コンテンツにスキップ

上林暁

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
上林 暁
(かんばやし あかつき)
代表作の舞台となった聖ヨハネ病院にて(1953年)
誕生 徳廣 厳城
1902年10月6日
高知県幡多郡田ノ口村下田ノ口
死没 (1980-08-28) 1980年8月28日(77歳没)
言語 日本語
国籍 日本の旗 日本
最終学歴 東京帝国大学英文科卒
ジャンル 小説私小説
代表作 『薔薇盗人』(1932年)
『聖ヨハネ病院にて』(1946年)
『春の坂』(1957年)
『白い屋形船』(1963年)
『ブロンズの首』(1973年)
主な受賞歴 芸術選奨文部大臣賞(1959年)
読売文学賞(1965年)
川端康成文学賞(1974年)
デビュー作薔薇盗人』(1932年)
ウィキポータル 文学
テンプレートを表示

上林 暁上林 曉、かんばやし あかつき、1902年(明治35年)10月6日[1] - 1980年(昭和55年)8月28日[1][2])は、日本小説家で、昭和期を代表する私小説作家の一人。高知県出身。本名は徳廣 巌城(とくひろ いわき)[1]。『薔薇盗人』で登場、その後私小説に活路を拓き、『聖ヨハネ病院にて』などの病妻物で高い評価を受けた。代表作は『薔薇盗人』『聖ヨハネ病院にて』『春の坂』『白い屋形船』『ブロンズの首』など。日本芸術院会員。

来歴・人物

[編集]

高知県幡多郡田ノ口村下田ノ口(現・黒潮町)に生まれた[2]山沖之彦はいとこの妻のおいにあたる[3][4]

高知県立第三中学校(現・高知県立中村高等学校)時代には、雑誌『文章世界』に影響を受け、友人らと語らって回覧雑誌『かきせ』を発行し、この頃に小説家になる希望を持った。また、芥川龍之介に傾倒する。

1921年(大正10年)に熊本第五高等学校文科甲類に入学[5]。入学した年に校友会雑誌『龍南』の懸賞創作に応募した「岐阜提燈」が三等に入選[5]。翌年には雑誌部委員となる。1922年(大正11年)に高等学校の寮を出て、熊本市上林(かんばやし)町75の森山方に下宿する[5]。「上林」の筆名は、このときに住んだ地名に由来する[5]

1924年(大正13年)東京帝国大学文学部英文科に進学し[2]、1927年(昭和2年)に卒業後は改造社に入社[2]。『現代日本文学全集』の校正や雑誌編集に従う傍ら、同人雑誌『風車』を刊行し[2]、同誌に『渋柿を囓る少年又は飯を盗む少年』『凡人凡日』『夕暮の会話』を発表する。改造社では従業員の執筆活動を禁止していたため、「上林暁」の筆名を用いた。

1932年(昭和7年)8月、『薔薇盗人』が川端康成に「云ひたいことを実によく裏に押しこめながら、反つてよく貧苦を浮ばせ、目に見えぬものを追ふかのやうな少年の感情を生かしたことは、生活を見てゐる眼の誠実の手柄である」と激賞され注目された[6]1938年(昭和13年)の『安住の家』で私小説作家として評価される[2]1939年(昭和14年)に妻の繁子が精神病を発病し[2]1946年(昭和21年)に亡くなるまでの間、『聖ヨハネ病院にて』などの病妻物を書き、広く読者に迎えられた。1959年(昭和34年)『春の坂』で芸術選奨文部大臣賞受賞[2]

1962年(昭和37年)二度目の脳出血で右手、足、口が不自由になるも[2]。妹・睦子の献身的な介護と口述筆記により『白い屋形船』以降の小説を書きついだ。1964年(昭和39年)『白い屋形船』で昭和39年度読売文学賞受賞[2]1969年日本芸術院会員。

1980年8月28日、脳血栓のため東京都杉並区天沼の病院で死去[7]

尾崎一雄と並び戦後期を代表する私小説(心境小説)の作家である。生活上の不遇を背景としつつも、それに負けない向日性をストイックで端正な文体が支える。また、話し言葉がリードし独特のリズムをもつ尾崎の文章を“音楽的”と評するならば、一種幻想的とも言える色彩感覚をもつ上林の文章は“絵画的”と評することができるだろう。上林と交際していた作家の伊藤整は、「上林君などの私小説家の生き方から最もよく日本文学を学んだ」と書いている[8]

主要作品一覧

[編集]

すべて短編小説(上林には中編・長編小説が1作もない)

