VOL.37

VOL.37 BRAVE NEW WORLD のカバーイメージ

BRAVE NEW WORLD

SFがプロトタイプする未来

2020.06.23 発売

¥980

CONTENTS

新しい世界がやってきた。必殺の概念コンセプト素型スキーム行動アクションがもはや通用しない、見通しの利かない世界が。しかし、そんないまこそSF作家の言葉に耳を傾けたい。彼/彼女らが生み出す「虚構性を孕んだナラティヴ」は、混迷の時代を攪拌する未来からの視線に溢れているからだ。かつてSFの父ジュール・ヴェルヌは「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」と語ったが、ありうる未来を準備(=プロトタイピング)した今号を実装せしめるのは、あなたかもしれない。

『WIRED』日本版VOL.37は、フィクションがもつ大胆かつ精緻な想像力から未来を構想する「Sci-Fiプロトタイピング」を総力特集。誰も予想できない未来へと現実が分岐したいま、ありきたりな将来分析にもはや価値はない。SF的想像力こそが、FUTURES LITERACY(未来のリテラシー)の必須条件となったのだ。

ウィリアム・ギブスン、齋藤精一、藤井太洋、柞刈湯葉、樋口恭介、津久井五月、吾奏伸、石川善樹、北村みなみ、ナシーム・ニコラス・タレブ、ステファノ・マンクーゾ、ドミニク・チェン、塩浦一彗、山形浩生、水口哲也、パラグ・カンナ、篠原雅武、ジュリエン・ノリン、川田十夢、水野祐、筒井康隆、ほかが登場。


12

HAVE YOU EVER IMAGINED THE 22nd CENTURY?

なぜ“22世紀”は見当たらないのか──
ウィリアム・ギブスン  INTERVIEW BY 齋藤精一

未来はすでにここにある。ただ均等に分配されていないだけだ ─ SF的想像力の源泉を表すこのあまりにも有名なご託宣を携えて、現実というマトリックスに没入ジャックインし続けてきたウィリアム・ギブスン。現状がSFをはるかに凌駕して破綻を見せ、彼が命名した“サイバースペース”への越境が地球規模で加速するパンデミックの時代に、彼はいかなる未来を“ここ”に見ているのだろうか? ライゾマティクスの齋藤精一によるメールインタヴュー。

22

LIFE’S FLOWING ALONG A WATERFALL

藤井太洋/滝を流れゆく

次世代の伝染病対策が一般的となった2030年代。自主隔離期間をキャンプでやり過ごそうとしたVRデザイナーの斯波紫音しばしおんは、山の奥の滝のほとりで外国人旅行者一家と出会う。やがて斯波は、その家族の奇妙な点に気がつくのだが……。貨物船の群体航行、抗体タトゥー、外骨格、遺伝子編集治療。来るべき未来をSF界のトップランナーが描く。

42

RNA SURVIVOR

柞刈湯葉/RNAサバイバー

南大西洋に浮かぶベタニア島を訪れたRNAウイルス研究者の「私」。お目当ては「RNAだけを使って増殖していた原始的生命の生き残り」だが、その発見を「私」は期待していない。他の生物に寄り添って変化し続けるウイルスのごとく、変化し続けなければ世の中を渡っていけないのだから……。生物学研究者の経歴をもつ奇才・柞刈湯葉の真骨頂!

54

AI MEANS LOVE

上田岳弘/愛について

VRによる世界の再現度が物理世界を超えた時代に、人はいかにして愛を選ぶのか? ブロックチェーン的なる日常を予感させる芥川賞受賞作『ニムロッド』や、ネットワーク時代の階層化と分散化の相克を壮大な世界観で描いた最新作『キュー』によって時空を軽々と越えて見せた上田岳弘は、来るべき“ミラーワールド”の出現を、「愛」から語る。

66

REVOLUTION, AND KEEP ON DANCING

樋口恭介/踊ってばかりの国

電子通貨に依拠した独立国家の設立は、1990年代から繰り返し提唱されてきたアイデアだ。日本政府のパンデミックへの“杜撰な”対応が明らかになるなか、独立国家をつくるための想像力が、いまこそ更新されるべきかもしれない。SF作家・樋口恭介が、電子国家「郡上八幡国」の未来をプロトタイプする。

78

UNDERGROUND WIND, ROOFTOP’S SOIL

津久井五月/地下に吹く風、屋上の土

植物と人類の新たなる共生のヴィジョンを描いた「コルヌトピア」にて第5回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し、鮮烈なデビューを果たした津久井五月。彼が新たに描いたのは、世界が新型ウイルスや薬剤耐性菌の流行にたびたび晒され、人類がログ派とスコア派に分かれた2038年の冬を舞台にした、ある恋の物語。

90

THE FAIR CHAINS ver.1.51

吾奏 伸/美しき鎖

瀕死の状態にある資本主義からの解放の道とは、いかなるものか。それは「量子暗号生成」がもたらす「フェアチェーン」なのかもしれない。資本家たちが掌握する「レント」から「コモン」へとプラットフォームを書き換える、“公平な鎖”がもたらすポスト資本主義の未来とは。「SFプロトタイピング」の旗手、アサシンこと吾奏伸がプロトタイプする。

100

THE OVERCONNECTED GENERATION

石川善樹/つながりすぎた人類

2050年。人類は、とあるサーヴィスによって24時間365日、ほぼ完全に「つながった」。それを実現せしめたのは、ある世代以降だけがもつ特別な脳内ホルモンの存在だった。「SFのフォーマットを使って『プロトタイピング=思考実験』をしてみませんか?」そんな編集部のムチャ振りを返り討ちにする予防医学博士・石川善樹「初めてのフィクション」。

