有線イヤフォンなのにBluetooth接続!? 格安製品に潜む“問題”の理由

格安の有線イヤフォンのなかには、実際は有線接続ではなくBluetooth経由でワイヤレス接続する製品がある。いったいなぜなのか?
Wired headphones that have been cut
Photograph: Irina Marwan/Getty Images

有線のヘッドフォンイヤフォンを購入したら、それをヘッドフォンジャックに差し込むだけで使えると考えて自然だろう。スマートフォンに有線接続すれば、銅線を経由して音が耳に伝わる。とてもシンプルだ。

ところが、そのシンプルな製品が実際には“複雑”な仕組みであったとしたら、それは問題だろう。近ごろ大量に出回っている格安の有線イヤフォンのなかには、そうした問題が潜んでいるものがある。有線接続であるにもかかわらず、見た目に反してBluetooth経由で機能するのだ。

これは主にiPhone用のイヤフォンに見られる問題である。アップルは2016年、共通規格である3.5mm径のイヤフォンジャック(ヘッドフォンジャック)をiPhoneからなくした。つまり世界には、いま「iPhone 7」から「iPhone 14」シリーズに至るまで、Bluetoothかアップル独自のLightningポートしか使えないiPhoneが8年ぶん近くも存在しているのだ(なお、欧州連合の規定によって接続ポートを標準化する圧力がメーカーにかかり、アップルは昨年からiPhoneの接続ポートをUSB-Cに切り替えている)。

この機に乗じたアップルは、ワイヤレスイヤフォンである「AirPods」シリーズを売り込んだ。そしてLightningポートに接続できる有線イヤフォンを19ドル(日本では2,780円)で販売している。Lightningポートを3.5mmジャックに変換できる純正アダプターも9ドル(日本では1,380円)で手に入る。これらは意図された通りに動作し、Lightningポートに接続して音声を再生できる。

一方で、アップルには「MFi Program」という厳格な認証プロセスも用意されている。製品を意図した通りにLightningポートで機能させるために、アップル製品の周辺機器に一定の要件を義務づけているのだ。

つまり、「アップル製品に公式対応した周辺機器」という“お墨付き”を得るには、ある程度のコストが必要になる(認証を受けていない周辺機器の場合は、接続するたびに「サポートされていない可能性があります」という警告が表示されるはずだ)。

こうした状況を背景に、アップル製品に“迂回ルート”を使って接続するイヤフォンが出回り続けている。すなわち、有線接続であるにもかかわらず、Bluetooth接続を必要とするイヤフォンである。

「警告」を回避するテクニック

仕組みはこうだ。イヤフォンのプラグがLightningポートに差し込まれると、プラグの接続部分がポートから電力を供給されてBluetoothレシーバー(受信機)として機能する。そして音声信号はスマートフォンのBluetooth接続で送受信される。つまり、イヤフォンは有線で物理的に接続されていながら、音声や音楽をワイヤレスで聴いていることになるわけだ。

プラグ部分にあるBluetoothレシーバーで受信された音は、有線でイヤフォン本体へと伝えられる。しかし、信号はスマートフォン側のジャックから物理的に伝わっているわけではない。イヤフォンがスマートフォンに物理的に接続されているにもかかわらず、その役割はBluetoothチップへの給電という奇妙な話になってしまう(スマートフォンのバッテリーをより多く消費してしまう可能性もある)。

こうした仕組みは全体的にとても複雑で、回りくどいように感じられる。なぜわざわざこんなことをするのか、最初からBluetoothイヤフォンにすればいいのではないか──いう疑問も浮かぶだろう。

理由のひとつは、「サポート対象外の周辺機器」であることを知らせる警告が出ないようにすることだ。そしてワイヤレスイヤフォンに小型のバッテリーを組み込むより、有線イヤフォンをつくったほうが安上がりという理由もある。

Bluetoothはオープン規格なので、誰でもBluetooth対応デバイスを開発できる。これに対してアップルのLightningポートに対応した機器をつくろうと思えば、相応のコストがかかるであろう認証プロセスが必要になり、その負担は最終的に購入者が負うことになるのだ。それに、安いイヤフォンは世間受けがいい。

これは“詐欺”なのか?

これが“詐欺”なのかといえば、技術的にはそうではない。見方によっては「だまそうとしている」とも、ある種の独創的な“ハック”ともいえるだろう。メーカーにしてみれば、よくも悪くもアップルとのビジネスに課せられた多くの足かせのひとつを回避する方法ということになる(なお、アップルに問い合わせてみたが回答はなかった)。

「個人的な立場としては、“問題”に対する独創的な解決法だとみています」と、調査会社IDCのリサーチマネージャーのジテシュ・ウブラニは言う。世の中には機能を果たさないSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)や、スマートフォンを過熱させて発火させるような非正規の充電器もある。そうした“偽物”と比べて、「有線なのにBluetooth接続」のイヤフォンが極悪というわけでもないことは明らかだろう。「Bluetooth接続のLightningヘッドフォンは少なくとも説明通りの機能を果たしており、エンドユーザーにデメリットはありません」と、ウブラニは言う。

だからといって、そうしたデバイスがいいというわけでもない。こうしたイヤフォンは長年にわたって出回っている。影響力の大きなXのスレッドのほか、オンライン掲示板「Reddit」YouTubeなどでも苦情が報告されているにもかかわらず、その存在が消えることはないのだ。

それにAmazonのような大手通販サイトで大量に販売されており、検索結果の最上位にスポンサーのリンクが表示されることも多い。この手の製品で想定される通りに価格は安いが、音や品質については低い評価を受けている。繰り返しになるが、機能を維持するにはBluetoothを常時オンにする必要がある製品なのだ。

もちろん、価格相応の性能ではあるのだろう。しかし、より重大な点として、これらの、「有線なのにBluetooth接続」のイヤフォンの多くでは、Bluetoothを常時オンにしなければならないことが説明されていないのだ。

確かに独創的なやり方といえるかもしれない。だが、消費者に提供するものをきちんと説明していないのであれば、そのメーカーには疑わしさがつきまとう。アップルは非正規品を見分けるための完全なガイドを用意しているので、この手の製品に引っかかりたくなければ役立つはずだ。

低価格なイヤフォンはありがたい。ただ、自分が買おうとしている製品については、よく確かめることだろう。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるイヤフォンの関連記事はこちらBluetoothの関連記事はこちら


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