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「人を助けることで、自分自身も大いに癒されると信じています」──セレーナ・ゴメスが語るメンタルヘルス、キャリアと自身のビューティーブランド「Rare Beauty」。スペシャルロングインタビューを全文公開

イノセントな愛らしさと洗練された大人の美しさが魅力のセレーナ・ゴメス。俳優、ミュージシャン、実業家として活躍する彼女は、そのポジティブな発言力で人々を惹きつけてやまない。ミリオンセラー作家のアレハンドラ・カンポヴェルディが、30代となり思い悩みながらも前へと進む等身大の彼女に迫る。

コート ¥2,475,000(予定価格)/PRADA(プラダ クライアントサービス)

Photo:MICHAEL BAILEY-GATES

嵐を乗り越えて進むセレーナ・ゴメス、その癒し、癒される力とは。「人を助けることで、自分自身もまた大いに癒されると、私は信じています」と、セレーナ・ゴメスは私に語った。そう真摯に語るセリーナは、シンプルな黒のスウェットシャツを纏い、黒のヘッドバンドでラフにとめられたブラウンのショートヘアが、ノーメイクの顔にはらりとかかっている。

深読みの余地がないほどシンプルな発言にも思えるが、彼女がこの言葉に込めた意味は、決して単純なものではないことを、私は知っている。彼女と同じくラティーナで、厳しい環境で育ってきた私には、このような境地に至るまでに多くの苦労があったことが手に取るようにわかる。これは、想像もできないほど過酷な体験から生まれた言葉なのだ。

それは現実社会の容赦ない痛みによって心をこじ開けられ、打ちのめされた経験だ。その痛みは、あらゆる場面で自身を過小評価されることでさらに強まる。自分の価値を証明できたと思っても、世間はそうは思ってくれない。だがその痛みを感じる自分の弱さをさらけだすと、同じように感じている見ず知らずの人との間に絆が生まれる─これがセレーナと私の共通理解だ。

この10年ほどの間に、セレーナは腎臓移植を受け、双極性障害と診断され、世界が注視する中で交際が破局を迎え、ループス腎炎(全身性エリテマトーデス)で闘病生活を送り、精神療養施設で治療を受けた。しかもそれと同時に、手にした名声に伴う浮き沈みも経験していた。ファンや支援する人たちからの愛や崇拝を一身に受けると同時に、メディアやインターネットでは容赦ないバッシングにさらされる、そこにはまさに目が回るほどの落差が存在する。しかも当時、セレーナはまだ30歳にもなっていなかった。幼いころからエンターテインメント業界に身を置いていたとはいえ、万人の目の前でこれだけのことを経験するのは、決して楽なことではなかったはずだ。

さらにはセレーナのプライベート、そして健康面での問題が世界中で話題になったために、これまでに達成してきた偉業がかすんでしまうリスクも生まれている。ここで改めて触れておくと、現在31歳のセレーナはシンガーソングライター、慈善家として名を馳せ、今ではビューティーの世界でも一目置かれる存在となっている。インスタグラムのフォロワー数は女性では最多となる4億2900万人に達する。音楽界ではマルチプラチナムを達成したポップスターで、タイム誌が選ぶ「世界で最も影響力がある100人」にも選ばれた。

また、Huluのドラマ「マーダーズ・イン・ビルディング」(日本ではDisney+で配信)ではスティーブ・マーティン、マーティン・ショートという二人のベテラン俳優とともに主役を務め、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた。社会貢献に関しても、2022年にはホワイトハウスで初めて開催された若者のメンタルヘルスの問題に関するサミットで共同ホストを務めている。さらに言うまでもなく、崇高なミッションを掲げる化粧品ブランド、「Rare Beauty(レア・ビューティー)」を率いる立場でもある。その売上高と名声はうなぎのぼりで、現在は36カ国のセフォラの店舗とウェブサイトで販売されている。