106

COMIC

CHILDHOOD’S END
北村みなみ╱来るべき世界

雑誌『WIRED』日本版VOL.37にて誤りがございました。
お詫びとともに、以下の通り訂正させていただきます。
129ページ2コマ目
(誤)いまの夢 モトコも見てたのか (正)安心して絶滅しろ…か
同ページ3コマ目
(誤)安心して絶滅しろ…か (正)いまの夢 モトコも見てたのか

132

STAY HUNGRY, STAY BRAVE

ワイアードからのご提案!
おいしいニューノーマル・イン・ザ・ハウス

いま世に知られているレシピは、地球上にある全食材の組み合わせのたった1%にも満たない。しかし、パンデミックが人々の意識を調理に向けたいま、再現の場であったキッチンは、残り99%の未知の料理を求める「実験場」へと姿を変えるかもしれない。新しい生活様式での「おいしいニューノーマル」を求めて、実験のヒントを探る!

140

THE PANDEMIC ISN’T A BLACK SWAN

ナシーム・ニコラス・タレブ
このパンデミックはブラック・スワンではない

完全に予測可能だったパンデミックを「ブラック・スワン」と呼ぶことで、それがグローバルシステムのさらなる脆弱化の前兆にすぎないことを人々は見過ごしている ─ 不確実な未来の“現在価値”を示してきたナシーム・ニコラス・タレブへのインタヴュー。

144

NEW WORLD, NEW PERSPECTIVES

分岐した世界、描き換えられた生存戦略

個人の欲望も社会の通念も、たった数カ月で不可逆的とも思える変化を遂げた。これからの時代を見通すためにも、新たなる視座が欲しい。そこで編集部は7人の賢人に意見を求めた。分散ネットワーク、格差、地政学……。今後のサヴァイヴァルに不可欠な叡智にアクセスせよ。

146

分散ネットワーク

ステファノ・マンクーゾ
人間は植物になり、植物はコンピューターになる

人類はこれまで、植物の能力を不当に見過ごしてきた──。“植物の知性”に光を当てる植物学者のステファノ・マンクーゾは、いまこそ人類が植物の分散型構造やレジリエンスから学び、地上に誇るその稀有な能力を自らの生存のために使うときだという。

150

コミュニケーション

ドミニク・チェン
来るリモートネイティヴたちと「個」を重ね合うために

パンデミックを機に「ミラーワールド」への越境が加速するなか、自分の個と他者の個が重なり合う「Weモードのコミュニケーション」はオンライン上で実装できるのだろうか? その可能性を情報学研究者のドミニク・チェンに訊いた。

154

都市と住居

塩浦一彗
都市の緩やかな分散、緩やかなグラデーション

今回のパンデミックを経て、高密度な都市づくりが難しくなるなかで緩やかな分散、緩やかなグラデーションが生まれるかもしれない。モバイルハウス事業を展開する「SAMPO」共同創業者・塩浦一彗の視点から探る。

158

格差

山形浩生
次なる危機への備えが、格差を是正する

社会の格差の大きさを浮き彫りにしたコロナ禍。だが、それを乗り越えるための政策や次の危機への備えが格差是正に役立つ可能性があると評論家の山形浩生は言う。

162

エクスペリエンス

水口哲也
肉体と魂を重ねた祝祭体験の「これから」

祝祭は、デジタルへの置き換えがいまだ不可能な事柄のひとつ。多くの肉体と魂を同じ時空で「燃焼」させることで、純度の高い一度限りの感動を呼び起こす人類屈指の「発明」はいかなる趨勢を辿るのか。体験、肉体、魂。その連環を通じて、水口哲也が分析する。

166

地政学

パラグ・カンナ
医療のグリーンゾーンに向かう、新たなる「移民」の出現

「接続性」という視点から独自の世界地図を描いてきたグローバル戦略家パラグ・カンナは都市のロックダウンや国家の医療体制の差異による新たなる「移民」の出現を予測する。

170

エコロジー

篠原雅武
「エコロジカル・アウェアネス」による分断の始まり

人間を離れた世界への自覚の高まりである「エコロジカル・アウェアネス」の有無によって社会は分断されるかもしれない──。哲学者・篠原雅武はパンデミックを契機とした変化をこう予測する。

172

CHOOSING PATHS TO AN IDEAL FUTURE

ジュリエン・ノリン
2030年、更新された世界の片鱗

かつてはアルネ・ヤコブセンやフィン・ユール、近年ではオラファー・エリアソンやビャルケ・インゲルスらを輩出した名門「デンマーク王立美術院」出身のジュリエン・ノリン。期待の建築デザイナーが、2030年のライフスタイルの構造的変化の可能性を3つの視点で描く。

178

SOMEWHERE BETWEEN ALL AND NOTHING

対談:川田十夢 × 水野 祐
失われた3密。ミドルテンポの熱狂

今号は特別号という体裁から、連載はお休みに。しかし、有事の際こそ『WIRED』が誇る連載陣の思索に耳を傾けたい。そんな編集部の願いから、開発者・川田十夢と法律家・水野祐の対談が実現した。業界や領域の壁を溶かすこと。常にグラデーションを忘れないこと。対話から見えてきたのは、来るべき時代に向けた覚書のようなものだった。

184

THE YEAR OF JACKPOT

筒井康隆
「大当たりの年」の顛末は、遺言がわりに書くつもりです

2018年に刊行された『筒井康隆 日本文学の大スタア』〈河出書房新社〉のなかで、筒井は「SFは文学の一ジャンルではなく、超虚構性を成立させるための『ものの見方』である」と語っている。御大はいま、未曾有のパンデミックに見舞われた社会をいかなるまなざしで見つめているのだろうか。それを確かめるべく自宅(神戸)の電話を鳴らした。巻末特別インタヴュー!

6

EDITOR’S LETTER