TikTokが米国政府を提訴、“禁止法”の行方はどうなるのか

TikTokの米国での運営禁止につながる法律が違憲であるとして、TikTokが米国政府を提訴した。これにより憲法で謳われる「言論の自由」をめぐり、新たな議論が巻き起こりそうだ。
Tik Tok logo on the facade of a building
Photograph: PATRICK T. FALLON/Getty Images

TikTokの「禁止」につながる米国の法律が合衆国憲法修正第1条に反するとして、TikTokが5月7日(米国時間)に米国政府を提訴した。

ジョー・バイデン大統領は4月、TikTokと親会社の中国企業であるバイトダンス(字節跳動)がTikTokの事業を売却しなければ、TikTokの使用を全米で禁止するという内容の法案に署名している。その際にTikTokは、この法律が違憲であると主張し、提訴を表明していた。

今回の訴訟でTikTokは、法律が修正第1条に反するものであり、事業売却の要件は「不可能に尽きる」としている。

訴状によるとTikTokは、「もし米国議会のこの動きが許されるなら、国家安全保障を盾にどんな個別の新聞やウェブサイトの発行元に対しても『閉鎖したくなければ売却せよ』と命じることを可能にし、合衆国憲法修正第1条の違反を許すことになる」と主張している。「またTikTokに関していえば、そうしたいかなる事業売却も、このコンテンツの共有専用のプラットフォームを利用するグローバルコミュニティから米国人を切り離すことになる。これは憲法が保障する言論の自由および個人の自由、その両方と根本的に相反するものである」

なお、TikTokに対して7日にコメントを求めたが、直ちに応答はなかった。4月の法案成立に際してTikTokの広報担当者は、「この違憲である法律はTikTokを禁止するものであり、わたしたちは法廷で争っていく。事実と法律は明らかにわたしたちの味方であり、最終的には勝利を得ると信じている。実際にわたしたちは、米国でのデータを安全に保ち、外部からの影響や工作からわたしたちのプラットフォームを守るために、数十億ドルを投資してきた」とコメントしている。

裁判所が「禁止令」の支持に傾く可能性

合衆国憲法修正第1条を専門とする弁護士らは、TikTokの主張に利があることを示唆している。モンタナ州では2023年にTikTokを禁止する法律が可決したが、憲法修正第1条違反の可能性が高いとして、米連邦裁判所判事が法施行の差し止め命令を出しているからだ。

「禁止法の阻止を求めるTikTokの提訴は重要であり、成功するものとわたしたちは考えています」と、コロンビア大学ナイト憲法修正第1条研究所のエグゼクティブディレクター、ジャミール・ジャファーは7日に声明を出している。「憲法修正第1条は、よほど妥当な理由がない限り、米国人がアイデア、情報、海外メディアにアクセスすることを政府は制限できないことを意味しています。しかし、今回そのような妥当な理由は存在しません」

だが、米国議会はTikTokが国家安全保障上の脅威になりうる存在であり、とりわけ米国人ユーザーのデータが中国政府にアクセスされる可能性があると疑っている。このことは、裁判所が禁止令の支持に傾く要因になるかもしれない。

「TikTokは憲法修正第1条に関連する前回の訴訟では勝訴しましたが、この法律の超党派的な性質により、TikTokが国家安全保障上のリスクになりうるとした議会決定に裁判官たちが従う可能性が高まるかもしれません」と、コーネル大学憲法修正第1条クリニックで法学臨床助教授およびアソシエイト・ディレクターを務めるゴータム・ハンスは語る。しかし議会からは、TikTokがユーザーを監視したり、バイトダンスの従業員に米国人ユーザーのデータへのアクセスを許したりしているという新たな事例は挙がっていない。

「ただし、そのリスクが具体的に何なのかという公的な議論なしに、裁判所がそのような前代未聞の法律を有効と定めるべき理由を特定することは難しいでしょう」と、ハンスは言う。

TikTokが国家安全保障上の脅威であるとする政府の主張を裏付ける確固たる論拠がなければ、禁止は行き過ぎであってTikTokに回復不能な損害をもたらしうると、裁判所が判断する可能性がある。また、単なるアプリ禁止よりも、厳しいデータプライバシーやセキュリティの法律のほうが米国人ユーザーのデータの保護には有効ではないかという声もある。

こうしたなかバイデン大統領は今年2月、敵対国がブローカーから米国人ユーザーのデータを購入することを阻止する狙いの大統領行政命令を発令した。しかし、このとき取材した専門家らは、その有効性を疑問視していた。

バイトダンスがTikTokの事業を売却しなければTokTokが全米で使用禁止になると定めた法案にバイデン大統領が署名した直後、TikTokの代理人は『WIRED』に対し、「この禁止令は700万社のビジネスに壊滅的な打撃を与え、1億7,000万人の米国人を沈黙させることになるだろう」との声明を出している。「わたしたちはこの違憲である禁止令に異議を唱え続けながら、TikTokがあらゆる立場の米国人が安全に経験を共有し、喜びを見つけ、インスピレーションを得られる空間であり続けるように、投資と革新を続けていく」

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるTikTokの関連記事はこちら


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