プロダクトに込めた真摯なメッセージ

成熟とイノセンスの狭間に
技巧的なクラフトワークとハードな印象のハトメやメタルバックルを掛け合わせたチョポヴァ ロウェナのブラックドレス。ロックなムードと愛らしさが融合するドレスは、成熟した魅力を醸し出すとともに、セレーナの内に潜むイノセントな部分をも引き出す。ドレス 黒のブレスレット(下)/ともにCHOPOVA LOWENA(chopovalowena.com)髪につけたリボン/スタイリスト私物「ジュスト アン クル」イヤリング WG×ダイヤモンド ¥1,095,600「クラッシュ ドゥ カルティエ」ブレスレット(上) WG ¥1,650,000「クラッシュ ドゥ カルティエ」リング WG ¥561,000/すべてCARTIER(カルティエ カスタマー サービスセンター)シューズ/JACQUEMUS(www.jacquemus.com


セレーナを待つ間、私はピンクがかったモーヴ色のローション、ボディミスト、アロマテラピー・ペンを眺めていた。脇のテーブルに置かれていたこれらの製品は、セレーナのチームが送ってくれたもので、「Rare Beauty」の新製品だ。あまりにニーズが高まっているため(実際、あっという間に売り切れた)、発表前に製品を受け取るだけでも、秘密保持契約(NDA)にサインしなければならなかったほどだ。これらの製品には、通常であれば「若見え」などのうたい文句が書かれているはずのスペースに、「安らぎを見出す(Find Comfort)」という言葉が書かれている。ローションやボディミストの製品名としては、含蓄に富んだネーミングだ。

セレーナとのインタビューの冒頭に、私は作家で、ジャーナリストではないと自己紹介した。それを聞いた彼女はにっこりと微笑み、しきりにうなずいた。インタビューの中で、セレーナと私は、硬軟織り交ぜたさまざまなトピックを語り合った。これはこれまでの人生で「小さなことにはこだわらない」姿勢を身につけた二人ならではの会話だったと言えるだろう。

─30代になって、20代の時とどういう面で違いを感じますか? との問いに、彼女は「すっかり早起きになったことかな」と言い、しかめ面をしてみせる。「Rare Beauty」の新製品の特徴については、「心と体、魂がテーマです」と教えてくれた。さらに、今の恋愛事情は? と踏み込むと、「私には本当にシングルが向いていると思います」と言って笑う。さらに話題は彼女が取り組んでいる慈善事業や癒し、音楽に及んだが、これらのトピックについてはあとで触れよう。

だが、どんな話題においても、彼女の答えすべてを貫き、繰り返し言及されるテーマがあった。それは「本当の姿を見てもらうことで得られる力」だ。10歳のころから注目の的になってきたセレーナのような人物がこの点を強調するのは、なかなか興味深い。だが本当の自分を見てもらうのと表層的に注目を集めるのは、特に視線を受ける側にとってはまったく異なる体験だ。

幼くスタートしたキャリア、そしてメンタルヘルス

解き放つ唯一無二の個性
ドラマティックに広がる彫像的なボリュームが美しい、ニューヨークベースのデザイナー、ミス クレア サリバンのベアトップドレス。クチュールシックなドレスが、彼女のチャーミングな一面を際立たせ、唯一無二の個性を浮き彫りにする。ドレス/MISS CLAIRE SULLIVAN(www.instagram.com/missclairesullivan)シューズ/JACQUEMUS(www.jacquemus.com


私は子役時代のセレーナも覚えている。ちょうど子ども向け番組「バーニー&フレンズ」でギアナ役を演じていたころだ。妹が当時、主人公の恐竜のキャラクター、バーニーに夢中だったので私も妹と一緒にソファに座り、この番組をよく見ていた。当時から、自然なカメラ映えする笑顔で、セレーナの存在感は抜きん出ていた。妹と私にとって、彼女はきらびやかな別世界の住人に見えた。インタビューの席でそう伝えると、完璧な子ども時代を送っていたとの憶測を否定するように、彼女は即座に目を閉じて首を振る。

