以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下に説明する例示や実施形態等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することが出来る。
なお、本発明においては、特定の樹脂ないしは重合体を成分として含有する組成物を、その主成分となる樹脂ないしは重合体の名前を冠して呼ぶ場合がある。ここで、上記の「主成分」とは、組成物の50重量%以上を占める成分をいうものとする。即ち、「脂肪族ポリエステル樹脂組成物」とは、「脂肪族ポリエステル樹脂」を主成分とする樹脂組成物をいう。
また、本明細書では「重合体」という語を、単一種の繰り返し構造単位から構成される重合体(所謂「単独重合体」)と、複数種の繰り返し構造単位から構成される重合体(所謂「共重合体」)とを包含する概念として使用する。
なお、以下の記載では、ある単量体に由来する重合体の構成単位(部分構造単位)を、その単量体の名称に「単位」という言葉を付して表す。例えば、ジカルボン酸に由来する構成単位は、「ジカルボン酸単位」という名称で表される。
また、同一の構成単位を与える化合物を、その構成単位の名称の「単位」を「成分」に換えた名称で総称する。例えば、芳香族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸ジエステル等の化合物は、重合体を形成する過程の反応は異なったとしても、何れも芳香族ジカルボン酸単位を形成する。よって、これらの芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸ジエステルを、「芳香族ジカルボン酸成分」という名で総称する。
また、本発明においては、プロピレン系重合体の変性のために、プロピレン系重合体に反応させて機能付与を目的とした置換基を導入させるための化合物を「変性剤」と称し、この変性剤により、プロピレン系重合体に導入された置換基を「変性基」と称す。
また、後述の本発明の積層体において、本発明の組成物よりなる接着層により接着される層を「被接着層」と称す。
[1.末端変性プロピレン系重合体]
本発明の変性プロピレン系重合体組成物の主成分である末端変性プロピレン系重合体(以下、「本発明の末端変性プロピレン系重合体」と称す。)は、下記(1)〜(3)で表される構成単位を有し、数平均分子量が15,000以上52,000未満で、一分子中の全変性基のうち一つの分子末端に結合している変性基の割合が、60%以上100%以下であるものである。
(式中、R
2は、水素原子又は炭素数が1以上4以下の脂肪族炭化水素基を表す。)
[1−1.末端変性プロピレン系重合体の構成単位]
[1−1−1.変性基]
[1−1−1−1.変性基の種類]
本発明の末端変性プロピレン系重合体に含まれる上記式(1)で表される変性基(以下「変性基(1)」と称す場合がある。)は、変性剤に由来して変性前のプロピレン系重合体に導入された置換基であり、R1中に含まれる炭素数は、通常3以上、好ましくは4以上、また、通常40以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。
R1の炭素数が上記範囲の変性基であれば、本発明で目的とする接着性の発現に有効である。
このような変性基(1)を導入するための変性剤としては、特に制限はないが、一般的には、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、或いはその誘導体が挙げられ、その不飽和カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ブテン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ブテン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸、アンゲリカ酸、チブリン酸、2−ペンテン酸、3−ペンテン酸、α−エチルアクリル酸、β−メチルクロトン酸、4−ペンテン酸、2−ヘキセン酸、2−メチル−2−ペンテン酸、3−メチル−2−ペンテン酸、α−エチルクロトン酸、2・2−ジメチル−3−ブテン酸、2−ヘプテン酸、2−オクテン酸、4−デセン酸、9−ウンデセン酸、10−ウンデセン酸、4−ドデセン酸、9−テトラデセン酸、9−ヘキサデセン酸、2−オクタデセン酸、9−オクタデセン酸、アイコセン酸、ドコセン酸、エルカ酸、テトラコセン酸、マイコリペン酸、2,4−ペンタジエン酸、2,4−ヘキサジエン酸、ジアリル酢酸、ゲラニウム酸、2,4−デカジエン酸、2,4−ドデカジエン酸、9,12−ヘキサデカジエン酸、9,12−オクタデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、リーノル酸、リノレン酸、オクタデカトリエン酸、アイコサジエン酸、アイコサトリエン酸、アイコサテトラエン酸、リシノール酸、エレオステアリン酸、オレイン酸、アイコサペタエン酸、エスシン酸、トコサジエン酸、ドコサトリエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、テトラコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘキサコジエン酸、オクタコセン酸、トラアコンテン酸、マレイン酸、ジメチルマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、endo−ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2
,3−ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3 ,5 ,6−テトラカルボン酸等が挙げられる。
また、不飽和カルボン酸の誘導体の具体例としては、上記不飽和カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、i−プロピルエステル、n−ブチルエステル、i−プロピルエステルsec−ブチルエステル、t−ブチルエステル、ヘキシルエステル、オクチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、ラウリルエステル、ステアリルエステルなどのエステル類や、酸ハライド、アミド、イミド等の誘導体が挙げられる。
さらに、不飽和カルボン酸の無水物の具体例としては、コハク酸2−オクテン−1−イル無水物、コハク酸2−ドデセン−1−イル無水物、コハク酸2−オクタデセン−1−イル無水物、マレイン酸無水物、2
,3−ジメチルマレイン酸無水物、ブロモマレイン酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、1−ブテン−3 ,4−ジカルボン酸無水物、1−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、exo−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、5−ノルボルネン−2
,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、endo−ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン− 2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸無水物等が挙げられる。
これらの変性剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用しても良い。
これらの中でも、変性基(1)の導入のための変性剤としては、マレイン酸、マレイン酸無水物或いはこれらを主成分とする混合物が好ましく、特に、マレイン酸無水物が安価で入手容易であり、且つ被接着層との相溶性が高く、これを用いて変性した末端変性プロピレン系重合体が接着樹脂として高い接着性を発揮することから好ましい。即ち、マレイン酸無水物に由来した変性基は、積層体の製造において接着させる被接着層と被接着層との接着において、例えば、水酸基などの極性官能基を有する樹脂よりなる被接着層に対して高い接着性を有する。
[1−1−1−2.変性基の含有量]
本発明の末端変性プロピレン系重合体において、変性基(1)の含有量は、本発明の末端変性プロピレン系重合体1分子あたり、通常0.60個以上、好ましくは0.70個以上、より好ましくは0.75個以上、さらに好ましくは0.80個以上、特に好ましくは0.85個以上で、また、通常1.50個以下、好ましくは1.30個以下、より好ましくは1.20個以下、より好ましくは1.10個以下、さらに好ましくは1.00個以下、特に好ましくは0.95個以下である。末端変性プロピレン系重合体1分子中の変性基(1)の個数が上記下限以上で多い程接着樹脂としての接着性に優れることから好ましく、上記上限以下であることが、変性基(1)の導入のためのコスト面で好ましい。
また、上記と同様な理由から、本発明の末端変性プロピレン系重合体の変性基(1)の含有量は、末端変性プロピレン系重合体に対する変性基(1)の重量割合として、通常0.10重量%以上、好ましくは0.15重量%以上、より好ましくは0.18重量%以上、より好ましくは0.20重量%以上、さらに好ましくは0.22重量%以上で、通常1.00重量%以下、好ましくは0.85重量%以下、より好ましくは0.75重量%以下、より好ましくは0.65重量%以下、さらに好ましくは0.55重量%以下、特に好ましくは0.45重量%以下、とりわけ好ましくは0.35重量%以下である。
[1−1−1−3.片末端変性割合]
本発明の末端変性プロピレン系重合体は、下記式で定義される一分子中の全変性基(1)のうち、一つの分子末端に導入された変性基(1)の割合(以下「片末端変性割合」と称す。)が通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは92%以上で、通常100%以下である。
片末端変性割合=(末端変性プロピレン系重合体の分子鎖中の一つの分子末端に結合した変性基(1)の数)/{(末端変性プロピレン系重合体の分子鎖中の一つの分子末端に結合した変性基(1)の数)+(末端変性プロピレン系重合体の分子鎖中の該一つの分子末端以外に結合した変性基(1)の数}×100
(即ち、例えば、末端変性プロピレン系重合体の分子鎖の両末端に変性基(1)が導入されている場合、末端変性プロピレン系重合体の分子鎖中の一つの分子末端に結合した変性基(1)の数は1であり、末端変性プロピレン系重合体の分子鎖中の該一つの分子末端以外に結合した変性基は1となるため、片末端変性割合は1/(1+1)×100=50%となる。)
即ち、本発明において目的とする接着特性等の改善効果を十分に発現するためには、本発明の末端変性プロピレン系重合体の分子鎖の一つの分子末端(一方の分子末端)のみに変性基(1)が結合していることが重要である。それに加えて、末端変性プロピレン系重合体分子鎖中の他の部位に変性基(1)が導入されてないことも重要である。これは、以下の理由による。
本発明の末端変性プロピレン系重合体が、互いの接着性が乏しい被接着層aと被接着層bとの間の接着樹脂として接着性を発現する作用機構は以下の通りである。
本発明の末端変性プロピレン系重合体は、一つの分子末端にのみ変性基(1)を有することにより、この末端変性基(1)が、変性基(1)と反応し得る置換基(反応性置換基)を有する樹脂よりなる被接着層1と、変性基(1)とその反応性置換基との反応ないしは変性基(1)とその反応性置換基との強い物理的な相互作用により、高い接着力で接着する。一方で、変性基(1)を有しないポリプロピレン部分(前記式(3)の構造部分)において、変性基(1)と反応し得る置換基を有さない樹脂よりなる被接着層bと疎水性相互作用により接着する。本発明の末端変性プロピレン系重合体は、このような接着機構で被接着層aと被接着層bとを接着するが、末端変性プロピレン系重合体の一方の分子末端だけでなく、他方の分子末端やその途中部分に変性基(1)が結合していると、本来疎水性相互作用を発揮させたい部分が、被接着層bではなく被接着層aの側に引き寄せられて固定されることにより、末端変性プロピレン系重合体による被接着層aと被接着層bとの接着特性が十分に発現されなくなる。
このため、本発明の末端変性プロピレン系重合体は、導入された変性基(1)が可能な限り、分子鎖中の一方の分子末端のみに存在し、その他の部位には変性基(1)が導入されていないことが好ましい。
[1−1−1−4.変性基の定量方法]
本発明の末端変性プロピレン系重合体中の変性基(1)の含有量は、例えば、1H−NMR等の公知の分析法を用いて定量することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、変性基(1)量を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、2.6mlのo−ジクロロベンゼン−d4溶媒に本発明の末端変性プロピレン系重合体を溶解させた溶液を測定サンプルとし、ブルカー・バイオスピン(株)「AVANCEIII cryo−400MHz分光計」を用いて120℃で1H−NMR測定を行うことで定量することができる。
具体的には、本発明の末端変性プロピレン系重合体が下記式(I−1)で表される場合(前記式(2)におけるR2が水素原子であり、変性基(1)としてマレイン酸無水物に由来する置換基が導入された末端変性プロピレン系重合体)には、1H−NMR測定で、6.15ppmおよび5.35ppm付近に、原料として用いる後述の末端ビニル変性プロピレン系重合体の末端ビニル基の水素原子に由来するピークが出現する。また、5.60ppmおよび5.75ppm付近に下記式(I−1)中の※2の位置二重結合部分の水素原子に由来するピークが出現することから、これらのピークの比率を算出することにより末端変性基(1)量を求めることができる。
[1−1−1−5.その他の変性基]
前述の如く、変性基(1)は、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、或いはその誘導体に由来する変性基であることが好ましいが、発明の効果を著しく損なわない限り、本発明の末端変性プロピレン系重合体は、以下の他種の官能基(以下「他の変性基(1)」と称す。)も、目的に応じて、少量成分として含んでいても良い。
これらの他の変性基(1)としては、具体的にはアルデヒド基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、シリル基、スルホン酸基、イソシアネート基、フェニルカーボネート基などの脂肪族或いは芳香族炭化水素系の置換基を有するカーボネート基などが挙げられる。これらのなかでも、エポキシ基、イソシアネート基、カーボネート基などが、積層体の製造において、被接着層と被接着層との接着において、例えば、水酸基などの極性官能基を有する樹脂よりなる被接着層に対して高い接着性を有する理由から特に好ましい。
これらの他の変性基(1)は、公知の合成法で末端ビニル変性プロピレン系重合体に導入することができる。
本発明の末端変性プロピレン系重合体がこれらの他の変性基(1)を有する場合、その含有量は、末端変性プロピレン系重合体に対して通常0.0001重量%以上、0.001重量%以上、また、通常0.050重量%以下、好ましくは0.010重量%以下であり、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、或いはその誘導体に由来する変性基も含む全変性基(1)中において、通常50重量%以下、好ましくは33重量%以下である。
他の変性基(1)が上記下限以上であることにより、この他の変性基(1)を導入したことによる接着性等の改良効果を十分に得ることができ、上記上限以下であることにより、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、或いはその誘導体に由来する変性基本来の優れた接着性の効果を十分に得ることができる。
他の変性基(1)についても、前述の1H−NMR測定により定量することができる。
[1−1−2.オレフィン単位]
本発明の末端変性プロピレン系重合体に含まれる前記式(2)で表される構成単位、即ち、オレフィン単位(以下「オレフィン単位(2)」と称す。)は、水素原子又は炭素数が1〜4の脂肪族炭化水素基であるR2を有する単位である。R2の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基といった炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられる。
このオレフィン単位(2)は、本発明の末端変性プロピレン系重合体を製造する際に、被変性原料として用いられる後述の分子末端にオレフィン構造を持つプロピレン系重合体(以下「末端ビニル変性プロピレン系重合体」と称す場合がある。)に由来する単位であり、変性剤とこの末端ビニル変性プロピレン系重合体の分子末端との反応により形成される構成単位である。
オレフィン単位(2)は、変性剤の反応性、変性基(1)の結合性から、立体障害が少なく、二重結合周辺の重量が軽いほど好ましく、この視点から、R2は水素原子又はメチル基であることが好ましい。
本発明の末端変性プロピレン系重合体に含まれるオレフィン単位(2)の含有量は、末端変性プロピレン系重合体一分子中の1000炭素当たり、通常0.010個以上、好ましくは0.020個以上、より好ましくは0.060個以上、より好ましくは0.080個以上、さらに好ましくは0.10個以上で、通常1.0個以下、好ましくは0.50個以下、より好ましくは0.45個以下、より好ましくは0.40個以下、さらに好ましくは0.37個以下、特に好ましくは0.35個以下である。
