BASKING COFFEE kasugabaru|コーヒーカルチャー誌の編集長とバリスタ、二足のわらじ

公開日

ライター 諫山力

コーヒーカルチャー誌「Standart」の編集長をしながら、2021年4月、自身の店を開いた室本寿和さん。福岡はもちろん、全国のさまざまなコーヒーショップを見ている室本さんならではの店づくりとは。今回は、コーヒー好きにこそ一度は訪れてほしい「BASKING COFFEE kasugabaru」のお話。

世界のコーヒーカルチャーを日本に伝えるエディターが自身の店を開店

「Standart」というコーヒーカルチャー誌があるのをご存知でしょうか?日本では2017年に創刊し、2021年6月現在、16号まで発行されています。「コーヒーを媒介として多様な文化を紹介する唯一無二の雑誌」「世界を旅してコーヒーを楽しんでいる気分に」などコーヒー業界では高い評価を多く得ており、ここ1、2年で一般層の読者も増えています。日本語版の編集長を務めるのは福岡在住の室本寿和さん。私自身、何度かお仕事をご一緒させていただいています。そんな室本さんが2021年4月にコーヒーショップをオープンさせたと聞いて、遅ればせながらお邪魔しました。

室本さんが編集長を務める日本語版の「Standart」。オンラインで購入できるほか、全国のコーヒーショップや蔦屋書店などでも販売

コーヒー好きなら店名を聞けば気づくと思いますが、千早にある「BASKING COFFEE」の姉妹店です。「BASKING COFFEE」はコスタリカの農園から直接仕入れる豆をはじめ、扱うのはすべてスペシャルティコーヒー。焙煎も自家で行い、浅煎り〜中浅煎りのフレーバー豊かな豆が多く揃います。

千早、広島に続き、春日原で3店舗目となる「BASKING COFFEE」

「BASKING COFFEE」のオーナー・ロースターの榎原さんと室本さんは十数年来の友人で、2018年ごろから編集業の傍ら千早の「BASKING COFFEE」で働くようになったのが、編集長とバリスタ、二足のわらじの第一歩。
室本さんは、もともと日々コーヒーを個人的に楽しんでいた、いちコーヒーラバー。2015年、オランダで働いていたときに「Standart」を初めて目にし、創刊当初から愛読していたそうです。そして2016年の夏、当時まだなかった日本語版を出版するという話を耳にした室本さんは、「なにかお手伝いできることはありませんか?」と、雑誌に載っていたメールアドレスに初コンタクト。反応があるとは思っていなかったそうですが、すぐに返信があり、そこから「Standart」に関わるようになって、今に至ります。

豆が選べるコーヒーはハンドドリップ、フレンチプレス、エアロプレスから抽出方法をセレクト。エスプレッソやラテもある

「『Standart』の日本語版の編集長になって、コーヒー業界と深く関わるようになりました。いろいろな方とお話する機会に比例して、コーヒーの知識は増え、考え方も少しずつ変わってきた。ただ、やっぱり頭の片隅で、『コーヒーショップの店主さんに取材する機会が多いけど、コーヒー業界で働いたことがない自分にはわからないことがあるのでは』と思っていて。それで、榎原にお願いして千早店で不定期で働かせてもらっていたんですね。そうすると今度は、責任ある立場で店に立つことでしか見えてこない景色があるんじゃないかと思うようになりました」と室本さん。

コロナ禍をポジティブに捉える

コーヒーショップを開くにあたり、室本さん、奥さんの朋子さんとともに「BASKING COFFEE」で抽出トレーニングを続けた。今も毎週欠かさず千早店との味のブレがないか確認するなど、クオリティチェックは欠かさない

そんな室本さんが本格的に自身の店を持つ転機となったのは、コロナ禍。もともと、各地で催されるコーヒー関連のイベントに「Standart」として出展したり、ときには講演会に参加したり、全国を飛び回っていた室本さん。原稿執筆からマーケティング業務、企画のプランニング、カスタマーサポート、スポンサー探しといった営業業務まで、デスクワークも山積みで、時間に追われるのは常でした。ただ、新型コロナウイルスの影響で、イベントは軒並み中止。室本さん自身も出張の機会が激減しました。
「少し時間にゆとりができたんですね。2人の子どもも幼稚園に通うようになり、妻も店を手伝ってくれるという。以前から榎原には自分で店をやってみたいという相談はしていたので、『それだったら「BASKING COFFEE」の姉妹店をやってみたら?』という提案をいただけて。そういったさまざまな環境が整ったことを機に開店を決めました」。