「あの番組のせいで、4年生から5年生にかけて、ずいぶんからかわれたんですよ」と、彼女は私の認識を修正しようとする。もし当時の自分に声をかけられるなら、何と言ってあげますか? と尋ねると「『楽しんでいるのだから、ほかの人なんて気にしないで』と言いますね」との答えだった。こうしたアドバイスは、あとになって振り返ればいくらでも思い浮かぶが、その渦中にあるときにはまず思いつかない。それでも、「バーニー〜」の子役スターからディズニーを経て、音楽の世界に身を投じ、さらにドキュメンタリー映画に出演し、メンタルヘルスの啓蒙活動に乗り出す間、彼女が頼りにしたのは、このモットーだった。そして今では、ビューティーの世界でも絶大な影響力を持つ。

「(若くして)名声を得ると……メンタル面での成長が阻害されることもあるんです」と彼女は言う。「私自身、少しの間、成長が妨げられたのは間違いありません」

「今やるべきことだけにとらわれて身動きできなくなる」ワナに陥るのを避けようと、彼女なりに一人だけの時間をつくり、活動を休み、仕事の場を離れることもあったという。だが当時は、森の中を散歩するといったちょっとした息抜きのときでさえ、4人のボディガードが同行していた。子役として大人に囲まれて過ごし、ティーンエイジャーになってからも注目の的となり、名声を得たことで積もり積もった歪みは、ほどなくして顕在化する。

「セレーナ・ゴメス:My Mind and Me」については、今ではほとんどの人が知っているだろう。2022年に公開されたこのドキュメンタリーは、精神的危機(当時はまだ、それが何の病気かもわかっていなかった)に立ち向かうセレーナの姿を追い、大いに話題を呼んだ。その映像は生々しく、時に観ている側も胸が苦しくなるほど詳細だ。

「My Mind and Me」は、彼女のキャリアを最も輝かせるために何をすればいいか、という戦略的な議論を経て生まれたものにはとても思えない。むしろその真逆で、このドキュメンタリーを見ていると、リアルタイムで起きている出来事をそのまま収めたような印象だ。彼女によれば、実際の撮影もまさにリアルタイムで進行していたという。このとき、メンタルヘルスの問題を公表することについては「ある意味、そうせざるを得ない状況に追い込まれたようなものですが、私はそれでよかったと思っています。隠したい気持ちはありませんでした。

ただ、何が起きているかわかっていなかったので、話したくなかったというだけです」。そこで彼女は専門家の意見を仰ぎ、自分自身に目を向け、前に進む道を見つけることに決めたという。

メンタルヘルスの問題に関して助言を求める人は、大抵の場合、人目のないところで相談ができる。回復だけに集中できる心理的・物理的余裕を持つことは、治療のために最も重要な要素の一つだ。だが世界中で最も顔が知られた有名人の一人であるがゆえに、セレーナは落ち着いた環境を手にすることができなかった。そのため、回復への道はよりいっそう厳しいものになった。

回復の途上で報道が出回り、メディアはここぞとばかりに殺到した。メンタルヘルスをめぐる問題をみっともないものとしてタブー視する世間の風が、彼女に襲いかかった。だがそんな報道に彼女が心を乱すことはなかった。この間に彼女の内面は大きな変貌を遂げ、もはや今の状況を恥じる理由などないことをはっきりと自覚していたからだ。セレーナは自分、そしてメンタルヘルスに関して悩みを抱え、心ない言説によって苦しい思いをしてきた人たちのために立ち上がる準備ができていた。