オレフィン単位(2)の含有量が上記下限以上であることにより、末端ビニル変性プロピレン系重合体と変性剤との反応速度が高められ、上記上限以下であることにより、組成物製造時或いは積層体成型時に熱誘起で発生するフリーラジカルが関与した分子鎖中へのオレフィン部位の発生、及び、該オレフィン部位からの分岐や、さらに該分岐に起因したゲル化の発生を抑制し、混練・成型安全性や安定性、並びに、製造された製品の品質を向上させることができる。
なお、本発明の末端変性プロピレン系重合体には、オレフィン単位(2)以外に、前記式(2)におけるオレフィン結合部分の水素原子が水素原子又は炭素数1以上の炭化水素基で、R2の部分が炭素数1以上の炭化水素基であるオレフィン単位、即ち、下記式(4)で表される構成単位(以下「オレフィン単位(4)」と称す。)が微量であれば含まれていても良い。
(式中、R
3は、水素原子又は炭素数が1以上の炭化水素基を表す。R
4は、炭素数が1以上の炭化水素基を表す。)
このようなオレフィン単位(4)は、変性反応において立体障害が大きく、またオレフィン部位周辺の重量も重い構成単位であるため、変性基(1)の導入のし易さの観点からは少ない方が好ましく、この含有量は1000炭素当たり、通常0.010個以下、好ましくは0.050個以下、より好ましくは0.001個以下である。
本発明の末端変性プロピレン系重合体に含まれるオレフィン単位(2)等のオレフィン単位の含有量は、前述の変性基(1)の含有量と同様に定量することができ、この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、該オレフィン単位を好適に定量できる条件であれば特に限定されない。
具体的には、例えば、変性基(1)としてマレイン酸無水物に由来する置換基が導入され、オレフィン単位(2)におけるR2が水素原子である、前記式(I−1)で表される末端変性プロピレン系重合体の場合、1H−NMR測定で式(I−1)中の※2の位置の水素原子に由来するピークが、5.60ppmおよび5.75ppm付近に出現するため、このピークによりオレフィン単位(2)の量を定量することができる。
[1−1−3.プロピレン単位]
本発明の末端変性プロピレン系重合体に含まれる前記式(3)で表される構成単位、即ちプロピレン単位(以下「プロピレン単位(3)」と称す。)は、本発明の末端変性プロピレン系重合体を製造する際に、被変性原料として用いられる後述の末端ビニル変性プロピレン系重合体に由来する単位であり、このプロピレン単位(3)が連続して末端変性プロピレン系重合体の分子鎖の主体部分を構成する。
式(3)の構成単位は、本発明の末端変性プロピレン系重合体及びこれを含む変性プロピレン系重合体組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性を優れたものにする観点から、高い立体規則性のある構造を有することが好ましく、13C−NMR測定によって得られる3連続したプロピレン単位のmm分率(アイソタクチックトライアッド分率(mm))は、通常90%以上の高い立体規則性を有していることが好ましい。
ここで、mm分率とは、該ポリプロピレン鎖を構成する任意の3連続したプロピレン単位を1ユニットと見た際、各1ユニット中のメチル分岐の方向が同方向である3連続したプロピレン単位の割合であり、分子鎖中のメチル基の立体構造がアイソタクティックにどの程度制御されているかを示す値である。
具体的には、3連続したプロピレン単位は、後掲の式(3a)〜(3c)で表される3種類に大別できるが、mm分率は、{下記式(3a)の単位の数}/{下記式(3a)の単位の数+下記式(3b)の単位の数+下記式(3c)の単位の数}×100で定義され、この値が、製造される末端変性プロピレン系重合体及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、通常90%超で、91%以上が好ましく、91.5%以上がより好ましく、92.0%以上がさらに好ましく、92.5%がさらにより好ましく、93.0%以上が特に好ましい。また、上限は通常100%以下で、99.8%以下がより好ましく、99.5%以下がさらに好ましく、99.0%以下がさらにより好ましく、特に工業的なコストに関わる製品品質管理上の難易度の観点から98.5%以下が好ましい。
3連続したプロピレン単位のmm分率は、例えば、前述のオレフィン単位(2)の場合と同様の条件で13C−NMR測定された結果を用いて算出することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、13C−NMRの測定条件は、該プロピレン単位を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、2.6mlの溶剤(o−ジクロロベンゼン:ブロモベンゼン−d5=8:2)に390mgの分子末端にオレフィン構造を持つ末端ビニル変性プロピレン系重合体分子を溶解させた溶液を測定サンプルとし、公知の分光計を用いて、以下の条件にて定量することができる。
フリップ角:90度
パルス間隔:15秒
共鳴周波数:100MHz以上
積算回数:128回以上
観測域:−20ppmから179ppm
なお、13C−NMRスペクトルの帰属には、Macromolecules,(1975年)8卷,687頁やPolymer,30巻1350頁(1989年)及び特開2009−299045号公報が参考になる。以下では、特に特開2009−299045号公報を参考にした。
分子末端にオレフィン構造を持つプロピレン系重合体分子を構成する3種類の3連したプロピレン単位を下記式(3a)〜下記式(3c)に表した。下記式(3a)はmm構造、下記式(3b)はmr構造、下記式(3c)はrr構造を表す。
3連したプロピレン単位のmm分率で用いる13C−NMR測定結果とは、具体的には、下記式(3a)〜下記式(3c)に表した3連したプロピレン単位中の中心プロピレンのメチル基に由来する炭素のピークを用いてメチル基量を定量した結果である。
該3種類のメチル基の化学シフトは、以下の通りである。
mm:24.3ppm〜21.1ppm付近
mr:21.2ppm〜20.5ppm付近
rr:20.5ppm〜19.8ppm付近
上記3種類の着目するメチル基の化学シフト範囲は、概ね上記の化学シフト範囲である。分子量等により若干変化することはあるが、着目するメチル基に由来するシグナルの識別は容易である。
また、後述するように本発明の末端変性プロピレン系重合体に含まれる、この疎水性のプロピレン単位(3)を、例えば、疎水性のポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン系樹脂、或いは、その樹脂組成物からなる被接着層中に相溶させ、疎水的相互作用によって、本発明の末端変性プロピレン系重合体或いはそれを含む組成物と疎水性の被接着層とを接着させる際、プロピレン単位(3)による疎水性相互作用を効果的に利用する目的で、プロピレン単位(3)には不要な置換基が導入されていないことが重要である。従って、例えば、末端ビニル変性プロピレン系重合体の変性反応時において、該プロピレン単位(3)の熱クラッキングで発生したフリーラジカルやラジカル発生剤を利用して、該プロピレン単位(3)に変性基(1)等が実質的にグラフト化導入されていないことが重要である。
本発明に係るプロピレン単位(3)よりなる分子鎖には、mm分率が上記下限以上であれば、mmとmr及び/又はrrとのランダム共重合部位、及び/又は、mmとmr及び/又はrrとのブロック共重合部位が含まれていても良い。
しかしながら、このような複雑な立体構造を持たなくとも上記に記載したプロピレン単位(3)のみで接着特性等の目指す特性が優れていること、また、製造される末端変性プロピレン系重合体及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性も優れていること、更には、工業的にも以下の[1−1−4.その他の構成単位]の項で記載したと同様の理由で有利であることから、通常、上記のブロック共重合体部位やランダム共重合部位を無理に導入する必要は無い。
[1−1−4.その他の構成単位]
本発明の末端変性プロピレン系重合体において、プロピレン単位(3)よりなるポリプロピレン鎖部分には、被接着層と本発明の末端変性プロピレン系重合体との親和性を高める等の理由から、プロピレンと以下に記したα−オレフィン類及び/又はその他オレフィンモノマーとのランダム共重合部位、及び/又は、それらα―オレフィン及び/又はその他オレフィンモノマー由来のポリマーとポリプロピレンとのブロック共重合部位(以下、これらを「他のポリオレフィン単位」と称す。)が含まれていても良い。
しかしながら、上記のブロック共重合部位やランダム共重合部位の無い、上記に記載したプロピレン単位(3)よりなるポリプロピレン鎖のみで接着特性等の目指す特性が優れていること、また、製造される本発明の末端変性プロピレン系重合体及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、上記の他のポリオレフィン単位は少ない、更には無いことが好ましい。更には、工業的に多くのモノマーを使用し、プロピレン単位(3)より複雑な構造を有する重合部分を製造することは、設備が複雑になったり、多くの槽等が必要になるなど、高コストになったり、製造反応の複雑さからくる安定製造管理上も難易度が上がる、或いは、容易に製造トラブル原因を見つけ難い等、工業的に不利益が多いことから、プロピレン単位(3)よりなるポリプロピレン鎖には、上記の他のポリオレフィン単位が無い方が良い。
プロピレン単位(3)よりなるポリプロピレン鎖に、被接着層と本発明の末端変性プロピレン系重合体との親和性を高める等の理由から、上記の他のポリオレフィン単位を導入する場合、その含有量は、本発明の末端変性プロピレン系重合体分子に対して、通常50重量%以下で、30重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5.0重量%以下がさらに好ましく、1.0重量%以下がさらに好ましく、0.50重量%以下がさらにより好ましく、0.10重量%以下が特に好ましく、下限は、上記の通り0重量%であり、0重量%が最も好ましい量である。
なお、上記のα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、アリルシクロペンタン、アリルシクロヘキサン、アリルベンゼン、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
その他のオレフィンモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族オレフィン化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化オレフィン化合物;アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等のメタクリル酸エステル類等が挙げられる。
これらは、末端ビニル変性プロピレン系重合体の製造の際に1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
[1−2.分子構造及び物性]
[1−2−1.構造・構成単位の並び方]
本発明の末端変性プロピレン系重合体において、接着特性や成型特性が優れ、従来品と比較して、より少量の接着特性を発現する置換基(変性基)の導入で優れた接着性を示し、希釈などで組成物中の該置換基濃度を変化させて行う接着力の調整に関しても、従来品に比べて調整の自由度が高く、工業的に優れた接着性樹脂組成物を提供するという本発明の課題をより確実に解決するために、本発明の末端変性プロピレン系重合体に含まれる前記式(1)〜(3)で表される構成単位が特定の順で化学結合されていることが好ましい。
具体的には、本発明の末端変性プロピレン系重合体は、下記(i)と(ii)の条件を満たす構造を持つ分子であること、即ち、式(1)〜(3)が末端変性プロピレン系重合体の分子末端において、(1)−(2)−(3)の順で直接結合していることが好ましい。
(i)上記式(1)の構成単位は、上記式(2)の右側のメチレン炭素に結合する。
(ii)上記式(3)の構成単位は、上記式(2)のR2が結合する炭素原子に結合する。
上記式(1)の構成単位、上記式(2)の構成単位、上記式(3)の構成単位が、上記の順で化学結合してなる末端変性プロピレン系重合体を含む組成物が、後の[3−1.利用形態]に詳述する被接着層同士の接着性に優れ、従来品と比較して、より少量の変性基(1)の導入で優れた接着性を示し、希釈などで組成物中の変性基(1)濃度を変化させて行う接着力の調整に関しても、従来品に比べて調整の自由度が高く、優れている理由は、未だ詳らかではないが、以下のように推察される。
本発明の末端変性プロピレン系重合体の分子鎖末端にある上記式(1)の構成単位は、後の[3−1.利用形態]に詳述する、例えば、ポリエステル系樹脂やポリエステルエラストマー(以下、これらを総称して「PES系樹脂」と記す。)、エチレン・ビニルアルコール共重合体鹸化物(以下、これらを「EVOH」と記す。)、ポリアミド系樹脂(以下、これらを総称して「PA系樹脂」と記す。)等の樹脂、或いはその組成物中に存在する置換基と化学結合等を形成して接着性を発現する。一方、末端変性プロピレン系重合体中の上記式(2)の構成単位に関して、上記式(1)の構成単位と反対側に結合している疎水性の上記式(3)の構成単位は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン系樹脂、或いは、その樹脂組成物からなる被接着層中に相溶してポリオレフィン系樹脂層と疎水的相互作用によって強固に接着する。
すなわち、疎水性の上記式(3)の構成単位が、ポリオレフィン系樹脂層と強固に接着し、一方で、このポリオレフィン系樹脂層の特性改良のために積層されるPES系樹脂、EVOH、PA系樹脂やその樹脂組成物からなる被接着層が上記式(1)の構成単位と化学結合や物理結合することで、該ポリオレフィン樹脂層上に強固に接着する。
[1−2−2.数平均分子量及び分子量分布]
本発明の末端変性プロピレン系重合体の分子量は、後述したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定で得られる数平均分子量(Mn)として、プロピレン単位(3)が上記疎水結合を強固にする上で最適な鎖長にするため、通常52,000未満、好ましくは50,000以下、溶融粘度を下げ、加工性を向上させる観点から、47,000以下がより好ましく、45,000以下がさらに好ましく、42,000以下がさらに好ましく、40,000以下が特に好ましく、下限としては、該疎水結合が強固であり、上記の疎水性の被接着層からプロピレン単位(3)が抜け出ないために、通常15,000以上で、20,000以上が好ましく、25,000以上がより好ましく、30,000以上が特に好ましい。
本発明の末端変性プロピレン系重合体は、特にその数平均分子量が15,000以上52,000未満と比較的小さいことにより、分子の運動性が高いため、接着界面に偏析しやすく、効率的に接着力を発現するという効果が奏される。
また、本発明の末端変性プロピレン系重合体の分子量分布は、後述したGPC測定で得られる分子量分布(Mw/Mn)として、通常4.0以下で、3.5以下が好ましく、3.0以下さらに好ましく、2.8以下がさらに好ましく、接着特性の観点からプロピレン単位(3)が最適な鎖長である末端変性プロピレン系重合体の比率が高い観点から2.5以下が特に好ましい。その下限としては、通常1.5以上で、1.8以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、溶融流動性と接着加工性のバランスを良くする観点から2.2以上が特に好ましい。
本発明の末端変性プロピレン系重合体分子の分子量は、例えば、GPC等の公知の分析法を用いて定量することができる。GPCで測定する場合、例えば、以下の条件で分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定することができる。
装置:Waters社製GPCV 2000(2)
検出器:RI検出器(装置内蔵)
カラム:TSKgel GMH6−HT(7.5mm I.D×30cm)(4本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:135℃
流速:0.5ml/分
注入量:0.05重量%×515.5μl
較正試料:単分散ポリスチレン
なお、本発明の末端変性プロピレン系重合体の分子量及び分子量分布は、変性剤により変性基(1)を導入する前の変性原料としての末端ビニル変性プロピレン系重合体の分子量及び分子量分布とほぼ同等とみなすことができる。
[1−3.変性剤量]
後述の末端ビニル変性プロピレン系重合体の変性反応により得られる本発明の末端変性プロピレン系重合体には、変性に用いた未反応の変性剤が含まれている場合がある。
本発明の末端変性プロピレン系重合体に含まれる未反応の変性剤の含有量は、通常0重量%以上で、0.0000010重量%以上が好ましく、0.0000050重量%以上がより好ましく、0.000010重量%以上がさらに好ましく、0.000050重量%以上がさらに好ましく、0.00010重量%以上がさらにより好ましく、0.00050重量%以上が特に好ましく、また、その上限は、通常0.30重量%以下で、0.20重量%以下が好ましく、0.10重量%以下がより好ましく、0.010重量%以下がさらに好ましく、0.0080重量%以下がさらに好ましく、0.0050重量%以下が特に好ましい。
末端変性プロピレン系重合体中の未反応変性剤の含有量が上記下限以上であることにより、精製工程での精製設備要件等の負荷を抑えて製造コストを抑えることができる。また、上記上限以下であることによる、未反応の変性剤のブリードアウトや、未反応の変性剤に起因する好ましくない反応、例えば、積層体の被接着層に対して、末端変性プロピレン系重合体の変性基(1)が反応することが好ましい部位に未反応の変性剤が反応すること、などが防止され、末端変性プロピレン系重合体本来の接着性を得ることができる。
