みんなの理想/オススメのリトリート法 22選:5つの質問から見えてくる“前向きな退却”を促すツボ

誰にでも効く万能のリトリートなんて存在しない。 自分に合ったスタイルを楽しく探求&実践できればOK。みんなの理想/オススメからヒントを探してみよう!『WIRED』リトリート特集で国内外の気になる面々から集めたアンケートを一挙ご紹介。
みんなの理想/オススメのリトリート法 22選:5つの質問から見えてくる“前向きな退却”を促すツボ
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ANSWERERS: 友沢こたお水野大二郎吉泉 聡生江史伸齋藤帆奈宮下拓己デイヴィッド・モントゴメリーキム・スングヴィクラム・チョウハン小野なぎさ安田 登千葉雅也環ROY津川恵理田内 学クレイグ・モド松田法子間部百合フローレンス・ウィリアムズ廣川玉枝ジル・ハイナース小野美由紀


5 QUESTIONS
a. あなたがいま、リトリートに出かけるならどこへ行きますか?
b. そのリトリートで何をしたい/したくないですか?
c. リトリートを実現するために役立つツールやテクノロジーはありますか?
d. そのリトリートで世界や自分に対する認識はどのように変わりましたか?/変わると思いますか?
e. そのほか(リトリートへのこだわりなど、ご自由に!)


1. 身体と精神、身体と世界の境界を溶かす

a. サウナ。裸になれる。全裸になりたくて生まれてきたのです。
b. 身体から精神を解放すること。
c. タギってるサウナ友達。虚無僧サウナハット。コーヒー牛乳。サウナ後の火鍋。
d. 究極のひとりになれる。遥か遠くから自分を見つめることができる。自分のいた世界は小さいと思える。時間の流れも伸び縮みするので大事に生きようと思うようになる。プールのあるサウナもあります。キンキンの水風呂に入ったあとにそのプールに浮かぶと、不思議と温かく感じられ、身体と水の境界がなくなって透明人間になったような感覚を覚えます。頬と水面の境界線だけがゆらゆらと生々しい肌触りになり、息を吸うと身体はふわーと浮かび、息を吐くとすーっと沈むので、頬と水面によって繰り出される自分だけの輪切りの円をぐにぐにと伸び縮みさせて遊べます。その遊びに全身全霊を捧げ過ぎて、仕事がどうとか恋愛がどうとかを忘れられます。
e. サウナと火鍋はセット。

友沢こたお|KOTAO TOMOZAWA
画家。1999年フランス・ボルドー生まれ。スライム状の物質と有機的なモチーフが絡み合う独特な人物画を描く。東京藝術大学大学院美術研究科在学中。モデルや実験音楽ユニット・PRIVATE LESSONSなどさまざまに活動中。


2.「人間であること」からの休息

ぼくは東京のど真んなか生まれで、「いわゆる自然」にリトリートを見出すことに若干の違和感があります。確かに素敵な「いわゆる自然」にも出合いましたが、依然として子どものときから感じる都市の人気のない場所、例えば敷地境界線として塀に取り囲まれ、哀れにも取り残された空き地や、使い道もなく、ただそこにあるだけの空きビルの屋上とかに入り込み、そこで静かな時間を過ごすことにも魅力を感じています。大人になって、このような場所に入り込むことはすっかり難しくなりましたが、ゲーム環境を通して、しかも非人間として、「人新世の自然」としてのリトリートにいつでも入り込めるようになったことは、嬉しい限りです。

a. PlayStation 5のゲームの世界。特に行きたいのは「Stray」。異世界に手軽に、夜にひっそりと、いまの自分であることから休息をとりに行きたい。
b. ゲームの世界で焦ったり疲れたりはしたくない。求めるのは勝手気ままな漂流。中学生のときに初めて深夜に家を抜け出した際の解放感のようなもの。
c. オーディオ、ハプティックなセンサーとか。VR酔いしないならHMDも可(メガネに優しいHMD希望)。
d. 小さな子どもがいるので唯一の自由時間は夜中。 この時間をどうリトリートに使うかが重要。また、近年のマルチスピーシーズ人類学などに象徴される異種への注目など、人間ではないものになることにも興味があった。「Stray」を通してロボや猫など非人間のエージェントに対する意識が変わる効果のみならず、 深夜の漂流を孤独に味わうことで罪悪感や焦燥感、没入感、達成感など入り交じった感情を得られた。
e. 孤独。静けさ。