「『私は助けを求めたことを恥じていない』とはっきり自覚したのはあのときです。『私が今体験していることを恥じてはいないし、自分が持つ力をきっと取り戻す。そこに至るストーリーを語りたい』と思いました」と彼女は振り返る。そして、自信に満ちた笑みを浮かべながら、こう付け加えた。「ある意味、あれ(ドキュメンタリー)は背中を押してくれる、ちょっとしたきっかけだったんです。みんなに、本当のことを知ってもらいたくて」

病気を経て知った共感力と「Rare Beauty」の始まり

自分らしく“レア”に輝いて
レアな部分を個性と認め、ありのままの自分の美しさを追求するビューティーブランド「Rare Beauty」をプロデュースするセレーナ。唇を彩るルージュに、リボンに仕立てたマーク ジェイコブスの透けるレッドスカーフを呼応させ、自分らしく個性を輝かせる。髪につけたリボン 参考商品/MARC JACOBS(マーク ジェイコブス カスタマーセンター)


精神、肉体面での健康に問題を抱えている多くの人が、闘病生活で最も辛かったこととして挙げるのが、孤独感と孤立感だ。セレーナも理不尽にひとりぼっちにされていると感じた一人だ。全身性エリテマトーデスと診断され、腎臓移植を受けたときに話が及ぶと、彼女は「神様なぜ?  なぜ私が?」と思ったと振り返り、「『私が何をしたっていうの?』という気持ちにとらわれることもあった」と打ち明けた。このように診断当初はやりきれない思いと格闘したものの、ツアー中に頻繁に行っていた病院への慰問で、セレーナは人生を一変させる気づきを得る。

このとき、セレーナは自身と同じ病気を患っている少年の病室を訪ねていた。この少年は訪問前はセレーナに会いたいと話していたが、いざ実際に彼女が目の前に現れると、顔を見ることを拒んだ。セレーナがどんな話題を持ち出しても興味を見せず、野球や少年がベッドサイドに置いているバットの話をしても態度に変わりはなかった。

だがそのとき、少年の母親が、セレーナも全身性エリテマトーデス患者なのだと伝えた。すると少年は即座に態度を改め、彼女の顔を初めてしっかりと見つめ、目を見開いた。「本当に?」と、少年は疑わしそうに尋ねる。「どうしてそうなったの?」。少年は自分の本当の姿をセレーナに見てもらえていると感じていて、そのことは彼女にも伝わった。このとき、セレーナは必死に涙をこらえていたという。

この瞬間が、セレーナに人生を変えるほどの影響を及ぼした。「ちょっと待って。ひょっとして私が今までこんな目に遭ってきた理由って、これなのかも?」という思いが脳裏をよぎったと、彼女は言う。「誰かのところに行って『最高の気分でしょう?  この私が来てあげたんだから』と押し付けるのではなくて、『わかるよ、私もそうなんだよ』と寄り添うのが私の役割なんだと気づきました」と彼女は説明する。「このときの体験で、私には自分の体調不良(を解決する)よりも、ずっと大きなミッションがあると気づくことができたんです」

乳がんサバイバーで、乳腺除去手術を受けるまでの葛藤をドキュメンタリー映画に収めた私は、この話に深くうなずいた。このような共感できる体験談には、患者同士を結ぶとてつもない力があり、孤独感を和らげるのに役立つ。そしてこの体験を経て、セレーナは、「本当の自分を見てもらえる」ことで得られる心強さを世界のあらゆる人に実感してもらうために、自分に何ができるだろうと考えた。こうして生まれたのが、「Rare Beauty」、そしてレア・インパクト基金だ。

自然な美しさと悪戯な笑顔
光を乱反射させるイザベル マランのシルバードレス。躍動感のあるまばゆいきらめきが、セレーナのナチュラルな美しさをより引き立てる。ドレス ¥837,100/ISABEL MARANT(イザベル マラン 青山店)