なお、本発明の末端変性プロピレン系重合体中の未反応の変性剤の含有量は、FT−IRにより定量することができる。
[2.末端変性プロピレン系重合体の製造方法]
[2−1.反応]
本発明の末端変性プロピレン系重合体は、後述される公知の任意の原料を用い、公知の任意の製造方法、例えば、溶融法、懸濁法及び溶液法、溶融混練法等により製造することが出来る。
一般に、本発明の末端変性プロピレン系重合体は、後述の末端ビニル変性プロピレン系重合体と変性剤とを、加熱条件下で反応させて製造されるが、この変性反応は、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下で、溶剤の存在下又は非存在下で実施できる。また、酸化防止剤を共存させることで、変性反応中に熱誘起で発生するフリーラジカルが関与した分子鎖中へのオレフィン部位の発生、及び、該オレフィン部位からの分岐や、さらに該分岐に起因したゲル化の発生を抑制しながら製造することができ、好ましい。
溶融法、懸濁法及び溶液法の場合、具体的には、末端ビニル変性プロピレン系重合体と変性剤等の原料を溶融させて反応させるか、該原料を上記の溶剤に懸濁あるいは溶解させた条件で反応させて製造する。或いは、これら原料を混練して反応させて製造する。いずれの製造方法においても、通常、回分式反応、及び/又は、連続式反応が用いられる。回分式反応は、通常、該反応を回分式で行う反応であり、連続式反応は、同反応を連続的に行う方法である。
中でも、本発明の本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造方法としては、以下の<1>〜<4>の理由により、溶剤中で行なうマイルドな反応条件を提供できる溶液法が好ましい。
<1> 反応系で原料が溶解しているため反応速度が速い。
<2> 末端ビニル変性プロピレン系重合体と変性剤は希釈された状態で反応するため、反応系中では、反応活性のより高い部位同士の反応がより選択的に発生する。すなわち、該末端オレフィン部位と変性剤との反応が高選択的になされ、該末端オレフィン部に高選択的に変性基(1)を導入できる。
<3> 成長分子鎖中に熱誘起でしたフリーラジカルは、他の製造方法と比較して、反応系中の溶剤内に含まれる原料以外の含有物、例えば、溶剤自体に含まれていた不純物等で失活する機会が高くなり、内部オレフィン部位が発生しにくい。
<4> <3>と同様の理由で熱誘起のフリーラジカルが失活し易いため、該フリーラジカルが引き起こす後続反応で生じる分岐やゲル化の発生を抑制できる。
また、特に酸化防止剤を共存させた場合には、製造された末端変性プロピレン系重合体に含まれる、上記の<3>と<4>に記載された内部オレフィン部位、分岐部位、ゲル化部位の発生を効果的に抑制できる。
更に、本発明の効果を著しく損なわない限り、ラジカル発生剤を用いて、該反応を促進することも可能であるが、ラジカル発生剤は、反応を促進する一方で、上記の内部オレフィン部位、分岐部位、ゲル化部位の発生も促進してしまうため、後述するように、溶融法、懸濁法及び溶液法を採用する場合には可能な限り使用量を少なくする、或いは使用しないことが好ましい。
また、本発明の末端変性プロピレン系重合体は、それを含有させて本発明の組成物が得られる限り、上記反応により得られた粗末端変性プロピレン系重合体に含有される不純物、例えば未反応原料、未反応変性剤や副生成物を除くために、公知の任意の分離・精製方法、例えば、再沈殿法、液−液抽出や固−液抽出に代表される抽出法、分子サイズによる分離法、イオン交換樹脂を使用した分離法、フィルター分離法等の分離・精製法によって精製することができ、これにより高純度の末端変性プロピレン系重合体を得ることができる。
なお、本発明の末端変性プロピレン系重合体はバイオマス資源から誘導しても良い。バイオマス資源の種類やその製造方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。例えば、酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、及び、物理的処理等の、公知の何れの前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導して得られたバイオマス資源を用いることもできる。
以下、主として、本発明の末端変性プロピレン系重合体を回分式の溶液法により製造する場合について詳しく説明するが、該製造法の手順はこれに限定されるものではなく、一部の工程を省略したり、他に代わる工程に変更したり、他の任意の工程を追加したりしても良い。また、本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造方法としては、上記に挙げたように回分式の溶液法に限られるものではない。
[2−2.原料]
[2−2−1.変性剤]
本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造方法において用いられる変性剤は、具体的には[1−1−1.変性基]の項において、変性基(1)を導入するための変性剤として挙げたものであり、これらの変性剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用しても良い。
[2−2−2.末端ビニル変性プロピレン系重合体]
[2−2−2−1.末端ビニル変性プロピレン系重合体が有するオレフィン量]
本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造に用いられる被変性原料である末端ビニル変性プロピレン系重合体は、好ましくは、下記式(15)で表される末端オレフィン構造を高い割合で含有するプロピレン系重合体である。この末端オレフィン構造は、分子量制御のしやすさ、末端オレフィンの純度の向上等の理由により、熱分解法を用いずにプロピレン系重合体の末端に導入されたものであることが好ましい。
例えば、特開2009-299045号公報に記載の発明で提供される樹脂は、本発明の効果を発現するように分子量及び分子量分布等を適宜制御すれば、被変性原料の末端ビニル変性プロピレン系重合体として好適に用いることができる。
(式中、R
2は、前記式(2)のR
2と同義であり、水素又は炭素数が1〜4の脂肪族炭化水素基を表す。)
上記の末端ビニル変性プロピレン系重合体は、分子鎖中に存在する実質的に一つの末端に下記式(6)で表されるオレフィン構造を持っている。該末端オレフィン部位と変性剤とが反応することで、片末端に変性基(1)が導入された本発明の末端変性プロピレン系重合体が製造される。
(式中、R
2は、前記式(2)のR
2と同義であり、水素又は炭素数が1〜4の脂肪族炭化水素基を表す。)
また、上記末端ビニル変性プロピレン系重合体分子の持つ、プロピレン主鎖は、前記式(3)の構成単位となり、この構造部分が、積層体の製造時、形成時、主にポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン系樹脂、或いは、その樹脂組成物からなる被接着層中に相溶して被接着層との疎水的相互作用による強固な接着性を発現する。
上記式(15)で表される末端ビニル変性プロピレン系重合体の末端オレフィン部位と変性剤との反応性や、末端変性プロピレン系重合体分子の片末端に導入された変性基(1)の接着反応性の観点から、該末端オレフィン部位周囲の立体障害が少なく、該末端オレフィン部位重量の軽い、即ち、R2が水素原子又はメチル基であることが好ましい。即ち、上記式(6)は、下記式(7)又は下記式(8)で表されることが好ましい。
以下にR2が水素原子の場合の末端ビニル変性プロピレン系重合体を下記式(16)に、R2がメチル基の場合の末端ビニル変性プロピレン系重合体を下記式(17)に示す。
原料である末端ビニル変性プロピレン系重合体は、その一方の末端のみが、上記式(6)、好ましくは上記式(7)及び/又は上記式(8)で表されるオレフィン構造に変性されていることが好ましく、末端ビニル変性プロピレン系重合体の末端ビニル変性割合を、{上記式(6)、好ましくは上記式(7)及び/又は上記式(8)で表される末端オレフィン基の数}/{分子鎖数}×100と定義した場合、この割合が、通常60%以上で、65%以上が好ましく、70%以上より好ましく、72%以上がさらに好ましく、本発明の末端変性プロピレン系重合体を効率よく製造できる理由から75%以上が特に好ましい。また。この末端ビニル変性割合の上限としては、通常150%以下で、110%以下が好ましく、105%以下がより好ましく、100%以下がより好ましく、98%以下がさらに好ましくは、製造上の変性のし易さの観点から、特に好ましくは95%以下である。なお、末端ビニル変性割合の上限値(%)として100%を超えた数値%部分は、末端ビニル変性プロピレン系重合体の両末端が上記式(6)、好ましくは上記式(7)及び/又は上記式(8)で表されるオレフィン構造に変性されてしまったことを示し、従って、この値は100%以下であることが好ましい。
ここで、上記式(6)、好ましくは上記式(7)及び/又は上記式(8)で表される末端オレフィン基の数は、下記で記載した13C−NMRを用いた定量分析により算出することができる。また、分子鎖数は、[2−2−2−2.数平均分子量及び分子量分布]の項に記載のGPCを用いた定量分析により得られた数平均分子量から算出することができる。
当該末端オレフィン基が、上記式(6)、好ましくは上記式(7)及び/又は上記式(8)で表される場合、末端ビニル変性プロピレン系重合体1分子中の1000炭素あたりのビニル基総数は、通常0.10個以上で、当該ビニル基と変性剤との反応速度の理由から好ましくは0.14個以上、より好ましくは0.16個以上、さらに好ましくは0.18個以上、特に好ましくは0.20個以上で、また、末端ビニル変性プロピレン系重合体同士の反応を始めとする副反応が抑制できる等の理由から、通常1.50個以下で、好ましくは1.30個以下、より好ましくは1.20個以下、より好ましくは1.10個以下、さらに好ましくは1.00個以下、特に好ましくは0.90個以下である。
また、被変性原料である末端ビニル変性プロピレン系重合体中には、微量であれば、下記式(9)で表される末端オレフィン基を有する下記式(18)で表されるプロピレン系重合体が含まれていても良い。
(式中、R
3は、前記式(4)におけると動議であり、水素原子又は炭素数が1以上の炭化水素基を表す。R
4は、前記式(4)におけると動議であり、炭素数が1以上の炭化水素基を表す。)
しかし、R3及びR4が共に嵩高く、且つ、重量の重い置換基であるため、上記で述べた末端オレフィン基の反応性の低下や、該末端オレフィン部位に導入された変性基(1)の反応性の低下の観点から、上記式(9)で表される末端オレフィン基総量は、全末端ビニル変性プロピレン系重合体の1000炭素あたり通常0.010個未満で、より好ましくは0.0050以下、変性基(1)の導入のし易さの観点から0.001個以下にすることが好ましく、特に末端ビニル変性プロピレン系重合体中には、上記式(18)で表されるプロピレン系重合体を含まないことが好ましい。
ここで、1分子中の1000炭素あたりの上記式(6)〜(9)で表される末端オレフィン基の数は、下記で記載した13C−NMRを用いた定量分析結果を用いて算出することができる。
即ち、上記式(6)〜(9)で表される末端オレフィン基の量は、例えば、前述の変性基(1)の定量の場合と同様に測定することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、13C−NMRの測定条件は、該末端オレフィン基を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、2.6mlの溶剤(o−ジクロロベンゼン:ブロモベンゼン−d5=8:2)に390mgの末端ビニル変性プロピレン系重合体を溶解させた溶液を測定サンプルとし、公知の分光計を用いて、以下の条件にて定量することができる。
フリップ角:90度
パルス間隔:15秒
共鳴周波数:100MHz以上
積算回数:128回以上
観測域:−20ppmから179ppm
具体的には、例えば、下記式(16)で表される末端ビニル変性プロピレン系重合体の末端オレフィン基量は、13C−NMR測定において、それぞれ下記式(16)中の※3と※4との位置の炭素原子に由来するピークが、111.2ppm付近と144.5ppm付近に出現するので、このピークを定量することにより求めることができる。
また、例えば、下記式(17)で表される末端ビニル変性プロピレン系重合体の末端オレフィン基量は、それぞれ下記式(17)中の※5と※6の位置の炭素原子に由来するピークが、115.5ppm付近と137.6ppm付近に出現するので、このピークを定量することにより求めることができる。
[2−2−2−2.数平均分子量及び分子量分布]
被変性原料として用いられる末端ビニル変性プロピレン系重合体分子の持つ、プロピレン主鎖は、上記の式(3)よりなるものとなり、この構造部分が、本発明の積層体の多層構造を形成する際、主にポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン系樹脂、或いは、その樹脂組成物から成る被接着層に相溶してこの被接着層との疎水的相互作用により強固な接着性を発現する。
そのため、該式(3)の単位の鎖長、広義に捉えれば末端ビニル変性プロピレン系重合体の鎖長は、本発明の組成物の接着性に重要な関わりを持つ。
この末端ビニル変性プロピレン系重合体の分子量は、後述したGPC測定で得られる数平均分子量(Mn)として、式(3)よりなるプロピレン主鎖が上記疎水結合を強固にする上で最適な鎖長にするため、通常52,000未満、好ましくは50,000以下で、溶融粘度を下げ、加工性を向上させる観点から、47,000以下がより好ましく、45,000以下がさらに好ましく、42,000以下がさらに好ましく、40,000以下が特に好ましく、下限としては、該疎水結合が強固であり、上記の疎水性の被接着層から式(3)よりなるプロピレン主鎖が抜け出ないために、通常15,000以上が好ましく、20,000以上が好ましく、25,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。
また、この末端ビニル変性プロピレン系重合体の分子量分布は、後述したGPC測定で得られる分子量分布(Mw/Mn)として、通常4.0以下で、3.5以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましく、2.8以下がさらに好ましく、接着特性の観点から該式(3)よりなるプロピレン主鎖が最適な鎖長である末端ビニル変性プロピレン系重合体の比率が高い観点から2.5以下が特に好ましく、その下限としては、通常1.5以上で、1.8以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、溶融流動性を良くする観点から2.2以上が特に好ましい。
この末端ビニル変性プロピレン系重合体の分子量は、例えば、GPC等の公知の分析法を用いて定量することができる。GPCで測定する場合、例えば、以下の条件で分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定することができる。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC、150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN、1A、IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
較正試料:単分散ポリスチレン
[2−2−2−3.ポリプロピレン鎖の構造特性]
本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造において、被変性原料として用いる分子末端にオレフィン構造を持つ末端ビニル変性プロピレン系重合体は、それを用いて製造された末端変性プロピレン系重合体が上記の各条件を満たし、且つ、それを含んだ本発明の組成物が本発明の効果を発現する限り、公知の任意の分子末端にオレフィン構造を持つプロピレン系重合体であれば良く、特に制限はない。
このようなプロピレン系重合体分子は、例えば、具体的に、製造される末端変性プロピレン系重合体及びそれを含む本発明の組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性を優れたものにする観点から、立体特異性の高い構造特性を有するプロピレン系重合体分子が好ましい。例えば、13C−NMRによって得られる3連続したプロピレン単位のmm分率は、通常、90%以上の高い立体規則性を有することが好ましい。
製造される末端変性プロピレン系重合体及びそれを含む本発明の組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、このプロピレン系重合体のmm分率は、通常90%以上で、91%以上が好ましく、91.5%以上がより好ましく、92.0%がさらに好ましく、92.5%がさらに好ましく、93.0%以上が特に好ましい。また、その上限は通常100%以下で、99.8%が好ましく、99.5%がより好ましく、99.0%がさらに好ましく、特に工業的なコストに関わる製品品質管理上の難易度の観点から98.5%以下が好ましい。
ここで、3連続したプロピレン単位のmm分率は、[1−1−3.プロピレン単位]の項で詳述した同一条件の13C−NMR測定で得た結果を用いて計算することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、13C−NMRの測定条件は、該プロピレン単位を好適に定量できる条件であれば特に限定されない。
