ルーマニアの憲法裁判所、大統領選第1回投票を無効と判断 勝利候補への影響工作が明るみに
ルーマニアの憲法裁判所は6日、大統領選挙の第1回投票の結果を無効とした。8日にも第2回投票が行われる予定だった。
これにより、選挙は最初からやり直されることになった。政府は新たな投票日を決定するとしている。
11月24日に行われた第1回投票では、ほとんど無名のカリン・ジョルジェスク氏が勝利していた。極右で北大西洋条約機構(NATO)懐疑派のジョルジェスク氏は以前、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛したことがある。
ジョルジェスク氏をめぐっては4日、国外発の大規模な影響工作が投票結果に影響していたとうかがわせる情報文書が機密解除されていた。
憲法裁の判断から数時間後、ジョルジェスク氏はルーマニアのテレビチャンネルに対し、同国の民主主義が「攻撃されている」と述べ、この判決を「形式化されたクーデター」だと表現した。
そのうえで「投票プロセスを進める」とし、大統領選に再び立候補する意向を示した。
間もなく退任するイオン=マルチェル・チョラク首相は、裁判所の無効判決について「文書の機密解除後、正しい解決策はこれしかなかった」と発言。「一連の文書は、ルーマニア国民の投票結果がロシアの介入であからさまにゆがめられたことを示している」と述べた。
また、文書の機密解除を指示したクラウス・ヨハニス大統領は、新しい大統領が選出されるまで自らが留任すると発表。ヨハニス大統領は、ルーマニアは安定した、安全で堅固な国であり、依然として安全かつ堅固に欧州寄りで、かつNATO加盟国であり続けると述べた。
ジョルジェスク氏は第1回投票で23%の票を獲得。次点は野党「ルーマニア救国同盟(USR)」のエレナ・ラスコニ氏(得票率19%)だった。与党・社会民主党のチョラク首相は3位だった。
「外国国家」作成のTikTokアカウントが活性化
憲法裁の判事らは5日、外部工作が選挙に影響した可能性をめぐる新情報について、第2回投票までは議論しないと発表していた。しかし、6日朝に会合を開いた。
ルーマニアの法律では、選挙が無効とされた場合、無効判決の日から2番目の日曜日に選挙を再開することが定められている。6日の時点では、これは12月22日に当たっていた。
憲法裁はその後、政府に対し、選挙プロセス全体と選挙活動をすべてあらためてやり直すよう求める決定を下した。
憲法裁は11月28日、大統領選の第1回投票について票の再集計を命じていた。動画共有アプリ「TikTok」がジョルジェスク氏に「優遇措置」を与えたとの疑惑を受けた判断だった。
無所属の急進派であるジョルジェスク氏は、主にTikTokで選挙活動を行っていた。TikTokはこの疑惑を断固として否定していた。
こうしたなか、ヨハニス大統領は4日、国家防衛最高評議会の情報文書を機密解除した。
この文書は、2016年に「外国国家」によって作成された約800件のTikTokアカウントが先月、突然フル稼働し、ジョルジェスク氏を支持していたことを示唆した。
さらに、第1回投票の2週間前には、別の2万5000件のTikTokアカウントが活発化していたという。
ルーマニアの対外情報機関は、数万件のサイバー攻撃やその他の妨害行為を含むハイブリッド攻撃を行っていた「敵対国家」はロシアだと指摘した。
国内情報機関は、ジョルジェスク氏の突然の人気急上昇について、同一のメッセージやインフルエンサーを含む「高度に組織化された」ゲリラ的なSNSキャンペーンに起因するとした。
ジョルジェスク氏を宣伝するTikTok動画には選挙コンテンツとしての表示がなく、ルーマニアの法律に違反していたとされる。
アカウントの中には、ジョルジェスク氏のために1カ月で38万1000ドル(約570万円)をユーザーに支払っていたが、ジョルジェスク氏は自身の選挙活動に一切の支出をしていないと主張するものもあった。
ジョルジェスク氏は今週、BBCの取材の中で、自分はロシア政府の手先などではないと主張。ルーマニアの政治体制が自分の成功に対応できず、妨害しようとしていると主張していた。
東欧各国でハイブリッド戦争
ルーマニアはNATOの東側に位置する重要な加盟国であり、ウクライナと長い国境を共有している。
ルーマニアは、ロシアによるハイブリッド戦争を防ぐ最初の東欧国家ではない。
モルドヴァの大統領選挙は、ロシアの干渉と選挙不正の疑惑の中で行われた。黒海を挟んだジョージアでは、親欧米派の野党が、議会選挙がロシアの干渉を受けたと主張し、抗議が続いている。