セレーナには驚くほど内省的な部分がある。ゆえに、彼女がクリエイトするビューティーブランドが崇高なミッションを掲げていることにもあまり驚きはない。2020年に立ち上げられた「Rare Beauty」は「ありのままの自分を認めることを推進」するとともに、「不完全なところにある美」に価値を見出している。あるリップスティックには「親切な言葉(Kind Words)」という言葉が、チークには「弱いままでいい(Stay Vulnerable)」と添えられている。容器に書かれた、心を支えるちょっとしたメッセージだ。だが、ほかのブランドと一線を画すのは、「メンタルヘルスをサポートし、誰でも受け入れる、安心できる場所をビューティー業界、そして広く世界に設ける」というそのミッションだ。ここで役割を発揮するのがレア・インパクト基金だ。

「Rare Beauty」のウェブサイトでは、「カラー診断」の隣という、非常に目立つ位置に、同ブランドの社会貢献部門であるレア・インパクト基金へのリンクが置かれている。同基金は、メンタルヘルスへの意識を高めたいというセレーナの個人的なミッションに沿った形で、メンタルヘルスを語ることへのタブー感を和らげ、知識を深めるためのリソースへのアクセスを提供している。これは自身のこれまでの取り組みの中でも最も意義あるものだと、セレーナは胸を張る。

この基金の話題になると、彼女は目をキラキラと輝かせ、「私が長い間続けていきたい取り組みなんです」と語った。「Rare Beauty」は世界のメンタルヘルスに関わる機関を支援するため、売り上げの1%をレア・インパクト基金に寄付すると明言しており、若者のメンタルヘルスの問題に対処するために10年間で1億ドルを確保することを目標として掲げている。これに加えて、同基金はさまざまな記事やリソース、イベントを通じて、メンタルヘルスに関する知識をわかりやすく伝えるべく、積極的に活動している。単に知識を与えるだけでなく、安心感や癒し、仲間意識を醸成することもその目的には含まれている。

これはセレーナの個人的な思いと深く結びついた目標であり、レア・インパクト基金がなければ、そもそも「Rare Beauty」を立ち上げることもなかったのでは? との印象を受けるほどだ。「自分が属するコミュニティがなければ、居場所を失ってしまいます」と彼女は言う。

私はセレーナに、基金のページを見ていたときに、ある一つの記事が特に気になったと伝えた。それは「不安に関する基礎知識(Anxiety 101)」というタイトルの記事だった。見出しをクリックすると、さまざまな種類の不安障害に関するわかりやすい解説があり、その症状、診断の解説、治療法の種類に加えて、ヘルプラインの電話番号も記されていた。

私は高校生から大学生の時期にパニック発作に襲われたが、診断を受けて自分の症状が何なのかを知るまでに何年もかかった。今では若い女性がリップスティックを買う際に、同じウェブサイトで、まったく恥ずかしさを覚えることなく、不安障害に関する知識にアクセスできるようになったわけで、これは特筆すべきことだと、私は彼女に伝えた。こうした知識に女性たちを導くことができるのは、セレーナにとっても悲願の達成だという。

「自分をケアすることは、私にとって長い間、とても難しいことでした」と、セレーナは、打ち明ける。「そして、このセルフケアが、自分を一番大事にするルーティンを見つけ出そうとする私の助けになってくれました」。こうして彼女は、「自分をいたわる」と同時に、「自分の周囲の『安全圏』には誰も踏み込ませない」姿勢を貫けるようになったという。「完璧な人間でいなければ」というプレッシャーからも解放された彼女は、同じような葛藤の中にある人たちを助けたいと考えている。今は「Rare Beauty」の製品だけを使っているというセレーナは、新製品が、「自分を知り、体がまさに必要としているものを知る」という考え方を広めてくれればと願っている。

ポジティブに生きるために
ワイヤー入りのスカートで重さを感じさせない軽やかなレイヤーを構築したトリー バーチのエアリーなドレス。センシュアルであると同時に、エフォートレスな雰囲気を纏うドレスは、ポジティブにファッションを楽しむためのパワーを呼び起こす。ドレス 参考商品/TORY BURCH(トリー バーチ ジャパン)髪につけたリボン/スタイリスト私物「ジュスト アン クル」イヤリング WG×ダイヤモンド ¥1,095,600/CARTIER(カルティエ カスタマー サービスセンター)シューズ/JACQUEMUS(www.jacquemus.com)