水野大二郎|DAIJIRO MIZUNO
京都工芸繊維大学 未来デザイン・工学機構 教授。慶應義塾大学大学院特別招聘教授。デザインリサーチャー。Royal College of Art MA/PhD修了後、日本にて多様なデザインの教育・研究・実践に従事。共著に『サーキュラーデザイン』『サステナブル・ファッション』など。


3. 異なる価値観を同居させる

a. 東北。マタギの方が「山を見て自然とは言わない」と言っていてハッとしました。自然という言葉を使うこと自体が、人間と自然を分けているのだと。都市の当たり前とは異なる世界への眼差し・知覚の存在に気づき・触れるため、東北で月に3日程度フィールドワークに出ています。
b. その環境にいて「しようと思ってしまったこと」。世界との対話のようなこと。
c. GORE-TEXやOakleyのサングラス。厳しい環境では、身体と環境の境界をアップデートしてくれるテクノロジーが必要。
d. 都市における常識はひとつの見方に過ぎないということ。マタギや山岳信仰、神話、妖怪のような古くさい・非科学的だと思われていることにこそ、人間が精神を疲弊せず世界と向き合う叡智が溢れているように思いますし、異なる世界観を自分の中に同居させることでリトリートできるような気がします。
e. どんな価値観・ 方法を信じても問題ないと認識し、実践することがリトリートや創造性につながる。

吉泉 聡|SATOSHI YOSHIIZUMI
デザイナー。TAKT PROJECT Inc.代表。デザインを通して「別の可能性を創る」実験的な自主研究プロジェクトを行ない、国内外の美術館やデザイン展覧会で発表・招聘展示。その成果をベースにクライアントと多様なプロジェクトを展開している。


4. 脳と心拍を落ち着かせるトレーニング

a. 海。料理人の仕事は秒単位。包丁や炎を扱うのでアドレナリンドリブンな部分が多く、深夜まで働くので大抵は職場から家も近く、日常を離れてリラックスする方法がありません。
b. フリーダイビングを習い始めて3年たち、メディテイションの機会になっています。ダイビング・リフレックス(潜水反射)という身体の機能を生かして潜りますが、これにより心拍が落ち、数分で瞑想状態に入れます。酸素をできるだけ温存するために、脳を落ち着かせることが競技の根底にあるのです。
c. 頼りになるのはバディ(潜水時の相棒)だけです。それ相当の技術と知識も必要です。
d. 感動して海の中で鳥肌が立ったり、涙を堪えたりするような光景に出合います。自然と再接続できた人間しか味わえない、感動の極みと癒やしです。 
e. 毎年クジラと泳ぐツアーに参加しています。大きい哺乳類がアイコンタクトしながら過ぎ去っていく姿は圧巻です。

生江史伸|SHINOBU NAMAE
レフェルヴェソンス シェフ。1973年生まれ。ミシュランガイド東京2021年版で三つ星獲得。シェフ業だけでなく東京大学大学院 農業・資源経済学で修士課程修了。農と食の持続的な関係性を見つめ直している。

IMAGES BY YUKI MUTO, SHINOBU NAMAE


5. 電波の届かない場所で自己に向き合う

a. 電波の入らない高山。日記とペンと文庫本を持って、テント泊でひとり、1週間ほど過ごしたい。
b. 普段はつい友人とコミュニケーションを取ることを求めてしまい、自分の内面にひとりで向き合えないので、そのような時間をつくりたい。
c. テント、携帯用浄水器。
d. 自身の内面や、取り巻く世界についての理解が深まったり、自然との近さを感じることができるようになったり。
e. 身体を使い、 深い自然にわけ入っていくこと。

