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ドイツの流行語大賞

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ドイツの流行語大賞(ドイツのりゅうこうごたいしょう、ドイツ語: Wort des Jahres)は、1971年に始まり、1977年以降毎年12月にドイツ語協会より発表される、その年最も流行したドイツ語流行語のことである。1位のみ表で掲載する。

ドイツ語 意味 説明
1971 aufmüpfig 反抗的 1960年代のカウンターカルチャー、特にドイツの学生運動を表した流行語
1977 Szene シーン 薬物シーン、ゲイシーン、ディスコシーンなど話題になるシーンを表した流行語
1978 konspirative Wohnung セーフハウス ドイツの実業家ハンス=マルティン・シュライヤーの誘拐殺人と、警察の捜査失敗に絡んだ流行語
1979 Holocaust ホロコースト 元はアメリカのTVシリーズ " (Holocaust" のこと、同年のアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所世界遺産登録など、ナチスの犯罪で公益が増加することを表した流行語
1980 Rasterfahndung 網目スクリーン犯罪捜査 警察のコンピュータ支援犯罪捜査におけるプライバシー情報の取り扱いについて、公開討論や政治討論が行われたことに絡んだ流行語
1981 Nullösung ゼロオプション 中距離核戦力全廃条約の協議の中で、アメリカから提案された「0-0提案」のこと
1982 Ellenbogengesellschaft ひじ社会(人を押しのけて成功する社会) 競争社会利己主義、無慈悲が蔓延し、思いやりが無くなった社会に発展することを恐れた批評家が使った言葉
1983 Heißer Herbst 暑い秋 NATO二重決定への反対と、平和運動が盛んになったことのに絡んだ流行語
1984 Umweltauto 環境に優しい車、低燃費車両 環境運動を参照
1985 Glykol ジエチレングリコール 1985年オーストリア産ワインジエチレングリコール混入事件を参照
1986 Tschernobyl チェルノブイリ チェルノブイリ原子力発電所事故を参照
1987 AIDS, Kondom AIDSコンドーム メディアがAIDS禍とセーファーセックスの啓発を行ったことによる流行語
1988 Gesundheitsreform ヘルスケア改革 この年の主要政治議論から
1989 Reisefreiheit 旅行自由化 ベルリンの壁の崩壊による流行語
1990 Die neuen Bundesländer 新連邦州
ドイツ再統一にからむ議論から
1991 Besserwessi besser (優良)と Wessi (西ドイツ人)を組み合わせ、類似ドイツ語にBesserwisser (知ったかぶり野郎)を掛けた言葉。 東ドイツ人と西ドイツ人に絡む流行語、関連:Jammerossi (愚痴こぼし東野郎)
1992 Politikverdrossenheit 政治倦厭 投票率の低下、政治への無関心を表した流行語
1993 Sozialabbau 社会給付の削減 ヘルムート・コール政権の緊縮財政政策
1994 Superwahljahr スーパー選挙年 1994年ドイツ連邦議会選挙1994年欧州議会議員選挙、それに加えて8州の選挙など20の選挙が行われたことから[1]
1995 Multimedia マルチメディア コンピューターやデジタル技術のような最先端技術のバズワードとして使われた
1996 Sparpaket 緊縮財政 ドイツ統一後の巨額な負担コストについての政治議論が多かったことから
1997 Reformstau 再編停滞 コール政権の年後半での政治停滞に絡む流行語
1998 Rot-Grün 赤-緑 ドイツ社会民主党同盟90/緑の党による、ゲアハルト・シュレーダー連立政権が発足[2]
1999 Millennium ミレニアム 西暦で1000年毎を区切る用語で、翌年の2000年を前に盛んに使われた[2]
2000 Schwarzgeldaffäre 闇献金事件 ヘルムート・コール首相の闇献金事件参照[2]
2001 Der elfte September 9月11日 アメリカ同時多発テロ事件参照
2002 Teuro teuer (高価)とEuroかばん語で、『トイロ』と読む ユーロ通貨導入による流行[2]
2003 Das alte Europa 古いヨーロッパ 古いヨーロッパ参照
2004 Hartz IV ハルツ第4法 ドイツ労働市場の再編政策[2]
2005 Bundeskanzlerin 連邦首相女性形 女性首相アンゲラ・メルケルが就任したことから[2][3]
2006 Fanmeile FIFA公認パブリックビューイング ドイツで開催された2006 FIFAワールドカップのパブリックビューイングイベントから[2][3]
2007 Klimakatastrophe 地球温暖化による災害 ドキュメンタリ映画『不都合な真実』とIPCC第4次評価報告書により、地球温暖化問題が注目されたため[3][4]
2008 Finanzkrise 経済危機 世界金融危機による流行[5]
2009 Abwrackprämie 廃車ボーナス スクラップインセンティブ (自動車)を参照[6]
2010 Wutbürger Wut (怒り)とBürger (市民)のかばん語 巨額の資金がかかるなどの問題を抱えたシュトゥットガルト鉄道網再編計画「Stuttgart 21」などに抗議活動を行う「怒れる市民」の事。Stuttgart 21は2位にランクイン[7]
2011 Stresstest ストレステスト 2011年欧州銀行ストレステスト福島第一原子力発電所事故を受けてドイツの原発、さらに「Stuttgart 21」計画の調停処理などに使用された[8]
2012 Rettungsroutine 救済の繰り返し ドイツの政治家Wolfgang Bosbachの造語。欧州債務危機で駆けずり回るドイツ議会の様子から[9]
2013 GroKo Große Koalition大連立)の略 キリスト教民主同盟キリスト教社会同盟(CDU/CSU)とドイツ社会民主党(SPD)の大連立樹立から[10]
2014 Lichtgrenze 光の境界
Christopher Bauderインスタレーション・アート作品の名称、ベルリンの壁崩壊から25年を記念して壁のあった場所に沿って設置された。
2015 Flüchtlinge[11] 難民
2015年欧州難民危機を受けて流行した。[12]
2016 postfaktisch[13] ポスト真実 この言葉は英語の「Post-truth」と同じ意味で、「Post-truth」自体も英語の2016年度流行語大賞となっている[14]客観的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する状況を示す形容詞である[15]