セレーナはさらにメンタルヘルスの問題がタブー視される状況にも触れ、精神疾患に対するネガティブなイメージや、「誰にも語らずに一人苦しむのが当然」といった意識を変えたいと明言した。彼女自身、双極性障害との診断を受けたときには、ようやく答えが見つかったと感じ、この病と付き合っていくための方法を徹底的に調べたという。そして、世界中に自分と同じ体験をしている人がいると知り、コミュニティとのつながりをひしひしと感じた。「知ったことで、心が安らぎました。自分は一人じゃないと実感したからです」。俳優、シンガー、慈善家、ビジネスウーマンと、複数の分野で活躍するセレーナにとって、これも新しい気づきだった。そして彼女はいつものように、この体験をほかの人と共有したいと考えた。

「Rare Beauty」の顧客も、このメッセージに賛同している。インスタグラムで640万人のフォロワーを持つ同ブランドは、セレブリティがプロデュースするメイクアップ・ブランドの中でも最も成功しているものの一つだ。2023年の総売り上げはすでに3億ドルを突破し、前年比で3倍以上の伸びを示している。セレーナはブランドに忠実で、エンゲージメントの高い顧客基盤を開拓した。何よりも、顧客は彼女に全幅の信頼を置いている。心に痛みを覚えたとき、その根本的な原因を探ろうとして混乱に陥るケースは多い。それだけに、自身が率いるコミュニティを悩みの解決に導く上で、彼女が持つ信頼の力は、非常に重要だ。

自身がここまでたどってきた道を振り返る際、セレーナは、自身の不調が一体何なのか、その名前を特定することの重要性を強調した。名前を知ることで「力を得た感覚を得られる」のだという。双極性障害との診断を得たことが、人生を変えるほどの大きなインパクトをもたらしたという体験談を踏まえて、私は彼女に、同じ悩みを持つほかの人たちも同じ体験をするよう導く責任を感じていますか? と尋ねた。「私が勧めているのは、(名前を)知るべきだ、というところまでです。自分の胸の内にとどめておくのでもかまいません。結局のところ、誰かに知らせる必要はないわけですから。でも『自分が今経験していることが何なのかようやくわかった。ここから状態を良くしていくために何ができるか、調べてみよう』という気持ちになれたなら、自分の内側に力がみなぎってくるはずです」

できる限り多くの人を導かなくてはならないと思うあまり、プレッシャーを感じることはないかとの問いに、「私はプレッシャーを感じません。自分の姿を見てもらえている、声を聞いてもらえているという実感を持つお手伝いができるなら、私は安心した気持ちになる、それだけです」と答えた。

実際、継続的に取り組んでいる社会活動については、特に自身の生活がもう少し落ち着いたら、やりたいことがあると言う。セレーナは、若い女性がメンタルヘルスに関して頼りにできる社会的インフラが設けられるべきだと考えている。リプロダクティブヘルスに関しては女性のニーズに応える、国際家族計画連盟という組織がある。メンタルヘルスについても、同様の規模と知名度をもつ組織が必要だというのだ。彼女が思い描くのは「危機対応センター」だという。「誰かが精神的なトラブルを抱え、孤独感に悩んでいるときに足を運べる場所にしたいのです」

実際問題として、精神疾患に理解がある家族や友人がすべての人にいるわけではなく、メンタルヘルスの専門医の診察を受けるリソースも十分ではない。セレーナがこうしたセンターをつくる後押しをしたいと考えているのは、そうした現実を踏まえてのことだ。

