コラム

米大統領選有望株ニッキー・ヘイリーが謎の「奴隷」失言で手痛いミス

2024年01月18日(木)20時48分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ニッキー・ヘイリー, ドナルド・トランプ, 奴隷制, 南北戦争, 米大統領選, 共和党, ジェファーソン・デービス

©2023 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<米共和党の大統領候補争いで人気上昇中のヘイリー元国連大使が南北戦争がらみでめちゃくちゃな見解を披露。トランプ前大統領の「恩赦」も確約する彼女はどこへ行く?>

生放送って怖いね。昔、ラジオで体操の好きな種目を聞かれたときに「男子平行棒」を「男子ほうけいぼう」と繰り返し言い間違えた僕が言うので間違いない。しかし、最近それよりも痛々しい生放送中の失言に全米がぞっとした。

口が滑ったのは、大統領選の共和党指名候補争いでトランプ前大統領を猛追中のニッキー・ヘイリー元国連大使。市民と対話する集会の最中、客席の男性から南北戦争の原因について聞かれ「そんな簡単な質問をしないでね」と、皮肉を飛ばした。これは失言ではないが、失笑を買った。だがその後「南北戦争の原因は基本的に、政府をどう運営するかや自由、人々ができることと、できないことにある」とめちゃくちゃな回答をした。これには集会のテレビ中継を見た視聴者も言葉を失った。


南北戦争の原因はもちろん、奴隷制度をめぐる北部と南部の対立だ。ヘイリーが「あなたはどう思う?」と聞くと、客席の男性は「大統領選に出るのは私ではないでしょう。あなたの考えが聞きたい」と返した。ほぉ! これなら逃げられないぞ! と僕は見ていて思ったが、ヘイリーは曖昧な回答に終始。男性が「2023年に奴隷制度に触れずにこの質問に答えることにびっくりします」と言うと、ヘイリーは「はい、次の質問」とはね返した。うまい手だね。ラジオの質問のときに使いたかったなぁ。

風刺画では物議を醸したもう一つのヘイリーの発言もいじっている。国全体が過去にとらわれず前に進めるよう、国民を分断している元大統領を恩赦すると、ヘイリーは何度も宣言している。だが風刺画は恩赦の対象をトランプから南北戦争時の南部の代表で、アメリカ連合初代大統領のジェファーソン・デービスにすり替えている。

巧みな風刺だね。トランプとデービスの共通点は多い。2人とも白人の優位性を主張する「純血主義」で、規模は違えど連邦政府への反乱を起こし、訴追された。でも今も大勢から揺るぎない支持を受け続けている。僕から見れば非難すべき白人主義の反逆者だが、支持者にとっては英雄だ。相反する現実を生きるアメリカ国民たちはまさに「ほうけい世界」に住んでいるようだ。あ、ごめん! 並行世界(パラレルワールド)だ。

ポイント

I'LL PARDON THE FORMER PRESIDENT SO THE COUNTRY CAN HEAL AND MOVE ON.
私は国全体が癒やされ、前に進むことができるように、元大統領に恩赦を与えます。

YOU'RE PARDONED!
あなたを恩赦します!

PRESIDENT OF THE CONFEDERACY
アメリカ連合大統領。「連合」は南北戦争前に合衆国から独立
した南部諸州のこと

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、暗殺未遂現場で再び集会 マスク氏も投票

ビジネス

アングル:中南米の最大手ECメルカドリブレ、フィン

ワールド

アングル:米国で消える1ドルショップ、低所得層が「

ワールド

アングル:米大統領選で浮上のチップ非課税案、激戦州
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大谷の偉業
特集:大谷の偉業
2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」の中国が世界から見捨てられる
  • 2
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシア製よりはるかにスマート
  • 3
    野原の至る所で黒煙...撃退された「大隊規模」のロシア軍機械化部隊、密集した車列は「作戦失敗時によく見られる光景」
  • 4
    羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援…
  • 5
    職場のあなたは、ここまで監視されている...収集され…
  • 6
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 7
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 8
    新NISAで人気「オルカン」の、実は高いリスク。投資…
  • 9
    「核兵器を除く世界最強の爆弾」 ハルキウ州での「巨…
  • 10
    オアシス再結成で露わになる搾取...「ダイナミック・…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 3
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 4
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 5
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 6
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 7
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 8
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 9
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 10
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 5
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story