3連続したプロピレン単位のmmの構造は前記式(3a)、mrの構造は前記式(3b)、rrの構造は前記式(3c)とそれぞれ同一である。13C−NMR測定では、[1−1−3.プロピレン単位]の項に記載したと同様に、前記式(3a)〜(3c)に表した3連続したプロピレン単位中の中心プロピレンのメチル基に由来する炭素原子のピークを用いてメチル基量を定量する。
該3種類のメチル基の化学シフトは、[1−1−3.プロピレン単位]の項におけると同様である。上記3種類の着目するメチル基の化学シフト範囲は、概ね上記の化学シにおけるフト範囲である。分子量等により若干変化することはあるが、着目するメチル基に由来するシグナルの識別は容易である。
なお、前述の如く、本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造の被変性原料となる分子末端にオレフィン構造を持つプロピレン系重合体は、バイオマス資源から誘導しても良い。
[2−2−2−4.その他のポリオレフィン単位]
本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造に用いる被変性原料である末端ビニル変性プロピレン系重合体は、[1−1−4.その他の構成単位]の項で詳述した種類及び比率の他のポリオレフィン単位がプロピレン鎖部分に含まれていても良いが、前述の如く、他のポリオレフィン単位は無い方が良い。
[2−2−3.溶剤]
本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造において、懸濁法及び溶液法で用いられる溶剤とは、末端変性プロピレン系重合体の製造反応を阻害しない限り公知の任意の溶剤を用いることができる。
その具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、シクロドデカン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、エチルトルエン、トリメチルベンゼン、シメン、ジイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、四塩化炭素、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素;等が挙げられる。これら溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
これらの中でも、トルエン、キシレン、o−ジクロロベンゼンは、加熱反応系で成長する末端変性プロピレン系重合体との相溶性が高いため、例えば、該溶剤の添加前の反応系と該溶剤とが分相し不均一化するなど反応系を乱すことがないため好ましい、o−ジクロロベンゼンはこれらの中でも高温下での相溶性が高いため特に好ましい。
[2−2−4.酸化防止剤]
本発明の末端変性プロピレン系重合体を製造する際、以下の理由により、以下に例示する酸化防止剤を反応系に共存させておくことが好ましい。
末端変性プロピレン系重合体の製造反応、即ち、前述の末端ビニル変性プロピレン系重合体の変性反応時は、原料及び成長重合体分子は、加熱条件下にある。この際、例えば、熱誘起の成長分子鎖切断や、同じく熱誘起で分子鎖中の水素原子の引き抜きでラジカルが発生し、これが一因となって該分子鎖中にオレフィンが発生することは一般的に良く知られている。
そして、分子鎖の切断による低分子量化によって、十分な機械物性を発現する分子量の末端変性プロピレン系重合体が製造できない;さらにはラジカルに起因した分岐反応等が起こり、外観不良の基となるフィッシュアイ等の発生の問題となる;反応槽中で大きく成長したゲル化物が発生して、製造トラブルとなり、製造管理が困難になる;など、多くの問題が発生するため、このような問題を防止するために、低分子量化やオレフィン量の増加を抑制しながら反応を行うことが極めて重要である。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、製造過程に、下記のように特定の酸化防止剤を特定量導入することで、上記の低分子量化やゲル化に起因する各種の問題を十分に抑制させることができることを見出した。
末端変性プロピレン系重合体を製造する際の反応系への酸化防止剤の導入時期は、上記の酸化防止剤導入の効果が発現すれば、特に限定されず、如何なる変性反応時期で導入してもよい。具体的には、変性反応開始前、変性反応開始後から終了直前までの任意の時期が上げられる。ここで、終了直前とは、反応終了の3分前を示す。
酸化防止剤の効果が、末端変性プロピレン系重合体の製造の開始から終了するまで持続する最良の導入方法の一例として、変性反応開始前、変性反応の中間時点、変性反応終了直前の3回の時期に、酸化防止剤を導入する方法が挙げられる。
酸化防止剤は、末端変性プロピレン系重合体を製造する反応系に、任意の形態で導入することができる。例えば、固体(粉末)の状態で導入してもよいし、溶剤に溶解した溶液として、又は、溶剤に分散させたスラリーとして導入してもよい。導入の回数も、上記の導入時期のいずれか1回に行ってもよく、2回以上に分けて導入しても良い。複数回に分けて導入する場合、反応系内で酸化防止剤の効果が、効果的に発現するように導入すれば良い。それぞれの導入時の導入量は等しくしてもよく、等しくなくても良い。
導入の方法としては、酸化防止剤の品質を落とすことなく、円滑に導入できれば、特に下記に限定されないが、例えば、固体の状態で導入する場合、酸化防止剤の貯蔵槽から反応槽間に設けた酸化防止剤供給ラインから反応槽へ導入する方法等が挙げられる。一方、溶剤に溶解した溶液として、又は、溶剤に分散させたスラリーとして導入する場合、例えば、溶剤と酸化防止剤の混合槽を設置し、攪拌翼で攪拌する方法、及び/又は、混合槽の下部から上部へスラリーが流通可能なラインを設け、ポンプ等で当該ライン下部から上部へとスラリーを吸い上げ、混合槽上部から混合槽へ投入する縦循環方法等で、均一溶液、或いはスラリーを調製した後、該混合槽と反応槽間に設けた供給ラインから反応槽へポンプでフィードして導入する方法、或いは、窒素などの不活性ガスで圧力導入する方法等が挙げられる。酸化防止剤をスラリーとして導入する場合、スラリーの性状として、酸化防止剤粒子がスラリー中で安定に分散し、沈降し難い性状が好ましい。そのため、上記のような攪拌等の他、スラリーの酸化防止剤濃度を5重量%以上と高濃度とし、スラリー粘度を高めておくことが好ましい。
ここで、溶剤とは、上記の[2−2−3.溶剤]の項で詳述したものを用いることができ、酸化防止剤の効果を著しく損なわず、且つ、酸化防止剤の溶解性が良好、或いは酸化防止剤の分散安定性が高く流動性良好なスラリー性状を保つことができ、且つ、末端変性プロピレン系重合体の製造反応を阻害しない限り任意のものを用いることができる。
前述の溶剤の中でも、トルエン、キシレン、o−ジクロロベンゼンは、加熱反応系で成長する末端変性プロピレン系重合体との相溶性が高いため、例えば、該溶剤の添加前の反応系と該溶剤とが分相し不均一化するなど反応系を乱すことがないため好ましく、o−ジクロロベンゼンはこれらの中でも高温下での相溶性が高いため特に好ましい。
溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
酸化防止剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT;2,6−ジブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゼン、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H,5H)−トリオン、カルシウムジエチルビス[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート、ビス(2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ−tert−ブチル−5,5’−ジメチルフェニル)エタン、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;トリデシルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジファスファイト等のリン系酸化防止剤;3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとキシレンの反応性生物等のラクトン系酸化防止剤;ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤;等が挙げられる。
酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
これらの中でも、入手容易で安価であり、且つ効果も高いことから、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるジブチルヒドロキシトルエン(BHT;2,6−ジブチル−4−メチルフェノール)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゼンが好ましく、さらに製造した樹脂の着色が少ないことから、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT;2,6−ジブチル−4−メチルフェノール)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]がより好ましく、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](例えばチバ・ジャパン株式会社製のIrganox1010)が安価であり、使用も容易であることから特に好ましい。
また、酸化防止剤の総導入量としては、反応槽に導入する被変性原料である末端ビニル変性プロピレン系重合体と変性剤の総重量に対して、通常0.00010重量%以上で、0.0010重量%以上が好ましく、0.010重量%以上がより好ましく、0.10重量%以上がさらに好ましい、0.30重量%以上がさらにより好ましく、0.40重量%以上が特に好ましい。また、その上限は、通常30.0重量%以下で、20.0重量%以下がより好ましく、15.0重量%以下が更に好ましく、12.0重量%以下が特に好ましい。酸化防止剤の導入量が上記下限以上であることにより、酸化防止剤の効果を有効に得ることができ、また、上記上限以下であることにより、製造コストを抑え、酸化防止剤のブリードアウトを防止することができる。なお、酸化防止剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
[2−2−5.リン系熱安定剤]
本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造時、以下の理由から以下に例示するリン系熱安定剤を反応系に共存させておくことが好ましい。
前述の如く、末端変性プロピレン系重合体の製造反応時、原料は、加熱条件下にある。この際、所望の分子量を有する末端変性プロピレン系重合体の製造するために熱誘起の成長分子鎖切断により低分子量化を十分に抑制しながら製造することが重要である。その理由は、前述したように、該低分子量化によって十分な機械物性を発現する分子量の末端変性プロピレン系重合体が製造できないためである。
製造過程において、下記のリン系熱安定剤を反応系に混合することにより、反応槽内で成長する末端変性プロピレン系重合体の熱安定化が発現し、高温での末端変性プロピレン系重合体の製造が可能となる。
また、操作の容易さの理由からリン系熱安定剤は、酸化防止剤とともに同時期に反応槽に導入することが好ましい。この場合、反応槽に直結する酸化防止剤添加ラインを用いてリン系熱安定剤と酸化防止剤を混合して導入しても、或いは、別々に導入しても良い。また、反応槽に直結する酸化防止剤添加ラインとは別のリン系熱安定剤専用の導入ラインを設置し、そこから導入しても良い。
末端変性プロピレン系重合体を製造する反応系へのリン系熱安定剤の導入時期は、上記のリン系熱安定剤導入の効果が発現すれば、特に限定されず、如何なる変性反応時期で導入してもよい。具体的には、変性反応開始前、変性反応開始後から終了直前までの任意の時期が挙げられる。ここで、終了直前とは、反応終了の3分前を示す。
リン系熱安定剤の効果が、末端変性プロピレン系重合体の製造の開始から終了するまで持続する最良の導入方法の一例として、変性反応開始前、変性反応の中間時点、変性反応終了直前の3回の時期に、リン系熱安定剤を導入する方法が挙げられる。
リン系熱安定剤は、末端変性プロピレン系重合体を製造する反応系に、任意の形態で導入することができる。例えば、固体(粉末)の状態で導入してもよいし、溶剤に溶解した溶液として、又は、溶剤に分散させたスラリーとして導入してもよい。導入の回数も、上記の導入時期のいずれか1回に行ってもよく、2回以上に分けて導入しても良い。複数回に分けて導入する場合、反応系内でリン系熱安定剤の効果が、効果的に発現するように導入すれば良い。それぞれの導入時の導入量は等しくしてもよく、等しくなくても良い。
導入の方法としては、リン系熱安定剤の品質を落とすことなく、円滑に導入できれば、特に下記に限定されないが、例えば、固体の状態で導入する場合、リン系熱安定剤の貯蔵槽から反応槽間に設けたリン系熱安定剤供給ラインから反応槽へ導入する方法等が挙げられる。一方、溶剤に溶解した溶液として、又は、溶剤に分散させたスラリーとして導入する場合、例えば、溶剤とリン系熱安定剤の混合槽を設置し、攪拌翼で攪拌する方法、及び/又は、混合槽の下部から上部へスラリーが流通可能なラインを設け、ポンプ等で当該ライン下部から上部へとスラリーを吸い上げ、混合槽上部から混合槽へ投入する縦循環方法等で、均一溶液、或いはスラリーを調製した後、該混合槽と反応槽間に設けた供給ラインから反応槽へポンプでフィードして導入する方法、或いは、窒素などの不活性ガスで圧力導入する方法等が挙げられる。リン系熱安定剤をスラリーとして導入する場合、スラリーの性状として、リン系熱安定剤粒子がスラリー中で安定に分散し、沈降し難い性状が好ましい。そのため、上記のような攪拌等の他、スラリーのリン系熱安定剤濃度を5重量%以上と高濃度とし、スラリー粘度を高めておくことが好ましい。
ここで、溶剤とは、上記の[2−2−3.溶剤]の項で詳述したものを用いることができ、リン系熱安定剤の効果を著しく損なわず、且つ、リン系熱安定剤の溶解性が良好、或いはリン系熱安定剤の分散安定性が高く流動性良好なスラリー性状を保つことができ、且つ、末端変性プロピレン系重合体の製造反応を阻害しない限り任意のものを用いることができる。
前述の溶剤の中でも、トルエン、キシレン、o−ジクロロベンゼンは、加熱反応系で成長する末端変性プロピレン系重合体との相溶性が高いため、例えば、該溶剤の添加前の反応系と該溶剤とが分相し不均一化するなど反応系を乱すことがないため好ましく、o−ジクロロベンゼンはこれらの中でも高温下での相溶性が高いため特に好ましい。
溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
リン系熱安定剤としては、有機ホスフェイト金属塩、ホスファイトならびにホスホナイトの群から選ばれる有機リン化合物ならびにそれらの混合物であることが好ましい。この中でも、特に製造時の末端変性プロピレン系重合体の熱安定化効果が高く、且つ製造後の末端変性プロピレン系重合体の耐加水分解性等の耐久性に優れる理由から、ホスファイトならびにホスホナイトがより好ましく、ホスファイトが特に好ましい。
有機ホスフェイト金属塩としては、下記式(20)又は(21)で表される化合物であることが好ましい。
(式中、R5及びR6は、それぞれ独立に、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数1〜30のアルキル基、又はフェニル、ノニルフェニル、ブチルフェニル、ブチルメチルフェニル、ジブチルフェニル、ジブチルメチルフェニル、ビフェニル、オクチルフェニル等の炭素数6〜30のアリール基を表す。Mは、周期表で、水素、炭素を除く1族〜15族金属元素である。具体的には、例えば、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の金属を表し、xは金属の価数を表す。)
R5及びR6としては、特に限定はされないが、通常、末端変性プロピレン系重合体との相溶性に優れる理由から、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数6〜30のアルキル基が好ましく、Mとしては、有害性が低い理由から、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムが好ましく、その中でも特に、亜鉛が好ましい。
有機ホスフェイト金属塩としては、具体的には、堺化学工業株式会社製のマグネシウムステアリルホスフェイト(LBT―1812)、アルミニウムステアリルホスフェイト(LBT―1813)、カルシウムステアリルホスフェイト(LBT―1820)、ジンクステアリルホスフェイト(LBT―1830)などが挙げられる。これらの中では、末端変性プロピレン系重合体の熱安定化能が高い理由から、カルシウムステアリルホスフェイト(LBT―1820)ならびにジンクステアリルホスフェイト(LBT―1830)が好ましい。
ホスファイトとしては、下記式(22)により表される化合物であることが好ましい。
(式中、R7、R8及びR9は、それぞれ独立に、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数1〜30のアルキル基、又は、例えば、フェニル、ノニルフェニル、ブチルフェニル、ブチルメチルフェニル、ジブチルフェニル、ジブチルメチルフェニル、ビフェニル、オクチルフェニル等の炭素数6〜30のアリール基を表す。)
