シリアの暫定首相、「安定と平穏」を呼びかけ 政権移行に向けた協議開始
シリア暫定政府の首相は10日、バッシャール・アル・アサド大統領の失脚後、「安定と平穏を享受する時が来た」と述べた。中東メディアのアルジャジーラが報じた。
アサド政権の崩壊を主導したイスラム武装組織「ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS、「シャーム解放機構」の意味)」と連携組織はこの日、HTS傘下の「救済政府(HS)」の首相だったモハメド・アル・バシル氏を、2025年3月までのシリア暫定首相に任命した。
バシル暫定首相はその後、首都ダマスカスで新政府のメンバーとアサド前政権幹部が出席する会議を開催。閣僚が管轄する職務や政府機関の移管について話し合った。
国連のシリア特使は、シリアの政権移行について、反アサド政権勢力が「数々の良い発言」を実行に移す必要があると述べた。
また、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、将来のシリア政府が少数派を尊重し、包括的で信頼できる手続きから生まれるのならば、アメリカはこれを承認し全面的に支持すると表明した。
アサド前大統領は2011年、平和的な民主化運動を徹底的に弾圧した。その結果、50万人以上が死亡し、1200万人が家を追われる壊滅的な内戦を引き起こした。
HTSは今月初めに北西部アレッポを制圧し、南進。8日にはダマスカス入りし、アサド政権の打倒を宣言した。アサド前大統領はその後、ロシアに亡命したことが確認された。
HTSの「救済政府」を統括
バシル氏は今週に入るまで、イドリブやアレッポといったHTSが支配するシリア北西部以外ではほとんど知られていなかった。公表された来歴によると、電気技師として訓練を受け、2011年の内戦開始前はガス施設で働いていた。
バシル氏は今年1月に、HTSが支配地域を統治するために設立した「シリア救済政府」の首相に任命された。
「シリア救済政府」は、イスラム法に基づく宗教評議会を維持しながら、各省庁や地方部門、司法および治安当局を備えた国家のように機能していた。約400万人がその支配下で生活しており、その多くは国内の他の地域から避難してきた人々だった。
バシル暫定首相は10日、暫定政権閣僚とアサド前政権の閣僚との会議を主催。バシル氏の後ろには、シリアの反アサド政権勢力とHTSの旗が立てられていた。
バシール氏は会議後にアルジャジーラに対し、「向こう2カ月の間、シリア国民に奉仕する憲法体制が整うまでのすべての必要な作業を円滑に進めるため、旧政府のメンバーやイドリブおよびその周辺地域の一部の行政責任者を招待した」と語った。
また、「シリア国民に奉仕できるよう、機関を再始動するための会議も行った」と述べた。
HTSとその同盟組織は今月初めにアレッポを占領。その際、同市の機関が機能を停止したが、救済政府が公共サービスの復旧に乗り出した。
報道によると、技術者らが地元の電気・通信網の修理を支援し、治安部隊が街をパトロールした。医療従事者は病院でボランティア活動を行い、慈善団体はパンを配布したという。
9日にダマスカスで行われた会議の映像では、HTSのアブ・ムハンマド・アル・ジョラニ代表が、アサド政権の首相だったモハメド・アル・ジャラリ氏に、「イドリブは確かに資源に乏しい小さな地域だが、(救済政府の)職員は何もないところから始めて、今や非常に高いレベルの経験を持っている」と話していた。
また、「あなた方の経験を参考にさせてもらう。決して皆さんを無視したりしない」とも、ジョラニ代表は述べていた。
テロリスト指定が「複雑な要因」
国連のゲイル・ペデルセン・シリア担当特使は、ジュネーヴで記者団に対し、シリアの政権移行には「可能な限り広範なシリア社会とシリアの政党の代表」が参加する必要があると述べた。
また、「これが実現しない場合、新たな紛争のリスクがある」と警告した。
ペデルセン特使は、HTSが国連やアメリカ、イギリス、その他の国々からテロ組織に指定されていることが、今後の道を模索する中で「複雑な要因」となるだろうと述べた。
HTSの前身「ジャバハト・アル・ヌスラ」(別名アル・ヌスラ戦線)は、2013年にイスラム武装組織アルカイダへの忠誠を誓った。しかし、3年後には正式にこの聖戦主義(ジハード)組織との関係を断った。
ペデルセン特使は、「これまでのところ実際、HTSや他の武装グループは、シリアの人々に団結や包括性のメッセージを発してきた」と指摘。アレッポや、先週占領された主要都市ハマでも、「現場の様子は安心できるものになっている」と述べた。
その上で、ダマスカスで政権移行の取り決めがどのようにまとまり、実施されるかが、シリアの今後を判断する最重要な課題だと強調した。
「HTSによる移行が本当に、すべての異なるグループやコミュニティーを包括するものになるなら、新しい出発が実現する可能性がある」、「そしてその時には、国際社会がHTSのテロリスト指定を再検討するだろうと信じている」と特使は話した。
こうしたなか、ブリンケン米国務長官は、シリアがアメリカの完全な承認を得るための事実上の条件となるものを列挙した。
「全ての関係者が民間人を保護し、人権、特に立場の弱い少数派の人権を尊重し、国家の機関とそのサービスを維持して国民のニーズに応え、包括的な統治に向けて国を作っていくことが不可欠だ」と、ブリンケン氏は説明した。
「こうした目標実現のため反政府勢力の指導者たちが発した一連の声明は、非常に歓迎する。しかしもちろん、彼らがどこまで真剣なのかを図る尺度は、言葉ではなくその行動だ」
首都で一部の店舗再開
首都ダマスカスでは、2日間のほぼ停止状態の後、生活がゆっくりと正常に戻りつつあるようだ。
多くの人や車が通りに出ており、一部の店舗や飲食店も営業していた。
街の中心部にあるウマイヤド広場周辺では、24年続いたアサド前大統領の統治の終わりを祝う群衆が空に向けて発砲していたため、散らばった使用済みの薬莢(やっきょう)を掃除する人もいた。
現地のイスラム教指導者はBBCに対し、シリア人は未来を見据え、平和で統一された国を望んでいると語った。
アブドゥル・ラフマン・アル・コウキー師は、「私たちは、国家主義と正義と法の支配の原則に基づいて築かれた国を作りたい。国の制度が尊重され、すべての人に平等な機会が保証される、専門知識のある技術者を重視する国家を確立したい」と述べた。