新型ワイヤレスヘッドフォン「Beats Solo 4」は、一見すると特筆すべき点がないようにも感じられる。この200ドル(日本では32,800円)のヘッドフォンには、ノイズキャンセリングや外部音取り込みのような機能がまったく搭載されていない。それに、プロモーション用の動画でジョギングの相棒として紹介されているにもかかわらず、こうしたヘッドフォンには欠かせない自動一時停止の機能や防水性能も見当たらないのだ。
「Beats by Dr. Dre」は、Beats Solo 4の徹底したミニマリズムに誇りを抱いているようだ。スリムなデザインや向上した音質、中核機能の汎用性の高さを訴求している。
一方で、注目すべき点ともいくつかある。1回の充電で最大50時間もの再生が可能であることや、3.5mmのヘッドフォンジャックかUSB-Cで接続することでロスレスオーディオを再生できること。そして、Android端末とアップル端末の両方に対応したワンタッチペアリングやヘッドフォントラッカーといった、何より便利な独自機能だ。
当初はBeats Solo 4に対して、いまいち魅力に欠けると感じて否定的な印象を抱いていた。しかし、何日も使い込むうちに、そのサウンドにハマってしまったのだ。
クリーンで温かみのあるバターのように滑らかなサウンドは、再設計された音響アーキテクチャーによるものだ。この点は、Beatsブランドのサウンド面にアップルが深く影響を及ぼしていることを物語っている。
そして他の製品を買えばもっと優れた機能が盛り込まれているが、Beats Solo 4には検討するだけの価値が十分にある。将来的に価格が下がって購入しやすくなる可能性も考えれば、なおさらだろう。
Beatsのヘッドフォンならではのデザイン
Beats Solo 4の美しい外観は、そのルーツから大きく逸脱していない。華やかなカラーリングのマットなプラスチック製ボディや、左右のイヤーカップにあしらわれたBeatsのロゴなど、最近のBeatsデバイスならではの装飾がふんだんに施されている。移動の際にはヘッドフォンを折りたたむことができ、付属の3.5mmケーブルとUSB-Cケーブルを収納できる内ポケット付きのコンパクトなケースにぴったり収納できる設計だ。
Beats Solo 4のようなオンイヤータイプのヘッドフォンは、最近は少なくなってきている。個人的にも常々、オーバーイヤータイプのヘッドフォンのほうが快適であると感じてきた。耳ではなく頭部を押さえつけるだけで済むからだ。
Beats Solo 4の締め付けは、時間が経つにつれ若干の不快感をもたらすかもしれない。だが実際に試してみた印象では、数時間ほど装着していてもそれほど苦に感じることはなく、サングラスをかけても平気だった。
しっかりとしたホールド力によってヘッドフォンが定位置に固定されることで、確かな遮音(パッシブノイズアイソレーション)が実現されている。Beats Solo 4が外音取り込みの機能を搭載していないことを考えれば、この点は評価できるだろう。
だが、これだけスポーティーなデザインのヘッドフォンが、この2024年においてワークアウト中に周囲の音を聞き取れる外部音取り込みモードを搭載していないことには、かなりの違和感を感じる。代わりに、ほとんどの主力のヘッドフォンにはない強力な防水性能くらいはあってもよかったのではないだろうか。
シンプルさが際立ったコントロールシステムには好感をもてる。左側には、直感的に操作できる音量ボタンと再生ボタンがBeatsロゴを囲んで配置されている。「Beats Studio Pro」と同様にプラスチック製のボタンには少し引っかかるような感触があるが、この価格ならさほど気にならない。
一方で、何日間にもわたってわずらわされたBeats Solo 4のもうひとつの大きな弱点は、自動一時停止センサーや自動パワーオフ機能がないことだ。繰り返しになるが、50時間という長時間のバッテリー持続時間を考えれば、それもたいした問題ではないかもしれない。だが、このレベルの製品であれば期待してしかるべきだろう。
Android端末とアップル端末の両方に対応
Beats Solo 4に優れた機能が搭載されていないわけではない。「Beats Proprietary Platform」を採用したことで、Android端末とアップル端末の両方に対応する一石二鳥の優れた仕掛けが施されている。このシステムはBeats Studio Proや最新のBeatsのイヤフォンの多くにも搭載されているもので、どちらの端末にも対応するワンタッチペアリングや「探す」の機能を実現した。また、それぞれの端末ごとの重要な機能もいくつか備えている。
Android向けの機能としては、Google アカウントと連携したタブレット端末やスマートフォン間の自動ペアリングとオーディオの切り替えのほか、基本的なカスタマイズやファームウェアのアップデートに対応する「Beats」アプリなどが用意されている。アップル向けには「Siri」によるハンズフリーの音声コントロール、端末内で可能な基本的なカスタマイズ設定、メッセージ再生、オーディオ共有機能が用意されている。また、Apple Watchへの自動ハンドオフ機能も利用できるが、AirPodsのようなiCloudデバイス間の自動切り替えには対応しない。
