FASHION/TREND

ラグジュアリーブランドも参戦。アートがもたらす自由の風

今年も世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク 」が開催された。ラグジュアリーブランドも積極的に参加した、最先端のデザインが生まれる場所で披露された、注目の作品やコラボレーションとともに、アートやデザインが日常にもたらす喜びを探る。

エルメス、グッチ、ボッテガ・ヴェネタ etc…人気ブランドが手掛けるインテリアに注目

エルメス:2002 年制作のネックレスにインスパイアされたラ ウンジチェア「ディアパゾン・ドゥ・エルメス」。Photo: ©Maxime Verret

年 々その規模は拡大し、注目度も増している「ミラノデザインウィーク2024」。今年は1800以上のブランドが参加した同デザインウィークでは、かつてないほどファッションメゾンの存在感が際立っていた。 ファッションがライフスタイルという大 きなくくりで語られるようになった今、ラ グジュアリーブランドとデザインやアート の関係はますます親密になり、その可能性を広げている。

エルメス:「ダービー」は 1949 年のバッグがヒントに。Photo: ©Maxime Verret

エルメス:騎手の服にヒントを得たテキス タイル。Photo: ©Maxime Verret

Maxime Verret

エルメス:60 年代のジョッキー服はベッドカバー「イピック」の着想 源に。Photo: ©Maxime Verret

エルメス:会場の空間演出は、16 種の石、10 種の土、 4種の木材、再利用されたレンガの素材を使用。Photo: ©Maxime Verret

Maxime Verret

長く「ミラノデザインウィーク」を牽引しているエルメスは、メゾンの過去の製品を保管するコンセルヴァトワールに眠るア ーカイブを紐解いて生まれた新作コレクシ ョンを発表。時代やトレンドに左右される ことのないクリエーションを浮かび上がら せた。

ロエベ:2019 年にロエベ財 団のクラフトプライズを受賞した漆作家の石塚源太によるペンダントランプ。

ロエベ:ケニヤ生ま れのイギリス人陶芸家デーム・マグダレン・ オドゥンドは、レザーを使用したペンダントラ ンプを制作。

同じくデザインウィークの常連であるロエベは、ロエベと縁の深い 名のクラフトアーティストたちによる、ランプの展示「ロエベ ランプ」を開催。竹やレザー、ガラス細工など、それぞれ異なる作風や素材を使用するアーティストたちが、「ランプ」というお題に呼応する展示は、多くの話題をさらった。

ボッテガ・ヴェネタ:カッシーナ社とル・ コルビュジエ財団と提携し、壮大なインスタ レーション「On the Rocks」を発表したボッ テガ・ヴェネタ。会場には木製のスツールな どに加え、ブランドのシグネチャーであるイ ントレチャート フーラード技法(編み込みレ ザー技法)で覆われたスツールも展示された。

マチュー・ブレイジー率いるボッテガ・ヴェネタは、カッシーナ社とタッグを組み、デザイン界の巨匠ル・コルビュジエが手がけたスツール「LC タブレ カバノン」に、オマージュを捧げる展示を実施。コル ビュジエが浜辺に打ち上げられたウィスキ ーの木箱にインスパイアされたというミニ マルなスツールに、ファッションブランド の目を通し新たな物語を吹き込んだ。

ロロ・ピアーナ:ミラノの 偉大な建築家&デザイナーのチニ・ボエリの 生誕100 周年とロロ・ピアーナの創立100 周年 を記念したインスタレーション「A Tribute To Cini Boeri」を開催。チニ・ボエリが1979年 に手がけた家具に、ロロ・ピアーナの洗練さ れたファブリックを纏わせた。

MATTIA AQUILA

また、今年ブランド創立100周年を迎 えたロロ・ピアーナは、やはり今年生誕1 00周年となるミラノの建築家兼デザイナ ーのチニ・ボエリがデザインしたチェアと、ブランドの上質なファブリックをコラボ。お互いの長きにわたる歴史を祝福した。

グッチ:「ACERBIS X GUCCI“STORET”キャビネット」。

Delfino Sisto Legnani

グッチ:「Tacchini x GUCC“I Le Mura”ソファ」(グッチ)。

グッチ:「FontanaArte x GUCCI“Parola”テーブルランプ」。


2024年春夏コレクションでデビューを飾ったグッチのクリエイティブ・ディレクター、サバト・デ・サルノは、そのファーストコレクションで発表したブランドの新シグネチャーカラー「ROSSO ANCORA」を通して自身のヴィジョンを表現。イタリアン・デザインの巨匠たち(トビア・スカルパ等)の作品に着想を得た、5つの名作家具に現代的解釈を加えて復刻させた。

サンローラン:サン・シンプリチャーノ教会を会場に「ジオ・ポンティ:プランチャート 邸」展を開催。

サンローラン:ジノリ 1735 とコラボレーショ ンを行い、1957 年にジオ・ポンティがデザイ ンしたオリジナルプレート12 点を復刻展示し た。

一方で、今年デザインウィーク初参加となったサンローランは、イタリアン人デザイナーのジオ・ポンティのプレートを復刻展示。

バレンシアガ:何年にもわたり続いている「アート・イ ン・ストアプロジェクト」の一環として、アメ リカ人アーティストのアンドリュー・J・グリ ーンの 8 つのオリジナル作品を展示。写真はその一つであるレザー製の Chips Bag。

Annik Wetter

バレンシアガは何年にもわたって進行中の「アート・イン・ストアプロジェクト」を更新。アメリカ人アーティスト、アンドリュー・J・グリーンの作品をショーウインドウにディスプレイし、道行く人たちの視線をさらった。

PRADA:バガッティ・ヴァ ルセッキ美術館で開催されたシンポジウム、「PRADA FRAMES」の様子。今年は居住空間 に目を向けた「Being Home」をテーマに、建 築家や人文学者など、各界から専門家が招か れて講演が行われた。

他とは異なるアプローチをみせたのは、 3年前からプロダクトを展示する代わりに、 自然環境とデザインの関係を掘り下げるた めに、専門家たちを招いて学際的なシンポ ジウム「PRADA FRAMES」を開催しているプラダ。一見、ファッションとはあまり接点がないように思われる法律家や学者など、多様な分野から専門家を招き、価値ある知識を一つに結集しようとする、多角的な試 みを行っている。 各ブランドのクリエイションや試みから わかるのは、イノベーションはさまざまな ジャンルの人たちとの対話やコラボレーシ ョンによって生み出され、一人の人間の力 でできるわけではないということ。モノや 人がポジティブに刺激し合って生まれるア ートやデザインこそ、閉じていく世界に生 きる私たちに、今最も必要な純粋かつ自由 な、幸せのつながりなのかもしれない。

Text: Rieko Shibazaki
Editor: Gen Arai

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バッグとインテリア、 アートな共犯関係

人が使うことを前提としながら、 その機能性を自由で創造力にあふれたデザインに落とし込んだ逸品たち。 24年春夏シーズンの注目バッグと個性派インテリアのユニークな競演をご覧あれ。

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