たとえ嵐が来ないとしてもの映画専門家レビュー一覧

たとえ嵐が来ないとしても

2013年にフィリピンの観測史上最大級の被害を残した台風ハイエンによって廃墟となった街を舞台に、人々の再生と希望を描くドラマ。台風が過ぎた街で、恋人アンドレアと母ノーマを探し出したミゲルは、街を出ようと説得するが……。第74回ロカルノ国際映画祭Junior Jury Award受賞。脚本・監督は、本作で長編デビューしたカルロ・フランシスコ・マナタッド。出演は、ダニエル・パディリア、元MNL48のランス・リフォル、「立ち去った女」のチャロ・サントス=コンシオ。
  • 俳優

    小川あん

    2013年、フィリピンの地で実際に被害を受けた台風ハイエン災害後をドキュメンタリータッチではなく、創造力の高い予想外な物語に描き直した。物凄くいい。主人公の二人は被災した街中を歩き続け、景色を交わしながら、未来への意を決していく。気弱な男子の隣で恋人役ランス・リフォルが銃を構えるショットは「バッファロー’66」のクリスティーナ・リッチを想起した。気概のある、力強い女性像で、最高。彼女が肝だ。焦点の合わせ方が独特な撮影も、メロウな音楽も、絶妙。

  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    災害後の荒廃を生き抜くサバイバルドラマか、夢のマニラへ渡ろうともがきつつもたどり着けない若者たちの苦い青春映画かと思って観ていたら、不条理劇かマジックリアリズムかという展開に。こんな映画観たことないとうっかり口走りそうになるけれど、どこか懐かしさを感じるセンスでもある。終盤ややメロドラマ的になるのをどう評価するかが難しいのだが、それまでの、若者ふたりが旅を続けるパートは、最近亡くなったせいもあるのか、個人的には、なぜか佐々木昭一郎の作品を重ねつつ観てしまった。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    2013年にフィリピンを襲った巨大台風を題材に、壊滅的な被害を受けた街を舞台にしたドキュメンタリーのようなドラマ。新たな嵐の到来の噂が流れ、主人公は恋人と母を探して街から脱出しようとする。この世の終わりのような背景の中、フィクションとノンフィクションの境界が溶け合った世界で、話はラテンアメリカ文学のマジック・リアリズムのように徐々に神話的な色彩を帯びてくる。「探すこと/逃げること」という矛盾する行為にもっとダイナミズムを与えていれば映画はもっとドライブしただろう。

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