ランウェイから紐解く、最旬スタイル
新しい自分に出会う方法として、髪を切るということはかなり手っ取り早く、かつ効果的な手段であるのはご存じの通り。ただ、どんなスタイルにすればいいのか悩ましいところだが、今回はサロンワークと雑誌や広告現場でのクリエイション、ダブルの視点を持つ二人にヒアリングを行った。そこでまず見えてきたのが、本格的なショートブーム到来の予兆だ。
ヘアスタイリストのHORIさんは、こう分析する。「ミュウミュウやドルチェ&ガッバーナ、ヴェルサーチェをはじめ、コンパクトなショートヘアが散見されました。ギークだったりガーリーだったりと落とし込み方はさまざまですが、どれも潔い短さが特徴だと思います」。
また、ヘアサロン「THE OVERSEA」のトップデザイナーのAkiさんは、「NYの『SHIZEN BROOKLYN』という系列店では、すでにピクシーショートのオーダーがかなり入っています。コロナ禍がおさまって人々がアクティブになり、1年経った今、さらにギアを入れたい気持ちからか大幅なメイクオーバーをリクエストする人が多いようです」と、語る。サラリとしたミニボブに近いシルエットではなく、ベリーショートかつラフさが共通のポイントに。HORIさんいわく、「中途半端な長さではなく大胆にカットしたショートに、適当にスタイリング剤をつけたくらいのパサッとしているくらいがこなれて見えます。顔全体がコンパクトに見えて、顔の形はさほど選ばないはず」とのこと。
「ピクシーショートの不動のアイコンといえば、ジーン・セバーグですが、まさに今季はそんなレトロバイブスを感じさせるスタイルが復活していると思います。柔らかい髪質のほうが確かに動きは出しやすいですが、アジア人に多い硬い髪質の場合でも、レザーカットを混ぜながら調整をしていけば再現することは不可能ではありません」(Akiさん)。
このレトロバイブスというキーワードは、実は今季の共通項になりうると二人の意見は一致する。HORIさんは、「今回ランウェイのスタイルを見ていて、個人的に一番気分だったのがセリーヌのメッシーなカーリーボブ。どこか70sを感じさせるレトロなムードで、絶妙に抜け感があって刺さりました。以前まではストリート色が強かったイメージですが、今シーズンはそこにもう少しキャラクターを加えたスタイルに移行してきている気がしています」と、振り返る。
大きくスタイルチェンジをせずとも印象を変えるには、前髪も忘れてはならない。HORIさんは「ボッテガ・ヴェネタなど、目もとギリギリで毛先のはねたカーテンバングも、やはり70sを感じずにはいられない」と、話す。レトロムードの中でも、今っぽさの秘訣は何だろうか。Akiさんは「サイドにかけて長めにつながるバングですが、毛先が不ぞろいにはねていてまるでジェーン・バーキンのよう。ただ、質感も毛量も重くないのが今っぽさのカギに」と教えてくれた。
Akiさんは日々のサロンワークの中で、すでにボブヘアの変化を感じているそうだ。「切りっぱなしのようなスタイルは減ってきて、最近はレイヤーなど高低差のある、動きや質感のあるボブを作ることが増えています。これはY2Kトレンドが引き続いている影響もあるかと。スタイルに主張が出てきている分、カラーヘアはやや落ち着いて、ナチュラルトーンにスライドしている気配が」。
話を聞いたのは……
HORI
ホリ。ヘアスタイリスト。ヘアサロン勤務後、2008年にヘアスタイリストのTETSU氏に師事し、14年に独立すると同時に渡米。帰国後は広告やCM、雑誌等幅広いフィールドで活躍中。繊細な毛さばきと柔軟な感覚で、業界スタッフたちからの信頼も厚い。
Aki
アキ。日本に「THE OVERSEA」、NYに「SHIZEN BROOKLYN」を構えるヘアサロンのトップデザイナー兼クリエイティブディレクター。常に世界視点でヘアの動向をキャッチし、いち早く独自のクリエイティビティに落とし込む仕上がりで、数多くのファンを獲得する。
Text: Kazuko Moriyama Editor: Risa Yamaguchi
※『VOGUE JAPAN』2024年4月号「春のニューヘアー・ニューミー」転載記事。