WeWorkの再スタートは、「働き方の未来」を占う試金石となる

経営難で破産申請していたWeWorkの再生計画が承認された。“適正規模”の運営で復活を目指す取り組みは、コワーキングスペースという事業の将来性や「働き方の未来」を占う試金石にもなる。
A commercial highrise building with WeWork signage on the facade and a large hill in the background
Photograph: Justin Sullivan/Getty Images

コワーキングスペースの事業分野を牽引してきたWeWorkが規模を縮小され、適正といえるかもしれない規模の会社になる。破産計画に関する5月30日(米国時間)の最終審問の結果、WeWorkは拠点数の削減と新たな資本の導入を実施することで、40億ドル(約6,300億円)の負債を解消する方針が決まったのだ。

ニュージャージー州ニューアークの裁判所で実施された最終審問では、ジョン・シャーウッド判事が満席の法廷でWeWorkの再建計画を承認した。WeWorkは6月中旬にようやく破産状態から脱出できる見通しとなる。

今回の再建計画は、物議を醸したWeWork創業者のアダム・ニューマンによるWeWork買収も防いだ。ニューマンは自らが創業し、不名誉にも追放されてしまったこの会社を買い戻そうとしていたのである。

WeWorkの新たなスタートは、新しい働き方の時代とタイミングを同じくしている。オフィスワーカーたちはフルタイムでのオフィス勤務に戻ることに反発しており、2023年後半の時点で米国のオフィススペースは20%近くが空室になっている。

一方で労働者たちの孤独感も高まっており、コワーキングスペースを運営する各社は人々を1カ所に集めることで問題に対処できると主張している。WeWorkの再始動は、コワーキングスペースそのものの未来を占う試金石となるだろう。

「WeWorkはまだ、この事業モデルが実行可能なものであると信じています」と、金融サービスを展開するDebtwireの法務・リストラクチャリング部門のグローバル責任者であるサラ・フォスは言う。「WeWorkは大幅にスリム化された会社へと脱皮しようとしているのです」

不動産契約の見直しを急ピッチで進行中

WeWorkが破産申請したのは、昨年11月のことだった。高金利に加えて、在宅勤務が広がる引き金となった新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受け、WeWorkは多くのリース契約と空席が目立つデスクスペースやオフィススペースを過剰に抱え込むことになったのである。2023年には、リース費用が営業費用の3分の2を占めるまでになっていた。

WeWorkは破産申請する前、世界各地に500以上の拠点を有していた。今後は約330拠点に削減され、その約半数が米国とカナダで運営される。WeWorkの試算によると、これにより賃料負担を約120億ドル(約1兆9,000億円)規模で圧縮でき、賃料コストが半減するという。

今回のWeWorkの計画は、多くのリース契約を修正または継続すると同時に、約150のリース契約については拒否か解除交渉する前提に基づいている。WeWorkは今回の計画において、同じビルに過剰な広さのフロアを占有していたり、近接する場所に複数の拠点が存在したりしていて供給過剰になっている地域のオフィスを優先的に削減した。

これらの施策の多くは連邦破産法第11条を適用申請する手続きの一環として進められたものだが、米国とカナダ以外の拠点は対象ではない。その他の国においては、シンガポール、クアラルンプール、バンコク、ホーチミン、ジャカルタ、マニラ、パリの拠点を含む一部のリース契約についてオーナーに協力を求め、条件の再交渉を進めてきた。

その過程でWeWorkは何百ものオーナーを訪ね、新たなリース条件やビルからの退出を交渉した。破産した企業はリース契約を全面的に再交渉したり、拒否したりできる。こうしたなか、オフィスのオーナーたちを苦しめている市況がWeWorkにとって有利に働き、さらにいい条件で同じ場所を借り続けられるよう交渉できたという。

「WeWorkにはすべての有利な交渉材料があります。いまが不動産オーナーにとって厳しい時期であることをわかっているのです」と、ニューヨークのオフィス賃貸コンサルティング会社であるWharton Property Advisorsの顧問を務めるエリック・ハーバーは言う。スリムになったWeWorkについてハーバーは、「合理化されたことで収益を上げられることを望んでいますが、WeWork側の予測は非常に楽観的なものです」と指摘する。「状況は大幅に改善されましたが、まだ計画を実行に移して収益を上げていく必要があります」

