リリアン・ギッシュの肖像の映画専門家レビュー一覧

リリアン・ギッシュの肖像

    1983年夏のニューヨークで、ジャンヌ・モローは敬愛する女優リリアン・ギッシュとの邂逅を果たした。サイレント映画期から活躍し、ハリウッドの頂点を極めた「歴史的女優」との対話を通して、その生涯と映画への情熱に迫る至高のドキュメンタリー。女性たちの姿をありのままにいきいきと描いたモローの監督作に光をあてる特集「映画作家 ジャンヌ・モロー」(2024年10月11日~/新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか)にて劇場初公開。「リュミエール」(76)「思春期」(79)とともに上映。
    • 文筆業

      奈々村久生

      映画界の黎明期とサイレント時代を支えた大スターである先輩にジャンヌ・モローが迫った貴重なインタビュー映像。特にグリフィスに関する話は興味深く、スペイン風邪が流行った「散り行く花」の撮影当時、監督が罹患せぬようマスクを着用して臨んだ現場から指でスマイルを作る芝居が生まれたエピソードは、コロナ禍を経た今こそ響く。女性が働いて自活することが困難だった時代に生涯独身を貫いたギッシュが、孤独についての質問に「プライバシーは唯一の贅沢」と答える姿が美しい。

    • アダルトビデオ監督

      二村ヒトシ

      映画創成期に、出演者の顔の美しさという「武器」が、クローズアップの技法を育てた。リリアン・ギッシュという美しすぎる眼と唯一無二の瞳の角度をした女の子が存在したから、その技法が観客の心に定着した。AVを撮っててもいつも思いますが、どんなジャンルの今では誰にでも知られた技法も、それを世界で初めてやった人がいて、それを世界で初めてやらせた人(思いついて命じてやらせた人ではなく、その人の存在に吸い込まれるように、やったほうは思わずやってしまった)がいるのだ。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      リリアン・ギッシュは素朴な役柄でしか観たことがなかったため、インタビューの席に赤と黒の瀟洒なチャイナ服で現れた姿に、女優としての矜持を改めて認識した。まさにハリウッドバビロンの時代に清楚な佇まいでいられた精神が、いかに強靭であったかを思い知る。グリフィスを尊敬しつつも、数年間共同作業をした恩師にすぎず、映画より舞台俳優であったことが印象付けられる。監督で聴き手のJ・モローは様々な角度から微笑むショットがあり、尋ね方は謙虚だが、自分の見せ場作りに余念がないのはさすが。

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