酔って車内で話す軍関係者……防諜徹底望む(1941年8月10日)

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 都会地に僻地に防諜が強く叫ばれ、国民が挙ってその実行に邁進しつつある今日、今更本欄に防諜(ぼうちょう)の徹底等を云々するは愚に近い意見と思うであろうが、最近左の様な実例を見るに至って痛感し、一言公告する次第である。

 小生去る3日夜、私用のため社人宅を訪れての帰途、山手線某駅より乗車した2人の男を見受けた。その服装から見れば、政府直轄軍需工場或いは軍直轄技術研究所の技手である人達と思う。而もふたりとも相当酩酊しているらしく、廻らぬ語調で大声をあげ種々様々な女性の批評を始めた。周囲の乗客の殆どはこのふたりの態度に眉をひそめていた。

 そのうち会話の内容が変わったと思っていると、今度は支那事変や独ソ戦に就いて論じ始めた。まあこの辺りまでは問題外としても、次に口を衝いて出た言葉は何と自分の担任している職場の生産能力の話ではないか。如何に泥酔しているとはいい乍ら、数十名場合によっては数百名の工員を指導し且つ監督すべき立場にある人間が、場所もあろうに、かかる車内等で軍機を堂々と論じ合うとは常識では判断しかねる。

 われわれ職務違いの者には、会話の内容の詳細はわからぬとしても、万一これがスパイ等の耳にでもと思う時戦慄を禁じ得ない。願わくば、今後絶対にかかる事なきよう軍関係諸処の厳重取締を要望する次第である。(埼玉)(1941年8月10日)

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※東京本社版の投書の字体を改め、
表現などは当時のまま掲載しています。

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