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9月3日夜に開催されたフェティコ(FETICO)のショーの会場は、東京タワーの麓にあるスタジオだった。中に入ると、湾曲した白い壁を前に三角形を描くように客席が設けられている。Rakuten Fashion Week TOKYO期間中に配られている業界紙で、デザイナーの舟山瑛美は1990年代に名を馳せたモデル、ヴェロニカ・ウェブとピーター・グリーナウェイ監督の映画『Drowning by Numbers(数に溺れて)』(1988)が着想源だと語っていた。4Kリマスターされた同作が今年の3月に劇場公開されたのが記憶に新しいが、多くのクリエイターたちが参照し、ジャンポール・ゴルチエが衣装を手がけた作品があるなど、ファッションとも親和性の高い監督の世界観をどう料理するのか。
暗転して壁全面に水を思わせる映像が映し出され、プロジェクターを配備したこの会場を選んだ理由が判明する。やがて「The Secrets」というタイトルが浮かび、ライティングで形作ったランウェイの上をモデルが歩いてきた。薔薇を思わせるフォルムを描き、後ろが大胆に開いたトップに前に深いスリットが入ったロングスカートというモノトーンのルック。共に透ける素材で仕立てられている。
ただ全体に、ピーター・グリーナウェイらしい、彩度が高く、凄みさえ感じさせる耽美的なムードはそこまで存在しない。ショーの後取材に応じた舟山によれば、出発点は1980年代の古着だったよう。
映画『数に溺れて』は、演出に加え、薔薇やポルカドットのモチーフに反映させたという。「淡い色の世界観や、つかみどころのない白昼夢を見ているような曖昧な感覚」もリンクしている。
そしてタイトルの「The Secrets」については、次のように語った。
「今、SNSなどで自身をさらけ出すことを良しとする風潮があるように思うのですが、私はミステリアスな女性に魅力を感じます。映画『数に溺れて』に登場する、秘密を持った女性たちもインスピレーションになりました」
また、今季も日本の繊維産地や職人と協業しており、立体的な薔薇のモチーフが浮かび上がるアイテムは群馬県桐生市で制作したオリジナルのジャカード生地を、デニムは岡山で加工したオーガニックコットンを用いている。
振り返れば、コレクションを通して一番印象に残るのは1980年代の精神だ。全てのルックの足もとはベロクロストラップが施されたスクエアトウのレザースニーカーで、舟山によれば「普段どちらかというとヒールよりスニーカーを履くタイプだし、ヒールでスタイリングを完成させるのももちろんかっこいいけど少し崩してリアルにしたい」という意図があったようだが、当時風のクールなのかダサいのかどうか判断に迷うようなギリギリの感じを醸していたように思う。
決してスタイルアップは望めないし、女性の造形美や官能性を求めるファンたちは少し面食らってしまうのかもしれない。しかし、舟山は80年代のリサーチをしてみて「女性たちに自信がある感じを受けてそこに惹かれる」と言っており、コレクションにはまさに自信を持って攻める姿勢があった。当時を生きたパワフルな女性たちにならってか、すでに得ている高い評価や人気に甘んじることなく、着想源を独自に解釈し、冒険心を持って進化しようとする舟山を頼もしく感じるのだった。
Photos: Courtesy of Fetico Text: Itoi Kuriyama