著書

[編集]
  • 『薔薇盗人 小説集』金星堂 1933
  • 『田園通信』作品社 1938
  • 『悲歌』桃蹊書房 1941
  • 『流寓記』博文館 1942
  • 『小説を書きながらの感想』文林堂双魚房 1942
  • 『明月記』非凡閣 1943
  • 『不斷の花』地平社 1944
  • 『機部屋三昧』地平社 國民社(發賣) 1944
  • 『夏暦』筑摩書房 1945
  • 『閉関記』桃源社 1946
  • 『晩春日記』桜井書店 1946
  • 『嬬戀ひ』非凡閣 1947
  • 『紅い花』三島書房 1947
  • 『文學の歡びと苦しみについて 上林曉感想評論集』圭文社 1947
  • 『病妻物語』小山書店 1948
  • 『死者の声』実業之日本社 1948
  • 『聖ヨハネ病院にて』新潮文庫 1949、新装復刊1993
  • 『開運の願』改造社 1949
  • 『聖書とアドルム 自選作品集』目黒書店 1951
  • 『姫鏡台』池田書店 1953
  • 『上林暁集』河出市民文庫 1953。山本健吉
  • 『聖ヨハネ病院にて 病妻物語全篇』角川文庫 1955
  • 『入社試験 小説集』河出新書 1955
  • 『珍客名簿』山田書店 1955
  • 『過ぎゆきの歌』大日本雄弁会講談社 1957
  • 『春の坂』筑摩書房 1958
  • 『文と本と旅と』五月書房 1959
  • 『迷ひ子札』筑摩書房 1961
  • 『諷詠詩人』新潮社 1963
  • 『白い屋形船』講談社 1964  
  • 『草餅』筑摩書房 1969
  • 『ジョン・クレアの詩集』筑摩書房 1970
  • 『朱色の卵』筑摩書房 1972
  • 『ばあやん』講談社 1973
  • 幸徳秋水の甥 随筆集』新潮社 1975
  • 『極楽寺門前』筑摩書房 1976
  • 『木の葉髪 上林暁句集』永田書房 1976
  • 『半ドンの記憶』集英社 1981
以下は没後新編
坪内祐三編、新版解説・青柳いづみこ。他に電子書籍も刊
  • 『聖ヨハネ病院にて・大懺悔』講談社文芸文庫 2010。解説富岡幸一郎
  • 『上林曉傑作小説集『星を撒いた街』』夏葉社 2011。山本善行編
  • 『上林曉傑作随筆集『故郷の本箱』』夏葉社 2012。山本善行編 
  • 『ツェッペリン飛行船と黙想』幻戯書房 2012
  • 『文と本と旅と-上林曉精選随筆集』中公文庫 2022。山本善行編
  • 『上林曉傑作小説集『孤独先生』』夏葉社 2023。山本善行編
  • 『命の家-上林曉病妻小説集』中公文庫 2023。山本善行編。電子書籍も刊

全集

[編集]
  • 『上林曉全集』全15巻 筑摩書房 1966-1967
  • 『上林曉全集』増補改訂版 全19巻 筑摩書房 1977-1980
  • 『上林曉全集』増補決定版 全19巻 筑摩書房 2000-2001。最終巻のみ増補

共編著

[編集]
  • 『日本の風土記 武蔵野』(編) 宝文館 1958/新版・現代教養文庫 1962
  • 『高知 ふるさとを訪ねて 少年少女文学風土記』(編) 泰光堂 1959
  • 『土佐 我がふるさとの・・・』武林敬吉共著 中外書房 1959
  • 宇野浩二回想』川崎長太郎渋川驍共編 中央公論社 1963

文学全集

[編集]
  • 瀧井孝作 尾崎一雄 外村繁 上林暁集 筑摩書房 (現代日本文学全集) 1955
  • 上林暁集 筑摩書房 (新選現代日本文学全集) 1959
  • 上林暁 外村繁 角川書店 (角川版昭和文学全集) 1962
  • 瀧井孝作・尾崎一雄・上林暁集 新潮社 (日本文學全集) 1963。河盛好蔵
  • 上林暁・外村繁・川崎長太郎集 講談社 (日本現代文學全集) 1965
  • 瀧井孝作・尾崎一雄・上林暁集 筑摩書房 (現代文学大系) 1965
  • 上林暁・木山捷平集 集英社 (日本文学全集52) 1969、新版1982
  • 尾崎一雄・上林暁・永井龍男 河出書房新社 (日本文学全集) 1969
  • 尾崎一雄 外村繁 上林暁 中央公論社 (日本の文学52)1969、新版1979。三島由紀夫
  • 井伏鱒二・上林暁集 筑摩書房 (現代日本文學大系) 1970
  • 上林暁集 筑摩書房(現代日本文学7)1980
  • 上林暁 〈高知県昭和期小説名作集7〉高知新聞社 1995

回想・伝記研究

[編集]
  • 徳廣睦子『兄の左手』 筑摩書房 1982 - 「上林暁看病記」ほか
    • 『手織りの着物』 筑摩書房 1986 
  • 関口良雄編『上林暁文学書目』 山王書房 1963 和装本
  • サワダオサム(沢田治)『わが上林暁 上林暁との対話』 京都:三月書房(発売、私家版)2008
  • サワダオサム(沢田治)『独断的上林暁論』 壁書房 2015
  • 『上林暁研究』 創刊号~第14号 園田学園女子大学、吉村稠研究室編
  • 『国文学 解釈と鑑賞 特集小田嶽夫・上林暁・木山捷平』1999年4月号、至文堂

映画化作品

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c 上林 暁|上林暁文学館 施設案内”. 大方あかつき館(大方図書館・上林暁文学館). 黒潮町立佐賀図書館. 2023年10月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j 【作家紹介】上林暁(かんばやしあかつき)”. 高知県立文学館. 高知県立文学館. 2023年10月20日閲覧。
  3. ^ 上林暁文学館(非公式) [@akatsuki_1006] (2024年4月29日). "現在行われている企画展の様子が届きました". X(旧Twitter)より2024年11月29日閲覧
  4. ^ CHUUGOKU GOGAKU 1949 (23): 3–4. (1949). doi:10.7131/chuugokugogaku1947.1949.3. ISSN 1884-6033. http://dx.doi.org/10.7131/chuugokugogaku1947.1949.3. 
  5. ^ a b c d 永田哲夫「上林暁伝記考-第五高等学校時代-」『高知大学学術研究報告 人文科学編』第26巻第4号、高知大学、1977年、75-84頁。 
  6. ^ 川端康成「文芸時評 新人の作品」(読売新聞 1932年8月4日号に掲載)
  7. ^ 岩井寛『作家の臨終・墓碑事典』(東京堂出版、1997年)111頁
  8. ^ 伊藤整『我が文学生活 I』講談社、1954年、240p頁。 

外部リンク

[編集]