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先生、「空間」は何次元ですか!? ── 理論物理学者・野村泰紀に訊く素粒子〜宇宙スケールで捉える「空間」の正体

雑誌『WIRED』日本版VOL.53では総力を挙げて「空間」×「コンピューティング」の可能性を掘り下げているが、肝心の「空間」自体は、どう定義すればいいのだろう。生半可な掘り下げでは、生焼けになることは目に見えている。ここはぜひ、当代屈指の理論物理学者の叡智に与りたい。というわけで、米国・カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)物理学部棟の4階にある、野村泰紀のオフィスを訪れた。野村先生、「空間」とは一体、何なのでしょうか?
先生、「空間」は何次元ですか ──理論物理学者・野村泰紀が素粒子〜宇宙スケールで語る「空間」の正体
Illustration by Dean Aizawa

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.53 特集「空間コンピューティングの“可能性”」より。詳細はこちら

空間とは何か ──。

この問いは、現代物理学の進展に直接関係してきた命題です。現代物理学は「空間と時間を理解する学問」であったと言ってもいいくらいです。ですので、わたしの専門である量子重力理論の観点から話を進める前に、まずは物理学と空間の関係性をダイジェストでお伝えしたいと思います。

空間って、実は高次元なうえに、それ自体がエネルギーをもっていて、さらには──。

Illustration by Dean Aizawa

3次元の誕生

17世紀の科学革命を牽引したニュートンやガリレイは、生涯にわたって「ものの動き」を追い求めていました。ものの動きを追うためには「ものがどこにあるか」の「どこ」、つまりは空間を定義する必要があるわけですが、デカルトが導入した座標系によって「タテにいくつ、ヨコにいくつ、高さいくつ」と3つの数字を決めることで、空間内の一点を代数的に決めることが可能になりました。それを、われわれは3次元と呼んでいます。空間とは、3つの数字で一点が決まる「場所」であると、深く考えることなく定義されたわけです。

ただし、3つの数字で位置を指定しても──例えば「【3、1、2】で会おうぜ」と決めても──ある人は明日行って、別の人が明後日に行ったら会えないので、一点で会うイべントを完全に指定するためには時間を指定しなければいけません。3+1次元で4次元というわけです。いまの物理学からすると、非常に牧歌的な捉え方です。

時代が進んで19世紀中ごろになると、空間と時間はそんなに単純なものではない、ということがわかってきました。そのきっかけとなったのが、(詳細は省きますが)マクスウェルの方程式です。英国の物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルが導入したこの方程式によって、光が電磁波であることが示され、さらには光の速度が約30万km毎秒であることが導き出されました。

しかし当時、多くの研究者がこの結論に首をかしげました。それまでガリレイやニュートンが扱ってきた「速度」は、「誰から見た速度なのか」を定義しないと意味がないはずだったからです。例えばクルマの速度が時速50kmだとしても、実際のところ地球はとんでもない速度で自転しているので(さらにいうと公転もしているので)、実はメチャクチャ速いわけです。でもマクスウェルの方程式で計算すると、「誰から見た」という情報を入れずとも、光の速度が約30万km毎秒であることが導き出されてしまう。それは、従来の時間や空間の概念ではありえない話だったのです。この矛盾を解いてみせたのが、アルベルト・アインシュタインでした。

カリフォルニア大学バークレー校の物理学部棟の入り口には、目を見張る大きな木製のトビラが。「PHYSICS」の文字が輝かしい。

Illustration by Dean Aizawa

空間は縮む!?

1905年、アインシュタインは特殊相対性理論を発表します。物理学に革命が起こるときには大抵、時間や空間の概念に大きな変更が起こるのですが、特殊相対性理論も、物理学における時間と空間の理解を根本的に変えた真の革命でした。ごくごく簡単に説明すると、高速で移動する時計は、静止している時計に比べて進みが遅く(=時間の遅れ/時間の膨張)、物体が観測者に対して非常に高速で移動している場合、その移動方向に沿った長さは短くなる(=長さの収縮)──といったことをアインシュタインは理論的に証明しました。

