世界で最も影響力のあるコンパクトカーを挙げるとすれば、多くの人がフォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」の名を挙げることだろう。ハッチバックタイプの実用的なコンパクトカーとして誕生したゴルフが、2024年3月で生産開始から50周年を迎えた。
ゴルフは誕生から時代に合わせてアップデートを繰り返し、2019年に発売された現行モデルは8代目となる。その間、コンパクトカーの世界基準であり“メートル原器”として世界中の自動車メーカーから注目され続け、絶大な影響力を誇ってきた。
そんなゴルフが誕生したきっかけは、1930年代にフェルディナント・ポルシェ博士によって生み出された通称「ビートル」こと「タイプ1」の不振だった。VWの屋台骨を支えるモデルとして1970年代まで生産され続けたが、さすがの人気モデルもロングセラーゆえに時代遅れになり、販売不振に陥ってしまう。
こうしたなか、ビートルに代わってVWの新たな屋台骨になるモデルが求められた。そのひとつがコンパクトなハッチバック車のプロジェクトで、のちの「ゴルフ」である。デザインを任されたのは、カーデザインの巨匠のひとりに数えられるジョルジェット・ジウジアーロだった。
車体の前方にエンジンを横置きして前輪を駆動する「FF(フロントエンジン・フロントドライブ)の方式を採用し、4人乗車で荷物を積んで快適に移動できるコンパクトな実用車──。そうした命題にジウジアーロは、得意としていたエッジで直線と面を強調する「折り紙」のようなデザインで応えたのである。
なお、「ゴルフ」という車名は「メキシコ湾流(ガルフストリーム)」を意味するドイツ語「Der Golfstrom(英語ではThe Gulf Stream)」から名付けられたという。メキシコ湾流は南から暖かい海水を運ぶ暖流で、高緯度の西ヨーロッパに温暖な気候をもたらす役割を果たすとされる。
こうして現代的なデザインをまとい、機能性と効率性を備えた実用的なコンパクトカーとして誕生したのが初代「ゴルフ」だった。量産は1974年3月にスタートし、30年以上にわたって愛されたレトロなビートルと入れ替わるかたちで人気を博すことになる。そして世界中の自動車メーカーからコンパクトカーのベンチマークとして注目され、“メートル原器”として影響力をもつようになったのだ。
日本には1975年に上陸したゴルフは、その後も進化しながら派生モデルを生み出してきた。ワゴンタイプの「ヴァリアント」や高性能モデル「GTI」は日本でも人気を博したほか、オープンタイプの「カブリオ」が長きにわたって愛されたモデルとして知られている。
そんなゴルフは2019年に8代目モデルとなった。時代はSUVが人気の中心となり、電動化が加速するなかでもアップデートを続けている。そんなゴルフの歴史を、以下に写真で振り返っていこう。
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雑誌『WIRED』日本版 VOL.52
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