ChatGPTは労働者の敵か味方か。研究から浮き彫りになる「人間の仕事」への影響度

「ChatGPT」に代表される会話型AIの普及は、わたしたちの仕事に何らかのかたちで確実に影響してくる。このほど発表された初期の研究結果によると、その影響は必ずしも悪いことばかりではないかもしれない。
Chat GPT logo in a suit just accepted job offer.
ILLUSTRATION: JAMES MARSHALL

会話型AI「ChatGPT」で数分でも遊んだことのある人なら誰であれ、この技術がホワイトカラーの職にもたらす不安と希望について理解するだろう。このチャットボットはコーディングの問題から法律に関する難問、歴史に関する質問に至るまで、あらゆる問いにとても雄弁に答えることができるからだ。

ChatGPTのような言語モデルには、不正確な情報によって“幻覚を見る”ことが多いという問題がある。しかし、仮にこの問題を企業が乗り越えられたと仮定しよう。その場合、カスタマーサポートのエージェントや法律分野の従事者、または歴史講師といった領域にChatGPTのようなモデルが足を踏み入れてくる可能性が出てくることは想像に難くない。

このような予想は、ChatGPTが法律医学ビジネス分野の試験の一部で合格点をとったとする研究やメディアの報道によって加速している。マイクロソフトやスラック・テクノロジーズ、セールスフォースといった企業がChatGPTや同種のAIツールを自社製品に組み込むなか、オフィスでの業務にもたらす影響を目の当たりにする日は近いだろう。

このほどネット上に投稿されたいくつかの論文によると、ChatGPTや同種のチャットボットは大問題を引き起こす可能性があるものの、こちらの予想通りのかたちで問題を引き起こすとは限らないことが示唆されている。

ChatGPTによるさまざまな職業への影響度

まず最初に、プリンストン大学のエドワード・フェルトンらによる研究結果を紹介しよう。彼らはChatGPTの影響を受ける可能性が最も高い職業を特定しようとした

使用したのは「AI職業被ばく( AI Occupational Exposure)」と呼ばれるベンチマークである。これは職業上の業務をさまざまなAIプログラムの能力に対してマッピングし、強力な言語スキルをもつチャットボットに最も弱い職業は何なのかを見つけだそうとするものだ。

これにより示された結果は次の通りである。電話勧誘業者、歴史教師、社会学者といった一部の職業では今後、大きな変化がもたらされる可能性がある。一方で、レンガ職人やダンサー、織物工といった肉体労働の比重がより大きい職業に就いている人々は、ChatGPTが職場に登場する可能性を心配する必要はないかもしれないという。

一方で別の研究では、言語が重視される職業に就く人々が必ずしもお払い箱にされるとは限らないことが示唆されている。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院生であるシャケッド・ノイとホイットニー・チャンは、オフィス労働者がChatGPTを使えるようにした場合に何が起きるのかを調べた。彼らは大学教育を受けた専門家444人に対し、プレスリリースや短いレポートの作成、メールの下書きの作成、分析プランの作成といった、いくつかの単純なオフィス業務をこなすよう依頼した。対象者の半数は、ChatGPTを使用することができた。

この研究によると、ChatGPTを利用できた人々は割り当てられた業務を17分で完了できた一方で、ChatGPTなしの人々は完了するまで平均27分かかった。さらに、ChatGPTありの人々の仕事の質は大幅に向上していたことが明らかになっている。しかも、ChatGPTを使用した参加者は自分たちの仕事に対する満足度も向上したいう。

この研究では、参加者の仕事の質を判断する際に専門家の意見を求めていた。ただし、その際にChatGPTの出力に混じるかもしれない“幻覚”によるエラーの類を見つけ出すことも依頼していたかどうかは、この論文には書かれていない。

これらのふたつの研究は、ものごとが今後どのように展開するかについての手がかりを示している。しかし、それらはChatGPTがわたしたちをどこへ導いていくのかを解き明かすための初期の(そしてまだ査読されていない)試みにすぎない。新しい技術が仕事にどのように影響を与えるかを予想することは恐ろしく困難であり、ChatGPTに関する経済研究は急速に出現しつつある。

織物工がChatGPTの影響を受けない可能性が高いというのも、また皮肉な話である。なにしろAIが労働に与える影響について思い悩む人間は、ときに「ラッダイト」と呼ばれるからだ。これは19世紀の英国の織物工の間で起きた、自動化に抗議するために織機を破壊する運動に基づく呼び方である。

実のところ一部の記録によると、ラッダイトは自動化の存在そのものよりも、誰が自動化を管理するのかに不安を抱いていた。そして、その怒りを労働者に公正な支払いをしないために自動化を利用する雇用者たちに向けていたとされている。

労働者が自らの生産性を上げるために率先してChatGPTを使用することは、いい考えかもしれない。頼むから上司には言わないでおいてほしいものだ(これは冗談で、ジェネレーティブAIの使用に関して『WIRED』が発表した新しいポリシーでは、AIが生成した文章自体が記事の内容の一部でない限りはAIが生成した文章を公開することはないとしている)。

ちなみに、自分の仕事を自動化するための最初の個人的な試みは、幸先の悪い結果に終わった。ChatGPTに今週のニュースレターへのリンクをいくつか見つけるよう頼んだところ、2021年の記事をたくさん提示してきたのだ。ChatGPTのAIモデルの訓練に使用されたデータはずいぶん昔のものなのだから、納得できる話ではある🙄。ニュースレターのライターの生産性が大幅に向上するのは、まだ先の話のようだ。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるChatGPTの関連記事はこちら人工知能(AI)の関連記事はこちら


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