例えば、ミューオンという素粒子があります。地球には宇宙からたくさんの宇宙線が降り注いでいるのですが、それが大気とぶつかることで生まれる素粒子です。ミューオンは非常に不安定で、つくられてから約2マイクロ秒で必ず壊れてしまいます。ミューオンの観測は地上で行なっていますが、高度15〜20km付近でミューオンが生成されてから地上まで、どう考えても2マイクロ秒では来られません。しかしミューオンが地面に到達するのは事実です。

これはどういうことかというと、ミューオンの速度がものすごく速いので、地上で観測しているわれわれからすると2マイクロ秒が「より長く」感じられ(=時間の遅れ)るのです。一方ミューオンにしてみれば、ちゃんと2マイクロ秒で壊れているわけですが、ミューオンの観点では大気から地上までの空間が「縮んでいる」(=長さの収縮)ように見えるわけで、そのため地上に到達することができるのです。ちなみに主観的に遅れたり縮んでいるのではなく、ものさし自体、つまりは時間自体が遅れ、空間自体が縮んでいます。

時空はゆがむ!?

特殊相対性理論はさらに、光の速度(約30万km毎秒)が自然界において最大の速度であることも導き出しました。しかし、それによってある矛盾が生じることにアインシュタインは気づきます。例えば何か事件が起こり、それを誰かに伝えたいとしても、光の速度より速く伝えることはできないというのが特殊相対性理論です。一方、ニュートンが1687年に発表した万有引力の法則によると、物体間の万有引力(=重力)は一瞬で働くことになっています。仮に太陽がパッと消えたとして、ニュートンの理論が正しければ、その瞬間に地球はすっ飛んでいくことになります。しかし特殊相対性理論によると、シグナルを伝えられる最大の速度は光の速度のはずなので(太陽〜地球間は光速で8分程度かかるので)、困ったことになるのです。

アインシュタインはニュートンの重力理論を変える必要性を感じ、次の10年をかけて理論を打ち立てました。それが、一般相対性理論です。またしてもごく簡単に説明すると、地球はひもを付けたバケツのごとく太陽の周りをグルグル回っているわけではなく、まっすぐ進んでいるけれど、空間が「ゆがんでいる」ので、結果として円軌道を描いているのだとアインシュタインは結論づけたのです。トランポリンのような薄い膜の表面にとても重いボールを置くと、中心は深く沈み、周囲の空間はゆがみます(なので直進しようとする地球は円軌道を描きます)。そしてボールを取り除いたとき、トランポリンが平らに戻る最大のスピードが光のスピードを超えないとしたら、たとえ太陽が一瞬で消えたとしても地球は最短でも8分間ほど回り続けるので、光のスピードより速く情報が伝わる矛盾を解消できる……。そう、アインシュタインは考えたのです。

ニュートンやガリレイの時代、空間は容れ物(もしくは座標)でしかなく、その容れ物のなかを物質が動いているという認識でしたが、20世紀の初頭になると、実は重力によって空間自体がゆがんでいるということがわかってきました。しかも一般相対性理論を宇宙全体に当てはめてみると、空間は拡がっているか収縮しているかのどちらかであることが理論的に導き出され、数年後には実際に膨張していることが判明したことで、空間(正確を期すなら時空)とは単なる容れ物ではなく、実体があるダイナミカルな存在であることがわかってきたのです。

“功労者”をたたえるかのように「Oppenheimer Way」と名付けられた、物理学部棟前の道。

Illustration by Dean Aizawa

量子力学と重力

20世紀前半の物理学というと、アインシュタイン以外にも、プランク、ボーア、ハイゼンベルク、シュレディンガー、ド・ブロイ、ボルン、ディラック……さらには、わたしが在籍しているUCバークレーにおいて理論物理学の礎を築いたオッペンハイマー(ちなみに数年前、物理学部棟の外で映画『オッペンハイマー』の撮影をしており、主演のキリアン・マーフィーが大きな木製のトビラを開けたり閉めたりしていました)等々、突出した才能の持ち主たちが同時代に存在しました。彼らの叡智によって完成したのが量子力学です。この世界は量子力学に支配されていると言っても過言ではありませんし、実際、素粒子のような極小の世界から高温高密度の初期宇宙のことまで、量子力学を通じてさまざまな発見がなされましたが、なぜか一般相対性理論との折り合いはあまりよくありません。それでも実際上問題が生じないのは、重力が「非常に弱い力」だからです。

