VOL.48

VOL.48 RETREAT のカバーイメージ

RETREAT

未来への退却(リトリート)

2023.03.16 発売

¥1300

CONTENTS

現代のせわしなく消耗する日常から離れて自然の中で心身ともにリラックスし、ウェルビーイングを取り戻すアクティビティとしてますます注目されるリトリート。でもその本来の語義が「撤退」や「退却」であるように、リトリートとはもともと、抜き差しならない状況から離れることで、現実を捉える認知のフレームを大胆に転換し、自分と世界との新たな関係性を手にするものだったはずだ──デジタルとフィジカルが融解する時代にリトリートという営為がもたらす可能性を地球規模へと拡げる総力特集!

國分功一郎(哲学者)、ドミニク・チェン(情報学者) 、Six N. Five(デザインスタジオ)、キャメロン・グラント&クリス・グラント(Unyoked)、ロン・ジュート(フォトグラファー)、ナネア・リーヴス(TRIPP共同創業者)、奥本直子(ニレミア・コレクティブ共同創業者)、ライル・マクソン(Entheo Digital共同創業者)、樋口恭介(SF作家)、櫻井 武(筑波大学 医学医療系 教授/国際統合睡眠 医科学研究機構 副機構長)、丹羽 薫(ウルトラトレイルランナー)、松田法子(京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 准教授)、水野祐、川田十夢など。


006

EDITOR’S LETTER

リトリートと環世界


014

DIGITAL AND PHYSICAL EXPLORATIONS

Six N. Five

想像界と現実界の風景が交差する美しいレンダリングで世界を魅了する〈Six N. Five〉。「夢のような」と形容されるその3D空間は、いまや次なる“リアリティ”そのものとなりつつある。同スタジオを率いるアーティストのエゼキエル・ピニに、創作の先に見つめる風景を訊いた。

018

RETRAITE VERS LES LIGNES DE FUITE

暇と退屈とリトリート

そもそもなぜ、いま人々はリトリートを求めているのか──そんな根源的問いを巡って交わされた、哲学者・國分功一郎と情報学者・ドミニク・チェンによる発酵的ダイアローグ。はたして、リトリートを目的にせずにリトリートすることはいかにして可能だろうか!?

028

SOMETHING COMES FROM NOTHING

Unyokedという荒野の新しい選択肢

シドニー郊外の大自然に実装した1棟のオフグリッド型キャビンから、アンヨークドの歩みは始まった。2017年に設立したのはクリス・グラントとキャメロン・グラントという双子。彼らがこのサービスを通じて提供するのは、環境への負荷を徹底して抑えたシンプルな小屋と最低限の生活道具、あとはワイルドなバイブスくらい。それなのに、いやそうだからこそ、目指すべきリトリートのかたちが見えてくるような気がした。ふたりに話を訊いた。

040

SELECTED PRESCRIPTIONS

リトリートガイド 22
5つの質問から見えてくる“前向きな退却”を促すツボ

誰にでも効く万能のリトリート法なんて存在しない。自分に合ったスタイルを楽しく探求&実践できればOK。みんなの理想/オススメからヒントを探してみよう!

友沢こたお(画家)、水野大二郎(京都工芸繊維大学 未来デザイン・工学機構 教授)、吉泉 聡(デザイナー)、生江史伸(レフェルヴェソンス シェフ)、齋藤帆奈(現代美術作家)、宮下拓己(LURRA°共同オーナー)、デイヴィッド・モントゴメリー(作家、教授)、キム・スング(フォトグラファー)、ヴィクラム・チョウハン(クワイエット・パークス・ インターナショナル共同設立者)、小野なぎさ(一般社団法人森と未来 代表理事)、安田 登(能楽師)、千葉雅也 (哲学者、作家)、環ROY(ラッパー)、津川恵理(建築家)、田内 学(『お金のむこうに人がいる』著者)、クレイグ・モド(作家、写真家)、松田法子(京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 准教授)、間部百合(写真家)、フローレンス・ウィリアムズ(科学ジャーナリスト)、廣川玉枝(デザイナー)、ジル・ハイナース(水中探検家)、小野美由紀(作家)。

052

12 Hz

ロン・ジュードの深い時間を写す試み

2020年に刊行された一冊の写真集がある。『12 Hz』。オレゴン州ユージーンを拠点とするロン・ジュードの作品だ。豊かなナラティブと端正な色彩で知られる作家が写し出したのはモノクロームの風景。洞窟、岩山、溶岩、氷河、水。圧倒的に緻密で美しく感情が入り込む隙間もないかのようだ。彼が未開の地で追い求めたのは何だったのか。

