井之脇海×上川周作、窪塚愛流×篠原悠伸が戦争テーマの2人芝居に挑む 舞台「ボクの穴、彼の穴。W」

2024年09月04日 14時56分

 戦争を題材にしたフランスの絵本が原作の舞台「ボクの穴、彼の穴。W」が、9、10月に東京と大阪で上演される。登場人物は戦場に取り残された2人の若い兵士だけ。敵対する2人は穴の中に身を隠し、互いに銃を向け合うが、孤独と空腹にさいなまれる極限状態の中で、次第に相手に思いをはせるようになる。
 演出はノゾエ征爾が担い、井之脇海と上川周作による「ボクチーム」、窪塚愛流と篠原悠伸による「彼チーム」の2組が交互に公演する。重いテーマと向き合いながら、濃密な2人芝居に挑む2組に意気込みを聞いた。

「ボクの穴、彼の穴。W」に出演する(左から)上川周作、井之脇海、窪塚愛流、篠原悠伸
「ボクの穴、彼の穴。W」に出演する(左から)上川周作、井之脇海、窪塚愛流、篠原悠伸

 

 

 記者 この作品のどんなところに魅力を感じましたか。

 井之脇 まずは二人芝居という点に魅力を感じました。いつか挑戦したいなと思っていたので。内容も戦争の話だけど、決して現代のわれわれに縁遠い話ではない。人を知ること、信じること、誰かを簡単に悪と決めつけていないか、いろいろと考えさせられます。

 上川 お互いの姿が見えない中で相手に思いをはせたり、想像を膨らませたりしていく過程がリアルに感じられます。戦争を自分ごとに置き換えられるというか、日常生活でも想像力を働かせなければいけないと思って、この本に挑戦する覚悟を決めました。

 窪塚 僕は舞台が初めてなので不安もあったんですが、演出のノゾエさんからこの作品に懸ける熱い思いをうかがって、一緒に舞台を作ってみたいと思いました。台本の面白いところは、戦争の話なのに、現代の僕たちも共感できる要素がたくさんあるところですね。

 篠原 暗くなりすぎないんですよね。ユーモアがある部分と、メッセージのある部分のバランスがちょうど良くて、すごく面白い。ノゾエさんともご一緒してみたかったんで、ぜひ!という感じで出演を決めました。

「ボクチーム」の井之脇海(左)と上川周作
「ボクチーム」の井之脇海(左)と上川周作

 

 

 記者 ノゾエさんとは稽古場でどんなお話をされていますか。

 井之脇 戦場という特殊な空間なので、自分がどれくらいここにいるのか、仲間が死んだのはいつなのか、台本の中だけでなく、そこに至るまで彼らが歩んできた時間について話し合っています。芝居の上では「穴の中にいる」っていうことを絶対に忘れないように、とよく言われます。舞台の上は開けた空間なので、つい閉塞感を忘れがちなので。あとは周ちゃんと一緒に体力づくりを。

 上川 はい。2人で「ほふく前進」とかしてます(笑)。ただ実際に戦場を経験したことがないので、どれだけ真実味を持って穴の中に立てるか。ノゾエさんの言葉で僕が大事にしたいのは「相手との距離を考える」ということ。穴と穴の物理的な距離だけでなく、「彼」との心理的な距離ですね。その距離が、穴の中で感じる恐怖にもつながるのかなと考えています。

 窪塚 ドラマや映画とは役作りの仕方が全く違うので、新鮮で楽しいけど、まだ足りてないことを痛感する日々ですね。作品のキャッチコピーである「彼を知ること。それが未来のはじまり。」という言葉がぴったりだなと思ってて。自分の役を作る上で一番大事なのが悠伸くんの役で、彼の芝居を見てヒントをもらっています。その上で自分にできることを全部やって、ノゾエさんに削ってもらう感じ。まだもがいている最中です。

 篠原 皆さんのお話を聞いて、もっとちゃんとしなきゃと思いました。せりふがとにかく多いので、覚えるのでいっばいいっぱい。今は台本を読んで感じたことをそのまんま言うだけです。サバンナに解き放たれた動物みたいな。でも、僕も家で一人で練習するのと、隣に愛流がいるのとじゃ全然違うので、愛流を感じながら日々、変わってる感じはしますね。

