コンテンツにスキップ

サルトポスクス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
サルトポスクス
復元図
地質時代
後期三畳紀
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
下綱 : 主竜型下綱 Archosauromorpha
階級なし : 偽鰐類 Pseudosuchia
上目 : ワニ形上目 Crocodylomorpha
: サルトポスクス属
Saltoposuchus
学名
Saltoposuchus
von Huene1921
タイプ種
Saltoposuchus connectens
von Huene1921

サルトポスクス学名Saltoposuchus)は、後期三畳紀ヨーロッパ西部に生息した、ワニ形上目に属する絶滅した爬虫類[1]。四肢が長い小型の陸生動物であり、俊敏な捕食者であったと推測されている[1]

発見と命名

[編集]

サルトポスクスに属する2種のタイプ標本である化石はドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州に分布するLöwenstein層(上部三畳系ノーリアン階)の中部の泥灰岩層から発見された[2]。発見された化石はSMNS 12597とSMNS 12596の標本番号を付与され、1909年にコレクションに加えられた[2]。SMNS 12597はSMNS 12596よりも小型の個体であり、標本はそれぞれSaltoposuchus connectensSaltoposuchus longipesとしてvon Huene (1921)により命名された[2]。また1911年にはタイプ標本と同一の産地の上位層と思われる赤色泥岩層からSMNS 55009が発見されている[2]。本標本は頸椎よりも後側に位置する数個の単離した椎骨、右脛骨踵骨、数本の中足骨から構成されており、Saltoposuchus longipesに分類されている[2]

また化石は同じくドイツのTrossingen層やスコットランドのLossiemouth砂岩層からも発見されている[3]

特徴

[編集]
20世紀に描かれたサルトポスクスの骨格復元

頭蓋骨

[編集]

他のワニ形類と同様に、サルトポスクスの頭蓋骨には前眼窩窓が存在し、鱗状骨が張り出し、内側にシフトした前傾する方形骨方形頬骨が存在する[4][5]。頭蓋骨は長く突出しており、また細い歯を有した[5]。サルトポスクスの突出した歯からは、動物食性であった可能性が高いことが示唆される。頭蓋骨の背側には側頭部に張り出した鱗状骨と後眼窩骨で構成される正方形のskull tableや、鱗状骨が突き出している頬の領域といった多くの特殊化があり、これらの形質状態をワニと共有している[4]

体骨格

[編集]

サルトポスクスは後側に突出する棘を烏口骨に持つ[4]。骨格構造に基づいて二足歩行性の動物であったと考えられているが、四足歩行を採用することも可能であったと見られる。背部には2列の鱗甲が存在しており、現生のワニと類似する。他の初期のワニ形類と同様にサルトポスクスは完全に直立した四肢と細長い体を有しており[6]、俊敏な動作が可能であったと考えられている[1]。サルトポスクスのような初期のワニ形類は椎体が長く、突起が短く、前後の関節突起による関節部が中型であった[7]。Molnar et al. (2015)は初期のワニ形類において背腹方向よりも内外方向の可動域が平均して大きく、内外方向よりも背腹方向に剛性が高いと推定した[7]。サルトポスクスの手首は橈骨尺骨が棒状に長く伸びており、他のワニ形類と形質状態を共有している[4]

分類

[編集]
サルトポスクスを含むクラドグラム

サルトポスクスはvon Huene (1921)によりオルニトスクス科に分類され、Romer (1956)も暫定的にこれを踏襲した[2]。その後、Walker (1968, 1970)が本属をワニ形上目に分類し、本属とワニとの近縁性が強化されることとなった[2]。Clarke et al. (2004)の系統解析の結果では、シュードヘスペロスクステレストリスクスヘスペロスクスなどの初期のワニ形類との間で多分岐をなしており、スフェノスクスプロトスクスよりも基盤的とされる[5]