065

AS a TOOL

Into the Nature
自然への退却をより豊かな体験に

東アフリカのおそらく20万年前の草原で、わたしたちの祖先は産声をあげた。二足歩行で大陸をわたり歩き、文明と都市を築いて、ただいま再び自然へと退却しようとしている。ただしその手にはより優れた道具がある。切り開くのではなく、自然をより深く体験する手段として。

072

ANCIENT FUTURE TECHNOLOGY

スタートアップが切り拓くリトリートの最前線

いまや「リトリート」と「ウェルビーイング・テクノロジー」を取り巻く産業は急速に巨大化しつつある。時代のフロントラインを切り拓くのが、いつの時代もスタートアップの役割であるならば、彼女/彼らはどんな景色を見ているのだろう。米国スタートアップや投資家のボイスから見えてきた、リトリートの次なるかたち。

ナネア・リーヴス/奥本直子/ライル・マクソン

083

SF

CONTACT CALLS
樋口恭介

人類が存在することから〈撤退〉したあとの地球。
飼い主を失ったヨウム ──遺伝子改変を施され
あらゆる自然言語と機械言語を操るヨウム──は
未来に現れるであろう知性体に向けて
飼い主に教えてもらった英語を使って語りかける。
人類が〈撤退〉に至ったその物語を── 。

小説執筆のみならず、編集やSFプロトタイピングなど
その異能を多面的に示し続ける稀代のSF作家
樋口恭介が描く「リトリート」の果てしない射程。

100

BODY, BRAIN AND SLEEP

覚醒と睡眠の100マイル
またはウルトラトレイルランナーはなぜ夢を見ながら走るのか

前進する意志と後退する意識が脳内で交錯する。100マイル(160km)、時にはそれ以上の距離を夜を徹して駆けるウルトラトレイルランは、覚醒と睡眠の激しい局地戦のようだ。その体験を科学的に読み解くことができれば、あるいは日常とリトリートの関係性を問い直すことができるかもしれない。医学博士で脳から睡眠を研究する櫻井 武と、日本のウルトラトレイルランの第一人者である丹羽 薫、ふたりに訊いた。

110

AS A TOOL

Blanked Time
生活のスローダウンと睡眠の更新

まるで時間の流れそのものを味わうような、余白を日常につくり出せたなら。生活はスローダウンし、暇が生まれ、あるいは質の高い睡眠(次の一日のための退却)にもつながっていくかもしれない。リトリートの可能性をライフスタイルに組み込むためのツールとアイデア。

124

BORN TO BE REWILD

どこまで「野生」になれるのか
自然界のエンジニアことバイソン(と人間)が推し進める
再野生化プロジェクトの序章

イングランドのケント州で実施される再野生化プロジェクトでは、バイソンを森に放ち、生物多様性を高めようとしている。野生と距離を保ちながら環境改善を目指す実践の先で、自然や動植物はやがてヒトの手を離れるのか? 長きにわたる挑戦は始まったばかりだ。

136

ALTERNATIVE WAYS OF BEING

サイケデリックな生成と退却

VRヘッドセットを手にこの“現実”からのトリップを試みるぼくらは、やがてヘッドセットを外すことでリアルへの退却を試みるようになるのだろうか? テクノロジーによって拡張された心の在り処を巡る、編集長・松島倫明による思索的リトリート。

148

NEW TRUST, NEW SOCIAL CONTRACT

水野祐が考える新しい社会契約
〔あるいはそれに代わる何か〕
第13回 「脳神経権」と内心という最後の秘境

法律や契約とは一見、何の関係もないように思える個別の事象から「社会契約」あるいはそのオルタナティブを思索する、法律家・水野祐による連載。神経科学を応用したニューロテック/ブレインテックが急速に進化するなかで、「脳神経権」と「内心の自由」という観点から、その影響をひもとく。

152

Way Passed Future

川田十夢の「とっくの未来」
第25回 ChatGPTと蜜のあわれ

文学が記述した「ジャンル分けされる前の未来」の痕跡を見いだし「いま」と接続することで、文学とテクノロジーを新たなパースペクティブで捉える本連載。今回のテーマはChatGPT。情報と教養が溶けたテキストを打ち返す驚きの人工知能がまだ出力しえない「ポエジー」について考察する。