具体的には、これらの化合物の例は、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスファイト、ビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ジステアリル−ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス−(ノニルフェニル)ホスファイト及び4,4’−イソプロピリデンビス−(フェニル−ジアルキルホスファイト)等が挙げられる。これらの中では、反応槽内で成長する末端変性プロピレン系重合体分子に高い熱安定性を与える、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスファイト、ビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト等が挙げられ、その中でもトリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトが好ましい。
ホスホナイトとしては、下記式(23)により表される化合物であることが好ましい。
(式中、R10、R11及びR12は、それぞれ独立に、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数1〜30のアルキル基、又は、例えば、フェニル、ノニルフェニル、ブチルフェニル、ブチルメチルフェニル、ジブチルフェニル、ジブチルメチルフェニル、ビフェニル、オクチルフェニル等の炭素数6〜30のアリール基を表す。)
ホスホナイトとしては、具体的には、例えば、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジイルビスホスホナイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジイルビスホスホナイト等が挙げられ、好ましくは、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジイルビスホスホナイトである。
その構造式を以下の式(24)に示す。
上記のリン系熱安定剤の中では、反応槽内で成長する末端変性プロピレン系重合体分子に高い熱安定性を与え、且つ、安価であり、安全性において実績があることから、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(例えばチバ・ジャパン株式会社製のIrgafos168)が特に好ましい。
また、リン系熱安定剤の総導入量としては、反応槽に導入する被変性原料である末端ビニル変性プロピレン系重合体の重量に対して、通常0.00010重量%以上で、0.0010重量%以上が好ましく、0.010重量%以上がより好ましく、0.10重量%以上がさらに好ましく、0.30重量%以上がさらにより好ましく、0.40重量%以上が特に好ましい。また、その上限は、通常30.0重量%以下で、20.0重量%以下がより好ましく、15.0重量%以下が更に好ましく、12.0重量%以下が特に好ましい。リン系熱安定剤の導入量が上記下限以上であることによりリン系熱安定剤の効果を有効に得ることができ、また、上記上限以下であることにより、製造コストを抑え、リン系熱安定剤のブリードアウトを防止することができる。なお、リン系熱安定剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
[2−2−6.ラジカル発生剤]
本発明の組成物の効果を著しく損なわない限り、末端変性プロピレン系重合体の製造反応系には、ラジカル発生剤単独、或いはラジカル発生剤を上記[2−2−3.溶剤]の項に挙げた溶剤で希釈した溶液、連鎖移動剤、重合禁止剤を添加し、該反応を促進したり、得られる末端変性プロピレン系重合体の分子量や分子量分布、更には分岐構造を調整することも可能である。
本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造で用いられるラジカル発生剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−へキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシ(2−エチルヘキシル)モノカーボネート、t−ブチルペルオキシアリルモノカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジ−s−ブチルペルオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン等が挙げられる。具体的な商品名としては、例えばパーブチルI(日本油脂社)、パーへキシルI(日本油脂社)、パーブチルE(日本油脂社)、ペロマーAC(日本油脂社)、パーロイルSBP(日本油脂社)等が挙げられる。
中でも、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート及びt−へキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネートが好ましくは、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネートがより好ましく。ラジカル発生剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
懸濁法及び溶液法などの溶剤を用いた製造方法は、一例として溶液法として上記で説明した通り、末端変性プロピレン系重合体の製造時、溶剤がマイルドな反応条件を提供する。その結果、末端変性プロピレン系重合体の製造反応速度が速く、末端ビニル変性プロピレン系重合体の該末端オレフィン部が高選択的に変性基(1)に変性され、且つ、原料分子鎖中や成長分子鎖中における内部オレフィン部位、分岐部位やゲル化部位の発生を効果的に抑制できるなど優れている。さらには、内部オレフィン部位、分岐部位やゲル化部位の発生を抑制することは、酸化防止剤を添加することでより一層その効果を高めることができる。また、末端変性プロピレン系重合体の製造反応性も十分である。
一方で、ラジカル発生剤は、内部オレフィン部位、分岐部位やゲル化部位の発生を促進するものである。従って、本発明ではラジカル発生剤は添加しないことが好ましい。ただし、生産性を優先するなどで、反応性を高める目的でラジカル発生剤を用いる場合、上記の理由で、その使用量は、下記のように極少量に留めた方が良い。
懸濁法及び溶液法において、末端変性プロピレン系重合体の品質は劣化するが生産性を優先する等のため、ラジカル発生剤を使用する場合、その使用量は、得られる末端変性プロピレン系重合体100重量部に対しラジカル発生剤を通常0.00010重量部以上、0.0005重量部以上がより好ましく、0.001重量部以上がより好ましく、0.005重量部以上がさらに好ましく、反応促進の観点からは0.01重量部以上が更に好ましく、また、その上限は、得られる末端変性プロピレン系重合体100重量部に対しラジカル発生剤が通常1.0重量部以下で、0.50重量部以下がより好ましく、0.10重量部以下が特に好ましい。
一方、溶融法によって、末端変性プロピレン系重合体を製造する場合、溶剤を使用しない分、反応系での原料濃度が高く懸濁法及び溶液法と比較して、末端ビニル変性プロピレン系重合体の該末端オレフィン部と変性剤との反応速度が速いこと、また、溶融混練法などと比較して変性反応を必要な時間行える理由から、ラジカル発生剤を添加しないことが良い。生産性を優先するなどでラジカル発生剤を用いる場合でも、上記の理由で、その使用量は、下記のように極少量に留めた方が良い。
溶融法において、末端変性プロピレン系重合体の品質は劣化するが生産性を優先する等のため、ラジカル発生剤を使用する場合、その使用量は、得られる末端変性プロピレン系重合体100重量部に対しラジカル発生剤が通常0.00010重量部以上で、0.0005重量部以上がより好ましく、0.001重量部以上がより好ましく、0.005重量部以上がさらに好ましく、反応促進の観点からは0.01重量部以上が更に好ましく、また、その上限は、得られる末端変性プロピレン系重合体100重量部に対しラジカル発生剤が通常1.0重量部以下で、0.50重量部以下がより好ましく、0.10重量部以下が特に好ましい。
また、溶融混練法によって、末端変性プロピレン系重合体を製造する場合、反応時間が数分と短時間であることからラジカル発生剤によって反応を促進する方法が好適に用いられる。この場合、その使用量としては、得られる末端変性プロピレン系重合体100重量部に対しラジカル発生剤が通常0.0010重量部以上で、0.0050重量部以上がより好ましく、0.010重量部以上がより好ましく、0.050重量部以上がさらに好ましく、反応促進の観点からは0.10重量部以上が更に好ましく、また、その上限は、得られる末端変性プロピレン系重合体100重量部に対しラジカル発生剤が通常10重量部以下で、5.0重量部以下がより好ましく、3.0重量部以下が更に好ましく、1.0重量部以下が特に好ましい。
[2−3.反応・分離・精製・乾燥の装置及び条件]
[2−3−1.溶融法、懸濁法又は溶液法における反応・分離・精製の装置及び条件]
[2−3−1−1.装置]
本発明の末端変性プロピレン系重合体を溶融法、懸濁法又は溶液法によって製造する反応装置は、製造した末端変性プロピレン系重合体を含有させて本発明の組成物が得られる限り任意であるが、通常、公知の反応装置を用いて製造することができる。
具体的には、末端変性プロピレン系重合体を回分式で製造する反応装置としては、特に限定されるものではないが、例えば、公知の縦型あるいは横型撹拌槽型反応器を用いることができる。
末端変性プロピレン系重合体を連続式で製造する反応装置としては、特に限定されるものではないが、例えば、公知の縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽、横型攪拌重合槽等を使用することができる。
なお、これらの反応装置は、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。
これらの設備においては、昇華ないし気化しやすい変性剤を用いる場合には、反応槽内と大気中へと繋がるライン中の特に反応槽近傍に昇華ないし気化した成分を捕集しうる槽を設けることが、製造安定性や安全性等の理由から好ましい。
この他、溶剤を用いる場合には、溶剤が反応槽から留去することを抑制するため、還流設備も反応槽近傍に設置することが好ましい。
また、未反応の変性剤や溶剤等、再利用できる成分を抽出するため、これらの再利用設備を設置することも工業的に好ましい。
反応により得られた末端変性プロピレン系重合体を公知の任意の分離・精製方法、例えば、再沈殿法、液−液抽出や固−液抽出に代表される抽出法、分子サイズによる分離法、イオン交換樹脂を使用した分離法、フィルター分離法等の分離・精製法によって分離・精製する装置は、末端変性プロピレン系重合体を含有させて本発明の組成物が得られる限り任意であるが、通常、公知の分離・精製装置を用いて製造することができる。
具体的には、上記の分離・精製法においても、通常、回分式分離・精製法、及び/又は、連続式分離・精製法が用いられ、これらに応じた分離・精製器を使用することができる。なお、これらの分離・精製器は、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。
分離・精製において、溶剤を用いる場合には、溶剤が反応槽から留去することを抑制するため、還流設備も反応槽近傍に設置することが好ましい。
また、未反応の変性剤や溶剤等、再利用できる成分を抽出するため、これらの再利用設備を設置することも工業的に好ましい。
本発明の末端変性プロピレン系重合体を乾燥する設備としては、製造した本発明の末端変性プロピレン系重合体を含有させて本発明の組成物が得られる限り任意であるが、通常、公知の乾燥装置を用いて製造することができる。
具体的には、減圧ポンプが直結された乾燥槽や乾燥気体(空気や不活性ガス)の流通する送風乾燥槽等が挙げられ、これらの乾燥槽内で末端変性プロピレン系重合体を乾燥させることが可能である。また、末端変性プロピレン系重合体を梱包する以前にサイロ等の中間槽を経由する場合、当該中間層中に上記の乾燥気体を流通させて乾燥することも好適に用いられている。ここで、不活性ガスとは、窒素やアルゴン等の不活性気体である。
[2−3−1−2.条件]
末端変性プロピレン系重合体の製造における反応温度、反応雰囲気、反応圧力、反応時間などの条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
ただし、末端変性プロピレン系重合体の末端オレフィン部と変性剤との反応温度は、通常130℃以上で、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましく、165℃以上がさらに好ましく、反応性・生産性の観点から170℃以上が特に好ましい。また、反応温度の上限は、通常300℃以下で、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、210℃以下がさらに好ましく、熱誘起の副反応による反応系槽内での成長分子の熱分解による分子量低下や該分子中に不要な二重結合の発生等、好ましくない物性・品質低下を抑制するため、200℃以下が特に好ましい。
反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。これらのガスは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用い
てもよい。工業的には安価な窒素雰囲気下が好ましい。
さらに、反応圧力は、通常95.0kPa以上で、101.3KPa以上、103.0KPaの常圧以上である。また、反応圧力の上限は、通常1013KPa以下で、500KPa以下が好ましく、300KPa以下がより好ましく、200KPa以下がさらに好ましく150KPa以下が、製造安全性等の理由から特に好ましい。
また、反応時間は、通常1時間以上で、また、その上限は通常200時間以下で、150時間以下がより好ましく、120時間以下がさらに好ましく、110時間以下が熱誘起の副反応による反応系槽内での成長分子の熱分解による分子量低下や該分子中に不要な二重結合の発生等、好ましくない物性・品質低下を抑制できるため特に好ましい。
反応槽に供給される被変性原料である末端ビニル変性プロピレン系重合体の分子数に対する変性剤の分子数の割合は、通常2000当量以下で、1500当量以下が好ましく、1200当量以下がさらに好ましく、1000当量以下が、変性剤に関するコストの観点から特に好ましい。また、その下限は、通常1当量以上で、10当量以上が好ましく、50当量以上がより好ましく、100当量以上がさらに好ましく、500当量以上がさらにより好ましく、反応性の観点から800当量以上が特に好ましい。
製造された末端変性プロピレン系重合体の分離・精製における温度、雰囲気、圧力、時間などの条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
例えば、再沈殿法の場合、温度は、通常、常圧での再沈殿のため用いた貧溶媒の沸点以下、特に沸点が50℃を超える貧溶媒を使用の場合、屋外等の高温時の温度調整での設備能力の軽減化等の観点から50℃以下が好ましい。また、下限は凝固点超であるが、通常は、上記と同様に温度調整での設備能力の軽減化等の観点から冬など寒冷期の室温以上であることが好ましい。
貧溶媒としては、上記設備能力の観点から、使用する場所での高温期の温度を超えた沸点を有し、且つ、寒冷期での温度未満の凝固点を持つ溶媒が好ましい。例えば、アセトンなどのケトン類や、メチルアルコールやエチルアルコール、さらにはイソプロピルアルコール等のアルコール類は好適に使用することができる。これらの中で、活性水素がなく安価なアセトンが好適に使用できる。
分離・精製における雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。これらのガスは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。工業的には安価な窒素雰囲気下が好ましい。
分離・精製圧力は、通常、常圧であることが好ましい。
また、再沈時間に関しては、精製した末端変性プロピレン系重合体を含有させて本発明の組成物が得られる限り任意であるが、使用する槽のスケールや貧溶媒の種類等によって、適宜適切な時間とすれば良い。
再沈殿の回数としては、精製した末端変性プロピレン系重合体を含有させて本発明の組成物が得られる限り任意であるが、通常1回以上、2回以上がより好ましい。また、上限としては、3回以下が工業的に有利であるため好ましい。
乾燥温度や乾燥時間に関しては、末端変性プロピレン系重合体の融点未満で、ブロッキングしない範囲内、且つ、末端変性プロピレン系重合体が熱劣化しない条件で行うことが好ましい。乾燥温度は、使用する乾燥設備や設備スケール、さらには末端変性プロピレン系重合体充填量、残留揮発成分量の仕様等の状況に応じて適宜選択される。また、槽内雰囲気においては、引火性や爆発性の恐れの無い場合には、空気を用いれば良いが、当該恐れのある場合には、不活性ガス、特に安価な窒素が好適に用いることができる。
[2−3−2.溶融混練法での反応、装置、及び条件]
本発明の末端変性プロピレン系重合体を溶融混練法によって製造する反応装置は、製造した末端変性プロピレン系重合体を含有させて本発明の組成物が得られる限り任意であるが、通常、公知の反応装置を用いて製造することができる。
具体的には、通常、ロール、インターナルミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダー等のようなバッチ式混錬機、1段型、2段型連続式混錬機、2軸スクリュー押出機、単軸スクリュー押出機等により溶融混練することができる。また、予めタンブラーブレンダー、リボンブレンダー、V
