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アジア・太平洋戦争の終戦(日本の敗戦)から今年で79年。唯一の核被爆国に生まれた日本人として「戦争」はいつまでも記憶と記録に残し続けてゆくべきものです。戦争について考える本、5冊をご紹介します。
戦後79年。
日本の夏に読んでおきたい5冊+番外編
戦後79年です。
今年の8月は、オリンピックがあっています。パラリンピックも始まります。コロナウィルスの感染者数は増え続けています。
でも、どんな状況でも日本の夏に必ず訪れるのは、広島・長崎の原爆記念日と終戦の日。
戦争を語ることができる世代が高齢化していき、人々の興味も薄れているような印象もあります。
日本の夏、今年もけして忘れてはいけない歴史の記憶に思いを馳せたいものです。
戦争についての本、5冊を紹介します。
1.『昭和史』 著:半藤一利
夏目漱石の末裔であり、元文藝春秋編集長であり、ジャーナリストとして、編集者として、そして昭和史の歴史家として活躍した半藤一利さんの名著『昭和史』。
日本が行った戦争のことを知りたい、と思った時にまずは手にしてほしいオススメがこの本です。
昭和史 (平凡社ライブラリー)
そもそもあの戦争でなにが起きていたのか?
戦前から戦中、戦後までの日本と世界の動きを明快な整理と語り口で書き綴られます。
この本を読み昭和史の俯瞰的な視点を持っていれば、今後、その他のどんな戦争関連の作品に接しても、スムーズな理解に辿りつけるはずです。
数年前、半藤一利さんは91歳で亡くなられましたが、今でも大きな書店に行くと「半藤一利コーナー」が設けてあるほど重要な仕事をされました。
2.『野火』著:大岡昇平
日本の戦争文学の代表作の1つです。
著者の大岡昇平氏は、自身召集されてフィリピンのミンドロ島に赴き、翌年米軍の俘虜となり、レイテ島収容所に送られたという経験を持つ昭和を代表する大作家です。
『野火』は、太平洋戦争末期、絶望的な状況に置かれた一兵士が直面した戦争の現実と、孤独の中で揺れ動く心理を克明に描きだした作品です。
野火 (新潮文庫)
敗北が決定的となったフィリッピン戦線で結核に冒され本隊を追放された田村一等兵。
原野を彷徨う田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向ける……。
想像を絶する状況の中で狂う人間の精神が鬼気迫る迫力で描かれています。
本書を読んで、大岡昇平の大著『レイテ戦記』に挑戦してみるのもよいかもしれません。
3.『日本軍兵士 ーアジア・太平洋戦争の現実』著:吉田裕
上の『野火』が作家の想像力を駆使して戦場の悲惨な現実を描いた文学作品だとすれば、本書は、事実と証言に基づく歴史的検証の成果です。
ページをめくる毎に、絶望的になる戦場の地獄。日本軍の迷走。
戦闘場面は描かれていません。描かれるのは、重い荷物を背負っての行軍、食料不足による栄養失調、私的制裁という暴力、兵士の逃亡・自殺・奔敵、戦争神経症に苦しむ様子-。
日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中央公論社)
310万人に及ぶ犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が終戦までの1年間で亡くなった戦死者だったということ。また、戦争末期の日本軍の死因は、戦闘行為ではなく、餓死と病死が6割〜7割だったという記録もあるそうです。
勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験を強いられた現実を通してけして「美しくはない戦争」を知ることができます。
4.『黒い雨』著:井伏鱒二
先ごろ、ニュースで『「黒い雨」訴訟』として頻繁に取り上げられた『黒い雨』という言葉。
報道を見て小説『黒い雨』を思い出された方も多いかもしれません。
こちらも、戦後文学を代表する広島生まれの作家・井伏鱒二の代表作です。
原爆の広島――罪なき市民が負わねばならなかった未曾有の惨事を直視し、“黒い雨”にうたれただけで原爆病に蝕まれてゆく姪との忍苦と不安の日常。被爆という世紀の体験を、日常の暮らしの中に文学として定着させた記念碑的名作です。
黒い雨 (新潮文庫)
広島に原爆が落とされるまでの日常と、投下時からその後までを冷めた視線で淡々と描くその文体が、当時の状況のリアル感を余計に浮かび上がらせます。
5.『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』
著:加藤陽子
日本の近現代史、特に戦争責任とその構造の研究における国内随一の権威である著者の加藤陽子さんの名前は、”日本学術会議の名簿から外されたー人”としても有名になってしまいました。
先に紹介した半藤一利の『昭和史」が事前に読んでおきたい1冊なら、こちらは、いくつかの戦争関連の知識を得た後に、自身の頭を整理するものとして読んでおきたい1冊です。
東京大学の教授である著者が、中高校生を前にした講義録ですので、軽快に読み進めることができると思います。
それでも、日本人は「戦争」を選んだ (朝日出版社)
指導者、軍人、官僚、そして一般市民からなる戦前の日本において、そもそも、国家最高の頭脳集団が「やむなし」と決断し、普通のよき日本人が「もう戦争しかない」と思った理由とは?その論理を支えたものは何だったのか。
中高生への5日間の集中講義を通して、過去の戦争をより身近に考えることができます。
[番外編] 漫画版『神聖喜劇』
著:のぞゑのぶひさ・岩田和博/原作:大西巨人
「日本文学史上の最高傑作の一つ」(阿部和重)
戦後の戦争文学、いや日本文学の金字塔と言われる大西巨人の『神聖喜劇』は、完結まで25年の歳月をかけて完成しました。
原作の内容は、『私は、この戦争に死すべきである』という虚無的な思いを持つ主人公が、兵営内で自身の超人的な記憶力と明晰な頭脳を使い抵抗活動を繰り広げ、やがて虚無主義から脱却し他者との連帯の可能性を感じるまでの過程が描かれています。
神聖喜劇 [漫画版] (幻冬舎)
漫画化に際して、わかりやすくするために時制を入れ替えたりはせず、セリフの縮小も最小限に抑え、連載による雑誌編集者の介在をおそれ、自費出版も覚悟に10年かけて書き下ろしたという渾身の作品です。
原作は、大長編小説ですので、まずは小説を読む前にこの漫画版を手に取られてもいいかもしれません。漫画版は、2007年の手塚治虫文化賞を受賞しています。
秋の読書がよく言われますが、日本の夏には戦争の本を1冊読んでみるという習慣ができるといいですね。