これはとても立派な志だが、今見た限りでは、彼女のスケジュールが近いうちに空くことはなさそうだ。それどころか、ここ何年もなかったほどの忙しい時期を迎えようとしている。というのも、まもなく3年ぶりのアルバムがリリースされるのだ。

最新アルバムはポップ・ミュージックの一大傑作

ふと見せた素の表情
シンプルで上質なトム フォードのブラックトップと、華やかにフェザーが揺れるIラインを描く、ナローなヴィヴェッタのロングスカート。デイリーにも着こなせる等身大のエレガンスに、ふとした素の感情を覗かせる。トップ ¥165,000/TOM FORD(トム フォード ジャパン)スカート/VIVETTA(www.vivetta.com)シューズ/JACQUEMUS(www.jacquemus.com)


Photo:MICHAEL BAILEY-GATES

自身の真実を語ることで、セレーナは今、本当の姿を見てもらい、声を聞いてもらえていると感じている。そのことを心の底から実感しているからこそ、苦労の末につかんだ自信と落ち着きが、彼女が今作る音楽にも反映されている。多くの意味で、今の彼女はかつてとらわれていた感情から解放されている。そしてリスナーである私たちにとっては幸運なことに、そのおかげで、ポップ・ミュージックの一大傑作と言えるアルバムが誕生しようとしている。

このアルバムの全体を貫くテーマは「自由」だという。──何から解放されたのですか? と尋ねたところ、「自分の20代という足かせから」というのが彼女の答えだった。

3年ぶりというのは、アルバムのリリース間隔としてはかなり長い。だが新しい作品を作るのにこれだけの時間がかかったのには理由がある。「何も書くことがなくなっていたんです。私は悲しげな女の子の曲ばかり作っていましたから。そういう曲を歌う自分が好きでした。でも最近の私は、身が引き裂かれるような思いとは無縁なんです」。自分が生み出す楽曲が、幸せで人を勇気づけるようなものに変わっていることに気づいていた彼女は、ギアチェンジを決断する。「意味のあるメッセージを持った、最高のポップ・ミュージックを作る方法を見つけられるように頑張りたい、と思ったんです」

そうした変化の表れとして、彼女はある未発表の楽曲を挙げた。自分を知り、新しい場所へと踏み出していくときの最高の気持ちを歌った曲だ。ニュー・アルバムは、ジャンル的には「直球のポップ・レコード」で、思わず踊りたくなるようなスタイルに仕上がっているという。セカンド・アルバムに収録されていた「グッド・フォー・ユー」が好きだった人(私もその一人だ)が喜ぶような、R&Bテイストの曲もあるとのことだ。今回のレコーディングの様子について尋ねると、「本当に楽しくて……スタジオに入るときから『さあ、パーティーしよう』っていう感じだと、気分が全然違いました」と彼女は答えてくれた。スタジオの雰囲気は2020年の「ルーズ・ユー・トゥ・ラヴ・ミー」の制作時とは様変わりしたようだ。この曲は45分間で書き上げられたが、歌うとなると感情がこみ上げてきて、スタジオを一度離れる必要があったという。今振り返って、この曲はセラピーのような役割を果たしてくれた、独特の美しさがあると自己評価するセレーナだが、彼女は現在、まったく違う場所に立っている。「(ニュー・アルバムを)聴いてもらえれば、気に入る人もそうじゃない人もいるでしょうけれど、『セレーナは本当に幸せなんだな』と感じてもらえたらいいな、と思います」

「私はこのアルバムでは、1曲も悲しい曲を書いていないんです」と、彼女は高らかに付け加えた。

自分の本来の姿を、ハッピーな曲だけで構成されたアルバムで表現できるのは、セレーナにとって解放感にあふれる体験なのは間違いない。相次ぐ試練に直面し、それを乗り越える中で大きな変貌を遂げた女性であるセレーナにとっては、このアルバムもまた、自信を深めたことを裏付ける、人生の重要な節目となった。──では2023年夏にリリースされたシングル「シングル・スーン」にはどんな意味が? 彼女のプライベートに関するメッセージが隠されているという見方もあるようですが? この問いに、彼女は、この曲は楽しい気分になりたいと思って書いたもので、男性への嫌悪の念はまったく含まれていないと強調した。また、この曲が来たるニュー・アルバム全体のトーンを反映しているわけでもないという。