型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等により均一に混合した後に上記混練装置で溶融混練することも好適に用いられる。中でも、2軸スクリュー押出機、単軸スクリュー押出機が好ましい。混練の方法としては、例えば、加熱溶融させたところに各種添加剤を混合する方法などが挙げられる。また、各種添加剤を均一に分散させる目的でブレンド用オイル等を使用することもできる。混練の装置は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。また、混練の方法も1種を単独で行っても良く、2種以上を任意に組み合わせて行っても良い。
これらの設備においては、昇華ないし気化しやすい変性剤を用いる場合には、混練槽から当該揮発成分が出る出口と大気との間に当該揮発成分を捕集しうる槽を設けることや、或いは、十分な能力を持つ廃棄設備の設置が製造安定性や安全性、さらには衛生管理等の理由から好ましい。
混練の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常150℃以上で、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上、また、その上限は、通常300℃以下で、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下である。この混練温度が上記下限以上であることにより、混練物を十分に溶融させて容易かつ十分に混練することができ、一方、この混練温度が上記上限以下であることにより、混練物等が熱分解して分子量が低下することや、熱誘起で発生したラジカルが関与した架橋反応が進行しゲル成分が生成したりすることが防止される。
混練の時間は、混練装置の種類、混練されるプロピレン系重合体種、さらには極微量のラジカル発生種を添加する際、そのラジカル発生種の種類等によって一概には言えないが、通常0.1分以上で、通常20分以下である。ロールでの混練の場合は、5分以下で行うことがより好ましい。バンバリーミキサー、ニーダー、或いは、ブラベンダーでの混練の場合は、通常3分以上、10分以下、特に5分以下で行うことが好ましい。押出機での混練の場合は、3分以内がより好ましく、2分以内が更に好ましく、混練されるプロピレン系重合体の熱劣化の抑制や組成物の混練製造の生産性の観点から1分以内が特に好ましい。
混練攪拌数に関しては、製造した樹脂組成物が本発明の組成物として具備すべき特性を持つ限り任意であるが、使用する槽のスケールや貧溶媒の種類等によって、適宜適切な回転数とすれば良い。一例として、100gから50gスケールの混練をブラベンダー混練機で行う場合、通常50rpm以上で、100rpm以上が好ましく、また、上限として200rpm以下、さらには150rpm以下が、十分に混練することができ、プロピレン系重合体の分子切断等の劣化も抑制できるため好適に利用される回転数である。
[3.変性プロピレン系重合体組成物]
[3−1.利用形態]
一般的にポリプロピレンを初めとしたポリオレフィン系樹脂は、成型性、耐熱性、水蒸気バリア性、耐薬品性、熱封着性、耐溶剤性、機械的特性、外観等の特性が優れるが、用途によっては、他種の樹脂と多層構造の形態を採らせ、上記の特性の他、対内容物性(フレーバー性、芳香性)や意匠性(表面光沢性、透明性)等の特性を改良する必要がある。
本発明の変性プロピレン系重合体組成物は、こうしたポリオレフィン系樹脂の上記特性の改良を目的とした多層構造を形成させるため、接着対象である層と層の間に置かれ、優れた接着特性を示す。
本発明の末端変性プロピレン系重合体を主成分とする本発明の変性プロピレン系重合体組成物は、下記の樹脂や樹脂組成物からなる層の接着に好適に用いることができる。
なお、ここで、本発明の末端変性プロピレン系重合体を主成分とする変性プロピレン系重合体組成物とは、本発明の末端変性プロピレン系重合体を50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上で、通常100重量%以下を含むものであり、通常、上述の本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造方法により、反応、分離、精製、乾燥を行なって得られた末端変性プロピレン系重合体、或いはこの末端変性プロピレン系重合体に必要に応じて後述の本発明の複合樹脂組成物の製造における希釈樹脂以外の酸化防止剤等の各種の添加剤を添加して調製されたものをさす。
本発明の変性プロピレン系重合体組成物によって接着される被接着層を形成する基材としての樹脂及び樹脂組成物としては、具体的には、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、耐衝撃用ポリスチレン、スチレン・メタクリル酸共重合体等のスチレン系樹脂(以下、これらを総称して「PS系樹脂」と記す。);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリシクロヘキシレンテレフタレート(PCT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリ乳酸(PLA)等のPES系樹脂;ポリカーボネート系樹脂(以下、これらを総称して「PC系樹脂」と記す。);ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル・メチルアクリレート・ブタジエン共重合体、ポリメチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂(以下、これらを総称して「PAN系樹脂」と記す。);エチレン含量が15〜65モル%であり、鹸化度が90%以上のEVOH;ナイロン6、ナイロン66等のPA系樹脂等の樹脂、或いは、これら樹脂を含む樹脂組成物が挙げられる。接着対象となる被接着層は、上記の樹脂、或いは、上記樹脂を含む樹脂組成物の1種単独から成るものでもよく、2種以上の任意の組み合わせ及び比率から成るものでもよい。
これらの中で、特に、本発明の変性プロピレン系重合体組成物は、本発明の末端変性プロピレン系重合体の有する変性基(1)の極性や反応しうる置換基や結合を有する被接着層と、末端変性プロピレン系重合体のプロピレン単位(3)と強い疎水的相互作用を発現する被接着層との接着において特に優れている。末端変性プロピレン系重合体の有する変性基(1)の極性や反応しうる置換基や結合を有する被接着層としては、例えば、PES樹脂やEVOH等を含む被接着層が挙げられ、一方、末端変性プロピレン系重合体のプロピレン単位(3)と強い疎水的相互作用を発現する被接着層としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂を含む被接着層が挙げられる。
本発明の変性プロピレン系重合体組成物は、その他、鋼板、アルミニウム箔等の金属等より選ばれた同種又は異種材料を積層する場合にも幅広く利用可能である。
[3−2.希釈樹脂]
本発明の組成物が十分な接着性を発現する上で、組成物中に含まれる変性基(1)の量が重要になる。
同様の理由で、本発明の組成物が十分な接着性を発現する上で、組成物中に含まれる変性基(1)を分子末端に持つ本発明の末端変性プロピレン系重合体の量が重要になる。
本発明の変性プロピレン系重合体組成物は単独でも接着性樹脂として使用することができるが、上記のように組成物中に含まれる変性基(1)の量や末端変性プロピレン系重合体の量を調整するためには、他の樹脂によって希釈することも好適に利用できる。以下、希釈する樹脂を総称して、適宜「希釈樹脂」と言う。
希釈樹脂としては、これで末端変性プロピレン系重合体を希釈して得られた複合樹脂組成物が、本発明で目的とする各種特性を発現する限り以下で示した任意の希釈樹脂を用いることができる。
希釈樹脂として、具体的には、既に上記まで記載されたポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、PS系樹脂、PES系樹脂、PC系樹脂、PAN系樹脂、PA系樹脂等の樹脂を目的に応じて適宜選択・使用することができる。希釈樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率から成るものを用いても良い。しかし、本発明の組成物中に含まれる変性基(1)は、例えば水酸基などと反応し易いため、水酸基を初めとした変性基(1)と反応性を持つ置換基や結合を有する樹脂で希釈する場合には、温度を必要以上に上げないなど留意する必要がある。そのため、これらの中で、変性基(1)と反応性のないポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂を希釈樹脂とすることが特に好ましい。
本発明の複合樹脂組成物は、このような希釈樹脂で、本発明の変性プロピレン系重合体組成物を希釈したものである。
[3−3.組成物中の変性基(1)の含有量]
本発明の変性プロピレン系重合体組成物又は複合樹脂組成物に含まれる変性基(1)の含有量は、積層構造を形成させるための被接着層同士の接着力を十分得るため、通常0.015重量%以上で、0.018重量%以上が好ましく、接着性の観点から0.020重量%以上がより好ましく、また、上限は通常0.20重量%以下で、0.18重量%以下が好ましく、0.16重量%以下がより好ましく、0.14重量%以下がさらに好ましく、0.12重量%以下がさらにより好ましく、少量の変性基(1)の含有量でも十分な接着特性が得られ、コスト的に有利であるという本発明の組成物の利点を有効に発揮する上で、0.10重量%以下が特に好ましい。
また、本発明の変性プロピレン系重合体組成物又は複合樹脂組成物に含まれる末端変性プロピレン系重合体の含有量は、積層構造を形成させるための層と層との接着力を十分得るため、通常10.0重量%以上で、10.1重量%以上が好ましく、10.2重量%以上がより好ましく、10.3重量%以上がさらに好ましく、接着性の観点から10.4重量%以上が特に好ましい。また、その上限は、通常100重量%以下で、60重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましく、40重量%以下がさらに好ましく、35重量%以下がさらにより好ましく、少量の変性基(1)の含有量でも十分な接着特性が得られ、コスト的に有利であるという本発明の組成物の利点を有効に発揮する上で、32重量%以下が特に好ましい。
[3−4.未反応変性剤の含有量]
本発明の変性プロピレン系重合体組成物又は複合樹脂組成物中には、本発明の末端変性プロピレン系重合体の製造工程において残留した未反応の変性剤が含まれる場合がある。
本発明の変性プロピレン系重合体組成物又は複合樹脂組成物中の未反応の変性剤の含有量は、通常0重量%以上で、0.0000010重量%以上が好ましく、0.0000050重量%以上がより好ましく、0.000010重量%以上がさらに好ましく、0.000050重量%以上がさらに好ましく、0.00010重量%以上がさらにより好ましく、0.00050重量%以上が特に好ましく、また、その上限は、通常0.30重量%以下で、0.20重量%以下が好ましく、0.10重量%以下がより好ましく、0.010重量%以下がさらに好ましく、0.0080重量%以下がさらに好ましく、0.0050重量%以下が特に好ましい。未反応変性剤の含有量が上記下限以上であることにより、精製工程での精製設備要件等の負荷の増加を抑えて製造コストを抑えることができる。また、未反応変性剤の含有量が上記上限以下であることにより、未反応変性剤のブリードアウトや、未反応変性剤が好ましくない反応、例えば、本来は多層構造形成のため末端変性プロピレン系重合体中の変性基(1)が反応することが好ましい部位に、未反応変性剤が反応するなどの不具合が防止される。
本発明の組成物中の未反応変性剤の含有量は、FT−IRにより求めることができる。
[3−5.変性プロピレン系重合体組成物又は複合樹脂組成物の製造方法]
本発明の複合樹脂組成物は、本発明の変性プロピレン系重合体組成物に上記で記載した希釈樹脂や酸化防止剤及びその他の添加剤を、混練の装置として、例えば、ロール、インターナルミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダー等のようなバッチ式混錬機、1段型、2段型連続式混錬機、2軸スクリュー押出機、単軸スクリュー押出機等により溶融混練することにより製造することができる。また、これらを予めタンブラーブレンダー、リボンブレンダー、V
型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等により均一に混合した後に上記混練装置で溶融混練することも好適に用いられる。中でも、2軸スクリュー押出機、単軸スクリュー押出機の使用が好ましい。混練の方法としては、例えば、樹脂成分を加熱溶融させたところに各種添加剤を混合する方法などが挙げられる。また、各種添加剤を均一に分散させる目的でブレンド用オイル等を使用することもできる。混練の装置は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。また、混練の方法も1種を単独で行っても良く、2種以上を任意に組み合わせて行っても良い。
混練の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常150℃以上で、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上、また、その上限は、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下である。混練温度が上記下限以上であることにより、混練される樹脂成分が十分に溶融して容易かつ十分に混練することができる。一方、混練温度が上記上限以下であることにより、混練される樹脂成分等が熱分解して分子量が低下することや、熱誘起で発生したラジカルが関与した架橋反応が進行しゲル成分が生成したりすることが防止される。
混練の時間は、混練装置の種類、混練される樹脂種、さらには極微量のラジカル発生種を添加する際はそのラジカル発生種の種類等によって一概には言えないが、通常0.1分以上、通常20分以下である。ロールでの混練の場合は、5分以下で行うことがより好ましい。バンバリーミキサー、ニーダー、或いは、ブラベンダーでの混練の場合は、通常、3分以上10分以下で、3分以上5分以下で行うことがより好ましい。押出機での混練の場合は、3分以内がより好ましく、2分以内が更に好ましく、混練樹脂の熱劣化の抑制や組成物の混練製造の生産性の観点から1分以内が特に好ましい。
混練攪拌数に関しては、製造した樹脂組成物が本発明の複合樹脂組成物として具備すべき特性を持つ限り任意であるが、使用する槽のスケールや貧溶媒の種類等によって、適宜適切な回転数とすれば良い。一例として、100gから50gスケールの混練をブラベンダー混練機で行う場合、通常50rpm以上、100rpm以上が好ましく、また、上限として200rpm以下、さらには150rpm以下が、十分に混練することができ、また、樹脂成分の分子切断等の劣化も抑制できるため、好適に利用される回転数である。
[3−6.酸化防止剤]
本発明の変性プロピレン系重合体組成物又は複合樹脂組成物の混練調製時には、酸化防止剤を混練系に共存させておくことが好ましい。
即ち、組成物の製造及び成型時には、組成物は加熱条件下に保持される。この際、例えば、熱誘起で樹脂成分、特にプロピレン系重合体の分子鎖中の水素原子の引き抜きでラジカルが発生し、これが一因となって該分子鎖中にオレフィンが発生することは一般的に良く知られている。
これらオレフィン量は、末端変性プロピレン系重合体の製造反応時と同様に不必要に増加させないことが極めて重要である。それは、上記の加熱時に、例えば、該発生ラジカルに起因した分岐反応等が起こり、これらは得られた樹脂、組成物、成型体中にゲル化に起因するフィッシュアイを発生させ外観不良等の問題を引き起こす。また、該分岐によって溶融体が製造機や混練機、そして成型機中でゲル化し、製造、混練、或いは成型トラブルを引き起こす。加えて、増粘のため混練中に安定性が得られない等、種々の問題を引き起こす。
このため、本発明の組成物の製造時や、それを用いた成型時に、熱誘起で発生する上記ラジカルに起因した分岐反応等を抑制し、外観不良の基となるフィッシュアイ等の発生を抑えるため、また、製造機や成型機中で、例えば、滞留し続けたゲル化物が巨大化し、製造や成型のトラブルとならないように製造或いは成型管理をし易くするために、酸化防止剤を添加することが好ましい。
即ち、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明の組成物の製造時や、それを用いた成型時に、特定の酸化防止剤を特定量導入することで、上記のゲル化に起因する各種の問題を大きく抑制させる方法を提供できることを見出した。
本発明の組成物を製造する際の酸化防止剤の導入方法は、上記の酸化防止剤の効果が発現すれば、特に限定されない。導入方法として、具体的には、酸化防止剤を組成物の原料粒子とブレンドした後、或いはブレンドしながら導入しても良いし、原料である樹脂含有溶融物に導入して混練する形態も可能である。原料である樹脂含有溶融物に導入する場合、固体の酸化防止剤であれば、酸化防止剤単独で導入しても良いし、溶剤や、或いは組成物原料として液体原料あれば、その液体を用いてスラリーとして導入するようにしても良い。このように導入された溶剤は、減圧したベントなどから除去される。なお、溶剤としては[2−2−3.溶剤]の項で挙げたものを用いることができる。酸化防止剤をスラリーとして導入する場合、スラリーの性状として、酸化防止剤粒子がスラリー中で安定に分散し、沈降し難い性状が好ましい。そのため、上記のような攪拌等の他、スラリーの酸化防止剤濃度を5重量%以上と高濃度とし、スラリー粘度を高めておくことが好ましい。
