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2023年11月30日 (木) 16:05時点における版
Elmer | |
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発売日 | 2006–2008 |
話数 | 4 |
主要キャラ | ジェイク・ガリョ (Jake Gallo) |
ページ数 | 144ページ |
出版社 | コミケロ・パブリッシング スレイヴ・レイバー・グラフィックス |
制作陣 | |
製作者 | ジェリー・アランギラン |
オリジナル | |
言語 | 英語 |
ISBN | 978-1-59362-204-6 |
『エルマー』(原題: Elmer)はフィリピン人の漫画家ジェリー・アランギランによるフィリピンのコミック作品。初出は2006年から2008年にかけて自己出版レーベル Komikero から出された全4号のミニシリーズで、2009年に単行本化された。翌年にエディショ・サエラからフランス版が、スレイヴ・レイバー・グラフィックスから北米版が刊行された。
ニワトリが突如として人間と同じレベルの知性と言語能力を獲得した世界が舞台となる。主人公ジェイク・ガリョは知性あるニワトリの第二世代で、亡くなった父親エルマーからニワトリが人間との平等を実現するまでを書き綴った20年にわたる日記を受け継ぐ。ジョージ・オーウェルの『動物農場』と比較されることがあり、題材のシリアスさや作画は高く評価されている。フランスで2件の受賞があり、米国でアイズナー賞のノミネートを受けた。
制作
アランギランが育ったラグナ州サン・パブロは、ニワトリが街路を闊歩するフィリピンの中でも田舎の地方都市だった。アランギランは1990年代中ごろまでにウィルス・ポータシオやレイニル・フランシス・ユーのような人気作画家のインカー(ペン入れ担当)としてアメリカのコミック界に地歩を築き、DCコミックスやマーベル・コミックス、イメージ・コミックスで活動するようになった[1][2][3]。アランギランは元来ニワトリを好んでおり、1997年ごろからニワトリが出てくるコミックストリップを描き始め、『クレスト・ハット・バット・ショップ』というタイトルのミニコミック(自己出版コピー本)で発表した。作品の一つは「ストゥーピッド・チキン・ストーリーズ」という題だった[4]。
2005年にその続編『アルティメット・チキン・ストーリー』に着手し、「これまでニワトリについて書かれた中でもっとも馬鹿馬鹿しい作品」として構想した。しかし執筆前に一年以上にわたってニワトリについて調べる中でシリアスな方向にアイディアが膨らんでいき、ニワトリを題材として広く人間性について、我々が互いをどう扱っているかについて
を語る作品へと発展した[4][5]。
アランギランは制作途中で原稿から煽情的だったりあざといと感じられる部分を削除したため、最終的な作品はまったく異なったものとなった[5]。当初は知性あるニワトリの俳優エルマーの視点から描かれており、ニワトリが人間に襲われるが実は映画の撮影だったというシーンから始まっていた。しかし導入がギミックのように感じられたためこのシーンは物語の中盤に移された[4]。物語の焦点も、ダビッド・ベーの『大発作(L'Ascension du Haut Mal) やデビッド・マッズケリ の『シティ・オブ・グラス』(ポール・オースターの小説が原作)のようなコミック作品の影響でエルマーの息子ジェイクに移された[6]。十代のころに父親の日記を見つけて叔父の死について知ったという作者自身の経験も取り入れられた。この変更により本作はアランギランと両親、そして老いていく両親を失う恐怖
についての作品になった[7]。
知性あるニワトリという題材はファンタジーやSFにもなり得たが、アランギランは純粋なドラマとして書くことにした[5]。物語がシリアスになりすぎて『アルティメット・チキン・ストーリー』という軽い題名がふさわしくなくなると『エルマー』に改題された[4]。第1号の制作を始めたときにはストーリーは完成していた。海外で読まれることを期待して文章ははじめから英語で書かれた[4][7]。
作画は2005年の始めごろに開始された。Mongolの鉛筆や筆を用いてアナログで描かれていた[5][8]。アランギランは自身の初期作『ウェイステッド』の作画が低質だと考えていたため『エルマー』では細心の注意を払って描いた[5]。本作の制作に専念するため米国コミック界での仕事を休止せざるを得ず、2006年から2年間ほどは作者アランギランにとって人生でも最も生活の苦しい時期だった[4]。
刊行