セレクトコーヒー(550円)。ポーランドのÅOOMIというブランドのカップを採用。湯呑みのようなフォルムがユニーク

コーヒーに対する知識は幅広く持ち合わせていた室本さんだけに、自分自身の店を開業するという選択肢もあったのでは?と問うと、「それはまったくなくて。僕は経営者という性格じゃない。だれかのためだったらめちゃくちゃ頑張れるけど、それがいざ自分だけのこととなると、モチベーションが上がらないんです。『BASKING COFFEE』の名を背負って、責任ある立場で春日原のお店を運営していくのは僕にとって最善の選択でした。とはいえ、先程もお伝えしたように、店を開いた理由は自分が店側の人間になってコーヒーともっと向き合いたかったから。そういった意味でも、春日原の店をまかせてくれた榎原の存在は大きかったです」。
だれかのための方が力を発揮できるタイプ。そう自分自身を俯瞰して冷静に分析することができるのは純粋にすごいことではないでしょうか。

ほかの店ではなかなか目にすることがないカスカラティー(500円)。カスカラとはコーヒーチェリーの果皮を乾燥させたもの。ローズヒップやハイビスカスを思わせる酸味、甘みが特徴

店に関わってくれるすべての人の思いとともに成長したい

「BASKING COFFEE kasugabaru」は西鉄春日原駅から徒歩2分ほどの場所にあります。店をデザインしたのは、千早店の内装も手掛けた福津市にあるアーリーバードという海外のアンティークの建材、家具などを扱う会社。実際に「BASKING COFFEE kasugabaru」にはアメリカの約80年前に建てられた屋敷の床板などが活用され、とてもすてきな空間を作り上げています。新しいお店なのですが、どこか温かみがあるというか…。これは実際に足を運んもらって感じていただけたらと思います。

豆売りがメインで、豆を購入するとドリンクが1杯サービスに

「BASKING COFFEE」の姉妹店という立ち位置ですが、メニュー展開や扱う豆などについては、室本さんが考えているので、千早店とは一味違います。売り上げに直結することでもあり、店を運営する室本さんの手腕がものをいう部分。そういった責任ある立場になり、心構えなど変わった部分はあったのでしょうか。

「BASKING COFFEE kasugabaru」のオリジナルブレンドは室本さんが配合や使う豆の種類を選定。3種あり、すべて100g810円

「以前からコーヒー屋さんは、地域に根ざすスタイルが必須だと感じていて、自身が店をやるようになって、その思いをより強くしましたね。お客様にとって身近にあるべきで、用事はなくてもちょっと立ち寄るとか、お客様同士で会話を楽しむとか、そういう場所になっていけるようなお店づくりをしていきたいです。それと、お店を経営するって想像していたより、やることや考えることが山のようにあり大変。今まで僕は編集者という立場でコーヒーショップの店主さんたちにインタビューや撮影の時間を割いていただいていましたが、忙しいなか対応いただけていたと思うと、感謝しかありません」。

シングルオリジンの豆はすべて試飲ができ、味をみて選べるのはうれしい

室本さんは家族と過ごす時間をとても大切にする良き父親でもあります。平日はオープンから16時30分ごろまで朋子さんが店に立ち、以降は室本さんにバトンタッチ。土曜は室本さんを中心に、チームスタッフと一緒に店を切り盛りしています。一方で日曜はオーナーの榎原さんやスタッフが店に立ってくれることで、室本さんや朋子さんは子どもたちと家族で1日を過ごすことができているそう。榎原さんやチームのそういったサポートを含めて成り立っている「BASKING COFFEE kasugabaru」。

最後に室本さんは、「一つのお店を経営していくというのは、関わっていただけたすべての人の思いも一緒に育てていくことなんだと感じています。『BASKING COFFEE』のチームの仲間、店をデザインしてくれたアーリーバードさんをはじめ、日々通っていただける常連さん、遠方からわざわざ足を運んでいただけるお客様。応援していただいているすべての方々に、少しでもすてきな時間や日常をご提供できるようなお店にしていきたいですね」と話してくれました。

交差点の角地にある「BASKING COFFEE kasugabaru」。2面が大きなガラス張りで、明るい雰囲気

Information

店名

BASKING COFFEE kasugabaru

住所

福岡県大野城市錦町2-1-18

電話

なし

営業時間

11:00〜19:00

定休日

木曜

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