テスラは「サイバートラック」で投資に見合う収益を得られるのか? 山積するいくつもの課題

もしテスラが電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」の予約注文の15%を販売できれば、トヨタが扱うピックアップトラックの年間販売台数に匹敵する規模になる。だが、多額の投資に見合うだけの収益を得られるかは、また別問題だ。
テスラは「サイバートラック」で投資に見合う収益を得られるのか? 山積するいくつもの課題
Photograph: Richard Vogel/AP/Aflo

人々は「愚かだ」「醜い」と酷評し、意見は割れた。巨大なSUV「ハマー」は大量に売れるはずではなかったのだ。ところが、実際にはヒットした。ステンレス製の電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」で、イーロン・マスクも同様の芸当をやってのけるのだろうか?

サイバートラックをテスラが最初に発表したとき、チーフデザイナーのフランツ・フォン・ホルツハウゼンがプロトタイプの窓に金属球を勢いよく投げつけて、防弾仕様のガラスを粉砕したことは有名な話だ。それから46カ月後の今年11月30日、テキサス州にあるテスラのギガファクトリーで開かれたサイバートラックの納車イベントでは、この電気自動車(EV)がゆっくりとではあるが、ようやく世に送り出され始めていることが確認された。

この『ブレードランナー』を彷彿させる電動ピックアップトラックは、自称「予約主義者」たちから推定200万台の予約注文が入っており、世界で最も裕福な男をさらに桁外れの金持ちにする可能性がある。キャンセルで返金可能な100ドル(約14,000円)の予約金を支払った人たちの半分でも残れば、4年前に約束された価格から21,000ドル(約300万円)アップした61,000ドル(約860万円)の新価格で計算すると、650億ドル(約9兆2,000億円)以上の売り上げになるからだ。

「予約注文のわずか15%で、トヨタの米国におけるピックアップトラックの年間販売額に匹敵します」と、ボストン大学クエストロムビジネススクール教授のティム・シムコーは語る。「とはいえ、テスラは生産規模の拡大によって購入客の十分な流れを確保するという課題に直面しています」

テスラが3月1日に開催した投資家向けイベント「Investor Day」で、マスクはサイバートラックの需要について「いまのところたいへん好調で、とどまるところを知らない」と語っている。だが、当初の予定より出荷が遅れており、現時点では世界市場に向けて投入されるわけでもないので、最終的な購入客が予約者の15%に達することすら楽観的に思える。当面のところサイバートラックは米国とカナダ、メキシコ以外では販売されず、欧州連合(EU)やオーストラリアの安全基準は満たしていないようだ。

値上げも需要の足かせになるだろう。11月30日に10人ほどの顧客に納車されたサイバートラックは、19年11月に約束された39,900ドルのベースモデルより21,000ドル(約300万円)も高かった。また、本当の意味での量産モデルではなく製造部門による単発的なもので、当面はそうした対応になる可能性が高い。

重要な点は、その間に世の中が前へと進み、いまや多数の競合メーカーが従来型の自動車らしいデザインのEVを投入していることだ。

フォードは49,000ドル(約700万円)の電動ピックアップトラック「F-150 Lightning」で、うまく優勢に立っている。これは何十年にもわたってピックアップトラック部門を独占してきた車種のEV版だ。GMはまもなく「シボレー・シルバラード」のEV版を52,000ドル(約730万円)で発売する予定で、ステランティスは58,000ドル(約840万円)の「RAM 1500 REV」を投入する準備を進めている。アイスキャンディーの移動販売車のように人々の目を引きつけるピックアップトラックが欲しい目立ちたがり屋は、73,000ドル(約1,000万円)を出せばリヴィアンの「R1T」を購入できる。

F-150 Lightningを所有し、30年にわたってピックアップトラックを運転してきたコールソン・ブルースは、フォードからテスラへの乗り換えを考えている。「最初の発表の翌日にサイバートラックの予約を入れました。順番待ちの先頭グループではありませんが、オースティン在住という利点があります」と、このテック系スタートアップの幹部は語る。ブルースによると、これまでテスラの新製品は先着順ではなく、優先的な地域への納車に重点が置かれることが多かったという。

そして11月30日のプレゼンテーションでブルースにとって興味深かったことは、テスラの製品に関する約束が「正式に注文できる時期が来る前に大幅に変更される可能性が高い」ことがわかった点だろう。「それまで時間があるので、その間に独立したレビューを経て車両が改良されるはずです。実際に注文するころには、より適切な情報に基づいて費用対効果を判断できるでしょう」

