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ヤブコウジ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヤブコウジ
福島県会津地方 2016年10月
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Agiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク類 Asterids
: ツツジ目 Ericales
: サクラソウ科 Primulaceae
亜科 : ヤブコウジ亜科 Myrsinoideae
: ヤブコウジ属 Ardisia
: ヤブコウジ A japonica
学名
Ardisia japonica (Thunb.) Blume (1866)[1]
シノニム
和名
ヤブコウジ(藪柑子)[3]、ヤマタチバナ

ヤブコウジ(藪柑子、薮柑子、学名: Ardisia japonica)は、サクラソウ科[注 1]ヤブコウジ属常緑小低木。林内に生育し、に赤い果実をつけ美しいので、栽培もされる。別名、ヤマタチバナ[1]十両(ジュウリョウ)。

分布と生育環境

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日本北海道南部(奥尻島)、本州四国九州に分布し、日本以外では朝鮮半島中国大陸台湾に分布する[3][4]。山地[5]、丘陵地林内の木陰にふつうに自生する[6]地下茎を伸ばしてふえるので、群生していることが多い[5]

特徴

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常緑の草状の小低木[6]。細くて長い地下茎匍匐茎)が横に這って、先は直立する地上茎になる[6]。地上のは円柱形で、高さは10 - 30センチメートル (cm) になる。茎の上部と若い花序にはごく短い粒状の毛が生える。は茎の上部2 -3節に集まって3 - 4枚輪生し[6]、深緑色で光沢があり、長楕円形または狭楕円形で、長さ6 - 13 cm、幅2 - 5 cmになり、5 - 8対の葉脈があり、先端はとがり基部はくさび形、葉縁には低く細かい鋸歯がある[5]葉柄は長さ7 - 13ミリメートル (mm) になる[3][4]

花期は夏(7 - 8月)[5][7]花序は散形状になり、葉腋または鱗片葉の腋につき、花序柄の長さは1 - 1.5 cmで、2 - 5個のを下向きにつける[6]。花は白色または帯紅色の両性花で、径6 - 8 mmになる。花冠は5裂し、花冠裂片は長さ4 - 5 mmの広卵形で、片巻き状に右回りに並び、腺点があり、花柄の長さは7 - 10 mmになり、微小な軟毛が生える。は5深裂し、萼裂片は広卵形で長さ1.5 mmになる。雄蕊は5個あり花冠裂片より短く、花筒の基部について花冠裂片と対生する。雌蕊は1個で花冠と同じ長さ、子房は卵円形で上位につき1室ある。花は葉陰に隠れるため、果実ほど目立たない[7]

果実は液果様の核果で、径5 - 6 mmの球形となり、秋(10 - 11月)に赤色に熟し、中に1個の大型の種子が入る[3][4]。核は球形で多数の縦筋がつく[7]。核を剥くと中に種子があり、マンリョウの種子に姿が似ている[7]。葉陰に隠れるように下向きにつく赤く艶やかな果実は、丈も低いことから、地上性の鳥が食べると考えられている[7]

人間との関わり

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藪柑子をあしらった江戸期の印籠酒井抱一の下絵によるもの。

正月縁起物ともされ、センリョウ(千両、センリョウ科)や、マンリョウ(万両)、カラタチバナ(百両)と並べて「十両」とも呼ばれる。寄せ植えの素材などとして使われる。日陰や寒さにも強く、栽培が容易なことから観葉植物としても利用されている[8]

園芸

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日陰に強く、他の植栽樹の株元に植える根締めとして植えたり、グラウンドカバーとして用いられる[5]。それとは別に、斑入り品などの変異株が江戸時代より選別され、古典園芸植物の一つとして栽培され、それらには品種名もつけられてきた。古典園芸植物としての名前は紫金牛(これで「こうじ」と読ませる)である。現在では約40の品種が保存されている。