齋藤帆奈|HANNA SAITO
現代美術作家。多摩美術大学工芸学科ガラスコースを卒業後、バイオアート領域を中心に活動。現在は東京大学大学院 学際情報学府博士課程に在籍。ガラス造形や生物、有機物、画像解析等を用いて作品を制作・研究するほか、近年は野生の粘菌を採取、培養し、研究と制作に用いている。

IMAGES BY SYUNSUKE NAWA, HANNA SAITO


6. 見逃していた豊かさに気づく

a. 奥能登にある湯宿さか本。HPの「もしかしたら、さか本は大いに好き嫌いを問う宿です。なにしろ、部屋にテレビも電話もトイレもない。冷房設備もないから、夏は団扇と木立をぬける風がたより。冬は囲炉裏と薪ストーブだけ。そう、いたらない、つくせない宿なんです。」が衝撃でした。電波もWi-Fiもない。でも、都会では気づけない豊かさを感じました。
b. 空気がよいことや、疲れを癒やす温泉があること。その土地のものを味わえるおいしい食事、鳥の声や木々の音。それだけで充分なんだと思います。
c. 1冊の本。自分に向き合う勇気。
d. どんなに追い詰められたとしても、何もしないことが許される場所があるだけで、気の持ちようが大きく変わった気がします。人が人らしくいられて、さまざまなセンスオブワンダーに出合える場所で過ごすことが、本当の意味でのリトリートだと思います。
e. 日本の原風景や自然を感じる瞬間に癒やされます。

宮下拓己|TAKUMI MIYASHITA
LURRA°共同オーナー。世界各地の星付きレストラン、オーストラリアやニュージーランドにて勤務。2019年にLURRA°を京都で開業。ミシュランガイドで一つ星を獲得。Forbes JAPANが選ぶ「30 UNDER 30 JAPAN 2020」に選出。

IMAGES BY MITSUYUKI NAKAJIMA, TAKUMI MIYASHITA


7. 種の違いを超えた絆づくり

a. バンクーバー島やソルトスプリング島など、ブリティッシュコロンビア州の海岸にある大自然。自然の壮大さがインスピレーションになり、心を豊かにします。
b. アコースティックギターと本があれば充分。新しい犬(ブラック・ラブラドール)を迎えて絆を深めたり、自分のバンド「Big Dirt」の曲をつくったりしたいです。
c. Google。 Airbnb。暖炉。録音装置(Zoom H4nなど)。
d. 数年前、ゼナという愛犬を連れてアイダホ州ボイシに滞在し、執筆活動に励みました。1カ月間集中して執筆し、長い散歩をするなかで、書くことの喜びや犬というコンパニオンがどれほど生活を豊かにしてくれるかを学びました。残念ながらゼナも、彼女の “弟” だったロキも亡くなりましたが、新しい犬を飼ってビーチを散歩し、絆を深めたいです。そうすれば心が愛で満たされ、執筆や作曲など創造性も鍛えられると思います。
e. 自然とのつながりが促され、創造性の発揮につながること。新しい仲間と絆を築けること。

デイヴィッド・モントゴメリー|DAVID R. MONTGOMERY
作家、教授。ワシントン大学地球宇宙科学科・地形学研究グループ教授。地形の発達や地形学的プロセスが生態系と人間社会に与える影響が主な研究テーマ。 著書に『土・牛・微生物』など。新しい共著は『What Your Food Ate』。

IMAGES BY BRYAN UBAGHS, KATE HUNTINGTON, DAVID R. MONTGOMERY


8. 都市で休む手段を増やす

SEUNGGU KIM/INSTITUTE

a. 気候がよく、自然災害が少なく、美しい自然と適切な設備が整った島、韓国・済州島。
b. ソウルは大都市ですが、高層ビル、ジャングル、水辺、広大な緑地や公園など、さまざまなシステムが存在しています。一方で、仕事以外の時間は、都会の喧騒を離れてキャンプがしたいです。自然を探索したり、ハイキングや水泳をしたりするのも好きですし、自然の中で読書をするのもいいですね。
c. 家、クルマ。
d. 韓国では長時間労働の現場が多く、ゆっくり休暇をとることも少ないです。休みが短いので、都市の中で休暇を楽しむ方法を見いだそうとします。 わたしの写真は、アウトドアやキャンプが好きな人たちが都市の中でそれをいかに実践しているかを示しています。掲載の写真はソウルにある大規模なキャンプ場です。
e. 読書、探検、思索。