Spikeman (2023)によれば、Peter Crushの未発表の博士論文 (1980)はサルトポスクスの2種の間に分類を区別する十分な形態学的な差異が存在しないとし、Saltoposuchus longipesSaltoposuchus connectensのジュニアシノニムと判断した[2]。その後のテレストリスクスのタイプ種 Terrestrisuchus gracilis の記載論文Crush (1984)でこの結果がまとめられている[8]

また、テレストリスクスとの間では、Terrestrisuchus gracilisSaltoposuchus connectensが同じ属の異なる個体成長段階を代表する可能性が指摘されている[9]

古環境

[編集]

ドイツから産出した化石から、サルトポスクスは当時のローラシア大陸に生息していたことが示唆される。中生代は陸上の脊椎動物相において爬虫類が目立つ時代であり、サルトポスクスは最初期の翼竜や他の二足歩行の爬虫類を含む多数の種と共存していた[3]。近縁な属の食性に基づけば、同時代の小型のトカゲ昆虫哺乳類を捕食していたと推測される[10]

出典

[編集]
  1. ^ a b c マイケル・ベントン 編、鶴田暁子 訳『コーウェン地球生命史 第6版』ロバート・ジェンキンズ久保泰 監訳、東京化学同人、2023年7月24日、142頁。ISBN 9784807920488 
  2. ^ a b c d e f g h Stephan N F Spiekman (2023). “A revision and histological investigation of Saltoposuchus connectens (Archosauria: Crocodylomorpha) from the Norian (Late Triassic) of south-western Germany”. Zoological Journal of the Linnean Society 199 (2): 354-391. doi:10.1093/zoolinnean/zlad035. https://doi.org/10.1093/zoolinnean/zlad035. 
  3. ^ a b Bagley, Mary. "Triassic Period Facts: Climate, Animals & Plants." LiveScience. Purch, 11 Feb. 2014. Web. 06 Mar. 2017. http://www.livescience.com/43295-triassic-period.html
  4. ^ a b c d Benton, Michael J. (2009-02-05) (英語). Vertebrate Palaeontology. John Wiley & Sons. ISBN 978-1-4051-4449-0. https://books.google.com/books?id=VThUUUtM8A4C&dq=saltoposuchus+skull&pg=PA145 
  5. ^ a b c Clarke, James M., Xing Xu, Catherine A. Forster, and Yuan Wang. "A Middle Jurassic ‘sphenosuchian’ from China and the Origin of the Crocodylian Skull." Letters to Nature (2004): 1021-024. Nature Publishing Group, 26 Aug. 2004.
  6. ^ Wedel, Matt. "Crocodylomorpha." Crocodylomorpha. N.p., May 2007. Web. 06 Mar. 2017. http://www.ucmp.berkeley.edu/taxa/verts/archosaurs/crocodylomorpha.php
  7. ^ a b Molnar, Julia L., Stephanie E. Pierce, Bhart-Anjan S. Bhullar, Alan H. Turner, and John R. Hutchinson. "Morphological and Functional Changes in the Vertebral Column with Increasing Aquatic Adaptation in Crocodylomorphs." Royal Society Open Science. The Royal Society, 01 Nov. 2015. Web. 06 Mar. 2017.
  8. ^ Crush, P. J. (1984). “A late upper Triassic sphenosuchid crocodilian from Wales”. Palaeontology 27 (1): 131–157. https://www.palass.org/sites/default/files/media/publications/palaeontology/volume_27/vol27_part1_pp131-157.pdf. 
  9. ^ Allen, D. (2003). “When Terrestrisuchus gracilis reaches puberty it becomes Saltoposuchus connectens!”. Journal of Vertebrate Paleontology 23 (3): 1–124. doi:10.1080/02724634.2003.10010538. 
  10. ^ "Fossil Record." Crocodylomorpha Fossil Record. University of Bristol, n.d. Web. 06 Mar. 2017. http://palaeo.gly.bris.ac.uk/Palaeofiles/Fossilgroups/Crocodylomorpha/Fossilrecord.html