猫食文化

イエネコの食肉

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猫食文化(びょうしょくぶんか)とは、イエネコを食肉に加工し食べることで、世界各地にさまざまな形でみられる。

アヒルの隣に置かれた食用ネコ

概要

ネコをペットとして愛玩している人々の感情を害さないよう、犬食とともにタブー視されることが多い。ユダヤ教イスラームは肉食動物の摂取を禁じているため、信者がネコを食べることは許されない[1]。戦時や極貧状態の人々がやむをえずネコを食べるだけでなく、料理法を持っている社会も存在する。

アジア  

日本

日本では仏教信仰の広まりにより平安時代末には貴族の饗応食から獣肉食がほとんど姿を消し、中世以降は穢れを忌むという風習も加わり肉食がほとんど行われなくなった[2]。また古来より猫は米食文化における穀倉や寺院での経典をネズミ食害から守る重要な番人として珍重されてきた[3]。猫の肉以前の問題として、そもそも肉食全体が、日本では歴史的にはこのような状況であり、江戸時代も肉食は忌避されていた[2][4]。ただしそれは表向きのことで、実際には獣肉が「薬」として貴族や武士など支配階級の間で食されていたことが文献により実証されている[2][4]。それでもやはり、江戸時代に食された獣類の食材が兎・犬・川獺・狸・鹿・猪・狐・熊(いずれも野生)の8種類に大別できると結論付けられるにすぎず(江間(2013)による)、猫は江戸時代に食された獣類の食材にカテゴライズされない[2]。しかし、猫の肉が食されていたという推定の根拠となりうる文献は皆無ではなく、『名産諸色往来』(1756年)には江戸麹町にある獣肉専門店に並んでいる食材として猪・鹿・狐・狼・熊・獺・鼬・・山犬を列記している(調理法の記載はない)[一次史料 1][4][5][6]。沖縄では肋膜炎気管支炎肺病に効果があるとされ、汁物仕立てにしたマヤーのウシルなどが食べられていた[7]。 

中国

中国の両広(広東省および広西チワン族自治区)とベトナム北部では、冬にネコの肉を食べると身体が温まると考える人々がおり、特に高齢者の間で多いが、より寒さの厳しい華北では猫は人間の食べ物と考えられていない。中国では年に400万匹の猫が食べられており、猫の消費は増加傾向にある[8]。街中の飯店では、外国人旅行者に配慮してふつう猫料理は出さない[8]広東料理にはヘビ、ネコを鳳凰に見立てた龍虎鳳という料理があり、強壮効果があると信じられている[8]

現地の動物保護に詳しい弁護士によると、中国国内の猫肉取引は禁じられており、2007年の法律でも「国内で通常食されない食物」の取引には特別な許可が必要としている。華南の飯店で出される猫肉は主に、許可を得たブローカーが安徽省江蘇省から仕入れたものである[8][9]。2010年1月26日には中国政府が、動物保護の観点から初の取り締まりに乗り出した[10]

中国ではペットとしてのネコの飼育が増えるにつれ、猫食文化への風当たりが強まり、抗議行動も起こるようになっている[11]。2006年6月には深圳市の有名な猫肉料理店が40名ほどの活動家から襲撃を受け、営業中止に追い込まれた[12][リンク切れ]。こうした変化は中国動物保護ネットワーク傘下の中国愛玩動物保護ネットワーク (CCAPN) 結成のおよそ2年後に始まった。40以上の団体が加わったCCAPNは2006年1月、広州市をはじめとする10以上の都市で犬食や猫食に対する抗議運動を行った[13][リンク切れ]。2008年にも犬食・猫食が増えていた広州で同様の騒擾が発生し、メディアで報じられた。

朝鮮半島

李氏朝鮮時代の1613年に書かれた東医宝鑑には、猫を食べることを関節炎を含め、関節に良いと記している[14]朝鮮では、古くから猫の茹で肉は神経痛や関節炎に効くと信じられている。そのため、強壮剤や猫を煮込んだ料理である蝶湯、別名:猫湯がつくられている。2013年時点でも韓国の高齢者が未だに違法である猫湯を関節への特効薬と信じていること、猫湯の違法提供業者の実態が報道された[15][16][17]。同年に釜山広域市中区南浦洞路上でみかんを包むようなネットで包まれた食用の猫らが路上で販売されている様子が報道されている[18]