本発明の組成物に用いられる酸化防止剤とは、[2−2−4.酸化防止剤]の項で例示された各種酸化防止剤単独、或いは、これらの混合物が用いられる。これらの中でも、入手容易で安価であり、且つ効果も高いことから、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT;2,6−ジブチル−4−メチルフェノール)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゼンが好ましく、さらに製造した樹脂の着色がすくないことからジブチルヒドロキシトルエン(BHT;2,6−ジブチル−4−メチルフェノール)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]がより好ましい。
また、酸化防止剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の組成物に対して、通常0.0010重量%以上、好ましくは0.010重量%以上、より好ましくは0.020重量%以上、より好ましくは0.030重量%以上、更に好ましくは0.040重量%以上、特に好ましくは0.050重量%以上、また、その上限は、通常0.50重量%以下、好ましくは0.30重量%以下、より好ましくは0.20重量%以下、より好ましくは0.15重量%以下、更に好ましくは0.10重量%以下、特に好ましくは0.080重量%以下である。酸化防止剤の含有量が上記下限以上であることにより、その添加効果を有効に発揮させることができ、上記上限以下であることにより、酸化防止剤添加による製造コストの高騰を抑えると共に、酸化防止剤のブリードアウトを防止することができる。なお、酸化防止剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
[3−7.リン系熱安定剤]
本発明の変性プロピレン系重合体組成物又は複合樹脂組成物の混練調製時には、リン系熱安定剤を混練系に共存させておくことが好ましい。
即ち、組成物の製造及び成型時には、組成物は、加熱条件下に保持される。この際、組成物中の樹脂成分が、熱により分子鎖切断により低分子量化してしまう問題があるが、混練系にリン系熱安定剤を添加・混練することで、このような低分子量化を効果的に抑制することができる。
リン系熱安定剤の導入方法は、上記のリン系熱安定剤の効果が発現すれば、特に限定されない。導入方法として、具体的には、リン系熱安定剤を組成物の原料粒子とブレンドした後、或いはブレンドしながら導入しても良いし、原料である樹脂含有溶融物に導入して混練する形態も可能である。原料である樹脂含有溶融物に導入する場合、固体のリン系熱安定剤のであれば、リン系熱安定剤単独で導入しても良いし、溶剤や、或いは組成物原料として液体原料あれば、その液体を用いてスラリーとして導入するようにしても良い。このように導入された溶剤は、減圧したベントなどから除去される。なお、溶剤としては[2−2−3.溶剤]の項で挙げたものを用いることができる。リン系熱安定剤をスラリーとして導入する場合、スラリーの性状として、リン系熱安定剤粒子がスラリー中で安定に分散し、沈降し難い性状が好ましい。そのため、上記のような攪拌等の他、スラリーのリン系熱安定剤濃度を5重量%以上と高濃度とし、スラリー粘度を高めておくことが好ましい。
本発明の組成物に用いられるリン系熱安定剤とは、[2−2−5.リン系熱安定剤]の項で例示された各種リン系熱安定剤単独、或いは、これらの混合物が用いられる。これらの中でも、高い熱安定性を与える、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスファイト、ビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト等が挙げられ、その中でもトリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトが好ましい。トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(例えばチバ・ジャパン株式会社製のIrgafos168)は、安価であり、安全性において実績があることからが特に好ましい。
また、リン系熱安定剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の組成物に対して、通常0.0010重量%以上、好ましくは0.010重量%以上、より好ましくは0.020重量%以上、より好ましくは0.030重量%以上、更に好ましくは0.040重量%以上、特に好ましくは0.050重量%以上、また、その上限は、通常0.50重量%以下、好ましくは0.30重量%以下、より好ましくは0.20重量%以下、より好ましくは0.15重量%以下、更に好ましくは0.10重量%以下、特に好ましくは0.080重量%以下である。リン系熱安定剤の含有量が上記下限以上であることにより、その添加効果を有効に発揮させることができ、上記上限以下であることにより、リン系熱安定剤添加による製造コストの高騰を抑えると共に、ブリードアウトを防止することができる。なお、リン系熱安定剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。また、末端変性プロピレン系重合体の製造時にリン系熱安定材を用いた場合は、末端変性プロピレン系重合体と共に含まれるリン系熱安定剤との合計が上記組成物中の含有量となる。
[3−8.その他の各種添加剤]
本発明の変性プロピレン系重合体組成物又は複合樹脂組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、各種添加剤を含有することが出来る。なお、本発明の組成物に各種添加剤を混合する順序、方法、添加量等は、最終的な組成物に各種添加剤が含有されており、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に決定できる。
例えば、本発明の組成物を製造するため、本発明の変性プロピレン系重合体組成物に、主要原料である上記までに記載の酸化防止剤、リン系熱安定剤、末端変性プロピレン系重合体及び希釈樹脂を混合した後に、これら各種添加剤を混練しても良いし、上記の末端変性プロピレン系重合体や希釈樹脂といった本発明の樹脂成分に予め混練しておいても良いし、本発明の組成物を製造するため、上記の主要原料とともに、これら各種添加剤を混練しても良い。
各種添加剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意のものを用いることができる。例えば、オレフィン系樹脂組成物において通常用いられる結晶核剤、無機系及び/又は有機系フィラー、耐光剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、流動性改良剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、中和剤、離型剤、防曇剤、可塑剤、顔料や染料或いはカーボンブラックなどの着色剤、充填剤、相溶化剤、難燃剤、表面濡れ性改善剤、分散助剤、各種界面活性剤、防腐剤、防カビ剤等が挙げられる。これら各種添加剤は、目的に応じて適宜選択し、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
無機系核剤の具体例としては、タルク、カオリン、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、フェニルホスホネート等の金属塩等を挙げることができる。また、これらの無機系核剤は、本発明の組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていても良い。
一方、有機系核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩;p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩;ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)等のカルボン酸アミド;低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、高融点ポリ乳酸等のポリマー;エチレン−アクリル酸又はメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩などのカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩又はカリウム塩(いわゆるアイオノマー);ベンジリデンソルビトール及びその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート等のリン化合物金属塩;及び2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどを挙げることができる。
フィラーとしては、従来公知のフィラーを用いることができる。フィラーは、通常、無機系フィラーと有機系フィラーとに大別される。
無機系フィラーの具体例としては、無水シリカ、雲母、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、バイロフィライト、セリサイト、ウォラスナイト、焼成クレー、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類、ガラス繊維、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、セピオライト、PMF(Processd Mineral Fiber)、ゾノトライト、エレスタダイト、ガラスバルン、フライアッシュバルンなどの粉末状、フレーク状、繊維状フィラー、或いはバルン状のフィラー等が挙げられる。
本発明の組成物における無機系フィラーの含有量は、通常0重量%以上、1.0重量%以上が好ましく、2.0重量%以上がより好ましく、また、その上限は、通常200重量%以下、150重量%以下が好ましく、100重量%以下がより好ましい。
有機系フィラーの具体例としては、生澱粉、加工澱粉、パルプ、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、木材粉末、竹粉末、樹皮粉末、ケナフ、藁等の粉末などが挙げられる。
本発明の組成物における有機系フィラーの含有量は、通常0重量%以上、通常200重量%以下であることが好ましい。
これらの中では、無機系フィラーが好ましく、中でもタルクが好ましい。特に平均粒径0.1〜40μmのタルクが好ましい。
なお、無機系フィラーは、目的に応じてその表面が無処理のものを使用するか、表面処理されたものを用いるか適宜選択して使用される。表面処理の例としては、具体的には、シランカップリング剤、高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、不飽和有機酸、有機チタネート、樹脂酸、ポリエチレングリコールなどの処理剤を用いる化学的又は物理的処理が挙げられる。
耐光剤は、光による組成物の劣化(即ち、分子量の低下)を抑制する効果を奏するものである。耐光剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンとの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドトキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ポリ[[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系安定剤等が挙げられる。
耐光剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に、異なる種類の耐光剤を組み合わせて用いることが好ましく、さらに、紫外線吸収剤と組み合わせて用いることが好ましい。中でも、ヒンダードアミン系耐光剤と紫外線吸収剤とを組み合わせて用いることが好ましい。
また、本発明の組成物中の耐光剤の含有量は、目的に応じて適宜使用量を決定し、通常0重量%以上で、0.010重量%以上が好ましく、0.020重量%以上がより好ましく、また、その上限は、通常10.0重量%以下で、5.0重量%以下が好ましく、2.0重量%以下がより好ましく、1.0重量%以下がさらに好ましく、0.50重量%以下が特に好ましい。耐光剤の含有量が上記下限以上であることにより、その添加効果を有効に発揮させることができ、上記上限以下であることにより、耐光剤添加による製造コストの高騰を抑えると共に、組成物の耐熱性、成型加工性が劣ったり、耐光剤のブリードアウトが生じたりする等の問題を防止することができる。なお、耐光剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
紫外線吸収剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3'−ジフェニルアクリレート、パラオクチルフェニルサリチレート、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノール等が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に異なる種類の紫外線吸収剤を組み合わせて用いることが好ましく、さらに、耐光剤と組み合わせて用いることも好ましい。
本発明の組成物中の、紫外線吸収剤の含有量は、目的に応じて適宜使用量を決定し、通常0重量%以上で、0.010重量%以上が好ましく、0.020重量%以上がより好ましく、また、その上限は、通常10.0重量%以下で、5.0重量%以下が好ましく、2.0重量%以下がより好ましく、1.0重量%以下がさらに好ましく、0.50重量%以下が特に好ましい。紫外線吸収剤の含有量が上記下限以上であることによりその添加効果を有効に発揮させることができ、上記上限以下であることにより、紫外線吸収剤添加による製造コストの高騰を抑えること共に、組成物の耐熱性、成型加工性が劣ったり、紫外線吸収剤のブリードアウトが生じたりする等の問題を防止することができる。なお、紫外線吸収剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
中和剤としては、ハイドロタルサイト等の中和剤を、組成物中に0.010重量%以上、0.20重量%以下で用いることができる。
[3−9.接着特性の評価方法]
本発明では、本発明の組成物の接着特性を評価するため、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH, 日本合成化学工業株式会社製 商品名ソアノールDT2904及びAT4403)を被接着対象の樹脂層として以下に記載した接着特性の評価を行う。
なお、EVOH分子中の2つの炭素によって形成される炭素−炭素結合部位を1ユニットとした場合、評価に用いたEVOH内の水酸基量[OH](ユニット%)は、ソアノールDT2904が71ユニット%、ソアノールAT4403が56ユニット%である。
まず、熱プレス成型機(TOYO SEIKI製 MiniTestPress)を用いて、温度200℃、圧力15MPa、プレス時間2分の条件下でプレス成型することにより(2分加熱→2分プレス→2分冷却)、縦30mm×横30mm×厚み0.5mmの樹脂組成物からなるシート(Aシート)を得た。被接着対象の樹脂層の原料である上記2種類のEVOHのそれぞれについても同様の条件でプレス成型することにより、上記サイズのEVOHシート(Bシート)を得た。
次に、左側にAシート、右側にBシートの位置関係になり、且つ、両シートが重ならないように横に並べ、次いで、左側のAシートを右側のBシート方向に移動させ、Bシートの右側の1cm幅分に、Bシートの上方向からAシートが重なるようにした。この両シートが重なった部分に対して、熱プレス成型機を用いて温度200℃、圧力15MPa、プレス時間2分の条件で熱プレスを施し、両シートを接着させた(6分加熱→2分プレス→2分冷却)。
得られた試験片の積層部分を、シート面の上下方向に、±10mm程の屈曲を繰り返し付与し、その際に接着面に剥離が生じるか否かで接着性を評価した。上下方向の屈曲は、1秒間あたり2回上下させることで行い、計10回屈曲させた。
本発明の組成物は、接着特性に優れるため、上述の接着特性の評価において接着面に剥離が生じることはない。
[4.積層体]
本発明の積層体は、上述の本発明の変性プロピレン系重合体組成物又は複合樹脂組成物よりなる接着性樹脂組成物よりなる層を含むものであり、通常、本発明の組成物よりなる層を接着層として、2層の被接着層間に介在させた積層構造をとる。
本発明の積層体の形態としては、特に共押出し手法により得られた本発明の組成物により接着された被接着層から成る多層積層体の構造を有するフィルム、シート、容器、チュープ、ボルト等が挙げられる。
また、本発明の積層体の厚みとしては、例えばフィルム、シート、ラミネート成型体等のような膜状である場合、その厚さは本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1μm以上で、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、8μm以上が特に好ましい、また、その上限は通常10mm以下で、5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下がさらに好ましい。
特に、フィルムなどの薄膜状の成型体である場合には、その厚さの上限は、通常5000μmで、3000μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましく、300μm以下がさらに好ましい。
なお、これらの積層体に含まれる本発明の組成物よりなる接着層の厚さは、積層体全体の厚さを過度に厚くすることなく、十分な接着強度が得られる厚さに調整すれば良く、被接着層の材料や積層体の形態、大きさ、及び用途に応じて適宜決定されるが、通常0.1μm以上で、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上が特に好ましい、また、その上限は通常5.0mm以下で、3.0mm以下が好ましく、2.0μm以下がより好ましく、1.0μm以下がさらに好ましい。