WeWorkはリストラの一環として、数十のオフィスのリース契約について、WeWorkにとってリスクの少ないレベニューシェア型の契約に更新することも目指した。こうした契約モデルは、コワーキングスペースを展開するIndustriousなどの競合する企業でも採用されている。

「WeWorkに対する初期の批判のなかには、WeWorkがすべてのリスクを負っているというものもありました」と、WeWorkの不動産部門のグローバル責任者であるピーター・グリーンスパンは説明する。しかし、今後は「そのようなリスクのすべてを積極的に引き受けることはないかもしれません」と言う。つまり、WeWorkはリース契約、管理契約、レベニューシェア契約を各拠点で使い分けていく可能性が高い。

“適正規模”の事業モデルで成功できるか

コワーキングスペース大手であるWeWorkは、リースしたオフィススペースをサブリースする事業モデルを急ピッチで進めたことで、企業評価額を470億ドル(約7兆4,000億円)まで上昇させた。ところが、それも悪名高い最初の株式上場の試みが実現する前に崩れ去ってしまった。

今回の破産計画には、4億ドル(約620億円)の新たな資金調達が含まれている。また、不動産ソフトウェア会社のYardi Systemsが過半数の株主となり、WeWorkは非上場企業に戻る。

一方で創業者のニューマンは、WeWorkが破産を宣言した後に6億5,000万ドル(約1,010億円)を提示してWeWorkを買収しようとした。WeWorkを“追放”されたニューマンは過去数年にわたり、コミュニティ機能を備えたアパートメントの賃貸事業を展開するFlowをフロリダで展開している。

Flowは不動産のサービスとテクノロジーを垂直統合(つまり、アプリを使って居住者同士をつなげて居住体験を管理)することに焦点を置いている。ニューマンはWeWorkとFlowがパートナーとして提携する可能性や、競合になる可能性もあると語っていた。

ところが、この買収案を採決する最終投票のわずか2日前、ニューマンは提案を取り下げた。そしてWeWorkの破産計画について、「非現実的で成功する見込みは薄い」との考えをニューマンは表明している。

WeWorkのグリーンスパンはWeWorkの計画する数字について、この新たな適正規模の事業モデルの下であれば非現実的なものとは思わないと語る。「WeWork」のブランドは今後も37カ国の120都市で運営が継続される。

都心の商業オフィスの将来性には疑問符が付くものの、WeWorkは成功を示すときが来たと主張している。「柔軟な会議室、柔軟な企業向けスペース、柔軟なひとり用スペースに至るまで、柔軟性のあるスペースのニーズは高まっていくでしょう」と、グリーンスパンは言う。

レンタルオフィス市場の不透明感は、いまだに消えていない。しかし、スリムになった新しいWeWorkは、柔軟性が本当に「働き方の未来」に対する答えになるのか見極めるには、ちょうどいい実験場になるかもしれない。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるWeWorkの関連記事はこちら


Related Articles
WeWork sign on the side of a building facade
経営難に陥っていたWeWorkが、連邦破産法第11条の適用を申請した。各拠点は引き続き運営が続くというが、しばらくは混乱が続きそうだ。
Adam Neumann standing in front of a large billboard advertisement for his company Flow
WeWorkの創業者アダム・ニューマンが、破産した同社を買い戻したいという試みは事実上終わった。彼の新会社Flowは住民間のコミュニティと仕事スペースを備えた賃貸住宅を展開しているが、今後はWeWorkと競合することになるかもしれない。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.52
「FASHION FUTURE AH!」は好評発売中!

ファッションとはつまり、服のことである。布が何からつくられるのかを知ることであり、拾ったペットボトルを糸にできる現実と、古着を繊維にする困難さについて考えることでもある。次の世代がいかに育まれるべきか、彼ら/彼女らに投げかけるべき言葉を真剣に語り合うことであり、クラフツマンシップを受け継ぐこと、モードと楽観性について洞察すること、そしてとびきりのクリエイティビティのもち主の言葉に耳を傾けることである。あるいは当然、テクノロジーが拡張する可能性を想像することでもあり、自らミシンを踏むことでもある──。およそ10年ぶりとなる『WIRED』のファッション特集。詳細はこちら