コンテンツにスキップ

ベル&ハウエル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アメリカ国立公文書記録管理局が所蔵するズーマティック 8mm撮影機。
リージェント 家庭用8mm映写機

ベル&ハウエル英語: Bell & Howell)は、アメリカ合衆国映画用機材を製造する企業として、1907年、イリノイ州ホイーリングに設立された会社である。ベーヴェ・システックドイツ語版が2003年に買収し、ベーヴェ・ベル&ハウエル(Böwe Bell & Howell)となるが、2011年にヴァーサ・キャピタル・マネジメントが同社を買収、社名を元に戻した。現在は、文書処理マイクロフィルム機器、スキャナ金融サービスを供給する企業である。同社の "Bell & Howell" の商標は、さまざまな電化製品メーカーにライセンスを供与している[1]

日本では、ベルハウエルベル・ハウエルなどの表記で知られる[2]

略歴

[編集]
1923年に発売されたフィルモ70の後継機、フィルモ75(1928年)。

概要

[編集]

黎明期の映写機から

[編集]
セシル・B・デミル監督とベル&ハウエルの技師たち。1920年。

1907年2月17日、ベル&ハウエル・カンパニーは設立された。イリノイ州クック郡の記録簿には8日後に正式に登録された。同年同月19日の朝10時、最初の株主総会が法律家W・G・ストロングの事務所で開催された。最初の取締役会が、1年の任期で選任された。取締役会長にドナルド・ジョーゼフ・ベル、秘書役にアルバート・サマーズ・ハウエル、副会長にマーグリット・V・ベル(ドナルドの妻)といったメンバーであった。ベルとハウエルの2人は映写技師であった。同年、35mmフィルム映写機のロータリー・フレイマーを発表、フリッカーを軽減した。

1908年、35mmフィルムのパーフォレーションの穿孔機を発表、さらに翌1909年には35mmフィルムの業務用撮影機を発表、以降その生産をつづけた。この手回し撮影機スタンダード・シネマトグラフ2709は、初期のサイレント映画に使用されたが、非常に高額でチャーリー・チャップリンのほかは3つの映画会社しか所有できなかった[3]。1911年(明治44年)、映画の現像場向けの焼付け機材を発表する。

歴史上、同社はさまざまな異なるメディア技術を提供した。

小型の撮影機

[編集]

1920年代からは、記録映画やニュース映画、アマチュア映画向けの小型映画用撮影機・映写機の開発を開始する。家庭用に成功を収めアマチュア映画のムーヴメントを生み出した16mm撮影機フィルモ(1923年末)、報道の分野で戦後のテレビ界でも活躍した35mmハンディカメラアイモ(1925年)、オートロードEE(Autoload EE, 1956年)といった撮影機を製造した。16mmフィルム用のサイレント、サウンドの両映写機や、16mmフィルム用の軍用ガンカメラN-6A型撮影機等である。

1926年10月4日、阪妻・立花・ユニヴァーサル連合映画の撮影所にカール・レムリが送り込んだ6台の撮影機は、いずれも同社の製品であった[4]。1928年からは、京都の大沢商会が同社の光学機械の輸入を開始、大澤善夫はやがて1933年、J.O.スタヂオ(現在の東宝の前身の一社)を設立するに至る。

1934年、同社は初めての軽量小型の8mm撮影機を発表、フィルムカセットを導入した[5]。以降、スタンダード8mmフィルム、1965年以降は、スーパー8mmフィルム向けの撮影機と映写機を製造した。

1935年、同社は第7回アカデミー賞において、「全自動音響および焼付け機材の開発」に対し、アカデミー科学技術賞が贈られた[6]

キヤノンとの提携で生まれたデミ

1946年には、マイクロフィルムの製造を開始している。1948年に発売したスチルカメラ「フォトン」は短命に終わった。ほかにも、スライド映写機や、オーバーヘッドプロジェクタなどを手がけた。1949年から1964年まで、後の政治家チャールズ・パーシーが社長を務めた。パーシーの経営によって売上高は32倍増に飛躍し、ニューヨーク証券取引所で株式を公開するに至る。

1954年、同社は第26回アカデミー賞において、「映画産業の進歩における開拓者的、基本的功績」に対し、アカデミー名誉賞を受賞した[6]