「今年は欧州連合(EU)からの英国離脱、米大統領選挙などで、政治的、社会的な問題が真実ではなく感情で議論され、社会が明白なうそを受け入れた現象が目立った」とドイツ語協会は選出理由を語った[16]

2017 Jamaika-Aus ジャマイカ消える
ジャマイカの国旗
ジャマイカの国旗
メルケル政権が目指した連立政権の政党カラー(ドイツキリスト教民主同盟の黒、自由民主党の黄色、緑の党の緑から)を並べると、ジャマイカの国旗を構成する色となることから「ジャマイカ連立」と呼ばれた[17][18]。が、2017年11月に自由民主党が脱退して失敗に終わり[19]、ドイツ政治の難しい現状と言語学的な興味深さから選ばれた[20]。2位はEhe für alle(結婚を全ての人に)、3位は#MeToo
2018 Heißzeit 熱期、もしくは暑期 ヨーロッパを襲った長期間(4月から11月まで続いた)の熱波と、気候変動への危惧から選ばれた。(「氷河期」(Eiszeit)を意識して造られた意味でも興味深い)[21]
2019 Respektrente 尊敬年金 長年の雇用にもかかわらず、これまで非常に少ない年金しか受けていない男性と女性のための基礎年金の計画的な導入について。フベルトゥース・ハイル労働社会大臣のスピーチで「生涯の功績は尊敬に値する。」と述べたことから[22]。2位はRollerchaos(ローラーの混乱)で無秩序な電動スクーターによる混乱を表している。3位はフライデーズ・フォー・フューチャー
2020 Corona-Pandemie コロナパンデミック 2位ロックダウン、3位陰謀論(コロナ関係やトランプ大統領の不正選挙から)、4位ブラック・ライヴズ・マター、5位AHA(Abstand(距離)、Hygiene(衛生), Alltagsmaske(常時マスク)の頭文字から)、6位:systemrelevant((社会)システムに関わる(人々)、コロナ禍でも社会を維持するために不可欠な人々から)、7位トリアージ、8位ゴーストゲーム(無観客試合)、9位ジェンダースタードイツ語版(ドイツ語の男性と女性の職業の複数形で別の接尾語が付くが、差別をなくすため~*innen ~イネンという形を取るよう促進する活動)、10位 Bleiben Sie gesund! 健康でいてね!(コロナが流行する世の中の別れの挨拶として定着していることから)[23][24]
2021 wellenbrecher 防波堤 防波堤は、コロナウイルス流行の波を止める活動全般を指す言葉。2位連帯(SolidAHRität:連帯を意味する Solidarität と洪水を起こしたアール地方をかけた言葉で、アール地方への支援活動を意味する)、3位Pflexit(看護を意味するPflegeと辞めることを意味するExitを組み合わせた語:重労働になる現場と低賃金で看護スタッフが辞めていく現状を示唆している)4.強制予防接種。5.Ampelparteien(信号機+複数政党で信号機連立:各政党のイメージカラーSPD(赤)、緑の党(緑)、FDP(黄)から)、6. Lockdown-Kinder(子供のロックダウン、子供時代の貴重な2年間をストレスのかかるロックダウンで過ごしたことを意味する語)7. Booster(3度目に行うブースター予防接種のこと)8. freitesten(frei+test+en = 無料検査する)9. Triell(三つ巴の決闘英語版、選挙から)10. fünf nach zwölf(12時を5分過ぎた。要するに行動が遅いことを指摘している。この行動とは、パンデミックや気候変動への対応などを指す)[25]
2022 Zeitenwende 時代の変わり目[26] 2022年ロシアのウクライナ侵攻後の危機感から[26]。2位はKrieg um Frieden(平和のための戦い)、3位はGaspreisbremseドイツ語版(ガス代抑制補助金)

