マイクロソフトの「Surface」シリーズのノートPCは、ここ数年で圧倒的な存在感を示してきた。こうしたなかマイクロソフトは、ついにSurfaceシリーズのハードウェアに新たな息吹をもたらした。毎年恒例の開発者会議「Microsoft Build」の後に、ワシントン州レドモンドの本社でメディア向けの発表イベントをオンライン中継なしで開催したのである。
マイクロソフトが5月20日(米国時間)に発表したのは、クアルコムの最新プロセッサー「Snapdragon X」を搭載して全面刷新されたARMベースの2機種のノートPCである。まったく新しい人工知能(AI)による機能を搭載した「Copilot+ PC」であることを訴求しており、これから数年で多くのPCメーカーが同じ言葉を繰り返すことになるだろう。
新製品は「第7世代 Surface Laptop」と「第11世代 Surface Pro」で、いずれも米国では1,000ドル(日本では20万7,680円)から予約可能になっている。正式発売は6月18日だ。
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第7世代 Surface Laptop
新しいSurface Laptopの製品名は、これまでのような数字による命名ではなくなっている。新モデルは「Surface Laptop 5」の後継だが、「Surface Laptop 6」ではなく「〜世代」という呼び方に変更され、そして「6」はスキップされた。このため、新しいSurface Laptopは「第7世代」ということになる。
新モデルは時代を感じさせるデザインだった旧モデルから順当に進化しており、これによりいくつかの問題が解決されている。例えば、ディスプレイ周りのベゼルが細くなり、触覚フィードバックを備えたタッチパッドが搭載された。
またタッチ式のディスプレイは、旧モデルより大きい13.8インチと、リフレッシュレートが120Hzの15インチから選べるようになっている。マイクロソフトによると、これらのディスプレイは過去にマイクロソフトがノートPCに搭載してきたディスプレイで最も明るいという。輝度は600ニトで、「Display P3」の広色域なので色の正確さが求められる作業には理想的だろう。
また、最大3台の4Kモニターへの外部出力に対応している(これは最新の「MacBook Air」より多い)。新しいフルHD画質の「Surface Studio カメラ」には、ビデオ通話用のAI機能が搭載された。これは背景をぼかしたり、背景のノイズをフィルタリングしたりするなど、さまざまなフィルターをかけられる機能だ。
プロセッサーは、クアルコムの「Snapdragon X Elite」と「Snapdragon X Plus」から選択できる(15インチ版は「Elite」のみ)。マイクロソフトによると旧モデルより最大86%高速で、バッテリー持続時間が長くなっている(13.8インチ版で最大20時間、15インチ版で最大22時間)。RAMは最大64GB、ストレージ容量は最大1TBだ。
第7世代 Surface Laptopは予約が始まっており、価格は1,000ドル(日本では20万7,680円)からとなる。発売は6月18日だ。
第11世代 Surface Pro
マイクロソフトは奇妙なことに「10」という数字も飛ばしている。第11世代 Surface Proは、前の世代からのマイナーチェンジだった「Surface Pro 9」の後継だ。第11世代では新しいSurface Laptopほど多くの変更点はないが、それでもいくつかの見どころがある。
新モデルは初代Surfaceのデザインを踏襲しており、キックスタンドが搭載されている(キーボードは別売りとなる)。超広角のフロントカメラはクアッドHD画質で、ビデオ通話に用いる「Windows Studio エフェクト」(追って紹介する)を利用可能だ。背面には1,000万画素のリアカメラがあり、4K画質の動画を撮影できる。ディスプレイはHDR対応の新しい有機ELパネルがオプションで用意されているが、標準の液晶パネルならコストを抑えられる。
プロセッサーは購入するモデルによって異なる。標準モデルは「Snapdragon X Plus」で、有機ELモデルは「Snapdragon X Elite」となる。マイクロソフトによると、後者は従来のSurface Proより最大90%高速だという。また、最大3台の外付け4Kディスプレイへの出力が可能で、「Wi-Fi 7」にも対応する。外出先でのインターネット接続が必要なら、5G通信の機能も追加できる。
Surface Proではキーボードを搭載した「タイプカバー」の設計が一新された。カバーを取り外して好きな場所に配置して使えるようになったことで、より多彩なタイピング体験が可能になったという。
また、弱視の人が目の疲れを軽減できるよう太字のキーセットも用意され、触覚フィードバックを備えたタッチパッドは旧モデルより14%大きくなっている。なお、スタイラスペンは「Surface スリム ペン」の旧型とも互換性がある。
第11世代 Surface Proは予約受付中で、価格は1,000ドル(日本では20万7,680円)から。発売は6月18日となる。
AIを用いたWindows 11の新機能
マイクロソフトは6月18日から提供される「Windows 11」専用の機能もいくつか発表した。注目すべきものをいくつか紹介していく。
数日前の写真やメール、ファイルがデバイスから見つからないときほどイライラすることはない。大量のメールをスクロールしたり、開いているタブをすべてクリックしたり、ファイルを開いたりするには時間をとられる。そうした問題を「Recall」は解決しようとしている。
この機能は、文章や画像、動画など、PC上のさまざまなコンテンツを理解できる最先端の大規模言語モデル(LLM)に基づいている。これにより、ユーザーがPCで見たものや作業したことなどを簡単な検索ワードで探し出せるという。
しかも、どのアプリケーションでも動作するので、PC全体を検索できる。グーグルが開発者会議で発表したAIによる機能「Ask Photos」に似ているが、こちらは「Google フォト」限定である点でRecallとは異なっている。
例えばネットで見た青いドレスを探しているなら、Windows 11で「青いドレス」と入力して検索するだけで、閲覧履歴から見つけ出してくれる。メッセージで送られてきた何かを探しているなら、これも簡単に検索できる。例えば、「おばあちゃんから送られてきたスパンコールの付いたレースの青いパンツスーツ」といった具合に検索すればRecallが写真を探してくれるので、何百ものメッセージをスクロールする必要はない。
マイクロソフトによると、Recallのインデックスファイルはデバイスにローカル保存され、AIモデルのトレーニングには使用されないので、データは秘匿されるという。設定のカスタマイズも可能で、特定のウェブサイトやアプリを除外してプライベートな内容へのアクセスを防ぐこともできる。
「ライブ キャプション」機能を使うことで、あらゆるビデオ通話や音声通話において44カ国語から英語へのリアルタイム翻訳が瞬時に可能になる。これは映画を見るときなどにも利用可能で、リアルタイムで英語の字幕を表示できるという。
ビデオ通話機能を充実させるべく、新しいSurfaceのウェブカメラには「Windows Studio エフェクト」と呼ばれるAIを用いた機能が搭載されている。この機能は、3つのスタイル(イラスト、アニメーション、水彩画)のクリエイティブフィルターを利用可能だ。
また、人物が自然な印象で見えるように明るさを調節する「Portrait Light(ポートレートライト)」、横を見ていてもカメラを見ているような表情に目の動きを調整する「Eye Contact(アイ コンタクト)」、背景をぼかす「Portrait Blur(ポートレートぼかし)」、音声を強調してノイズを軽減する「Voice Focus(音声フォーカス)」などが用意されている。
(Originally published on wired.com, translated by Daisuke Takimoto)
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