ピックアップトラックの需要を取り込めるか

米国人は年間200万台のピックアップトラックを購入しており、その価格は平均59,000ドル(約830万円)になる。このうちEVは、ごくわずかだ。

フォードは昨年、F-150 Lightningの今年の販売台数を15万台と見積もっていた。マスクはサイバートラックの販売台数を年間25万台と見積もっているが、この見通しは24年にかけて順調に滑り出したとしても難しいだろうと、多くのアナリストは冷ややかに見ている。

「テスラが年間50,000台を製造・販売できれば、ある程度の成功とみなされるはずです」と、ガートナーの自動車担当アナリストのマイク・ラムジーは言う。ラムジーはサイバートラックを「風変わりでとんでもない」が「奇妙にクール」と評価している。クールなものは売れるが、奇妙だったり風変わりだったり、とんでもないものはそれほど売れない。

「米国のピックアップトラックのユーザーが期待する多くの作業をこなすには、サイバートラックはそうした機能に最適な形状になっていなさすぎます」と、市場調査を専門とするAutoPacificのエド・キムは指摘する。「従来型のピックアップトラックからサイバートラックへの買い換えは、米国の市場ではそれほど多くはないでしょうね」

ピックアップトラックは米国を象徴するような存在であり、テスラが「その市場の一部」をとりに行くことはもっともだとキムは認める。それでもサイバートラックについて、「ピックアップトラック市場を破壊する真剣な試みというよりも、テスラファンの人たちへのラブレターのように思えます」と、彼は言う。「(ピックアップトラックは)クルマで“トラック的”な使い方をしない大勢のカジュアルな米国のユーザーにとっても、機能こそすべてなのです」

多額の投資に見合う販売数と価格との関係

サイバートラックが従来のピックアップトラックの購入者ではなく、主に目立ちたがり屋の人々に訴求するのだとしよう。そうなれば、販売台数ははるかに少なくなる。莫大で回収不可能な研究開発費がかかるとはいえ、テスラはこの小規模な需要を満たせる可能性が高い。

マスクは最近の決算説明会で、生産に大混乱が生じる可能性があることを示唆している。「わたしたちはサイバートラックで自ら墓穴を掘りました」と警告したうえで、「量産に至るにはとても大きな課題があります」と予測したのだ。一方で、テスラの「史上最高の製品」が「キャッシュフローに大きくプラスの貢献をするようになるには12~18カ月かかるでしょう」と、楽観的に見積もっている。

サイバートラックは「ステンレス製のボディパネルと型破りな構造の本質的に高コストな製品です」と、AutoPacificのキムは指摘する。カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソン経営大学院の教授で起業家の研究を専門とするオラフ・ソレンソンも、これに同意する。

「テスラはサイバートラックの研究開発に多大な額を投資してきました」と、ソレンソンは言う。「サイバートラックを量産するための装置とプロセスの考案にも、さらに多くを投資している可能性が高いでしょう。したがって、最終的にこのクルマで利益を得られるかどうかは、十分な台数が売れるかどうかにかかっています」

ボストン大学のシムコーは、約束を上回る価格になったことで需要が抑制されるだろうと警告する。「需要曲線が下がるのは自然の法則ですから、価格が高くなれば販売台数は確実に減少します。台数が増えればコストが下がるというヘンリー・フォードが導き出した基本的な経済学は、電動ピックアップトラック市場でも変わりません」

ローポリゴンのジョーク?

もし、テスラがマスクの楽観的な見通しと同程度の台数のサイバートラックを生産できなかったり、販売第一弾のサイバートラックに重大な問題が発見されて大々的に報じられたりすれば、25万台の販売台数は「厳しい課題」になるだろうとAutoPacificのキムも同意する。そして、「このような目立つクルマを運転したいと思う人がそれほどたくさんいるのでしょうか」と、疑問を呈する。「大量に売れるクルマは、もっと一般受けするものが多いのです」

テスラの損益分岐点を確認する方法はない。だが、カリフォルニア大学のソレンソンは「従来型の自動車でさえ、その設計コストをカバーするには年間20万台の販売が必要なことがあります」と指摘する。そしてサイバートラックの画期的な製造手法の初期コストには、年間30万台もの販売が必要かもしれないと推測している。

販売台数が大幅に下回れば、サイバートラックは大失敗に終わる。もしそうなっても、業界関係者にとっては驚くべきことではないだろう。正確に言えば、玩具業界の関係者にとっては驚くべきことではない。