アランギランは本作が後に高評価を得ることを予測していなかったが、少なくとも業者に製本印刷を依頼する価値はあると考えていた[4]。2006年から2008年にかけて全4号のミニシリーズが「コミケロ・パブリッシング」という自己出版レーベルから刊行された[2][7]。第2号と第3号は通常のコミックブックの2倍のページ数があった[5]。アランギランは2006年に第1号をネット上のコラムニストやレビュアー、小売店、業界関係者に献本した。この草の根宣伝活動は功を奏し、著名なコミック原作者のスティーヴン・グラントやニール・ゲイマンから好意的な評が寄せられた。批評家トム・スパージョンのサイト「コミックス・リポーター」に掲載されたインタビューは大きな注目を受けた[4]。大手書店チェーンフォビドゥン・プラネットはアランギランに直接オファーして本作を販売した[7]。
シリーズが完結するとアランギランは全号のボックスセットを発売し、2009年にフィリピノ語版の単行本を出版した[9][10]。単行本の初版が2011年にほぼ完売すると、アランギランはフィリピンの書店チェーンナショナル・ブックストアから第2版出版のオファーを受けた。「コミケロ・パブリッシング」の表示と作品の著作権は作者のもとに保たれた。この版は表紙が変わっておりページも追加されているがフィリピン国外では販売されていない[9]。
『エルマー』に関心を示す国外出版社もあったが、なかなか刊行には至らなかった。アランギランは読者の関心に訴えるため完売した第1号をオンラインで無料公開した。その結果、2010年にフランスでの版権がエディショ・サエラ社に取得された[4][11]。北米ではスレイヴ・レイバー・グラフィックスから144ページの合本が出版され[12][13]、デジタル配信も行われた[9]。
あらすじ
1979年、詳細不明の現象によって全世界のニワトリが人間と同程度の知性を獲得して言葉を話し始めた。2003年現在、ニワトリと人間は対等な市民になっているが、知性あるニワトリの第二世代であるジェイク・ガリョは社会に居場所を見つけられず、人間男性と結婚しようとしている妹や、映画スターとなった弟に反発を抑えられない。
父親のエルマーが病で倒れたという知らせを聞いたジェイクは田舎の実家に戻り、母ヘレンから遺された日記を受け取る。そこにはエルマーが知性に目覚めはじめてからの経験が記されていた。
1979年にまず起こったのはニワトリと人間との殺し合いだった。養鶏場で働いていた人間ベンは負い目から幼い三羽のニワトリを匿った。それがエルマーとヘレン、そして叔父ジョセフだった。エルマーはベンと友情を結び、処理場から逃げ出したトラウマを抱えるヘレンとも絆を深めていく。しかし闘鶏として育てられたジョセフは怒りを抑えられず、ニワトリを狩り立てる人間と闘って命を落とす。
テロリズムの応酬の末に国連によってニワトリの人権が確立され、社会は一変したかに見えた。しかし1980年代後半に鳥インフルエンザが発生すると、感染を防ぐためと称して健康なニワトリが何百万羽も殺される。エルマーはすべてを記録していく。しかしヘレンとの間に子供たちが生まれるにつれて日記の記述はまばらになっていく。
日記の結末近くには、ジェイクが幼い頃に人間から受けたリンチのことが書かれていた。その記憶を心の奥底に押しやっていたジェイクは、自分がニワトリの反人類団体によって救われたことを知る。エルマーは息子がどんな影響を受けることになるかという憂いを書き残す。
数か月にわたって日記と対話したジェイクは、それを出版して人々の記憶に残そうとする。またベンや弟妹を通じて人間を受け入れようとし始める。
評価
『エルマー』は批評家から概ね高い評価を受けており、フランスでは2011年にACBCアジア賞と Prix Quai des Bulles Award を授与された。また同年にアイズナー賞新作グラフィック・アルバム部門にノミネートされた[4][11][14][15]。英国の大手小売チェーンのフォービドゥン・プラネットは本書をジョージ・オーウェルの『動物農場』になぞらえてこどものおとぎ話のようなアイディアによって … 道徳、家族、偏見のような題材を論じている
と評し、割引セールで販売した[6][16]。『動物農場』との類似はスレイヴ・レイバー・グラフィックス出版者ダン・ヴァドーや批評家カール・ドハーティも指摘している[2][7]。著名な作家ニール・ゲイマンはフィルスター・グローバル紙のインタビューで本書について痛切でおかしみがある
、また絵が素晴らしい
と述べた[17]。ベテランのコミック原作者スティーヴン・グラントは成熟した作家の一作
と言った[18]。
作画はシリアスな内容を引き立てていると評価されている。『パブリッシャーズ・ウィークリー』誌は本作の絵がどう見てもバカげている設定に本当らしさを吹き込んでいる
と書いた[13]。ジェフ・ヴァンダーミーアも本作の絵が細密でありながら乱雑にならず、プロットにリアリズムを与えていると述べた[12]。レビュアーのクリストファー・アレンはアランギランの才能あるペンタッチが農村の事物の質感によく表れているとした[1]。グレッグ・マケルハットンはニワトリをダジャレやジョークに使うような逃げは一切なく、正面から主題を描いている
としている一方、ジェイクがエルマーと比べてキャラクターとして人を打つところがないとした[3]。
