パーソナライズされた広告のためにメタ・プラットフォームズが個人のデータを追跡することに不快感を抱いていた欧州の人々には、この8カ月にわたって別の選択肢があった。この巨大テック企業に月々最大12.99ユーロ(約2,200円)を支払うことで、プライバシーを得られるという仕組みである。
欧州における罰金や訴訟などのリスクや規制当局からの強い関心が“圧力”となり、メタは2023年11月に広告なしの有料サブスクリプションプランを導入した。つまり、「金を払うか、さもなくば個人情報の提供に同意せよ」というわけだ。
ところが、このプランには問題があるとの見解を欧州委員会が7月1日(米国時間)に示した。「有料か同意か」という二者択一を迫るサブスクリプションは、大手テック企業の活動を規制する欧州連合(EU)の「デジタル市場法(DMA)」において違法であると指摘したのである。
「わたしたちの予備的見解は、メタの“有料か同意か”の選択を迫るビジネスモデルはDMAに違反しているというものです」と、欧州委員会委員で域内市場担当のティエリー・ブルトンは声明でコメントしている。「 DMAは、自分のデータがどのように使用されるかを決定する権限をユーザーに取り戻すと同時に、革新的な企業がデータの利用に関して大手テック企業と対等に競争できるようにするためにあるのです」
これに対してメタは、このサブスクリプションモデルがDMAに違反していることを否定している。「広告なしのサブスクリプションは欧州の最高裁判所の指示に従っており、DMAに準拠しています」と、メタの広報担当者は取材に対してコメントしている。
これは2023年7月に欧州司法裁判所(最高裁判所に相当)が下した判決に言及したもので、このとき裁判所はメタが広告に代わるものを必要に応じて適切な料金でユーザーに提供する必要があるとしていた。「わたしたちはこの調査を終結させるために、欧州委員会とさらに建設的な対話をすることを待ち望んでいます」
巨額の制裁金を課される可能性
このほど開かれた記者会見で欧州委員会の担当者は、メタが広告なしのサービスに課金していることが問題というわけではないと説明している。そして 「中間の選択肢がある限り、まったく問題ありません」としたうえで、広告が表示されるがターゲティングの精度が低いプランを用意すべきだと主張した。
さらに欧州委員会側は、ユーザーに広告を提供する方法にはコンテキスト広告のように個人を特定しないかたちでの手法もあると指摘している。「消費者は、パーソナライズされない形式の広告に基づく代替サービスを選べるような立場にあるべきなのです」
非常に巨大なプラットフォームはDMAの規制下において、ユーザーの個人情報を自社の他の事業と共有する場合にユーザーの同意を得なければならない。この点においてメタの場合、Instagramのようなプラットフォームと広告事業のデータを統合できることで、競合他社に対して競争上の優位性を得ていることを特に懸念していると、欧州委員会は指摘している。
今回の欧州委員会の見解に対し、メタは反論する機会を得た。しかし、メタが2025年3月までに規制当局と合意できなければ、欧州委員会にはメタの世界売上高の最大10%の制裁金を課す権限がある。
この1週間で欧州委員会は、米国の巨大テック企業を相次いで厳しく非難している。アップルに対しては、アプリ開発者が「App Store」でユーザーに直接的にプロモーションすることを禁じていることが、DMA違反であるとして警告した。またマイクロソフトに対しては、競合サービスを提供するスラック・テクノロジーズからの申し立てを受け、オフィス向けソフトウェアの市場における優位性を乱用しているとして競争法違反の見解を示している。
(Originally published on wired.com, translated by Daisuke Takimoto)
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