例えば、レゴは19年のサイバートラックの発表に反応して、車輪のついたプラスチック製レゴブロック1個の写真をツイートしている。「トラックの進化がここに。飛散防止を保証します」といじったのだ。

英国のカーデザイナーのエイドリアン・クラークは、サイバートラックを「イーロン・マスクの大言壮語に耐えられる熱狂的なテスラファンの夢のなかでのみ存在するローポリゴンのジョーク」と評している。ソーシャルメディアでは、サイバートラックはフランケンシュタイン化したデロリアンだとか、4歳児が描いたクルマの絵のようだと批評されることが多い。

自動車ジャーナリストのダニエル・ゴルソンは最近、カリフォルニア州マリブで開催された自動車イベントでテスラのチーフデザイナーのホルツハウゼンが試作モデルを駐車している様子を目撃し、その粗雑なつくりに「困惑した」と自動車メディア「JALOPNIK」で語っている。「わたしはこれまで初期段階の実験車両から量産型に近いプロトタイプまで、何百台ものプロトタイプの自動車を目にしてきました。しかし、自動車メーカーがこれほど質の悪いものを誇らしげに発表するのを見たことがありません。特にこれほど開発後期のものではなおさらです」

11月30日に開催された納車イベントでは、10万ドル(約1,400万円)の最高性能モデルを取り上げたありふれたプロモーションビデオが放映されたが、車両のクローズアップはなかった。このイベントでは、サイバートラックの荷台の上に立って暗がりのなかで顔がよく見えないマスクがしどろもどろになって話していた以外に注目に値することと言えば、北米マツダの元デザインディレクターであるホルツハウゼンが緊張した様子で野球ボールをサイバートラックに向けて手加減して投げつけ、サイドウィンドウが砕けずに済んだことくらいだろう。

テスラの新しい「サイバートラック」のプロモーションビデオでは、EVが過酷な環境のなかを走り抜ける様子が映し出されている。

イタリアのコンセプトカーからの多大な影響

納車イベントで流された映像では、「未来は未来らしくあるべきだ」とのテロップが流れた。しかし、サイバートラックは一般に説明されているほど未来的なものではない。

マスク公認の伝記作家のウォルター・アイザックソンがツイートした写真からも明らかであるように、サイバートラックのデザインは1960年代後半から70年代前半のイタリアのコンセプトカーに基づいている点がある。その写真には、映画『ロボコップ』や『トロン』のスクリーンショットだけでなく、サイバートラックに酷似したウェッジシェイプのクルマのアーカイブ写真が点在するムードボードの前に、マスクとホルツハウゼン、そしてもうひとり別の男性が立っている様子が写っていた。

過去には、1968年に発表されたコンセプトカー「アルファロメオ・カラボ」のような角ばったデザインのクルマが、70年のジュネーブ・モーターショーで多くの人々を困惑させた「フェラーリ・512S モデューロ」にインスピレーションを与えたこともある。このコンセプトカーはピニンファリーナのパオロ・マルティンが設計した。

こうしたクルマは熱狂的な自動車ファンに愛され、象徴的なクルマとなっている。それでも販売に至らなかった背景には、妥当な経済的理由があった。生産が極めて難しかったことから、開発と生産のコストの回収に十分な台数の販売は不可能だったはずである。

それらのデザイン要素は「ロータス・エスプリ」や「DMC・デロリアン」に影響を与えたが、販売台数は少なかった。1976年から2004年にかけて英国で生産されたエスプリは、わずか10,675台しか販売されなかった。かつて称賛の的だったジョン・デロリアンの会社が倒産する前の1980年代初頭に販売されたガルウィングドアのデロリアンは、さらに販売台数が少ない。

販売台数はごくわずかだったかもしれないが、それでもこのようなウェッジシェイプのクルマは映画に登場したことで、マスクやテスラのデザインチームにインスピレーションを与えた。実際にマスクは、映画『007/私を愛したスパイ』のなかでジェームズ・ボンドが運転する潜水艇仕様の「ロータス・エスプリ」シリーズ1(S1)がデザインに影響したと語っている。また、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシンは、DMCのデロリアンだった。これもマスクに影響をもたらした。

マスクの伝記を手がけたアイザックソンによると、マスクは6年前のテスラのデザイン会議でフォードのピックアップトラックの写真を映し出し、退屈なクルマだと不満を漏らしていたという。「この会議でマスクは映画やSF、ビデオゲームに登場するものを示し、誰もがマスクに反発していました」と、アイザックソンは7月のポッドキャストでのインタビューで語っている。「マスクはとうとう、『もういい、わたしたちはやるんだ。エッジの効いたものにする』と言ったのです」

