コンテンツにスキップ

ローマのパンクラティウス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ローマの聖パンクラティウス
聖パンクラティウス
グリースハイム=シュル=スフェルの教会にある祭壇画)
生誕 289年
プリュギア
死没 303/4年5月12日
ローマ
崇敬する教派 カトリック教会
正教会
記念日 5月12日
テンプレートを表示

ローマのパンクラティウス(Pancratius、英語: Pancras of Rome、生没年不詳[注 1][注 2])はローマで処刑された4世紀の殉教者[1]正教会カトリック教会聖公会の聖人[3][4][1]聖パンクラティウス。あるいは聖パンクラス聖パンクラーツィオとも。

概説

[編集]

パンクラティウスは14歳で殉教した少年殉教者で[5][1]、生没年は明らかではないがディオクレティアヌス治下[注 3]のローマで殉教したと伝えられる[6]。聖人伝ではプリュギア人であったとされるが、パンクラティウスの両親は元々ローマ人であったとも言われる[6]氷の三聖人英語版の一人で、中世においては十四救難聖人であった[7]

パンクラティウスは中欧を中心として人気が高いが[7]、イングランドにおいてもパンクラティウスに捧げられた古教会が6つあり、そのうちの1つであるロンドン北部の教会からは墓地と駅の名前[注 4]が名付けられている[1]。パンクラティウスはその聖人伝から、宣誓の保護者、偽誓の懲罰者とされた[7]。彼自身の名を冠する名儀教会のほか、サセックスルイスに存在するクリュニー会修道院の守護聖人でもある[1]。記念日は5月12日[6][注 5]。パンクラティウスについての伝承は殉教ののちに作られたもので、証明されたものではなく歴史的信頼性はない[3]

聖人伝

[編集]

パンクラティウスは貴族の両親の元に生まれた。プリュギアにおいて両親が死んでからは、叔父のディオニュシオスに保護されたのち、ローマへ移住した。ローマへ移住してまもなく教皇のコルネリウスによりキリスト教徒となった。ディオニュシオスの死後、キリスト教徒であるためにパンクラティウスは捕えられた。ディオクレティアヌスは年若い貴族の少年を憐れんで棄教するよう説得したが、パンクラティウスは逆に非キリスト教の神を批判した。この為にパンクラティウスはアウレリウス街道の路上で首を刎ねられ殉教した。パンクラティウスの体は元老院議員の妻であったオクタウィラの手により埋葬された。[8]

のちにパンクラティウスの墓所で偽誓を行おうとした男は、墓所の格子戸に辿りつく前に倒れて死んだと言われる。また、パンクラティウスの墓所に手をあてて偽誓した男は、手が離れなくなりそのまま死んだという伝承もある。[8]

崇敬

[編集]

パンクラティウスへの崇敬は5世紀頃に始まる[7]。聖人伝中にも言及されるパンクラティウスが埋葬された場所にはサン・パンクラーツィオ教会(バシリカ)英語版が建てられている[7]。この場所には古くから聖堂が建てられていたが、500年頃に教皇シンマクスがバシリカに建て替え、のちに教皇ホノリウス1世が改築したと伝えられる[7][注 6]。この教会は16世紀以降、多くの巡礼者を集めた[7]。パンクラティウスの聖遺物はこの聖堂だけではなく、サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂サン・クレメンテ教会の他、ドイツやフランスなど中欧の各地の教会で保管されている[7]

絵画や彫刻

[編集]

トゥニカに毛皮のマントを羽織った姿や、剣と棕櫚の枝[注 7]を持った騎士の姿で描かれることが多い[7]

ギャラリー

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 4世紀初めとされる[1]
  2. ^ 黄金伝説』の聖人伝では287年と記されている[2]
  3. ^ ウァレリアヌスの頃とも[3]
  4. ^ ロンドンのセント・パンクラス駅
  5. ^ 同じ記念日の聖人として、聖ネレウスと聖アキレウスが知られる[3]
  6. ^ これは現在では完全に建て替えられている。
  7. ^ 棕櫚の枝は殉教を象徴する。シュロ#文化も参照。

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f Oxford, Pancras of Rome
  2. ^ 黄金伝説, p.286
  3. ^ a b c d Catholic Encyclopedia, Sts. Nereus and Achilleus, Domitilla and Pancratius
  4. ^ Orthodox America, Martyr Pancratius
  5. ^ 黄金伝説, p.285
  6. ^ a b c 黄金伝説, p.287
  7. ^ a b c d e f g h i 黄金伝説, p.288
  8. ^ a b 黄金伝説, pp.285-287

参考資料

[編集]
  • David Farmer (2011) (英語). The Oxford Dictionary of Saints, Fifth Edition Revised (Oxford Quick Reference). Oxford University Press. ISBN 978-0199596607 
  • ヤコブス・デ・ウォラギネ、前田 敬作(訳)、山口 裕(訳)、2006、『黄金伝説2』、平凡社〈平凡社ライブラリー〉 ISBN 978-4582765786