赤平大「発達障害と高IQのリアルな子育て」
医療・健康・介護のコラム
[最終回]発達障害の息子の言葉「変われる気がする」で麻布中入学を決断 急いで電車通学や買い物の練習
発達障害に手厚い私立中か麻布中か
発達障害の息子の中学受験までの経緯をお話ししてきたこのコラムも、今回が最終回です。
当初の本命校だった「横浜にある発達障害に手厚い私立中A」と「麻布中」。 前回のコラム でお話ししたように、両校に合格したことで、発達障害の息子にとって「どちらが正しい進学先なのか」「どちらがリスクが少ないのか」を深く悩むようになりました。
入学手続きの期限までの、わずかな時間で決めなければならない。息子が小さい時からやってきたように、私は機会と情報と選択肢を提供し、丁寧に伝え、意思決定は息子に任せるため、徹底的に話し合いました。
麻布合格後に驚いたのは、周囲の人たちの対応が激変したことです。
どこに進学するにせよ、受験の結果は「聞かれない限りは言わないことにしよう」と息子に伝えていました。そのため、私も息子もたまたま聞かれた1~2人にしか「麻布合格」は伝えていなかったのですが、すぐに小学校の同級生などの保護者からお祝いのご連絡をいただいたり、息子本人にも「おめでとう」という言葉をいただいたりするようになりました。
「できないやつ」が麻布中合格でチヤホヤ状態
小学校6年間で「できないやつ」「困ったやつ」という目で見られ続けていたので、息子の人生でこれほどほめられた経験は初めてでした。ありがたいのですが、息子が「チヤホヤされている」状態に、私は恐怖を感じました。息子が浮足立って、進学先の意思決定に影響すると思ったからです。
私は、両校のメリットとデメリットを息子にしっかりと理解してもらった上で、進学先を選んでほしいと考えていました。
「小学校では支援の先生が身の回りの物の管理を手伝ってくれたけど、麻布に支援の先生はいないから、全部、自分自身でやらなければならない」
「横浜のA中学の先生は、おそらく日本で一番、発達障害に詳しい」
「お父さんは横浜のA中学がいいと思う」
周囲の反応の変化で浮足立つ息子に対し、反対の意見をあえて言いました。
「お父さんは嫌なことばかり言う人だ」と、息子に嫌われても構いません。結果的に息子が幸せになるなら。私は「親は子供の幸せのために命を使い切る存在」と考えています。
私が育った盛岡市の中心を流れる中津川には、毎年サケが 遡上 してきます。厳しい大海を生き抜き、生まれた川に戻り、何も食べずに激流を上り、ボロボロになって子供を産んで死ぬ。子供の頃、打ち捨てられたたくさんの亡きがらを見てきた私は「これが親である」と、はかない美しさを感じていました。この記憶が、自分の子育てに影響しているのだと思います。
社会は甘くなく、世界は厳しいです。発達障害の当事者にとっては尚更です。
「麻布に行く」と言う息子に反対意見を繰り返す
私と息子は毎日、「どっちの中学に行くべきか」を話し合いました。息子は「麻布に行く」、私は「横浜の私立中A」をあえて推すの繰り返しでした。そして期限の最終日に「麻布に行く」という決断をしました。その理由は「麻布に行ったら、変われる気がする」という息子の言葉でした。
このひと言に私はハッとしました。同時に、とてもつらい気持ちになりました。息子は小学校の6年間で、一度も先生やクラスメートについて文句を言いませんでした。いつも「学校楽しい」と言っていたんです。しかし、どこかで苦しさ、つらさがあったんでしょう。「自分を変えたい」という言葉は、一番そばにいる父親の私を心配させたくなかったということかもしれないと、深く反省しました。
ただ、無理に麻布に通い続けて二次障害を引き起こすリスクもあるので「お父さんが『麻布に通い続けるのは無理だ』と判断したら、違う中学校に転校する」という約束をして、麻布中進学が確定しました。
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