1961年から1976年にかけて、日本の企業キヤノンと提携、スチル写真用のカメラを製品のラインナップに載せた。35mm一眼レフカメラは、キヤノンがベル&ハウエルのロゴをつけて製造したものである。キヤノン キヤノネットシリーズキヤノン デミシリーズ等である。ベル&ハウエルは、1970年代の初期には、映画用撮影機の生産をやめていた。

1962年および1963年の5月、同社が提供するABC(アメリカン・ブロードキャスティング・カンパニー)のドキュメンタリーテレビ映画の冠番組『ベル&ハウエル クローズアップ!』が、第14回および第15回プライムタイム・エミー賞で各賞にノミネートされる[7]

同年11月22日、ケネディ大統領暗殺事件を偶然撮影したダラス市民エイブラハム・ザプルーダーが使用したカメラが、同社の414PD式8mm撮影機ズーマティックであったため、同機は「ザプルーダー・カメラ」と呼ばれるようになる。

多角経営

[編集]
アップルII ベル&ハウエルモデル。

ベル・メディア英語版傘下のカナダのテレビ局、CTVトロント英語版のキャスター、オースティン・デラニーは、1960年代から1970年代にかけて、カナダのベル&ハウエルの社長を務めた。1960年代にはコンソリデイテッド・エンジニアリング英語版を買収、のちに1970年代半ばにデュポンに売却した。

同社は、学校や企業向けのメディア機材の供給におけるリーディングカンパニーであった。フィルム現像分野の事業は、分社化してBHP社となり、現在ではリサーチ・テクノロジー・インターナショナル社の一事業部となっている。

1980年代には、ユニヴァーシティ・マイクロフィルムズ・インターナショナル英語版(UMI)を買収、プロクエストという製品を製造した。UMI社は、2001年6月6日、同社は、プロクエスト英語版となり、ニューヨーク証券取引所に上場している(NYSE "PQE")[8]

1982年12月1日、教育向けに、アップルIIのベル&ハウエルモデルを発売した[9]

教育事業

[編集]

同社は、1907年に社内に教育事業部を設立している。同事業部は、1966年にベル&ハウエル・スクールを創立した。同年、同事業部はデヴライ技術研究所の経営権を取得する。2年後の1968年、同事業部は同研究所の経営収益を通じてオハイオ州コロンバスのオハイオ技術研究所を買収した[10]。これらは現在、デヴライ大学英語版になっている。長年にわたり、同事業部は多様な研究組織や研究所の売買を通じて、多額の利益を得ている。

フィルモグラフィ

[編集]

インターネット・ムービー・データベースによれば、同社は、1941年に7本(すべてセルゲイ・エイゼンシュテイン監督作)、1969年に1本の映画を製作した記録がある[11]

ギャラリー

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ 公式ウェブサイト、2011年11月17日閲覧。
  2. ^ 百科事典マイペディア『アイモカメラ』 - コトバンク、2011年11月17日閲覧。
  3. ^ For Sale: Charlie Chaplin's Movie Camera (英語), retrothing.com, 2011年11月18日閲覧。
  4. ^ 小松弘「モダニズムの成立-一九二七年における日本映画の状況-」『早稲田大学大学院文学研究科紀要. 第3分冊日本文学演劇映像美術史日本語日本文化』第50巻、早稲田大学大学院文学研究科、2004年、25-42頁、CRID 1050282677496040448hdl:2065/8549ISSN 1341-7533 
  5. ^ "Movie Camera Has Magazine for Daylight Loading" Popular Mechanics, July 1934 article bottom page 91
  6. ^ a b Bell & Howell Company, アカデミー賞公式ウェブサイト、映画芸術科学アカデミー、2011年11月18日閲覧。
  7. ^ ABC Close-Up!, インターネット・ムービー・データベース (英語)、2011年11月21日閲覧。
  8. ^ Bell & Howell Becomes ProQuest Company
  9. ^ The World According to The Mac Geek, 2007年11月18日閲覧。
  10. ^ the Ohio Institute of Technology Student hand book from the school year 1974-1975, p.6.
  11. ^ Bell & Howell, インターネット・ムービー・データベース (英語)、2011年11月18日閲覧。

参考文献

[編集]
  • Bordwell, David (1988) The Classical Hollywood Cinema: Film Style and Mode of Production to 1960, David Bordwell, Janet Staiger, Kristin Thompson, Routledge, ISBN 0415003830

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]