Beats Solo 4はダイナミックヘッドトラッキング用のセンサーを搭載しており、アップルの空間オーディオに対応している。この機能はデジタル技術を駆使することで、リスナーのいる位置を中心にサウンドを固定するものだ。個人的には、アップルがそのぶんの開発費を自動一時停止センサーに使ってくれたほうがうれしいが、3D効果を楽しみたい人にとってはありがたい機能だろう。
また、このヘッドフォンがワイヤレス接続できる範囲には特に驚かされた。自宅の仕事部屋にスマートフォンを置いたまま庭でワークアウトをしていても、通信が途切れなかったほどである。
心地よいグルーブ
Beats Solo 4のサウンドは、きらびやかに響く中音、重苦しさを感じさせないがしっかりとした低音、そして決して強引で明るくなりすぎない甘美な高音で、聴いていて耳がくぎ付けになる。
耳なじみのいいヘッドフォンの使用感を伝えることは難しいかもしれないが、Beats Solo 4は心地よいグルーブに包まれている気分になった。しっかりとしたクリアな音が、スモーキーで温かみのある快い音層で和らげられ、音楽を魅惑的かつ心地よいものにしてくれる。ときにはどこか平坦に聴こえることもあるが、適切に録音された複雑な音楽を聴く機会があれば、その真価が発揮されることも多いだろう。
このヘッドフォンは楽器それぞれの音を繊細に分離しているので、楽曲のさまざまな音色を堪能できる。ギターとホルンはポップで歯切れがよく、それでいてバターのように滑らかな音色を奏でる。パーカッションは質感のあるスティックカウントからパウダリーなハンドドラムまで、絶妙な存在感で響き渡る。ピアノはクリーミーな感じと透明感のブレンドが心地よく、聴く者を満足感で包み込む。
またBeats Solo 4は、空間を生み出し、静寂を強調する点でも優れている。アンプのうなる音や録音終わりのマイクのカチッという音などの細かいニュアンスもクリアに聴こえるので、曲の終わりになるほど耳を傾けている自分に気づいたほどだ。
例えば、ドリュー&エリー・ホルコムの「Feels Like Home」のサウンドは特に秀逸だった。ギターのトレモロが右チャンネルで炸裂し、軽快なスネアとキックドラムの連打を際立たせる。そしてラストの数秒で、すべての音がゆっくりとフェードアウトしていく。
静寂といえば、Beats Solo 4は通話の際の背景音もしっかりと抑えてくれる。外を散歩しながら両親と電話したときのことだが、このときはトラックが騒々しい音で通り過ぎるまで、両親は屋外であることにまったく気づかなかったのだ。通話は双方ともにクリアに聞こえるので、両親との会話を楽しめたことは言うまでもない。
ひとつだけ欠けているものがあるとするなら、それはかつてのBeatsのサウンドの“もち味”ともいえる圧倒的な低音だ。アップルのエンジニアはそういった音づくりをしない。大半のリスナーにとっては十分なパンチがあるが、決して低音偏重のサウンドではなく、代わりにバランスとアクセシビリティを追求している。
ソニーの「WH-1000XM5」のようなノイズキャンセリング機能付きモデルをはじめとするヘッドフォンのフラッグシップモデルを使えば、さらに良質なサウンドを得られるかもしれない。だが、Beats Solo 4はいい意味で中道を行く製品だ。
Beats Solo 4は、Ankerの「Soundcore Life Q30」のようなノイズキャンセリングや外部音取り込みモード、その他さまざまな機能を低価格で提供する製品に比べると、かなり割高に感じられるかもしれない。だが、Beats Solo 4のほうがサウンドもつくりも良質だ。
それを考えると、Beatsの愛好者でノイズキャンセリング機能などの高度な機能を求める人には、Beats Studio Proが有力な代替候補になる。その他の人にとって、Beats Solo 4は甘くスモーキーなサウンドを楽しめるうえにAndroid端末やアップル端末用の便利な機能を搭載した点で、満足度が高いはずだ。
◎「WIRED」な点
クリアでバターを思わせる滑らかなサウンド。 楽器の音の分離に優れている。 ノイズが押さえられている。Android端末とアップル端末に対応したワンタッチペアリングと「探す」への対応。 ハンズフリーで「Siri」を利用可能で空間オーディオに対応。 コンパクトなケース。ワイヤレス接続の範囲が広い。
△「TIRED」な点
ノイズキャンセリング機能や外部音取り込みモードがない。 防水・防塵に対応しない。 自動一時停止機能がない。 しっかりとしたフィット感だが、人によってはきつすぎるかもしれない。機能に対して価格が高め。
(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)
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