ベトナム

ベトナムではネコ肉を「幸運を呼ぶ」として提供する食堂があり、中国などからの密輸が増えている[19]

南アメリカ

ペルー

ペルーでは猫食は一般的ではないが、アフリカ系ペルー人の多い南部イカ県のチンチャ・アルタと北中部アンカシュ県のワリではフリカセシチューの具に用いられる。チンチャ・アルタでは、9月の聖エフィゲニア(『レゲンダ・アウレア』に登場するエチオピア王の娘)の祭りで料理法を実演している[20]。ワリではペルー高原部でよく食されるモルモットの代用として使われる。ワリ出身の人は俗にミシカンカス (mishicancas) と呼ばれるが、これはケチュア語の方言で「焼いたネコ」の意味である。

ヨーロッパ

中欧ではネコは厳冬期や凶作の年や、戦時に飢えを免れるものとして食されることがあり、2度の世界大戦中、「屋根のウサギ」と呼ばれた[21]

スイス

中欧であるスイスの農村ではネコが食される[22]。ハーブのタイムの小枝を付け合せに添える地域もある[22]ロイターは2004年1月に「スイス料理には仔犬や仔猫も含まれる。流通で販売することは禁止されているが、家庭での犬猫の消費を禁止する法律はなく、国内で毎年何頭のペットが屠殺されているか、把握することは難しい」と報じた[23]。ドイツの大手メディアであるエクスプレス(ドイツの新聞)ドイツ語版が2011年に実施したアンケートによると、スイス人回答者の48%は、「ネコを食したことがある」と回答した[24]。一方、猫食禁止を主張しているスイス動物保護団体「SOSシャ・ノワレーグ」創設者は、国民の3%が猫を食しているとしている[25]

スペイン

スペインバスク地方バスク自治州)にもネコのシチューやネコのソースがけのレシピがある。ルイス・リポルはその著書 Llibre de cuina mallorquina (『マヨルカ料理の書』)で、中世のネコの調理法を紹介している[要文献特定詳細情報]

オセアニア

オーストラリアのアリススプリングス一帯のアボリジニは、野良ネコを焚き火であぶり焼きにする。彼らはネコのシチューのレシピも開発している。この地方の他の住民の一部も「オーストラリア固有の動物相外来種のイエネコによって深刻な脅威にさらされている」という理由からネコを食べるようになった。科学者らは野良ネコを食べることで、体内に危険なバクテリア毒素が入り込むと警鐘を鳴らしている[26]

アフリカ

カメルーンでは、男性限定で特別な祝い事の折に、ネコを食べることで幸運を祈る地域がある[27]

一次史料

  1. ^ 名産諸色往来』1756年https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko31/bunko31_e1686/index.html  早稲田大学図書館蔵、請求記号:文庫31_e1686、見開き第28頁左3行目から4行目。