サイバートラックを予約したブルースはF-150 Lightningを所有しているが、サイバートラックのエッジの利いたデザインと比較すると、F-150の外観は退屈だと感じている。「(フォードは)それを見た目が最高のピックアップトラックとして売り込んでいますが、本心ではありません。意図的に当たり障りのないデザインにしており、意見の対立を招くようには設計されていません。賛否を招くようでは分布曲線の最大の部分をとれないからです」

Xでは事を荒立てすぎだと思われ「スペース・カレン[編註:「カレン」とは差別的かつ利己的な態度で自分は被害者だと主張する白人女性の総称]」とあざけられているマスクだが、サイバートラックのデザインは火星での生活を想定したもので、約束したコロニーを火星に建設できたら展開する準備ができているのだと語っている。納車イベントでのプレゼンテーションでは、赤い砂のなかをドリフト走行するサイバートラックのドローン撮影映像で、このビジョンを伝えていた。

火星の入植者になることを熱望している別の企業のひとつとして、英国のアドベンチャー・テックウェアブランドのVollebak(ヴォレバック)が挙げられる。先進的な生地と詰め物を使って「まるで未来から来たような服」をつくっていると謳っている。

「わたしたちが開発した『Mars Jacket』には、鮮やかなオレンジ色のエチケット袋が入っている3Dプリントの嘔吐物ポケットがついています」と、Vollebakの共同創業者のスティーヴ・ティドボールは今年初めに語っている。「これを挑発的なデザインだと言う人もいるかもしれませんが、わたしたちにとってはそうではなく、実験的デザインなのです」

しかし、Vollebakはニッチなブランドだ。終末世界的な未来をある意味で望ましいものとして売り込むマーケティングは、主流からはほど遠い。

EV市場でテスラの支配力が縮小?

マスクの狙いは当たっているのか。そして批評家をうろたえさせ、この注目されるピックアップトラックで何十億ドルも稼ぐことになるのか──。それを見極めるいちばんの判断基準は、おそらくそのデザインを模倣するクルマの数だろう。しかし、サイバートラックが発表されてからの4年間、その“コピー品”を生産した自動車メーカーは1社もない。

もちろん、ほかの自動車メーカーの判断がすべて間違っている可能性もあるだろう。そうであれば、またしてもマスクは儲かり過ぎて笑いが止まらないということになる。ただし、テスラの破壊的な能力はすべて、その外観デザインではなくドライブトレインにあった。

現在、テスラは新しさを必要としている。既存の4車種はもう古くなっており、中型SUVの「モデルY」の発売は3年前、セダンタイプの「モデル3」は17年までさかのぼる。自動車業界では危険といえるほど時代遅れだ。

「現時点で所有すべきEVは(ポルシェの)『タイカン』かメルセデス・ベンツの『EQS』です。間違いありません」と、The CARLABの自動車コンサルタントのエリック・ノーブルは『Forbes』の取材に語っている。「富裕層の間ではテスラには何の魅力もありません」

こうしたなかS&P Global Mobilityは、米国のEV市場におけるテスラの支配力が縮小していると報じた。S&Pのレポートは、「消費者の選択肢とEVへの関心が高まっていることを考えると、テスラが圧倒的な市場シェアを維持する能力が今後問われることになる」と結論づけている。

「マスクは評価が極端に分かれる人物でファンも多いのですが、マスクに幻滅している人が増えています」と、AutoPacificのキムは語る。

「テスラ車を早くから愛用していたリベラル派のなかには、もうテスラ車は買わないと誓っている人もいます」と、カリフォルニア大学教授のソレンソンは言う。「しかし、興味深いことに、一般的にはEVを購入しない保守派の間でマスクの評価が高まっています。保守派はピックアップトラックやSUVを頻繁に購入するので、このことは実際にサイバートラックの売り上げに貢献する可能性があります」

「保守派はリベラル派をいら立たせるためだけにガソリン車を購入しているわけではありません」と、ボストン大学教授のシムコーは強調する。「さまざまな人がガソリン車を購入するのは、便利だからです。サイバートラックを含む電動ピックアップトラックが競争力のある価格でより優れた性能を提供し始めれば、あらゆる層に普及するでしょう」

「異質なもの」は受け入れられるか

マスクはテスラの最高経営責任者(CEO)に就任する前の06年、公約としてテスラに対する自身のビジョンを紹介した。それは高価なプレミアムモデルから始めて、後に手ごろな価格のファミリーカーへと移行し、「空気をきれいにする」というものだった。