例えば水素原子は、ひとつの陽子の周りをひとつの電子が回っています。陽子も電子も質量があるので、当然重力もあるはずですが、その力は電磁気の力に比べて小数点以下にゼロが40ケタ続くほど小さなものなので、ほとんど無視できるレべルなんです。だから、素粒子の理論に重力は入っていません。でも、わたしたちは実際に重力を感じますよね。それは、わたしたちが「たくさんのもの」でできているからです。そもそも、自然界には弱い力(弱い相互作用)と強い力(強い相互作用)、電磁気力、重力という4つの力が存在します。

このうち、重力以外はプラスとマイナス(あるいは引力と斥力)をもっているので打ち消し合うのですが、重力だけは負の質量というものがなく、単純に足し上がっていくんです。例えば、人間の身体は10の10000……乗とゼロが20数個つくような数の原子でできているので、重力が効いてくるわけです。天体の動きや銀河の動きの研究ではなおさら重力が重要になってくるのですが、量子力学の世界においては何十ケタ分の一ほどズレるだけなので、重力が理論に入っていなくても問題がなかったんです。

でも、自然界にはどちらも存在しますよね。わたしたちの世界は量子力学で動いているし、重力があるのも事実です。つまり、一般相対性理論と量子力学が統合された量子重力理論があるはずなのですが、まだ見つかっていません。いまのところ、その候補とされるのが超弦理論です。

物理学部棟の廊下には、オッペンハイマーとアインシュタインの交流の記録も展示されている。

Illustration by Dean Aizawa

この世界は9次元!?

ニュートンやガリレイの時代以来、空間というのは単に3つの数字だと思っていたけれど、そうではないことをアインシュタインが発見しました。空間は伸びたり縮んだり、時間と混ざったりできますと。それどころか曲がったり膨張したりしますと。でも、それらは量子力学的な言葉ではありません。だから、空間を量子力学的にする、あるいは量子力学的に空間を記述しようとするのが量子重力理論で、まさにわたしが取り組んでいる分野になります。

「じゃあやればいいじゃん。一般相対性理論に量子論の効果を入れればいいじゃん」と思われるかもしれませんが、うまくいかないんです。量子力学と一般相対性理論を単純に合体させようとすると、例えば1+1が5になってしまうような、整合性がとれない理論になってしまうんです。ただし、すごく特別な場合だけうまくいくことがわかりました。これまでは、粒子を小さくしていくとツブみたいになっていくと思っていたのですが、ツブじゃなくてヘンな構造──わたしたちから見ればひもみたいなもの──があるとして、しかもそのときに空間の次元の数が3じゃなくて9だとすると、その場合だけ数学的に矛盾がないんです。簡単に言うと、それが超弦理論です。

わたしたちは明らかに9次元には住んでいないのでおかしいと思うかもしれませんが、実はそうでもありません。例えば、紙って普通2次元だと思われていますが、実際には厚みがあります。人間から見たら厚みは薄過ぎるけれど、ウイルスから見れば3次元方向があるわけです。つまり「2次元上のどんな一点にも、厚み方向にもうひとつの次元がある」と捉えることができます。それと同じで、3次元のどんな一点にも6次元方向の厚みがあると捉えてみるんです(ここからマルチバースの話につながるのですが、残念ながら今回は割愛します)。この6次元のかたちを変えていくと、素粒子の質量や種類が変わったり、真空エネルギーという空間自体がもっているエネルギーの量が変わったりするんです。

「ブラックホールとエントロピー」について解説してくれた、野村教授の黒板の跡。

Illustration by Dean Aizawa

空間はエネルギーをもっている

この「空間自体がエネルギーをもっている」という現象は、非常に重要です。わたしたちは普通、エネルギーというのはものに付随していると思っていますよね。例えば机やイスを空間から取り除いていくと、エネルギーがゼロになるような気がするじゃないですか。ところが、空間自体もエネルギーをもつ、ということがわかったんです。これは、1998年に宇宙が加速膨張していることが発見されたことで確かめられました。

