分がやるべき、という責任のような感覚はありましたね」と語った。
この幅広いキャスティングが功を奏するのは、極端に大きいサイズのアイテムが多く、多様な身体にそれぞれ自然に馴染むからこそ。「色んなアイデンティティや色んな体型に似合うバルムングの服を、ストレートに見せることがそのままショーの面白さになるのかな、とは考えていました」とハチ。
このタイミングでショー開催に至った理由を尋ねると「例えば、LVMHプライズは40歳以下を対象にしていて、若手デザイナーって言われるのもそれぐらいまで。青春も今のうちみたいなテンションで、ここはやるしかないか、という気持ちもありましたね」と応え、「渋谷パルコのポップアップなどで、想像以上に多くの人に手に取ってもらえたことで、より広がりを持った表現に興味を持ったんです」と続けた。
取材のため、ショー終了後もしばらく会場内に居残っていると、クラブでしか顔を合わせない知人やアーティストを数人遠くに見つけ、ショーに心を打たれたユースの声がちらほら聞こえてきた。ショー会場で東京のユースカルチャーやコミュニティのムードが垣間見れるのは、今のファッション・ウィークでは稀だ。バルムングは、ストリートとインターネットが交差する、ある種の東京らしさを初ランウェイを通じて提示してみせた。
Photos: Courtesy of BALMUNG