それから17年後、手ごろな価格のファミリーカーはまだ登場していない。それは間近に迫っていると考えられてはいるが、テスラの約束はいつもパイの皮のように破れやすいものだ。そして現在、テスラのフラッグシップモデルはサイバートラックである。環境面でのメリットに関しては言及されなくなった。

「進歩主義者や環境保護主義者がサイバートラックに列をなすことはないでしょう」と、ガートナーのラムジーは指摘する。「巨大なサイズと重量に加え、ピックアップトラックとしての使い勝手もよくないサイバートラックはステータスシンボルであって、注目されることを目的としたものなのです」

「テスラは車両の電動化の主要な推進力になってきましたが、サイバートラックは大きくて重く、相対的に言えば輸送の脱炭素化に利用できる有限の資源を非常に非効率的に使っています」と、生化学者でジャーナリストのサイモン・エヴァンスは、ドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に向かう途中で語っている。エヴァンスは影響力の大きいニュースレター「Carbon Brief」のポリシー部門のシニアエディターでもある。「サイバートラックは確かにEVであり、再生可能エネルギーで走ることもできますが、エネルギー効率や材料効率の点ではほぼ対極にあるものです」

「サイバートラックのライフサイクル排出量は、内燃機関を搭載した同等のクルマよりはるかに低くなります。しかし、地球上の誰もがサイバートラックやそれに類するものを運転することになったら、(気温上昇を)1.5℃未満に抑えるために必要なペースと規模で輸送手段を脱炭素化することは、はるかに困難になるでしょう」

消費者がピックアップトラックを選ぶとき、気候への懸念はおそらく念頭にはないだろう。重量、収納力、見た目を重視することのほうがはるかに多い。「サイバートラックはすでに最も得意とすることをしています」と、オンラインマーケットプレイスのAutotraderのシニアエディターのブライアン・ムーディは語る。「それがニュースの見出しや、ファンやアンチからのオンラインコメントを生み出しています。特に魅力的というわけではありませんが、他とは違う点が魅力なのです」

異質なものは売れるが、広く受け入れられるまでは販売数は少数にとどまる。Experianの調べによると、今年7月までのリヴィアン「R1T」の月間販売台数は2,000台を下回った。ハマーはピークだった06年に軍用車のようなSUVを71,524台販売したが、そのEV版は低迷している。GMは9月に米国でハマーEVを389台販売したが、1月から3月にかけては月に1台ずつしか売れていない。

モンスター級のEVの市場は、マスクの予想よりも小さい可能性が高い。とはいえ、440億ドル(約6兆4,000億円)を投じてツイッターを買収したことからわかるように、マスクは虚栄心の塊のようなプロジェクトに大金を費やすことに完全に満足している。

テスラの株主はいま、緊張しながら結果を待っている。テスラ株は11月30日のナスダック市場で1%下落し、終値は1.7%安の240.08ドル(約34,000円)だった[編註:12月15日の株価は253.50ドル(約36,000円)]。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるテスラの関連記事はこちら電気自動車(EV)の関連記事はこちら


Related Articles
article image
テスラが電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」の納車イベントを日本時間の12月1日に開催する。あまりに奇抜なデザインのEVをテスラが量産しようとしていることに、専門家たちはいまだに戸惑いを隠せないでいるようだ。
Tesla Cybertruck driving on a dirt road in a hilly landscape
テスラが電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」の納車イベントを開催し、イーロン・マスクが自ら顧客に引き渡した。発表された価格は日本円で約900万円からで、上位モデルのスペックは驚くべきものだ。
article image
テスラが開発を進めている電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」に、致命的な設計の問題がある可能性が浮上した。ドイツの大手経済紙が報じた内部資料によると、問題の解決は困難を極めるかもしれない。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.51
「THE WORLD IN 2024」は12月18日に発売!

アイデアとイノベーションの源泉であり、常に未来を実装するメディアである『WIRED』のエッセンスが詰まった年末恒例の「THE WORLD IN」シリーズ。加速し続けるAIの能力がわたしたちのカルチャーやビジネス、セキュリティから政治まで広範に及ぼすインパクトのゆくえを探るほか、環境危機に対峙するテクノロジーの現在地、サイエンスや医療でいよいよ訪れる注目のブレイクスルーなど、全10分野にわたり、2024年の最重要パラダイムを読み解く総力特集。詳細はこちら