キム・スング|SEUNGGUS KIM
フォトグラファー。ソウル在住。写真を通して、わたしたちが社会の矛盾にどのように慣れ、克服していくかを観察している。都市生活、レジャー文化、気候変動、郊外施設などの日常風景を対象とし、中心部と周辺部、伝統と現代、精神的価値と物質的欲望を浮かび上がらせる。


9. 静寂のなかで内なる自分にアクセスする

a. 人の気配がしない大自然の奥深く。静寂に耳を傾けたいです。
b. アウターセルフとインナーセルフがありますが、「退却」とは、つくり上げられた外側の自己から、本当の内側の自己に戻ることを意味すると思います。世界ではさまざまなリトリートが実施されていますが、内なる自分に根ざす手助けをしてくれるものはほとんどありません。でも、リトリートでは “Be Real”でありたいと思います。
c. QPIのサイトで、静かな自然を体験できる場所を紹介していますよ。必要なのは、静かな自然の中に身を置くことだけです。
d. 求めるものは、すでに自分の中にあるということ。インナーセルフにアクセスし、そこに根を張ることを促してくれるリトリートは、どんなものでもおすすめです。
e. 静けさ。自然。本質。

ヴィクラム・チョウハン|VIKRAM CHAUHAN
クワイエット・パークス・ インターナショナル(QPI)共同設立者。UXデザイナーとして世界のトップブランドのコンサルティングに携わったのち、2018年にQPIを共同設立。人々が静寂を体験できるように、サウンドスケープの保全に取り組んでいる。

IMAGE BY NICHOLAS MCMAHAN, QUIET PARKS INTERNATIONAL, RECAL TRAVEL


10. 感覚優位な体験に挑戦

a. 静かな森の中(山奥ではなく里山の森)。人とあまり会わない環境。日常(東京)は、仕事も遊びもたくさんある一方、身体は休息を必要としているので、心身を緩められる静かな 環境に身を置きたい。また、日常は情報が多く、求めていない刺激(音や匂い、景色、色)もたくさん飛び込んでくるので、身体が必要とする情報だけに遮断したい。
b. 徒歩圏内にある森林浴のコースをのんびり歩いたり、シートを敷いて寝転がったり、本を読んだりしたい。デジタル機器から少し離れ、地元の食材を食べて四季や生物のエネルギーを感じたい。
c. その土地のことを教えてくれる人。電動自転車(近場への移動)。星を見るためのあたたかグッズ(寝袋?)、高速Wi-Fi。
d. 森の中でのんびり過ごしたとき、自然界の一部であるという感覚がした。思考優位な日常に対し、感覚優位な心地を体験すると生きている実感が得られる。
e. 時間を気にせず、感じることを楽しむ。

小野なぎさ|NAGISA ONO
一般社団法人森と未来 代表理事。東京都生まれ。東京農業大学卒。働く人の心の健康対策と森林の活用に従事。 健康リゾートホテルの立ち上げのほか、 国内外で森林浴ファシリテーターを育成。著者に『あたらしい森林浴』。


11.「いいとこどり」を追い求める

a. 南の島。できればカフェと書店があって、Wi-Fiが飛んでいるところ。
b. ものを考えたり、ものを考えなかったり、泳いだり、カヤックに乗ったり、瞑想(座禅)したり、原稿を書いたり、能をつくったり、 舞を舞ったり、小説を書いたりしたい。
c. Wi-Fi、Kindle、Airbnb、 SNS、Zoom、Metaverse、PC、紙、万年筆など。
d. 都市から離れた場所での思考は、忘れがちな身体性を取り戻してくれる。「身体性」とは肉によって閉じ込められた「身体」ではなく、環境との関係によってさらに大きくなりうるもの。
e. わずらわされるスケジュールや、面倒な知り合いがいないということが必須。そして、住まいの快適さも重要。バスタブは欲しい。

