Netflix版『シティーハンター』、その世界的ヒットの必然

北条司原作の漫画「シティーハンター」がNetflixで実写映画化され、世界的に注目されている。グローバルでもNetflix公式TOP10首位を達成するなど好成績を収めたヒット作は、いかにつくられたのか。監督の佐藤祐市と主演の鈴木亮平に訊いた。
Netflix版『シティーハンター』、その世界的ヒットの必然
©️Tsukasa Hojo/Coamix 1985

1985年から91年にかけて『週刊少年ジャンプ』に連載された北条司の漫画「シティーハンター」。ボディガードや人探し、さらには殺しの依頼まで引き受けるスイーパー(始末屋)の冴羽獠が主人公のハードボイルドとコメディが絶妙に組み合わさった作品として人気を博し、87年に始まったテレビアニメは4シリーズまで続くヒット作となった。

こうして80〜90年代のポップアイコンとしてのイメージを確固たるものにしたシティーハンターの人気は、いまも色あせることはない。2023年に公開された劇場版アニメは興行収入10億円超えを記録したほどだ。

しかも、国境と文化を超えて支持される作品であることが、Netflix製作の実写映画版『シティーハンター』で改めて証明された。4月25日にNetflixで全世界配信されるやいなや、公式「週間グローバルTOP10(非英語映画)」(4/22〜28)で初登場1位を記録し、これまでにフランス、韓国、香港、ブラジルを含む世界50の国と地域で週間TOP10入りを果たしている。日本国内でも「日本の週間TOP10(映画)」で3週連続の首位を達成した。

Netflix映画『シティーハンター』は独占配信中。グローバルでもNetflix公式TOP10首位を達成するなど好成績を収めた。

実写化する“意味”を徹底追求

Netflix版の成功はファン層の厚さもさることながら、実写化する意味を徹底追求した結果といえる。「80年代につくられた原作のよさを取り入れながらも、いまの時代にどう合わせるのか。まずはそこから十分に話し合いました」と、監督の佐藤祐市は語る。

一方で、“もっこり”といった当時のギャグや、冴羽獠が仕事の依頼を受ける際に使われる駅の伝言板、ヒロインである槇村香を象徴するアイテムである“100tハンマー”など、表現を慎重に見直さざるを得なかったものは多かった。

「現場で一つひとつ何度も確認し、台本は何回も書き直されていきました。原作のファンであれば喜んでもらえそうなことでも、原作を知らない人にはドン引きされかねない。取捨選択しなければならない点が悩みどころでした」

しかも、世界配信を前提としたNetflix作品だけに、世界の視聴者を意識してつくる必要があった。佐藤によると、「海外の視聴者に受け入れられる表現かどうか」という葛藤との闘いだったという。日本の視聴者に受け入れられることすべてが海外の視聴者には当てはまらないので、バランス感覚が重要になるからだ。それでも迷ったときは、「日本人のぼくたちがつくる、日本の役者である鈴木亮平が演じる『シティーハンター』はどうあるべきか」という視点を大事にしたのだと、佐藤は明かす。

冴羽獠を演じたのは、「子どものころから『シティーハンター』の漫画やアニメに触れて育ってきた」という鈴木亮平。それゆえに、「世界配信のNetflixではどこにターゲットを合わせて演じるのが正解なのか──という迷いがありました」と振り返る。

©️Tsukasa Hojo/Coamix 1985

主演である鈴木にも迷いがあったという。「子どものころから『シティーハンター』の漫画やアニメに触れて育ってきただけに、世界配信のNetflixではどこにターゲットを合わせて演じるのが正解なのか──という迷いがありました」と、鈴木は振り返る。

そうして現場で話し合っていくうちに、鈴木は日本、アジア、欧米それぞれの視聴者に届けるべき意味を見出していった。「やはり、まずは日本の方たちにアピールし、そのうえで日本の作品に慣れているアジアの方にも、そして欧米の方に対しては日本独自の“味”を楽しんでいただくことを意識しました」

