コンテンツにスキップ

死と変容

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
音楽・音声外部リンク
全曲を試聴する
Richard Strauss - Tod und Verklärung - ジャン・レイサム=ケーニック指揮フランダース交響楽団(Symfonieorkest Vlaanderen)による演奏。フランダース交響楽団公式YouTube
Richard Strauss:Tod und Verklärung (Mort et Transfiguration) - ミッコ・フランク指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団による演奏。France Musique公式YouTube。
Strauss:Tod und Verklärung, Op_24 - カリーナ・カネラキス指揮オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団による演奏。AVROTROS Klassiek公式YouTube。

死と変容』(しとへんよう、ドイツ語: Tod und Verklärung作品24は、リヒャルト・シュトラウスが作曲した3作目の交響詩。『死と浄化』とも訳される。

概要

[編集]
リヒャルト・シュトラウス1888年撮影)

作曲家指揮者として注目され始めていた頃の1888年ミュンヘンで作曲を開始し、1889年11月18日ヴァイマルで完成した。初演は翌年の1890年6月21日にアイゼナハ音楽祭に於いて、シュトラウス自身の指揮により行われた。

シュトラウスは生来病身で、20歳を過ぎた頃には重病を患い、たびたび死の危機に直面したこともあった。この交響詩はシュトラウス当時の心境を音化したものであるといわれており[要出典][1]、交響詩が作曲された時点では標題は持っていなかったが、完成後にこの交響詩に感激した旧知のアレクサンダー・リッターに作品の内容を伝えてそれを詩にすることを依頼した。完成された詩は、改稿・拡大されたうえで詩人の名を伏せて総譜の冒頭に掲げられることとなった。

詩の大要は以下の通り。

小さな貧しい部屋の中で、病人は死との戦いに疲れ果て眠っている。柱時計が不気味に時を刻み、死が近いことを予感させる。病人は子供のとき夢を見るかのように力なくほほえむ。死は容赦なく襲いかかり、病人を揺り起こし、再び恐ろしい戦いが始まる。しかしこの戦いの勝利は決せられず、静寂が来る。病人は彼の生涯のことを順を追って思い起こす。無邪気な幼い頃の日々。力の鍛錬に終始する少年時代。自己の理想を実現するための闘争。心から憧れた全てのものを彼は死の床にもまた求め続ける。ついに死は最後の宣告を下し、死の一撃が響き、肉体を引き裂く。しかし死の恐怖は安らぎへと変わり、天界から彼の求めた世界の浄化(変容)が美しい余韻と共に響いて閉じられる。

1949年9月8日、シュトラウスは満85歳で世を去った。妻子によれば、この48時間前にシュトラウスはいったん昏睡状態から意識を回復し[2]、こう語ったという。

私が『死と変容』のなかで作曲したことは全て正確だったと、今こそ言うことができる。私は今しがたそれを文字通り体験してきたのだよ[2]

死の前年の1948年に完成し、死後の1950年に初演された『4つの最後の歌』の第4曲「夕映えの中で」の終盤では、「これがもしかして死なのか?」という歌詞に合わせて本曲の一節が引用されている[3](譜例)。

 { \new PianoStaff << 
\new Staff \relative c { \clef treble \key ees \major \time 4/4 \omit Staff.TimeSignature \omit Staff.KeySignature \once \omit Staff.Clef 
 \stopStaff \partial 2 s2 |\startStaff \clef bass r4^\markup{\smaller (Hrn.)} a( d2~ | d4 e fis fis') |\stopStaff s1|s1|s1|s2 \startStaff \clef treble r4^\markup{\smaller {(+E.Hr. Va.)}} ges,4( | ces des es es'~ | es des2 ces4)} 
\new Staff \relative c' { \clef treble \key ees \major \time 4/4 fis2 | fis r | r a | a r | r bes | ces1~ | ces2 r2} 
\addlyrics { ist dies et -- wa der Tod? } 
>> }

初演

[編集]

1890年6月21日アイゼナハの市立劇場で作曲者自身の指揮によって初演された。日本初演は1929年12月22日日本青年館にて山本直忠指揮、新交響楽団による[4]

編成

[編集]

フルート3、オーボエ2、コーラングレクラリネット2、バスクラリネットファゴット2、コントラファゴットホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバティンパニタムタムハープ2、弦五部

曲の構成

[編集]

ハ短調ハ長調、序奏と終結部をともなうソナタ形式を基本として作曲されている。演奏時間は約24分。

ゆるやかな葬送行進曲風のラルゴで開始される。弱音器をつけた弦による序奏が暗い病室に横たわる瀕死の病人を描き出す(譜例)。ティンパニの弱奏が病人の心臓の鼓動を表す。続いて木管の明るいメロディーが現れ、独奏ヴァイオリンも加わって病人の幸せだった日々が回想される。

突如、ティンパニの一撃でテンポがアレグロ・モルト・エ・アジタートに変わり、生と死の壮絶な戦いが始まる。襲い来る死の恐怖が低弦で、病人の生きようとする強い意志が総奏の激しいメロディー(譜例)で表現される。

 \relative c'' {\clef treble \key c \minor <g c es g>4->^\markup{\center-align \smaller (Tutti)} <as c es g as>-> r \tuplet 3/2 {<g d' g>8 <as es' as> <b f' b>} | <c g' c>4-> <es a es'>-> r <c es fis c'>8. q16 | <g' d' g>2.}

生と死の戦いが最高潮に達したところで、いったんテンポが緩やかになる。序奏部でも現れた回想のテーマで、再び病人の幼少の日々、青春の日々が回想される。その折にも死のテーマが回帰し、生と死の戦いが続く。その最中に突如として新しいテーマが金管の強奏で現れるが、これが変容(浄化)のテーマで、死による変容が暗示される(譜例)。

 \relative c { \clef bass \key ees \major \time 4/4 r4^\markup{\smaller (Br.)} f,-. bes( c | d d' c2) }

やがてテンポが緩やかになり、序奏のテーマが戻ってくる。そして生と死の最後の戦いが始まるが、タムタムの弱音で病人が命を終えたことが表される。変容のテーマが静かに現れて次第に音量を増し、病人が死後に変容を遂げたことが表され、曲が終わる。

注釈

[編集]
  1. ^ 1931年にシュトラウスは「『死と変容』は純粋に想像の産物(...)おそらく究極的には音楽上の必要からの発想」と述べている。作曲時のシュトラウスは命に関わる病気に襲われたことはなく、人間の死に直面したこともなかった。Kennedy, Michael (1984). Strauss Tone Poems. BBC Publication. p. 22 
  2. ^ a b ベーム(1970) p.141
  3. ^ Mandel, Marc. “Death and Transfiguration”. Boston Symphony Orchestra. 2024年8月7日閲覧。
  4. ^ 『作曲家別名曲解説ライブラリー9 R.シュトラウス』(音楽之友社、1993)p. 253

参考文献

[編集]

外部リンク

[編集]