明治年間にも大流行があり、四反の田畑を売って買う者もあり[9]、現代の金額で1000万円もの高値で取り引きされたこともあった[8]。明治20年ごろに葉の変わりものが流行し、新潟県の豪農・市島家が培養した朱の司は1鉢千円の値を付け、1898年(明治31年)にはその投機性から新潟県知事が「紫金牛取締規則」を発令して販売を禁じるほどの流行熱となり、ブームは大正後期まで続いた[10][11]。1897年、新潟県は、ヤブコウジの投機的売買につき取締規則を公布した[12]

薬用

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根茎、または全草の乾燥品は紫金牛(しきんぎゅう)と称する生薬になり[6]、特に中国でよく用いる。紫金牛は、地下の根茎を掘り取って、よく水洗いした後天日乾燥して調整される[6]回虫ギョウチュウ駆除作用(虫下し)や、のどの腫瘍、慢性気管支炎鎮咳去痰に効用があるといわれ、副作用がなく安全とされる[6]民間療法では、全草の乾燥品1日量10 - 15グラム、もしくは大量投与で30 - 60グラムを水で煎じて、3回に分けて服用する用法が知られる[6]。大量投与の時に、頭痛の不調、下痢があらわれるが、服用をやめる必要はないとされている[6]

文化

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縁起物として扱われた経緯から、落語寿限無』の中の「やぶらこうじのぶらこうじ」とは本種のことと推測される。寺田寅彦は筆名のひとつに藪柑子(やぶこうじ)がある。

下位分類

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和名、学名はYistによる。

  • シロミヤブコウジ Ardisia japonica (Thunb.) Blume f. albifructa (H.Hara) Sugim. - まれに見られる白い果実をつけるヤブコウジの品種 [4]
  • ホソバヤブコウジ Ardisia japonica (Thunb.) Blume var. angusta (Nakai) Makino et Nemoto - 和名のとおり葉が細く、狭卵形で長さ2-5cm、幅0.6-2cm。伊豆大島屋久島台湾に分布するヤブコウジの変種 [4]
  • シラタマコウジ Ardisia japonica (Thunb.) Blume var. angusta (Nakai) Makino et Nemoto f. leucocarpa (Nakai) Sugim. ex T.Yamaz. - 白色の果実をつけるホソバヤブコウジの品種で、伊豆大島に記録がある[4]

脚注

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注釈

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  1. ^ 最新のAPG体系ではサクラソウ科に分類されるが、従来の古い新エングラー体系クロンキスト体系では、ヤブコウジ科の種としていた[1]

出典

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  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ardisia japonica (Thunb.) Blume ヤブコウジ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月5日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Bladhia japonica Thunb. ヤブコウジ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月5日閲覧。
  3. ^ a b c d 『樹に咲く花(合弁花・単子葉・裸子植物)山溪ハンディ図鑑5』p.174
  4. ^ a b c d e f 『日本の野生植物 木本II』p. 159
  5. ^ a b c d e 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 149.
  6. ^ a b c d e f g h i j 馬場篤 1996, p. 109.
  7. ^ a b c d e 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2012, p. 90.
  8. ^ a b ヤブコウジの育て方 みんなの趣味の園芸
  9. ^ 三千円の籔柑子の話 『徒然の友』 、味潟漁夫 (入沢八十二) 編 (薫志堂, 1896)
  10. ^ 紫金牛『盆栽流行史 : 附・各種培養繁殖法』此君園主人 著 (立命館出版部, 1934)
  11. ^ 蘭とその歩み公益財団法人 中野邸美術館
  12. ^ 新潟新聞 1897年1月31日

参考文献

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  • 佐竹義輔他編『日本の野生植物 木本II』平凡社、1989年。
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『草木の種子と果実』誠文堂新光社〈ネイチャーウォッチングガイドブック〉、2012年9月28日、90頁。ISBN 978-4-416-71219-1 
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、109頁。ISBN 4-416-49618-4 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、149頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 茂木透、石井英美他『樹に咲く花(合弁花・単子葉・裸子植物)山溪ハンディ図鑑5』山と溪谷社、2001年。

関連項目

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外部リンク

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