企業のESG(環境・社会・企業統治)対応が一段と広がっています。市場の関心の高さや情報開示制度の拡充も背中を押しています。ここにきて動きが活発なのが人権をはじめとした「S」にかかわる分野です。日本経済新聞社の経済データサービス「日経NEEDS」が提供する「日経ESGデータ」を使えば、企業の開示情報を幅広く参照でき、自社の戦略にも生かせます。

大手・製造業中心に広がり

 ESGへの対応は企業のリスク管理に役立ち、ブランド価値を高める可能性があります。脱炭素に象徴されるE(環境)に加え、市場が注目するのは社会課題など「S」。とりわけ従業員の権利や取引先の労働環境といった人権関連が焦点で、人権侵害につながる事業は世界的に厳しい視線が注がれます。

 この分野は現在、大手企業の取り組みが先行します。日経ESGデータで人権に関する11のテーマをピックアップし、開示率を調べたところ、日経平均株価の採用企業では平均65%となり、上場企業全体の平均(43%)を上回りました。

 製造業の開示率は52%で非製造業の34%を上回りました。海外にサプライチェーン(供給網)を持つ企業が多いためとみられ、化学、窯業、電気機器、自動車、輸送用機器といった業種が先行します。

 人権関連はテーマにより実現や開示の度合いにばらつきがあります。人権全般の方針についての開示率は製造業で80%、日経平均の採用企業で92%といずれも8割を超えました。また、サプライチェーンの人権に関する方針は、日経平均の採用企業で76%に達しました。

 実現への動きがやや遅れ気味なのが児童労働・強制労働です。児童労働で方針を示したのは日経平均採用企業で52%。製造業全体では39%にとどまります。

「人権デューデリ」など事例を把握

 日経ESGデータは「S」に対応しようとする企業の動きを大枠で把握するのに役立ちます。企業が統合報告書などで開示した内容を、項目によっては全文で参照可能。たとえば人権に関するテーマごとにピックアップし、個別企業の進捗状況をチェックできます。

 人権侵害が発生していないか、自社だけでなくサプライチェーン(供給網)全体を点検し予防策を講じる「人権デューデリジェンス」をみてみましょう。大手企業の取り組みが活発になっており、開示状況のほか、影響を社内やグループ内で評価するアセスメントの実施といった、多くの事例が抽出できます。

 たとえばホンダ。各部門で年1回、グループ共通の基準によりリスクを評価し、重点リスクを特定しています。海外現地法人に対しては年1回、労務方針にのっとり運営されているか、アセスメントを実施しています。また、すべての海外現地法人の労務管理状況を毎月確認し、リポートとして共有します。2021年度は111拠点が対象でした。

 三菱商事では外部有識者やコンサルタントとともに、環境・社会性の面でリスクが高い商材を「調査対象商材」として特定しました。これらのサプライヤーを対象に、人権・環境についてのデューデリジェンスを年度ごとに実施。持続可能なサプライチェーンでの行動についてのガイドラインを順守しているか、状況を調べます。対応が必要な課題は是正策を講じ、購買方針を見直しました。

 人権に対する社員教育でも有用な事例を取り出せます。ユニ・チャームは、役割別や新任の育成責任者向けで研修を実施。ハラスメントの具体事例や防止策、実際に発生した場合の解決策を学んでもらいます。オーストラリアの現地法人と連携した研修もしています。資材を中心とする世界各国・地域のサプライヤーを対象に、現代版「奴隷制度」のリスクと対策に関するトレーニングもします。

日経ESGデータではこのほか内部通報制度などのテーマでも、企業の取り組み事例を確認し、参照できます。