ポッドキャスト「SNEAK PEEKS at SZ MEMBERSHIP」はこちらからご視聴いただけます。

────みなさん、こんにちは。SNEAK PEEKS at SZ MEMBERSHIPでは、『WIRED』のSZ MEMBERSHIP向けに公開した記事のなかから注目のストーリーを編集長が読み解いていきます。まずは、松島さんの近況から教えてください。

松島倫明(以下、松島) ようやく、ファッションをテーマとする最新号を校了しました。『WIRED』日本版が特集でこのテーマを取り上げるのは2014年の9月ぶりですが、この10年で大きく変わった点といえば、環境問題に対するマインドや姿勢だと思います。そこを前提にしつつ、今回の特集では、ぼくらのいちばん近くにあり、未来を先取りして見せてくれるファッションにおいて最も重要なものは何かを探っていきました。ファッション誌や専門誌ではない『WIRED』ならではの切り口で取り上げているので、ぜひお楽しみに。

────3月28日に発売しますので、ぜひお手にとっていただけると嬉しいですね。それでは本題に入ります。3月WEEK#1の記事テーマは「FOOD」で、松島さんのセレクト記事は「「気候料理本」があなたの食生活を変える」です。リードには、サステナブルな食生活は古くから存在する。しかし、“気候危機に取り組む料理本”という新たなジャンルの登場は、わたしたちの変化への意欲を映し出している……と書かれています。

松島 これは、著者が米国の老舗の料理本専門店を訪れるところから始まる記事です。日本では、気候変動と食に関するノンフィクションの本や、旬の食材、身土不二、オーガニック、地産地消などをテーマとする料理本ならよく見かけますが、シェフや料理研究家が気候危機に取り組むレシピをまとめた本はあまり見かけないですよね。一方、米国では2020年以降、少なくとも12タイトルの気候料理本が出版されているそうです。

今週の記事:「気候料理本」があなたの食生活を変える

────米国では話題になってきているんですね。

松島 じわじわと盛り上がりを見せているようです。記事中で触れられていますが、英語圏では例えば2016年には、「climatarian(クライマタリアン)」という単語がケンブリッジ辞典に掲載されています。これは、できる限り二酸化炭素の排出が少ない食生活をする人のことです。また、ある調査によると、米国のミレニアル世代の5人に1人が環境のために食生活を変えた経験があるらしく、気候危機に対する意識が高まるなかで、「何を食べるといいのか」「どうやってつくるべきか」という問いや悩みをみんなもつようになっているし、それに応えるような本が出てきた、という状況のようですね。

こうした気候料理本のポイントは大きく3つあります。ひとつは、地元の旬の食材を使うこと。もうひとつは、地元の労働者や、あるいは土壌に配慮した業者から食材を調達すること。このふたつは環境負荷を減らすだけでなく、例えば、近くの農家から食材を購入することで近隣の食料経済も強化できるし、食料供給体制にエラーが生じたときにも強いコミュニティをつくることにつながります。最後は、生物多様性に富んだ食品を選び、地球のエコシステムをより豊かにしていくことです。多様なものを食べることで、さまざまなものが食材として育てられていく。これらは、気候変動時代を生きるぼくらにとって重要な視点だと思います。

────継続のしやすさも気になるポイントです。

松島 そういう意味では、頭ごなしに「肉はだめ」といったレシピではなく、記事中でも地に足の着いた議論の重要性に触れられています。というのも、意識の高いヴィーガンの人たちだけがこの本を読んでも、本来の目標である気候危機に対するアクションが拡がっていくことにはならない。不特定多数の人たちに手に取ってもらわなければ意味がないわけです。

そういうわけで、記事の最後のほうでは、本というメディアで全国で売るという行為自体が目的と矛盾していないか……といった深い論考にも入っていきます。要するに、地産地消を推し進める先で、地域ごとに食は違う、だから使う食材もレシピも違うといった大前提に立ち返る必要が出てくるからです。地元産だからといって、同じ種類の食材が世界中で食べられている状況を推奨しているわけでもなくて、その風土にあった食材と食べ方があるはずだと。その意味で、各地域の生物多様性、食の多元性もキーワードなんです。

────つまり、気候危機に取り組む本は、地域ごとにあるべきだと。

松島 まさにそう。自然に寄り添ったレシピ本はすでにたくさんあると思うので、もう一歩踏み込んで、気候危機に対してアクティブに関与していくための料理レシピがあるといいなと思います。日本は「いただきます」の文化ですよね。豊かな自然から恵みをいただくという思想で、だからこそ自然の旬のものをちょっといただくというマインドはある。なんだけれども、気候危機によって環境が変わっていくなか、いまの自然をただ守るために謙虚にただ「いただく」のではなく、もう少し積極的に自然に介入していくことで、自然環境をより豊かにしていく、生物多様性を増していくといった「リジェネラティブ」な行動が生まれるといいなと思うし、この気候料理本にはその姿勢が現れていると思いました。

────気候料理本を起点に、さまざまな議論が広がっていきそうです。このほかにも、3月WEEK#1は、深海の魚制御不能のエナジードリンク動物の解放に関する記事のほか、連載「For Creators」の第9回も公開していますので、ぜひチェックしてみてください。

[フルバージョンは音声でどうぞ!WIRED RECOMMENDSコーナーもお楽しみに!]

※ 本記事は音声の書き起こしではなく、読みやすさを考慮して編集し、長さも調整しています。

(Edit by Erina Anscomb)