参考文献

[編集]
  1. ^ 外交青書(欧州)-(外務省)
  2. ^ a b c d e f g The German Word of the Year”. About.com. 2016年5月12日閲覧。
  3. ^ a b c 'Climate Catastrophe' is the Word of the Year in Germany”. Atlantic Review (8 December 2007). 2016年5月12日閲覧。
  4. ^ 'Klimakatastrophe' picked as Germany's word of year”. Reuters (7 December 2007). 2016年5月12日閲覧。
  5. ^ 'Finanzkrise' German word of the year”. The Local (11 December 2008). 2016年5月12日閲覧。
  6. ^ 'Abwrackprämie' named word of the year”. The Local (18 December 2009). 2016年5月12日閲覧。
  7. ^ 'Wutbürger' named word of the year”. The Local (17 December 2010). 2016年5月12日閲覧。
  8. ^ 'Stresstest' is German word of the year”. The Local (16 December 2011). 2016年5月12日閲覧。
  9. ^ 8 Words of the Year from Other Countries”. Mental Floss (9 January 2013). 2016年5月12日閲覧。
  10. ^ “GroKo ist Wort des Jahres” (German). Süddeutsche Zeitung. (13 December 2013). http://www.sueddeutsche.de/kultur/deutsche-sprache-groko-ist-wort-des-jahres-1.1842779 13 December 2013閲覧。 
  11. ^ Wort des Jahres”. Gesellschaft für deutsche Sprache. 22 February 2016閲覧。
  12. ^ 185 000 first time asylum seekers in the EU in the first quarter of 2015”. Eurostat (18 June 2015). 2016年5月12日閲覧。
  13. ^ Wort des Jahres”. Gesellschaft für deutsche Sprache. 22 February 2016閲覧。
  14. ^ “post-truth”の時代の始まりWIRED.jp
  15. ^ 「ポスト真実」が今年の言葉 英オックスフォード辞書(BBC)
  16. ^ 今年の一語、「ポスト真実」に決定(ニュースダイジェスト ドイツ)
  17. ^ ドイツで連立協議始まる、3党「ジャマイカ」連立への道のり長く(ロイター)
  18. ^ 川口マーン惠美『そしてドイツは理想を見失った』KADOKAWA、2018年、201頁。ISBN 978-4-04-082217-4 
  19. ^ ドイツの連立協議が決裂:識者はこうみる(ロイター)
  20. ^ "Jamaika-Aus" ist Wort des Jahres(ドイツの新聞社ディー・ツァイト
  21. ^ ドイツにおける「2018年の言葉」は Heißzeit(暑期) 学習院大学ドイツ語圏文化学科
  22. ^ „Respektrente“ ist Wort des Jahres – „Rollerchaos“ auf Platz 2ターゲスシュピーゲル 更新日:29.11.2019 参照日:2019.12.5
  23. ^ GfdS wählt »Corona-Pandemie« zum Wort des Jahres 2020 gfds(ドイツ語協会) 更新日:30. November 2020 参照日:23. November 2021
  24. ^ ドイツにおける「2020年の言葉」は Corona-Pandemie(コロナ・パンデミック) 学習院大学ドイツ語圏文化学科 更新日:2020.12.22 参照日:23. November 2021
  25. ^ GfdS wählt »Wellenbrecher« zum Wort des Jahres 2021 gfds(ドイツ語協会) 更新日:3. Dezember 2021 参照日:3. Dezember2021
  26. ^ a b ドイツの流行語大賞2022は? - 今年は「時代の変わり目」 - ドイツ生活情報満載!ドイツニュースダイジェスト”. www.newsdigest.de. 2022年12月23日閲覧。

関連項目

[編集]
他国の流行語大賞