コンテンツにスキップ

ブッポウソウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ブッポウソウ
ブッポウソウ Eurystomus orientalis
保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: ブッポウソウ目 Coraciiformes
: ブッポウソウ科 Coraciidae
: Eurystomus
: ブッポウソウ E. orientalis
学名
Eurystomus orientalis
Linnaeus, 1766
英名
Broad-billed Roller
Dollarbird
オーストラリアでの生息域

ブッポウソウ(仏法僧、Eurystomus orientalis)とは鳥綱ブッポウソウ目ブッポウソウ科に分類される鳥である[1]。三宝鳥とも呼ばれる[2]

分布

[編集]

ユーラシア大陸東部とオーストラリアで繁殖する。種小名orientalisは「東洋の」の意でブッポウソウ科では本種のみユーラシア大陸東部にも分布する。日本には夏鳥として飛来し[3]本州四国九州繁殖し、冬は東南アジアに渡る。また、北海道で見られることもあり、春の渡りの時期に天売島などで休憩する様子が確認されている[4]

形態

[編集]

全長約30センチメートル[1][5]。雌雄同色で、頭部は黒褐色、尾羽は黒色[1]。風切羽の大部分も黒色である[2]。のどは群青色で、胴体は光沢のある青色の羽毛で覆われ、この羽毛は光の加減により緑色に見えることもある[1]。初列風切羽の中央に白い斑紋があり、を広げる時[6]、飛翔している時には目立つ[1]。嘴と脚は赤橙色である[1]

生態

[編集]

生息域内では平地から山地まで分布し、水辺に近い森林に生息する[1]。特に山地のスギヒノキなどの大木の高所にすむ[2]

樹洞を巣にするが、鉄橋の穴や木製の電柱、ダムに設けられた排水溝等をとして利用することもある。なお、木製の電柱での繁殖は西南日本が多く中部地方以北では、神社仏閣の林やブナ林を主要な繁殖場所としている[7]

寺社の森で多く見られる美しい鳥であることから、霊鳥として大切にされてきており、山梨県身延町や岐阜県美濃市などの繁殖地は、国の天然記念物に指定されている[8]

食性は動物食で昆虫類等を食べる[1]。獲物は飛翔しながら捕食する[1]。そのため、高木の枝や谷間の上を通過する高圧線などにとまり、昆虫類を探していると思われる個体を観察することが多い。その場合、ヒタキ類のように同じ場所から飛び立ち、捕食に成功しても失敗しても、ほぼ元の位置に帰るという行動を繰り返す(ことが多い)。

繁殖形態は卵生で1回に4 - 6個のを産む。巣の中や周囲には貝類の殻、プルタブ瀬戸物のかけらなど光沢のあるものがあり、ブッポウソウがこういったものを集めることが知られている[9]。この習性はヒナがこれらの堅いものを飲み込み、消化器官砂嚢に入れておく事で、昆虫の堅い殻をすりつぶす為に親鳥がヒナに与えている事が明らかになっている[10]

鳴き声

[編集]

森の中で夜間「ブッ・ポウ・ソウ」と聞こえ、仏・法・僧の三宝を象徴するとされた鳥の鳴き声がこの鳥の声であると信じられてきたため、この名が付けられた。しかし、実際のブッポウソウをよく観察しても、飛ぶときには「ゲッゲッゲッ」といった汚く濁った音、急降下のときには「げっけけけけ」というような音の鳴き声しか発さない[6][2]。件の鳴き声を直接発することが確認できないため、声のブッポウソウの正体は長く謎とされた。