宇宙が膨張していることは、一般相対性理論によって20世紀初頭にはわかっていました。風船を膨らませると表面に描いた点と点が拡がっていくように、星や銀河の距離が拡がっていることがわかったからです。ただ、重力というのは万有引力なので(引き合っているわけなので)、拡がっていくスピードはやがて減速するはずだとみんな考えていました。その力が強ければ、ある時点で膨張は止まり、逆に収縮をし始め最後には潰れてしまうと考えられていました。なので、宇宙の将来を知るべく「どれだけ減速しているか」を精密に測ったところ、何と減速パラメーターは負、つまり加速していたことがわかったんです。

この加速膨張を引き起こしているのが、「真空のエネルギー」と呼ばれる空間自体がもつエネルギーです(たとえ未知のダークマターであろうが、「物質」であれば万有引力が発生するはずなので加速は起きません)。空間というのは、わたしたちが思っているよりもはるかに「動的な構造」があることが、また確かめられたのです。

ブラックホールとエントロピー

空間は実は高次元で、しかもそれ自体がエネルギーをもっている……。ここまで、現代物理が発展する過程でわかってきたことをお話ししましたが、個人的にはまだ「空間とは何ぞや」という問いには答えていないように思います。量子力学ではすべての性質が確率的に分布していると考えるわけですが、空間だけが座標の値という古典的な概念でいけるわけがありません。空間もまた、「量子的な何か」であるはずです。その「何か」の兆しが、ブラックホールというへんな物体を見ることで徐々に見えてきています。

ブラックホールとは、密度と質量が極めて高いもの(特異点)が中心にあり、そこから光のスピードで出ようとがんばっても ─ トランポリンのような薄い膜の中心が漏斗のように深く沈み込んでいるので ─ そこまでしか行けない、という範囲=空間のことを指します。「そこまでしか行けない」境界を「事象の地平面」といい、特異点の質量が大きいほどその半径(シュワルツシルト半径)も大きくなります。この地平面は、いわば空間上に線を描いているようなもので、境界はあるものの、そこに物体はありません。

そんなブラックホールを理解するために、エントロピーという概念を使ってみます。エントロピーとは、統計力学的に言うと「ミクロな状態が取りうる可能性の数を表す量」だと捉えられます。そしてこのエントロピーは通常、減ることのない量だということが知られています。

しかし、例えばガスにはエントロピーがあり、それをブラックホールに落とすと、ガスのエントロピーはブラックホールに吸収されて消えてしまいます。これはエントロピーが減ることのない量だということと矛盾するように見えます。しかし、ガスを吸収したときにブラックホールの表面積は大きくなります。また、表面積がA1というブラックホールと、表面積がA2というブラックホールが合体して表面積がA3のブラックホールになったとすると、このA3は、必ずA1+A2と同じかそれ以上になるんです。このことから、実はブラックホールのエントロピーとは表面積なんじゃないか、ブラックホールの表面積こそがエントロピーなんじゃないか、という推論が成り立ちます。

ブラックホールがエントロピーをもつという提案は1972年、ヤコブ・ベッケンシュタインによってなされました。それに対し、スティーヴン・ホーキングが疑問を呈します。エントロピーをもつものは必ず「放射」するはずですが、ブラックホールは吸い込むだけで温度はゼロだと考えられていたため、矛盾が生じるというわけです。しかしホーキング自身が量子力学の効果を入れて計算したところ、ブラックホールは実際に放射することがわかりました。いわゆる「ホーキング放射」です。ブラックホールがエントロピーと放射をもつということは、ブラックホールが構造をもった存在であることを意味します。言い換えると、空間自体がエントロピーをもち、放射するという性質をもっているのです。

幾何学から情報へ

エントロピーをもっているということは、実体があるということです。例えば空間を格子状に捉え、任意の場所に粒子を置いたり置かなかったりするチョイスがあるとします。格子が10(タテ)×10(ヨコ)×10(高さ)で1,000個あるとすると、そのひとマスごとに粒子を置いたか置かないかの2通りあるので、「2の1,000乗通りの可能性」があるわけです。その対数を取ったものがエントロピーなので、普通、エントロピーは体積に比例するわけです。