安田 登|NOBORU YASUDA
能楽師。 能楽師(ワキ方下掛宝生流)。東京を中心に能の公演に出演。能・音楽・朗読を融合させた舞台を数多く創作、出演。新作能もつくる。100分de名著『平家物語』・『太平記』講師・朗読。関西大学特任教授。


12. 過去と現在を接続する

a. 東京で昔よく行ったところ、あちこち。 20代を過ごした東京を振り返りたいから。 リトリートでどこかへ行くなら、タイムマシンで過去へ行きたい。車で環七、環八を走りたい。
b. この20年、15年で何が変わったかを考える。
c. タイムマシン。それは不可能なので、かつて東京中を車で走り、道路によって東京のスケールを把握したことを思い出すために、レンタカー。都心から離れていって多摩センターの方へ。あるいは北へ、埼玉の方へ。
d. かつて感じたことを思い出し、それを現在の感覚と結び直す。
e. リゾートも、設備やサービスの新たな方針で年々つまらなくなっている。ホテルは20世紀的であり続けてほしい。時の博物館のようなところでゆっくり過ごしたい。

千葉雅也|MASAYA CHIBA
哲学者、作家。東京大学教養学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。著書に『動きすぎてはいけな い』『デッドライン』『現代思想入門』(新書大賞2023受賞)など。


13. 五感を研ぎ澄ます

a. 阿蘇の野焼き。
b. 意識を形而下にのみ向け、五感に集中する。
c. 土木、高機能衣類。
d. わからない。川内倫子さんが個展で取り上げていたのを見て興味を寄せた。いずれ訪れたいと考えている段階。
e. 自然の中の身体。自然としての身体。環境。まだよくわかんないけど、そんな感じ。

環ROY|ROY TAMAKI
ラッパー。1981年、宮城県生まれ。エリック・サティ「家具の音楽」を引用した「Furniture music, contemporary」が各種サブスクリプションで配信中。


14. 気軽なことから始める

a. 区民プール。運動不足を解消でき、心身共にリフレッシュできる公共施設。繁忙期が多いので、気軽にアクセスできる点がいいです。週2日は行きたいですね。
b. デジタルデバイスを使った仕事が多いので、身体全体を動かして心をリフレッシュしたいです。その間は、スマートフォンなどのデジタルから距離を置きたいです。
c. 水着とちょっとした気持ち。 
d. 普段動かさない身体の部位を動かすことで、脳が活性化したり気分がリフレッシュしたりする。
e. 無意識のうちに失っているもの(身体の運動など)に意識を向ける。日常に戻ったときのエネルギーを得られる、そんな気分転換を定期的に行ないたいです。

津川恵理|ERI TSUGAWA
建築家。早稲田大学大学院修了後、文化庁新進芸術家海外研 修員としてDiller Scofidio+Renfro(NY)勤務。その後、ALTEMY代表として独立。東京藝術大学教育 研究助手、東京理科大学、早稲田大学非常勤講師。「神戸市サンキタ広場」「Spectra-pass」等。グッドデザイン賞、日本空間デザイン賞等受賞。


15. レス・イズ・モアの精神を忘れない

a. インドネシアのアマンワナのような森と海があって、人の少ないリゾート。
b. 自然に触れたい。本をゆっくり読みたい。
c. 音楽を流してくれる設備と紙の本があればいいです。
d. 自分の生きる目的をじっくり考えたい。
e. 極力電子機器とは離れたいです。

田内 学|MANABU TAUCHI
お金のむこうに人がいる』著者。 ゴールドマン・サックスで金利トレーダーとして16年勤務。日銀による金利指標改革にも携わる。中央省庁、自民党や議員連盟の各種会議で財政、年金、少子化問題について提言を続ける一方、学校等ではお金の教育や社会科公共の講演を行なっている。