脚注

  1. ^ Cat Feeding”. 2008年7月18日閲覧。
  2. ^ a b c d 江間, 三恵子「江戸時代における獣鳥肉類および卵類の食文化」『日本食生活学会誌』第23巻、2013年、247-258頁。 
  3. ^ 日本に猫はいつからいるの?日本における猫との歴史を紐解きます![1]
  4. ^ a b c 松下, 幸子. “江戸食文化紀行 No. 11 芝居小屋の食事―食材の肉とは?―”. 2021年7月16日閲覧。
  5. ^ Hanley, Susan (1997). Everyday Things in Pre-Modern Japan. p. 66. https://books.google.co.jp/books?id=07cwDwAAQBAJ&pg=PAPA65 
  6. ^ 松波 et al.「忍者の食生活と栄養評価」『名古屋経済大学自然科学研究会会誌』第50巻第1号、2019年、6-14頁、doi:10.15040/00000373 
  7. ^ 渡口初美『沖縄の食養生料理』国際料理学院、1979年 p12
  8. ^ a b c d Some call it an indelicate trade, others, a delicacy, Xinhuanet.com, 13 Jan 2012 (from China Daily)
  9. ^ Moore, Malcolm (2009年1月1日). “Cat-nappers feed Cantonese taste for pet delicacy”. London: Telegraph. http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/china/4061850/Cat-nappers-feed-Cantonese-taste-for-pet-delicacy.html 
  10. ^ China to jail people for up to 15 days who eat dog”. Chinadaily. 2010年1月26日閲覧。
  11. ^ 中国の動物愛護団体、「ネコ肉レストラン」に抗議”. 大紀元. 2018年4月22日閲覧。
  12. ^ “Animal rights protest shuts restaurant”. Reuters. http://today.reuters.com/News/newsArticle.aspx?type=oddlyEnoughNews&storyID=2006-06-19T131415Z_01_PEK331544_RTRUKOC_0_US-CHINA-CATS.xml 2006年10月22日閲覧。 
  13. ^ Guangzhou bans eating snakes--ban helps cats”. Reuters via animalpeoplenews.org. 2008年2月16日閲覧。
  14. ^ 朝鮮医学史及疾病史: - 322 ページ 三木榮 · 1991
  15. ^ Campaigns - Dog and cat meat”. 2006年12月26日閲覧。
  16. ^ (日本語) 충격적인 고양이 중탕 제조 과정!_채널A_먹거리X파일 61회, https://www.youtube.com/watch?v=mx47uzfQthE 2021年6月23日閲覧。 
  17. ^ チャンネルA (Channel A / 채널A) 公式ニュースアカウント:韓国の大手新聞社 東亜日報 (The Dong-a Ilbo) 」が運営するケーブル&衛星チャンネル「[イ・ヨンドンPDの食べ物Xファイル] 2013/04/05放送61回」「猫湯」韓国60歳以上の高齢者人口の約80%が患っている関節炎! 痛みが酷く、完治が難しく、酷い場合、日常生活が困難な病気でもある。 さて、製作陣今後特効薬を食べ、痛みが洗ったように消えたという情報提供が到着した。 彼ら食べた特効薬は他でもない猫の湯煎だった。猫湯煎は本当に効果があるのか? 食べ物Xファイルのチームで衝撃的な猫湯煎取引の実態を告発する! 道猫の基本的な衛生管理さえないところで屠殺して摂取することが果たして安全なのだろうか? 違法虐殺が行われる恐ろしい現場、間違った服用する場合、深刻な結果をもたらす猫湯! 長々4ヶ月の間食べ物Xファイルのチームが暴いた衝撃的な実体が公開される!
  18. ^ https://m.nocutnews.co.kr/news/1087719
  19. ^ “「猫」数千匹、中国から食用で密輸か ベトナム”. ハフィントンポスト. http://www.huffingtonpost.jp/2015/01/31/cat-smug-from-china_n_6584440.html 2018年2月10日閲覧。 
  20. ^ 'Cat-eaters' take note - feline feast at Peru festival”. planetark.com. 2008年2月16日閲覧。
  21. ^ Cats - Friend Or Food”. Messybeast.com. 2010年6月14日閲覧。[出典無効]
  22. ^ a b Utusan Express: Anyone for a hot dog? Going spare in Switzerland”. jphpk.gov.my. 2012年3月18日閲覧。
  23. ^ Cats - Friend or Food?”. messybeast.com. 2008年7月7日閲覧。[出典無効]
  24. ^ https://www.express.de/news/-schmeckt-wie-kaninchen--essen-schweizer-katzen--14758434
  25. ^ スイスの動物保護団体、犬猫食の禁止を請願 国民の3%が食べる”. フランス通信社 (2014年11月26日). 2017年5月25日閲覧。
  26. ^ Mercer, Phil (2007年9月2日). “Australians cook up wild cat stew”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/6974687.stm 
  27. ^ Ngwa-Niba, Francis (2003年3月17日). “The cat eaters of Cameroon”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/2857891.stm 

関連項目

外部リンク