ボートのように浮いて水上も走る!? 中国製の高級SUV「ヤンワンU8」に満載の“特殊能力”のすべて

中国のEVメーカーであるBYDの高級ブランド「仰望(ヤンワン)」のハイブリッドSUV「U8」には、さまざまな“特殊能力”がある。その場で360度回転したり、なんとボートのように浮いて水上を航行したりもできるというのだ。
ボートのように浮いて水上も走る 中国製の高級SUV「ヤンワンU8」に満載の“特殊能力”のすべて
COURTESY OF BYD

「ランドローバー ディフェンダー」とベントレー、そしてボートをかけ合わせたら何ができる? その答えは、中国の電気自動車(EV)メーカーであるBYD(比亜迪汽車)の高級ブランド「仰望(ヤンワン)」が手がける巨大なハイブリッドSUV「ヤンワンU8」だ。

そのがっしりしたスタイリング、巨大なサイズ(「ディフェンダー 130」と同じ全長5.3m)、そして4つの電気モーターと巧妙な油圧式サスペンションによりあらゆる場所での走行が可能という謳い文句から、U8にランドローバーに似た要素があることは明らかだろう。

ベントレーの要素も説明するまでもない。U8のキャビンは、BYDのEVである「SEAL」や「ATTO 3」などで使用されているプラ​​スチックや合成皮革から大幅にグレードアップされている。内装には上質なナッパレザーを多用し、贅沢なヘッドレストやヒーターとクーラーを装備したマッサージ機能付きシート、オープングレイン仕上げのサペリ材を採用している。センターアームレストの下には、マイナス6℃まで冷やしたり、50℃まで温めたりできる収納スペースまであるのだ。

ベントレーというよりBMWに似ている点は、ダッシュボード全体を覆う3つのディスプレイと、後部座席の同乗者を楽しませるためのふたつのディスプレイといった搭載されているテクノロジーの量だろう。中央には縦方向にカーブしたタッチ式の12.8インチ有機ELディスプレイが配置され、その両脇には運転席用と助手席用のふたつの23.6インチのディスプレイが配置されている。50Wのワイヤレス充電スポットと、22個のスピーカーを備えたドルビーアトモス対応のサウンドシステムも搭載されている。

ボートのように浮いて航行……?

さて次は、お待ちかねのボートの要素についてだ。BYDによると、U8は水深1mまでなら水中を走り抜けることができる。これはディフェンダーが対応できる水深90cmより10cmほど深い。水深1mを超えた場合には、車両は浮くという。

もちろん、どんなクルマでも予期せず水に浸かれば、一時的にボートのように浮くと主張することもできるだろう。だがBYDは、実際にボートのように水上走行できると主張しているのだ。

数十リットルの水が侵入して車内が水浸しになってクルマが使えなくなる代わりに、U8は落ち着いてエンジンを止め、窓を閉め、エアコンを再循環に切り替え、非常口としてサンルーフを開き、そのまま進み続ける。舵も船外機もないが、BYDによるとU8は車輪を回転させるだけで時速1.8マイル(同約2.9km)で航行できるという。

このボートのような水上走行モードは、鉄砲水のような緊急事態にのみ使用されることが想定されている。BYDによると、U8は30分間だけこの水上走行モードを実行できるように設計されているという。それ以上の航行でどうなるのかは不明だ。

ドライバー(もしくは船長)は、意図せず(あるいは意図的に)重量3,460kgの高級SUV(もしくはボート)を水上走行させてしまった場合には、U8を整備工場に運んで点検を受けるよう強く推奨されている。このような説明だと、U8の水に浸かる能力は不必要な機能のように思えるかもしれない。だが、極端な大雨や道路の冠水が発生しやすい国では、浮いて安全な場所に戻れるクルマを製造することは、それほど奇妙なことではないのだ。

その場で回転する「タンクターン」機能も搭載

U8は陸上では本格的なオフロード性能を誇り、インテリジェントなドライブモードが必要な応じて強大なパワーとトルクを送り込む。また、4つのタイヤそれぞれに専用の電気モーターを搭載しているので、U8は左右のタイヤを逆方向に回転させることで、その場で回転して向きを変える「タンクターン」が可能だ。アスファルトの上ではタイヤの摩擦の限界を超えるが、これによってオフロードでは狭い場所をスマートに走破できるという。

U8がハイブリッド車であることには触れたが、その駆動システムは従来の意味では機能しない。排気量2リッターのターボチャージャー付きガソリンエンジンが搭載されているが、このエンジンの動力はタイヤには接続されていないのだ。代わりに航続距離を延長する発電機として機能し、発電した電力を容量49kWhの小さなバッテリーへと送る。

BYDによると、U8は電気だけで112マイル(約180km)、エンジンで発電すると620マイル(約1,000km)走行できるという。4つの電気モーターを組み合わせると1,200馬力というとんでもないパワーを出すU8は、世界で最もパワフルなSUVだ。BYDによるとU8の重量は4トン近いが、静止状態から時速62マイル(同約100km)までの加速はわずか3.6秒だという。

運転支援技術も満載

U8の最上位モデルとなる「U8 豪華版」は、最大出力110kWまでの急速充電に対応している。これは最大出力320kWに対応するポルシェのEVと比べて大したことないように思えるが、U8のバッテリーは比較的小型なので、30%から80%までの充電には18分で済むという。エンジンはV2L(外部給電)の発電機としても利用可能で、電気機器の充電や電化製品への電源供給に最大6kWを出力できる。

2024年という時代らしく、U8には運転支援技術も満載だ。タクシーの屋根にある“あんどん”に似た3つの突起は、前方の道路をリアルタイムで3DスキャンするLiDAR(ライダー)ユニットだ。5つのミリ波レーダーや14個の超音波センサー、16個のカメラも搭載されている。BYDによると、高速道路での半自動運転と市街地に対応した自動運転機能は、将来的にワイヤレスアップデートで提供される予定だという。

U8の価格は、すでに販売されている中国では12万ポンド(約2,300万円)相当からとなっている。残念ながら、BYDはまだこのクルマを欧州や英国などで販売することを約束しておらず、「ヤンワン」ブランドを米国に展開することさえ約束していない。

だが、欧州のドライバーは、新しい自動車ブランドを試してみようという意欲を新たにもつようになっている。さらに、BMWの「iX」やメルセデス・ベンツのGクラス、レンジローバーをすでに提供している高級SUV市場の状況を合わせて考えると、U8が狭い市街地でタンクターンしたり、大西洋の両岸地域で冠水した浅瀬を自信をもって渡ったりする姿は、現実離れしているようには思えない。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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