ウクライナ政府、破壊された住宅再建を目指しクラウドファンディング中

ロシアとの激しい戦いが続くなか、ウクライナは家々やインフラを建て直していく資金集めを開始した。独自のクラウドファンディング・プラットフォームで、破壊された住宅と、そこの住人たちの物語を紹介する方法をとっている。
ウクライナ政府、破壊された住宅再建を目指しクラウドファンディング中
COURTESY OF UNITED24

未だロシアとの残酷な戦争に絡め取られた状態ながら、キーウのウクライナ政府は早くも自国を土台から再興する日を見据えている。

簡単なことではない。世界銀行は2023年春、ウクライナの復興にかかる資金は4,100億ドル(約58兆円)を超えると見積もった。ロシアによる爆撃、砲撃、そして重要インフラを狙った攻撃によって破壊されたものを修復するには、ウクライナは水道設備、農業、地雷除去、医療保健制度などを再建するために巨額の投資をしなければならない。

重要インフラ再建の必要性が巨大であることは言うに及ばず、人々の住宅修復へのニーズも非常に大きなものだ。世界銀行の見積もりによると、戦争によって破壊された家屋や集合住宅の代わりを建築するめに、ウクライナは少なくとも690億ドル(約10兆円)を必要とする。このうち20億ドル(約2,800億円)相当が急を要するものだ。

住宅再建のために個人の寄付を呼びかけ

ウクライナの防衛戦を資金援助するためと重要インフラ修復のために、世界各国政府から何十億ドルも注ぎ込まれているが、破壊された国民の住宅再建のために、ウクライナ政府は個人からの寄付を呼びかけることにした。ウクライナ政府の公式クラウドファンディング・プラットフォーム「United24」を通して、支援者に「壊されたもの」と「再建できるもの」を見せようとしているのだ。

クラウドファンディングの一環として、支援者は修復が必要な住宅を探索できるようになっており、すでに支援が集まっているものもある。建物の3Dレンダリングのほか、戦争前にその建物に暮らしていた人の個人的な物語や、どれほど家に帰りたいかといった心情も語られている。復興作業が進む建物の中にはライブ映像が配信されているものもある。

イルピンのある9階建てのマンションでは、「無目的に砲撃してきた」ロシア戦車の攻撃によって390人の住人が家を追われることになったとサイトにはある。写真で見る建物の外見のダメージは痛々しい。元住民のひとりはサイトでこう語っている。「破壊し尽くされ、焼かれた住宅の実物を見るのはもっと辛いことです」

ボロディアンカの集合住宅は、空からの攻撃と迫撃砲によって破壊された。だが、住民の中には、壁の穴を自分たちで直して、凍てつくウクライナの冬じゅう、ここで暮らす人がいる。

ホステメルでは、大きな集合住宅がロシアのミサイル攻撃で破壊され、その後、ロシア兵によって占領された。ウクライナ政府によると、地域をウクライナが奪い返した時、撤退するロシア軍は地雷を残していった。元住人のアルヨナは、United24に寄せたコメントで諦めてはいないと語っている。「何があろうと、ここは夫と子どもとともに幸せに暮らしたわたしたちの家なのです」

支援を受ける人の物語を知ってもらう

ウクライナ蔵相の言葉を借りるなら、この新たなクラウドファンディングの呼びかけは、寄付者の間に一種の「支援疲れ」が生じる中で始まった。United24のメインコーディネーター、ヤロスラヴァ・グレスは、この「疲れ」を乗り越えることが自分の使命だと語る。「常に自問しています。『どうすればウクライナと手を携えていようと思ってもらえるだろうか』と」。『WIRED』の取材にそう答えた。

寄付を考えている人たちに、その寄付が再建を助ける建物を見てもらい、その家に帰りたいと思っている人たちの声を聞いてもらえば、支援が続くのではないかとグレスは期待している。「支援を受ける人の物語を知ってもらうことは、寄付する人が支援の受け手や再建される建物に親しみを覚える機会になるのです」と、グレスは言う。

建物の3Dレンダリングは、United24と提携したウクライナの不動産サイトLUNがこのプロジェクトのために提供した。LUNはドローンを携えたカメラマンを国内各地の建物に派遣した。そのデータが破壊された建物のデジタルレプリカをつくるのに使われた。それを元に建築家が再建計画を練る。

「わたしたちは何年も、未来の予想図をデジタルで描いてきました。都市計画モデルを作り、新たなビルの計画も練ってきました」。LUNの広報担当が『WIRED』に語った。「それだけに、破壊された姿を見るのは辛いことでした。何百枚もの写真を見て破壊の様子を確認し、ありのままに描き出すことは」

VIDEO: UNITED24

建物の3Dレンダリングは、スマートフォンのカメラやARヘッドセットを使えば、AR(拡張現実)でも見ることができる。

インターネットの再建も果てしのない作業

ウクライナの民間インフラを再建するロジスティックスも、莫大で複雑なものとなる。ウクライナのインターネット・プロバイダーであるVinerの共同経営者、マクシム・スミリアネッツは5月に行ったプレゼンテーションで、ウクライナの再興とネットワーク再接続のために同社が直面する課題がどれほど巨大なものかを強調。空からの攻撃や砲撃は通信インフラに夥しい被害を与えたと説明した。その修復のために、すでに何百キロもの光ファイバーケーブルが敷設されている。

まだロシアの支配下にある地域では、占領軍は通信網を素早くロシアが管理するインターネットに切り替えた。「彼らは接続を再構築して、わたしたちの機材を盗んだのです」。スミリアネッツはそう説明していた。解放された地域では、修復に向かったチームが通信インフラの内部に仕掛け爆弾を発見したという。「接続を断ち切るために、彼らはできる限りのことをやっていきました」

Vinerのような大手インターネット・プロバイダー各社が、かつてヨーロッパ屈指のネット接続を誇ったウクライナの通信網を再構築するために懸命に働いても、破壊された家々や集合住宅のネットワークをつなぎ直すのは果てしのない作業だ。個別の家をつなぐ「ラスト・マイル」のためには、さらに何百キロもの光ファイバーケーブルが必要となるだろう。

「時に現れて破壊し殺す悪から、人間の本性の深淵を清浄にする力を持つ者などいない」。6月、ロンドンで開かれたウクライナ復興会議の席上、ウクライナのゼレンスキー大統領はこう語った。「だが、あなたと私、そして今、わたしたちは命を守り、廃墟から立ち上がることはできます」

WIRED US/Translation by Akiko Kusaoi, Edit by Mamiko Nakano)

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