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インタビューするまで、私はセレーナにガードが堅いというイメージを抱いていた。だが実際に会ってみると、そこにいたのは、オープンで、自分の未来がまだ定まっていないことを受け入れている女性だった。この落ち着きがどこから来るのかと尋ねると、セレーナはきっぱりとこう答えた。「私は、自分の人生に起きることは一つ残らず意味があると、固く信じています……常に思うのは『ここから得られる教訓は何だろう、教訓を学んで、成長していきたい』ということです。本当に大変なときを乗り越えて、その先に待っているものを体験したいんです」

多くの意味で、彼女はファンに伝えるメッセージを自らも実行し、本当の姿を見てもらえる存在へと変貌した。今でも、気分が落ち込んで、ベッドから出ずに、少し書き物をしたり、映画を見たりして過ごしたい日もあるが、それでも、友達と散歩に出かけたり、書店を訪ねたりするなど、ささやかながらモチベーションを高める習慣を取り入れて、毎日をワクワクしながら過ごせるよう、工夫をしている。そして今、彼女は自らの意志で、自分の弱さをさらけ出している。セレーナにとって、これは決して弱点ではない。むしろ弱さを見せられることが、自分の最大の強みだというのだ。「自分の弱さをさらけ出し、思っていることを口に出すのは本当に爽快なんです。それをみんなに知ってもらいたいですね」

洗練されたシュールな遊び
流れるようなラインをグラマラスな輝きで包み込んだスキャパレリのドレス。ゴールドのロブスターネックレスをシュールなアクセントに、洗練された大人のしなやかさで魅了する。ドレス ネックレス シューズ/すべてSCHIAPARELLI(www.schiaparelli.com


インタビューの時間も終わりに近づいたところで、私は再び、テーブルに置かれた「Rare Beauty」のボディローションに目を向けた。セレーナの率直な話を聞いたあとでは、ボトルに書かれた「安らぎを見出す」という言葉が、違った意味に思えてくる。安らぎを見つけ、与えることが、彼女が今一番やりたいことなのは明らかだ。その対象は自身だけでなく、すべての人に及んでいる。

「この名前が気に入っています」と彼女は私に告げる。「私のメイクアップ製品を使うことで、みんなにこう感じてもらえたらいいな、という思いが詰まった言葉だからです。ありのままの自分でいて、それが心地よく感じられる状態、ということなんですけど」

最後に私は彼女にこう尋ねた。──最近、あなたはどこに安らぎを見出していますか?

「ほかの人を助けることで安らぎを得られます。そして、私のこと、私が体験してきたことをわかってくれる人がそばに一人でもいれば、ほっとした気持ちになれます」

だが今やセレーナ自身が、何百万人もの若い女性にとって、安らぎを与える存在になっていると言えるかもしれない。そのことをどう思うのだろうか?

この問いに、彼女はこう答えた。「それこそ私にとって、最高の贈り物ですね」

Talent: Selena Gomez Styling: Clare Byrne Hair: Marissa Marino at A-Frame Agency Makeup: Kate Lee at The Wall Group using Rare Beauty Manicure: Tom Bachik at A-Frame Agency Production: Lolly Would Set Design: Bryn Bowen Tailor: Susie Kourinian Special thanks to Karla Martinez, Valentina Collado Global Talent Casting Director: Sergio Kletnoy Global Visual Director: Jill Caytan Visual Director: Yukino Moore Associate Visual Editor: Fabbiola Romain Senior Visual Editor: Ian Crane Styling Assistants: Charlie Burke and Saye Wuo