一方で、日本と欧米とでは、そもそも演技の表現に違いがあることで、演じることの難しさもあったという。

「欧米では、たとえアニメが原作の作品であってもリアリティに寄せた演技が好まれます。例えば、『アベンジャーズ』はストーリーは非現実的ですが、俳優の演技はあくまで人間として自然に演じています。でも、『シティーハンター』の場合は、リアリティに寄せすぎて演じてしまうと“冴羽獠のよさ”が失われてしまいます」と、鈴木は語る。「だから、アニメ調の誇張した芝居や演出もある程度は残して『シティーハンター』感を表現したわけですが、どこまでリアリティ志向の欧米に合わせていくべきか、その案配が難しかったです」

鈴木は「アニメ調の誇張した芝居や演出もある程度は残して『シティーハンター』感を表現した」と語る。

©️Tsukasa Hojo/Coamix 1985

ヒロインである槇村香を象徴するアイテムの“100tハンマー”など、原作でおなじみのアイテムも表現を慎重に見直しながら登場している。

©️Tsukasa Hojo/Coamix 1985

異例の新宿ロケ

これも「シティーハンター」が日本の80〜90年代のポップアイコンであるがゆえの苦労といえるだろう。それでもNetflix版が成功したのは、舞台を「令和の新宿」に設定したことも大きい。実際に新宿で撮影されたことで、新宿という街のリアリティがこれ以上にないほど伝わってくる。歌舞伎町シネシティ広場やゴジラロード、歌舞伎町一番街の空気感まで、映像に捉えられているかのようだ。

なかでも佐藤は、森田望智が演じたヒロインの香が初めて新宿・歌舞伎町に足を踏み入れるシーンを新鮮に映し出すことにこだわったという。

「香は兄である槇村秀幸が、ここでどのような仕事をしてきたのか何となく気づいてはいるものの、詳しくはわからない状況。だからこそ、エネルギーに満ち溢れた新宿の街にいそうな人をたくさん集めて撮りました。撮影を終えるには朝までかかることもあったほどです」と、佐藤は説明する。「エネルギッシュな街だからこそ、いろいろな人が集まってくる。そんなことも表現したいと思ったし、そこにいる香というキャラクターの魅力も引き出したかったんです」

老若男女、職業も生き方も多様な人々が行き交うリアルな新宿の日常風景を再現しようと、400人以上のエキストラが参加し、撮影は進められた。そもそも、これほど大規模な撮影が新宿で実施されたことは過去にない。歌舞伎町の地元商店街や新宿区の行政関係者、新宿警察署など、多くの関係者からの全面協力を得て実現している。

「ロケということでどうしても時間の制約があり、その点は苦労しました。当初は朝の新宿も考えていましたが、結果的には夜が中心になりました。実は獠と槇村が赤のミニクーパーでカーチェイスすることもイメージとしてはありました」

舞台は「令和の新宿」。実際に新宿で撮影されたことで、新宿という街のリアリティがこれ以上にないほど伝わってくる。

©️Tsukasa Hojo/Coamix 1985

普遍的な価値を追い求めて

鈴木が扮する冴羽獠が約40人を相手に超ド派手なガンアクションを繰り広げるシーンをはじめ、Netflixの『シティーハンター』は十分に見応えがあるシーンの連続だ。佐藤が「原作のファンである亮平くんが現場の誰よりも理解していたから、教えてもらうことが多かった」と語るように、原作の世界観に重きを置いた結果といえる。

そうした原作重視の姿勢は、撮影現場の状況を振り返る鈴木の言葉からも伝わってくる。「みなさんが信頼してくださったので、台本に関することから、それぞれのキャラクターに関することまで、『ファンはこう思います』ということを伝えさせてもらいました。そして現場も納得したうえで、『この部分はこう変えよう』と反映されていったのです」

こうして、いまの時代に実写化する意味を現場が徹底的に追求したことで、Netflixの『シティーハンター』は必然ともいえる世界的ヒットを記録した。刹那的ではなく、普遍的な価値を求めたことで、その成功は導かれたのである。

そんな新世代のシティーハンターの世界観は、今後も広がっていく余地がありそうだ。ラストシーンでは獠と香が“バディ”となっていく可能性が示唆され、かつてアニメ版で大ヒットしたテーマ曲をTM NETWORKが新たにレコーディングした「Get Wild Continual」が流れてエンドロールへと続く。この演出だけでなく、テーマ曲の「Continual(繰り返し続いていく)」という言葉も、次作への期待を高めている。

(Edited by Daisuke Takimoto)

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