脚注
- ^ a b Allen, Christopher (2011), "Christopher Allen Reviews Elmer," Trouble With Comics. Retrieved January 13, 2017
- ^ a b c Doherty, Carl (January 2, 2011), "Elmer Graphic Novel Review," Shelf Abuse. Retrieved January 13, 2017
- ^ a b McElhatton, Greg (December 13, 2017), "Elmer," Read About Comics. Retrieved January 13, 2017
- ^ a b c d e f g h i j Rumpus, Ron (July 18, 2011), "RonReads Interview: Gerry Alanguilan," Ron Reads. Retrieved January 13, 2017
- ^ a b c d e f Spurgeon, Tom (October 14, 2006), "A Short Interview With Gerry Alanguilan," Comics Reporter. Retrieved January 13, 2017
- ^ a b Gordon, Joe (September 6, 2010), "I Feel Like Chicken Tonight - Gerry Alanguilan Talks Elmer Archived 2013-05-24 at the Wayback Machine.," Forbidden Planet. Retrieved January 13, 2017
- ^ a b c d e Arrant, Chris (January 3, 2011), "Walk a Mile in the Shoes of Chickens in SLG's Elmer," Newsarama. Retrieved January 13, 2017
- ^ (January 28, 2009), "10 Questions for Gerry Alanguilan," Comics Career. Retrieved January 13, 2017
- ^ a b c Ela, Norby (October 12, 2011), "Cluckin' Elmer Interview With Gerry Alanguilan," Flip Geeks. Retrieved January 13, 2017
- ^ Alanguilan, Gerry (2011), from the afterword in the Elmer trade paperback, Slave Labor Graphics
- ^ a b "Elmer" (French), Ca Et La. Retrieved January 26, 2017. English translation
- ^ a b Vandermeer, Jeff (February 1, 2011), "Gerry Alanguilan’s Elmer," The Southern Reach. Retrieved January 13, 2017.
- ^ a b "Elmer: A Comic Book," Publishers Weekly. Retrieved January 13, 2017
- ^ Tano, Duy (June 2011), "Comics Cube Revies Eisner Nominated Elmer," Comics Cube. Retrieved January 13, 2017
- ^ "Prix Quai des Bulles," Quaidesbulles (French). Retrieved January 24, 2017. English translation
- ^ Gordon, Joe (July 25, 2006), "Did You Miss Me? Gerry Alanguilan's Elmer Archived 2016-11-19 at the Wayback Machine.," Forbidden Planet. Retrieved January 13, 2017
- ^ Ledesma, RJ (March 21, 2010), "Sandman Hearts The Dork Knight," PhilStar Global. Retrieved April 19, 2017
- ^ Grant, Steven (June 13, 2006), "Issue #248," Comic Book Resources. Retrieved April 19, 2017