16. 善良な人々と集うこと

a. 10日以上のウォーキング。重要なのは、毎晩、清潔でシンプルなホテルに泊まれること。その日の写真を整理したり、文章を書いたりできるので。もし1カ所にとどまるなら、ニューハンプシャー州のマクダウェルに戻りたいです。ここは有名なアーティストの保養地で、2012年に参加したことがあります。食事もすべてつくってくれて、暖炉付きのキャビンで仕事と創作活動に集中できました。
b. ほぼ、オフラインがいいです。朝から夕方くらいまでひとりで集中して、その後はクリエイティブな人たちとディナーやグループチャットを楽しみたいです。
c. 自然。暖炉。大きな机。ワークチェア(Herman Miller /Steelcaseなど)。大きな窓とたくさんの光。ホワイトボード。レーザープリンター。
d. ライティングに集中する孤独なリトリートを開催したときは、豊かで刺激的な機会になりましたし、グループリトリートでは共感や会話に重点を置いたので、創造的なコラボレーションへと結びつくような人脈が育まれました。
e. 善良な人たちと実施するというのも重要です。そうでない人がひとりいるだけで、リトリートは台無しになります。周囲に敬意を払える、理知的な人だといいですね。

クレイグ・モド|CRAIG MOD
作家、写真家。 ライター兼フォトグラファー。日本在住。 The New York Times、The New Yorker、 WIREDなど多数のメディアに寄稿。著書に『Kissa by Kissa: 日本の歩き方』『Koya Bound: 熊野古道の8日間』『Art Space Tokyo』など。


17. 大地や地球との接点を探す

a. 再野生化の震源地。例えば、英国のクネップ・キャッスル・エス テートなど。1カ月ほど滞在してみたい。
b. 観察。
c. 五感。見る、聞く、歩く、感じる。
d. 人間と動植物との関係の再構築を通じて地域や地球の環境をよりよくしようという活動の実践地に立つことで、 具体的な希望や課題が得られると思う。
e. 大地や地球と(再)接続するそのやり方を、少しずつ手に入れていくこと。

松田法子|NORIKO MATSUDA
京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 准教授。 建築史・都市史・領域史・生環境構築史の研究者。寄稿に『危機と都市』『変容する都市のゆくえ』「生環境構築史宣言」「再野生化(リワイルディング)について」など。


18. 日常とは違う強烈な体験

a. ベルリンの湖でアイスボート。もしくは南欧のビーチへ。
b. できたら毎週行きたい。日常を離れるというのは意識的でないとできない。終えたあとに、スカッとエネルギーに満ちた状態になりたい。夏のベルリンでは湖の周りや公園でのんびりするのが定番だけど、冬は? と思ったら、アイスバス(氷浴)があった。
c. 呼吸法、 水中用のサンダル、ウールキャップ、吸水性タオルガウン、SNS。
d. 日常の隣にリトリートはあるってこと。これまで蓄積されてきた自分の判断に基づく「自分がやってみたいと思うこと」に従う時間を設ける。アンコントローラブルさや身体性を放置できる空間をもつのが大事だと毎回気づかされます。
e. 短い時間でも異空間を感じ、体験できること、日常とは違う感覚を取り戻すには、ある種の強烈さも悪くないかもしれない。

間部百合|YURI MANABE
写真家。「野生のしこう」「光よりもはやく/boys love/Cyborg fe」等の企画展示のほか、「THE ALPHABET OF FEELING BAD」を製作したカリン・ミハエルスキを招いたトークイベントなどを手がける。


19. 科学的根拠に目を向ける

a. 畏敬の念を抱くような壮大な自然。特に、川は驚くほどに変容するので、いい舞台にな ると思います。3〜6日が理想的です。
b. 自然の中で、内省的、創造的、冒険的な体験がしたいです。ひとりで探求する時間もあれば、支え合い、刺激し合うグループの時間もあるといいですね。
c. たき火。満天の星。快適な、あるいは華やかなテントとベッド。おいしい健康的な食事。動物が放し飼いになっているのも魅力的だと思います。
d. 畏敬の念が、認知、精神、感情を拡げる力をもっていることは、科学的にも明らかになりつつあります。わたしたちの多くが求めているのは、そういうことではないでしょうか?
e.社交的な時間。孤独な時間。創造的な時間。内省的な時間。自然にどっぷりと浸る時間。新鮮さと静けさのちょうどよい組み合わせ。