本発明の積層体を製造する方法としては、本発明の組成物が本発明で目的とする優れた接着特性等の各種特性を発現する限り任意であるが、通常、従来から公知の手法を使用することができる。
例えば、共押出し手法によるインフレーション成型、T−ダイフィルム成型、ブロー成型等によるフィルム、シート、容器、チューブの形態の積層体の成型;逐次押出しラミネート、サンドイッチ押出しラミネート、共押出しラミネートによるフィルム、シートの形態の積層体の成型;或いは、これを更に延伸加工し延伸物とする;又は、真空成型や圧空成型等での成型;金型内に溶融した被接着層を形成する樹脂と本発明の組成物とをタイムラグをつけてインジェクションする共インジェクション成型;共インジェクション成型品を更に延伸成型する;等、公知の各種成型手法を採用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、以下において、各種の物性ないし特性の評価方法は以下の通りである。
<1000炭素あたりの末端ビニル基数>
13C−NMRにより、2.6mlの溶剤(o−ジクロロベンゼン:ブロモベンゼン−d5=8:2)に390mgの末端ビニル変性プロピレン系重合体を溶解させた溶液を測定サンプルとし、分光計としてブルカー・バイオスピン(株)製NMR AVANCEIII cryo−400MHzを用いて、以下の条件にて定量した。
フリップ角:90度
パルス間隔:15秒
共鳴周波数:100MHz
積算回数:512回
観測域:−20ppmから189ppm
下記式(16)で表される末端ビニル変性プロピレン系重合体の式(7)のビニル基量は、13C−NMR測定において、それぞれ下記式(16)中の※3と※4の位置の炭素原子に由来するピークが、111.2ppm付近と144.5ppm付近に出現するので、このピークを定量することにより求め、また、下記式(17)で表される末端ビニル変性プロピレン系重合体の式(8)の末端オレフィン基量は、それぞれ下記式(17)中の※5と※6の位置の炭素原子に由来するピークが、115.5ppm付近と137.6ppm付近に出現するので、このピークを定量することにより求めた。
<mm分率>
13C−NMRにより、1000炭素あたりの末端ビニル基数と同条件で測定を行うことで算出した。
<末端変性プロピレン系重合体中の変性基の定量>
1H−NMRにより、2.6mlのo−ジクロロベンゼン−d4に390mgの末端変性プロピレン系重合対を溶解させた溶液を測定サンプルとし、ブルカー・バイオスピン(株) AVANCEIII cryo−400MHz分光計を用いて、測定温度120℃で、5.60ppmおよび5.75ppm付近に出現する、下記式(I−1)中の※2の位置の二重結合部分の水素原子に由来するピークと、6.15ppmおよび5.35ppm付近に出現する原料の末端ビニル変性プロピレン系重合体の末端ビニル基の水素原子に由来するピークとの比率によって変性率を定量することにより、末端変性基(1)量を求めた。
<末端変性プロピレン系重合体中のオレフィン単位(2)の定量>
上記変性基(1)の定量において、5.60ppmおよび5.75ppm付近に出現する、上記式(I−1)中の※2の位置の二重結合部分の水素原子に由来するピークを定量することにより式(2)の単位を定量した。
<末端ビニル変性プロピレン系重合体の分子量・分子量分布>
GPCにより、以下の条件で分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC、150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN、1A、IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
較正試料:単分散ポリスチレン
<末端変性プロピレン系重合体の分子量・分子量分布>
GPCにより、以下の条件で分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
装置:Waters社製GPCV 2000(2)
検出器:RI検出器(装置内蔵)
カラム:TSKgel GMH6−HT(7.5mm I.D×30cm)(4本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:135℃
流速:0.5ml/分
注入量:0.05重量%×515.5μl
較正試料:単分散ポリスチレン
<接着特性>
エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH, 日本合成化学工業株式会社製 商品名ソアノールDT2904及びAT4403)を被接着対象の樹脂層として、以下に記載した接着特性の評価を行った。
まず、熱プレス成型機(TOYO SEIKI製 MiniTestPress)を用いて、温度200℃、圧力15MPa、プレス時間2分の条件下でプレス成型することにより(2分加熱→2分プレス→2分冷却)、縦30mm×横30mm×厚み0.5mmの樹脂組成物からなるシート(Aシート)を得た。被接着対象の樹脂層の原料である上記2種類のEVOHのそれぞれについても同様の条件でプレス成型することにより、上記サイズのEVOHシート(Bシート)を得た。
次に、左側にAシート、右側にBシートの位置関係になり、且つ、両シートが重ならないように横に並べ、次いで、左側のAシートを右側のBシート方向に移動させ、Bシートの右側の1cm幅分に、Bシートの上方向からAシートが重なるようにした。この両シートが重なった部分に対して、熱プレス成型機を用いて温度200℃、圧力15MPa、プレス時間2分の条件で熱プレスを施し、両シートを接着させた(6分加熱→2分プレス→2分冷却)。
得られた試験片の積層部分を、シート面の上下方向に、±10mm程の屈曲を繰り返し付与し、その際に接着面に剥離が生じるか否かで接着性を評価した。上下方向の屈曲は、1秒間あたり2回上下させることで行い、計10回屈曲させた。
[製造例1:末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−1)の製造]
特開2009−299045号公報の実施例10に記載の方法に従って、触媒の調製と予備重合を行った。
3Lオートクレーブを加熱下、窒素を流通させることにより予めよく乾燥させた後、プロピレンで槽内を置換して室温まで冷却した。トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(142mg/mL)2.86mLを投入し、液体プロピレン750gを導入した後、70℃まで昇温した。
その後、上記予備重合触媒を、予備重合ポリマーを除いた重量として200mg、高圧アルゴンで重合槽に圧送し、重合を開始した。70℃で0.5時間保持した後、未反応のプロピレンをすばやくパージし重合を停止し、233gの末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−1)を得た。
[製造例2:末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−2)の製造]
製造例1において、反応温度を90℃、反応時間を2時間としたこと以外は同様にして末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−2)を得た。
得られた末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−1),(E−2)の分析結果を表1に示す。
[実施例1]
内容積2リットルの還流管が結合したセパラブルフラスコに、製造例1で製造した20gの末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−1)と、末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−1)対して1000当量の58.8gのマレイン酸無水物と、末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−1)とマレイン酸無水物の総重量の1.50重量%に相当する重量の酸化防止剤(チバ・ジャパン株式会社 製品名Irganox1010)と同1.50重量%に相当する重量のリン系熱安定剤(チバ・ジャパン株式会社 製品名Irgafos168)を添加し、溶剤として500mLのo−ジクロロベンゼンを加えて、窒素雰囲気下、圧力を101.3KPa、反応温度を175℃とした条件下で、100時間反応を行った。反応開始30時間後と70時間後にも上記と同量のIrganox1010とIrgafos168を反応槽に添加した。反応終了後、上記反応液に2Lのアセトンを滴下し、粗末端変性プロピレン系重合体を得た。
得られた粗末端変性プロピレン系重合体を窒素雰囲気下で0.3Lの175℃に加熱したo−ジクロロベンゼンに溶解させた後、窒素雰囲気下で2Lのアセトンを貧溶媒として用いて再沈殿法によって50℃で精製し、濾過して末端変性プロピレン系重合体を得た。なお、再沈殿は2回行った。その後、得られた末端変性プロピレン系重合体を50℃、1Torrで減圧乾燥し、白色の末端変性プロピレン系重合体(B−1)を得た。
1H-NMR測定の結果、末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−1)の有する末端オレフィン部位に由来するピークは観察されず、該末端オレフィン部の94%がマレイン酸無水物で変性されていることが確認された。また、実質的に当該末端変性基(1)は無水コハク酸基であった。
FT−IRにより求めたこの末端変性プロピレン系重合体(B−1)中の未反応マレイン酸無水物含有量は0.001重量%であった。
末端変性プロピレン系重合体(B−1)のその他の諸物性を表2に示した。
[参考例1]
実施例1において、酸化防止剤及びリン系熱安定剤を添加しない他は、実施例1と同一の条件と方法で製造・精製・乾燥を行って、淡黄色の固体を得た。この固体を再沈殿させた際、ポリマーの沈殿性が著しく悪く、乳濁液の状態であり、濾液中に生成物が微分散した状態であった。濾過しても、多くが濾材を通り抜け、生成物の捕集効率が悪かった。得られた生成物も脆く、酸化防止剤及びリン系熱安定剤を共存させなかったため、製造時に成長分子に対して熱分解による低分子量化も多く生じ、GPC測定した結果、Mn19000であり十分に高分子量化されていなかった。また、得られた生成物を1H−NMR分光法で分析・解析を行った結果、複雑なスペクトルパターンとなり各ピークの詳細は困難であった。しかし、特に内部オレフィンに由来するピークが出現する4.9ppm〜5.3ppm付近のシグナルが通常より著しく大きくなっていることから、ゲル化等に寄与する内部オレフィンが増大することを強く示唆していた。上記の1H−NMRの測定は、2.7mlの重水素化o−ジクロロベンゼンに500mgの上記精製物を130℃で溶解させた溶液を測定サンプルとし、ブルカー・バイオスピン(株) AVANCEIII cryo−400MHz分光計を用いて、120℃の温度条件の他は、公知の一般的な条件で行った。
[比較例1]
内容積0.3リットルの還流管が結合したセパラブルフラスコに製造例2で製造した60gの末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−2)と末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−2)対して500当量の358gのマレイン酸無水物と、末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−2)とマレイン酸無水物の総重量の1.50重量%に相当する重量の酸化防止剤(チバ・ジャパン株式会社 製品名Irganox1010)と同1.50重量%に相当する重量のリン系熱安定剤(チバ・ジャパン株式会社 製品名Irgafos168)を添加し、溶剤として300mLのo−ジクロロベンゼンを加えた他は実施例1と同一の条件・方法で、製造・精製・乾燥を行い白色の末端変性プロピレン系重合体(B−2)を得た。
1H-NMR測定の結果、末端ビニル変性プロピレン系重合体(E−2)の有する末端オレフィン部位のうち96%にマレイン酸無水物に由来した無水コハク酸基が導入されていた。
得られた末端変性プロピレン系重合体(B−2)のその他の諸物性を表2に示した。
[実施例2]
ブラベンダー混練機(TOYO SEIKI製 ラボプラストミル)を用いて、投入原料の総量として40gスケールで組成物を混練によって製造した。具体的には、末端変性プロピレン系重合体(B−1)、市販のポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製 ノバテックPP FY4)を投入し、加えて、酸化防止剤(チバ・ジャパン株式会社 製品名Irganox1010)とリン系熱安定剤(チバ・ジャパン株式会社 製品名Irgafos168)を投入して混練し、本発明の組成物(S−1)を得た。末端変性プロピレン系重合体(B−1)が持つ末端無水コハク酸基が組成物中で0.020重量%、酸化防止剤とリン系熱安定剤はそれぞれ組成物中で0.10重量%含まれるようにした。混練温度は230℃、混練攪拌回転数は150rpmとし、5分間混練した。
この組成物(S−1)に関して、接着特性の評価を行った結果、末端無水コハク酸基が組成物中で0.020重量%と低濃度であるにも関わらず、接着面に剥離等は見られず、優れた接着特性を有することが確認された。また、接着面には、ゲル化に起因するフィッシュアイ等は観察されなかった。
[実施例3]
末端変性プロピレン系重合体(B−1)と市販のポリプロピレンとの投入割合を変え、末端変性プロピレン系重合体(B−1)が持つ末端無水コハク酸基が組成物中で0.040重量%含まれるようにした以外は実施例2と同一の条件・方法で混練し、組成物(S−2)を得た。
この組成物(S−2)に関して接着特性の評価を行った結果、接着面に剥離等は見られず優れた接着特性を有することが確認された。また、接着面には、ゲル化に起因するフィッシュアイ等は観察されなかった。
[実施例4]
末端変性プロピレン系重合体(B−1)と市販のポリプロピレンとの投入割合を変え、末端変性プロピレン系重合体(B−1)が持つ末端無水コハク酸基が組成物中で0.10重量%含まれるようにした以外は実施例2と同一の条件・方法で混練し、組成物(S−3)を得た。
この組成物(S−3)に関して接着特性の評価を行った結果、接着面に剥離等は見られず優れた接着特性を有することが確認された。また、接着面には、ゲル化に起因するフィッシュアイ等は観察されなかった。
[参考例2]
末端変性プロピレン系重合体(B−1)と市販のポリプロピレンとの投入割合を変え、末端変性プロピレン系重合体(B−1)が持つ末端無水コハク酸基が組成物中で0.010重量%含まれるようにした以外は実施例2と同一の条件・方法で混練し、組成物(S−4)を得た。
この組成物(S−4)に関して接着特性の評価を行った結果、接着面に剥離が見られた。この結果から、組成物中の末端無水コハク酸基量が少ないと接着に寄与する末端無水コハク酸基の関与する結合数が少なくなり、良好な接着特性が得られなかったものと推察される。なお、接着面には、ゲル化に起因するフィッシュアイ等は観察されなかった。
[比較例2]
実施例2において末端変性プロピレン系重合体(B−1)の変わりに末端変性プロピレン系重合体(B−2)を投入し、組成物中に含まれる末端無水コハク酸基の量を0.040重量%とした以外は実施例2と同一の条件・方法で混練し、組成物(S−5)を得た。
この組成物(S−5)に関して、接着特性の評価を行った結果、接着面に剥離が見られた。この結果は、樹脂組成物中に含まれる末端変性プロピレン系重合体(B−2)の分子量が小さく、特に末端変性プロピレン系重合体(B−2)中のプロピレン分子鎖長が短いため、樹脂組成物中に含有する希釈樹脂のポリプロピレン樹脂との疎水結合による結合力が十分でなく、剥離と同時に末端変性プロピレン系重合体(B−2)分子が組成物から抜け出てしまったことによるものと推察される。なお、接着面には、ゲル化に起因するフィッシュアイ等は観察されなかった。
[比較例3]
末端変性プロピレン系重合体(B−2)と市販のポリプロピレンとの投入割合を変え、末端変性プロピレン系重合体(B−2)が持つ末端無水コハク酸基が組成物中で0.010重量%含まれるようにした以外は比較例2と同一の条件・方法で混練し、組成物(S−6)を得た。
この組成物(S−6)に関して、接着特性の評価を行った結果、接着面に剥離が見られた。この結果は、末端無水コハク酸基が組成物中で0.010重量%と低濃度であったことに加え、比較例2と同様、樹脂組成物中に含まれる末端変性プロピレン系重合体(B−2)の分子量が小さいことによるものと推察される。なお、接着面には、ゲル化に起因するフィッシュアイ等は観察されなかった。
[比較例4]
末端変性プロピレン系重合体(B−2)と市販のポリプロピレンとの投入割合を変え、末端変性プロピレン系重合体(B−2)が持つ末端無水コハク酸基が組成物中で0.50重量%含まれるようにした以外は比較例2と同一の条件・方法で混練し、組成物(S−7)を得た。
この組成物(S−7)に関して、接着特性の評価を行った結果、接着面に剥離が見られた。即ち、末端無水コハク酸基が組成物中で0.50重量%と高濃度であったにも関わらず十分な接着効果は見られず剥離が観測された。これは、比較例2で述べた樹脂組成物中に含まれる末端変性プロピレン系重合体(B−2)の分子量が小さいことによるものと推察しており、優れた接着特性を発現するには、樹脂組成物中に含有される末端ビニル変性プロピレン系重合体分子の分子量が重要であることが示される。なお、接着面には、ゲル化に起因するフィッシュアイ等は観察されなかった。
以上の結果を表3にまとめて示す。