結局のところ、この鳴き声の主はフクロウ目コノハズクであり、このことが明らかになったのはラジオ放送が契機となった。

1935年昭和10年)6月7日日本放送協会名古屋中央放送局(現在のNHK名古屋放送局)は愛知県南設楽郡鳳来寺村(現在の新城市)の鳳来寺山で「ブッ・ポウ・ソウ」と鳴く鳥の鳴き声の実況中継を全国放送で行った[11][12]。その放送を聞き、鳴き声の主を探した者が、同年6月12日に山梨県神座山で、「ブッ・ポウ・ソウ」と鳴く鳥を撃ち落としたところ、声の主がコノハズクであることが分かった[11]。時を同じくし、放送を聴いていた人の中から「うちの飼っている鳥と同じ鳴き声をする」という人がでてきた。6月10日にその飼っている鳥を鳥類学者黒田長禮が借り受け見せてもらうとその鳥はコノハズクであり、山梨県神座山で撃ち落とされたのと同日である6月12日の早朝に、この鳥が「ブッ・ポウ・ソウ」と鳴くところを確認した[11]。そのコノハズクは東京浅草の傘店で飼われていたもので、生放送中、ラジオから聴こえてきた鳴き声に誘われて同じように鳴き出したという[11]。この二つの事柄がその後に行われた日本鳥学会で発表され、長年の謎だった鳴き声「ブッ・ポウ・ソウ」の主はコノハズクだということが初めて判明した[11]。実に1000年にも及ぶ期間、鳴き声を勘違いされてきた[8]

保全状態評価

[編集]

LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))

亜種 ブッポウソウ Eurystomus orientalis calonyx

絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト

[13]

近年、全国的に減少しており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種に指定されている。広島県岡山県長野県天龍村では巣箱による保護で繁殖個体数が回復し、徐々に増加しつつある[14]山梨県身延町宮崎県高原町岐阜県美濃市長野県木曽町のブッポウソウ繁殖地が天然記念物に指定されている。

その他

[編集]

ギャラリー

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i 叶内 拓哉他、山渓ハンディ図鑑7、日本の野鳥、山と渓谷社、2001年第二版、pp. 402 - 403、ISBN 978-4635070072
  2. ^ a b c d 新村出 編『広辞苑』(第六版)岩波書店、東京都千代田区一ツ橋2-5-5、2008年1月11日、2469頁。ISBN 978-4-00-080121-8 
  3. ^ 三次 ブッポウソウが子育て中”. NHK 広島のニュース (12 Jul 2023). 7 Dec 2023閲覧。
  4. ^ 北海道アクティブ・レンジャー写真展~北の自然の舞台裏~”. 環境省. 2024年12月7日閲覧。
  5. ^ 『世界鳥類大図鑑』、305頁。
  6. ^ a b 鳴き声と羽でわかる野鳥図鑑・158頁
  7. ^ 飯田知彦「電柱を営巣場所にするブッポウソウEurystomus orientalis の繁殖分布」『Strix』第11巻、1992年、99-108頁、CRID 1570854174559261824NAID 10007421495 
  8. ^ a b 柴田佳秀 著、樋口広芳 編『街・野山・水辺で見かける野鳥図鑑』日本文芸社、2019年5月、156頁。ISBN 978-4537216851 
  9. ^ 中村浩志、「蘇れ、ブッポウソウ」、山と渓谷社、2004年初版発行、ISBN 4-635-23000-7、P77−101
  10. ^ 『ダーウィンが来た!生きもの新伝説「里山の美しき鳥(1)森の宝石ブッポウソウ 意外な食生活」』, NHK, 2012年10月28日放送
  11. ^ a b c d e 中村浩志、「蘇れ、ブッポウソウ」、山と渓谷社、2004年初版発行、ISBN 4-635-23000-7、P115-124
  12. ^ 午後9時(21時)55分から30分間放送し、その間よく鳴いたが、放送中や放送後にゲストの俳人・荻原井泉水、歌人・川田順、愛知県史蹟天然記念物調査委員・梅村甚太郎の3人の話がうるさいという非難の電話が殺到した。これを踏まえて、翌6月8日はゲストを呼ばずに鳴き声だけにする(番組内容を伝えるアナウンサーだけをおく)ことにし、前日と同じく午後9時(21時)55分から30分間放送したところ、この晩もよく鳴き、放送終了後、前日とは打って変わって絶賛の電話が殺到した。
  13. ^ 鳥類レッドリスト (環境省) 2006年版による変更
  14. ^ 丸山健司, 遠藤裕久, 大谷良房「自然保護アピール ブッポウソウの巣箱設置による保護活動について」(PDF)『Strix : journal of field ornithology= 野外鳥類学論文集』第22巻、日本野鳥の会自然保護室、2004年、155-163頁、CRID 1524232505130387968ISSN 09106901NAID 400061317552021年7月4日閲覧 

参考文献

[編集]

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]