「彼チーム」の窪塚愛流(左)と篠原悠伸
「彼チーム」の窪塚愛流(左)と篠原悠伸

 

 

 記者 2人の兵士が記号的に描かれた台本で、特に前半は違いが見えづらいです。お互いの役にどう違いを出していますか。

 篠原 台本を読んだ時は似た2人がいて、最後の方で「やっぱり違うんだな」って発見する流れなのかと思ったけど、やってみると「最初から全然違うじゃん!」って思いました。人として大事なところは一緒だけど、違う時間を生きて、これからも違う時間を生きていく別々の人間だなって。

 窪塚 僕は逆に、2人に決定的な違いは感じていなくて。お互い兵隊で、状況も一緒なので、あえて差をつけようと思って演じてないです。ただ僕は僕の役のことを突き詰めるだけで、その結果、僕の持ってるものと悠伸くんの持ってるもので違いが出るのかもしれないな、とは思います。

 井之脇 例えば今の日本の義務教育ってある種、量産的に及第点を取れる人間をつくるシステムだと思うんですね。赤信号は止まるとか、みんな当たり前にやってるけど、その中で一人一人を細かく見ていくと、ちゃんと個性がある。そういうことを再確認しているって言えばいいのかな。

 上川 「違い」の意味が台本の始めと終わりで別物になっているんです。最初は相手を「自分とは違う、残酷な敵兵」と画一化して見ている。でも相手のことを知るにつれて「自分と同じように好きなものや個性がある人間なんだ」と認識する。僕もそこではっとしたんですが、国籍や性別でジャンル分けしてひとくくりにすると、一人一人が見えなくなる。そうやって情報量を減らすと楽だけど、一方ですごく怖いことでもあって、僕らは常にその人自身を見る努力を怠ってはいけないんだと思います。

 

 記者 2チームに分かれての公演です。ご自身のチームの持ち味は。

 篠原 僕自身のことはよく分からないんですけど、愛流の純粋さがすごいです。せりふにうそがないので、おかしくもなるし、かわいそうにもなる。そこを見てほしい。

 窪塚 悠伸くんとは初めて会った時からすごく波長が合うなって思ってるんです。役としてもそうだし、人としても。一緒にお芝居しててすごく楽しいんですよ。そこはお客さまにも伝わるんじゃないかと感じているので、本番に向けてもっとお互いを知って、仲を深めていきたいです。

 井之脇 遊び心を持ってやっていこうと思っています。別々の穴にいるけど、相手がこうきたらこうしてみようとか、お互いを感じながら。日によって遊びポイントが違ってくると思うので、全公演をフレッシュにやるようなチームにします。

 上川 井之脇くんの「ぬくもり」ですね。命を奪い合おうとしてる相手ではあるけど、そこに体温を感じる。たまたま戦場にいるけど、違うところで会ってたら友達になれたかもしれない。そういう表裏一体なところを井之脇くんから感じているので、見終わった時に「残酷な戦争もの」という印象ではなく、包み込まれるような愛をお届けできると思います。

 

 ☆「ボクの穴、彼の穴。W」は9月17~29日に東京・スパイラルホール、10月4~6日に大阪・近鉄アート館で上演。各チームの公演スケジュールは公式サイトで。


 【ボクチーム】

 いのわき・かい 1995年生まれ、神奈川県出身。主な出演作にドラマ「義母と娘のブルース」など。

 かみかわ・しゅうさく 1993年生まれ、大分県出身。NHK連続テレビ小説「虎に翼」などに出演。

 

 【彼チーム】

 くぼづか・あいる 2003年生まれ、神奈川県出身。今年5月の映画「ハピネス」で初主演。

 しのはら・ゆうしん 1992年生まれ、東京都出身。NHK大河ドラマ「西郷どん」などに出演。

(取材・文=共同通信 高田麻美、撮影=伊東祐太)

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