ところが、ブラックホールのエントロピーは表面積だと言っている。例えば【半径10】の球体内に詰められる物質の量は、3次元では10×10×10で1,000ですが、ブラックホールの場合は100(10×10)が限界です(それ以上詰め込もうとしても、ブラックホール自体が大きくなるだけです)。つまり、次元がひとつ落ちるようにみえるんです。しかもブラックホールはあらゆる物質の最終状態と考えられるから、ブラックホールのエントロピーは、その空間がもちうる最大のエントロピーだと考えられるわけです。

これは、3次元の重力理論のなかにある「どれだけの可能性が取れるか」という自由度が、実は2次元分しかないということを意味します。そこで研究者たちは、自由度が同じであるならば、重力を含まない2次元の理論で書き換えられるのではないか……と考えました。これを、ホログラフィック原理と言います。

3次元と2次元がイコールだということは、そこに何かしらの数学的な対応関係があるはずです。90年代半ばに、オランダのヘーラルト・トホーフトや米国のレオナルド・サスキンドらによってブラックホールの表面積とホログラフィの関係が指摘されましたが、具体的な対応例は見つかっていませんでした。しかし97年、超弦理論のなかにホログラフィの性質があることがわかりました。具体的には反ド・ジッター空間と呼ばれる空間における量子重力理論と、ある特殊な場の量子論(共形場理論)が完全に対応することが、アルゼンチン出身のフアン・マルダセナによって示されたのです。

この対応関係を調べることにより、3次元における面積や体積といった「幾何学的な量」が、2次元における「情報量」に対応していることがわかってきました。これが、「空間とはエントロピーそのものである」という概念につながります。2次元での情報量が特定の条件を満たすとき、それが3次元における重力理論として認識される。つまり、2次元の理論において量子力学を適用すると、その結果が3次元における一般相対性理論として、1対1対応するかたちで現れる。言い方を変えると、重力のない2次元の量子理論が、わたしたちのいる3次元宇宙における重力が含まれた理論と、式がまったく同じになるわけです。それがホログラフィの本質であり、これが「空間とは何か」という問いに対する最新の答えということになるかと思います。

しかし現状は、まだ「ある特別な場合(=反ド・ジッター空間)」に限って、数学的な対応を見いだせているに過ぎません。全体の表面をカリカリやっているようなものです。わたしとしては、量子力学におけるポール・ディラック(特殊相対性理論と量子力学を統合し、量子力学の数学的基盤を確立した物理学者)のレべルに量子重力理論の分野で到達する ─ というゴールに迫るべく、「時空とは何か」について考え続けていきたいと思っています。

今後も数多くの理論物理学者たちが、このトビラを開けて「思索のための散歩」へと出かけていくのだろう。

Illustration by Dean Aizawa

野村泰紀|YASUNORI NOMURA
1974年神奈川県生まれ。カリフォルニア大学バークレー校教授。バークレー理論物理学センター長。ローレンス・バークレー国立研究所上席研究員、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構連携研究員、理化学研究所客員研究員を併任。主要な研究領域は素粒子物理学、量子重力理論、宇宙論。96年、東京大学理学部物理学科卒業。2000年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。米国フェルミ国立加速器研究所、カリフォルニア大学バークレー校助教授、同准教授などを経て現職。著書に『なぜ宇宙は存在するのかはじめての現代宇宙論』〈講談社 ブルーバックス〉等。


Photograph by Tomonari Cotani

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.53 特集「空間コンピューティングの“可能性”」より転載。


雑誌『WIRED』日本版 VOL.53
「Spatial × Computing」

実空間とデジタル情報をシームレスに統合することで、情報をインタラクティブに制御できる「体験空間」を生み出す技術。または、あらゆるクリエイティビティに2次元(2D)から3次元(3D)へのパラダイムシフトを要請するトリガー。あるいは、ヒトと空間の間に“コンピューター”が介在することによって拡がる、すべての可能性──。それが『WIRED』日本版が考える「空間コンピューティング」の“フレーム”。情報や体験が「スクリーン(2D)」から「空間(3D)」へと拡がることで(つまり「新しいメディアの発生」によって)、個人や社会は、今後、いかなる変容と向き合うことになるのか。その可能性を、総力を挙げて探る!詳細はこちら


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