フローレンス・ウィリアムズ|FLORENCE WILLIAMS
科学ジャーナリスト。主な著書に『NATURE FIX』『おっぱいの科学』『Heartbreak』がある。印刷物やオーディオ/ポッドキャストの仕事に加え、多くの講演、ワークショップ、リ トリートを開催している。


20. 人類の叡智の活用

a. スリランカ(アーユピヤサ)。島国で大自然があり、アーユルヴェーダの知恵が暮らしに根付いていて、自然と直結した衣食住が体験できる。
b. 自然に囲まれた環境で身体と向き合い、自然と共に生きる暮らしを充実させて身体機能を回復させたい。山に登ったり、その土地で奏でられる音楽を聴いたり、感覚をフルに使って自然を吸収したい。
c. iPhone、Googleマップ(その土地を知るため、ひとりで行動するのに役立つため)。
d. アーユルヴェーダは人類が培ってきた生命と自然の科学。人間は自分が食べた物でできているので、日常の行ないがすべて表に現れる。身体と精神がつながっていることを再確認することで意識にも変化が起こり、野性の感覚を取り戻して本来の姿に戻ることで直感がより働くようになると思う。その体験は、都会生活でも役立つはず。
e. ひとりで行くことで、個の自分と充分に向き合う時間が大切。

廣川玉枝|TAMAE HIROKAWA
デザイナー。2006年「SOMA DESIGN」を設立。同時にブランド 「SOMARTA」を立ち上げ東京コレクションに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。2020東京五輪の表彰台ジャケットをアシックスと共同開発した。


21. 新しい空間 × 気が散らない空間へ

a. ほとんど遠隔地で過ごしているのに、それでも理想のリトリートを掲げるのは少しおかしいでしょうか(笑)。とはいえ、昼夜を問わず泳げたり、シュノーケリングやスキューバダイビングができたりするといいですね。あとは新鮮な食べ物も。生き物に囲まれて、のんびりと水中写真に取り組みたいです。
b. 活動的でありたいですし、水辺や安全なトレイルにアクセスしやすいことも大事です。
c. ダイビング機材やカメラは持って行きます。インターネット、座り心地のよいイス、そしてノートPCがあればいいです。
d. 北極圏での撮影中、『イントゥ・ザ・プラネット』の原稿を完成させようとしていました。嵐がきて、小さなキャビンの中で座っていたのですが、 本のエピローグがすっと降りてきた瞬間がありました。新しい場所や気が散らない場所にいると、創造性が湧いてくるのでしょうね。
e. 自然の美しさ。人里離れた場所。プライバシーも大切。

ジル・ハイナース|JILL HEINERTH
水中探検家。サハラ砂漠のオアシスからバフィン湾までを探検し、世界中の気候学者、考古学者、生物学者、エンジニアの手となり目となる存在。著書に『イントゥ・ザ・プラネット』がある。


22. 人生を見つめ直すロングウォーク

a. スペインのキリスト教の巡礼路「カミーノ・デ・サンティアゴ」。巡礼宿に泊まりながら、バックパックを背負って1,000kmの道を歩き、キリスト教の聖地である「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」を目指す。ロケーションも多彩で、バイクや馬などの交通手段を使うことも許可されている。3回歩いているが、見ず知らずの人々と素朴な生活を送りながら歩き続けるのは最高のデトックス。家族をもったいま、今度は娘と夫と挑戦したい。
b. 五感を使って人と触れ合いたい。
c. ヘルスチェック機能をもつデバイス。心拍や歩数、消費カロリーなどを記録したい。出会った人とは生涯の友人になるのでSNSも必須。
d & e. たくさんの人と出会い一緒に歩く一方で、ひとりの時間も多い。人生を見つめ直す機会になる。歩き続けることでゾーンに入るため、精神的にも深くリラックスできる。辛いだけでなく、毎夜、世界中から集まった人々とスペイン北部のグルメを囲んでのパーティも最高!

小野美由紀|MIYUKI ONO
作家。『ピュア』『メゾン刻の湯』などSFを中心に小説を刊行しつつ、WIREDのSci-Fiプロトタイピング事業に参加し、企業と協業してSF小説を執筆するなど幅広く活動。そのほかの著書に『人生に疲れたらスペイン巡礼』『傷口から人生』など。


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