米連邦当局が4月26日(米国時間)に公表した報告書によると、自動運転技術を用いたテスラの運転支援機能「オートパイロット」でドライバーが操作を誤ったことによる死亡事故が、少なくとも13件発生していたことが判明した。また、テスラはそのような事態を予見できたはずであり、未然に防ぐためにもっと対策を講じるべきだったことも、報告書では指摘されている。
しかも、テスラの運転支援機能には競合他社が導入しているような基本的な防止策が一部において施されていないとしたうえで、報告書はテスラを「業界のはみ出し者」としたほどだった。テスラは基本設計上の問題を修正し、死亡事故を防止するためにオートパイロットのアップデートを実施した。それでも規制当局は、それが適切なものであったのかを疑問視している。
米国の交通安全対策機関である米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が収集・公表したデータによると、これらの死亡事故によって14人が死亡、49人が負傷したという。
政府のエンジニアチームが入念に調査した109件の「前面衝突」による事故、つまりテスラ車が進行方向にある車両や物体に直接衝突した事故のうち、少なくとも半数は衝突の5秒以上前から危険が視認できる状態だった。注意深いドライバーであれば、衝突を未然に防ぐか、少なくとも最悪の事態を避けるには十分な時間のはずであると、政府のエンジニアチームは結論づけている。
このうち2023年3月にノースカロライナ州で起きた事故では、高速道路を走行中の「モデルY」が、スクールバスから降車してきた10代の若者をはねた。若者は重傷を負い、ヘリコプターで病院に搬送されている。この事故についてNHTSAは、「注意深いドライバーならバスも歩行者も視認できたはずであり、事故を回避するか、被害を最小限に抑えることができたであろう」と結論づけた。
政府のエンジニアチームは、調査全体を通して「注意深いドライバーであれば視認できたはずの危険が絡んだ、回避できるはずの事故が多発する傾向が観察された」と記している。2021年に広報部門を廃止したテスラは、コメントの要請には応じなかった。
「オートパイロット」という名称も問題視
報告書は、自動運転システムに対するテスラの姿勢を「業界のはみ出し者」として非難している。報告書によると、ほかの自動車メーカーとは異なり、テスラではオートパイロットを本来の意図から外れた状況でも作動させることが可能で、ユーザーに道路への注意を促すシステムとの連携にも不備があったという。
規制当局は、「オートパイロット」という名称すらも問題視しており、ドライバーがシステムと連携して操作する代わりに、システムに依存するよう仕向けるものと結論づけた。競合する自動車メーカーでは「〜アシスト」「〜センス」「〜チーム」といった表現が用いられることが多いが、それはこうしたシステムが完全に自律走行できるようには設計されていないことが主な理由であると、報告書は指摘している。
カリフォルニア州の規制当局は昨年、クルマが自律走行できると消費者に誤認させ、オートパイロットと自動運転機能「フルセルフドライビング ケイパビリティ(FSD)」において広告を不当表示していたとして、テスラを告発した。テスラは提出した文書において、カリフォルニア州が「オートパイロット」という名称に長年にわたって異議を唱えてこなかったことは、テスラの広告戦略を暗黙のうちに容認したことを意味するとして反論している。
またNHTSAの調査は、オートパイロットでは競合他社の製品と比べてドライバーが自らハンドルを操作しようとしても反応が鈍かったとも結論づけている。こうした設計上の仕様は、ドライバーが積極的に運転しようとする意欲を削ぐものだと、NHTSAは2年近くに及んだオートパイロットに関する調査の総括に記していた。
規制当局は新たな調査も開始
これらの事故が発生したのは、テスラが今年に入ってからリコールと無線アップデートによるオートパイロットのソフトウェア更新を実施する前のことだ。しかし、規制当局はこの調査を終了すると同時に新たな調査も開始した。
今回の調査対象は、2月に実施されたテスラのソフトウェアアップデートだ。ドライバーがオートパイロットを誤用したり、実際に稼働しているタイミングを誤認したり、あるいは稼働が想定されていない場所で使用したりする事態を防ぐために、十分であったかどうかが調べられている。
この再調査が開始される前の先週、ワシントン州でテスラの「モデルS」がオートバイに衝突し、運転手を死亡させる事故が発生した。モデルSのドライバーによると、事故当時はオートパイロットが動作していたという。
規制当局は今回、ドライバーがリコールによる修正の一部を選択的に使用することができ、一部を容易に取り消すことも可能というテスラの声明についても調査する予定だ。
テスラによると、リコール後に実施された今回のアップデートには、オートパイロットの動作中に求められるドライバーの注意要件の厳格化や、ドライバー監視して表示する警告(「道路に注意を払ってください」など)の大型化、システムがドライバーの不適切な使用を発見した場合に機能の使用を制限する一時使用停止ポリシーなどが含まれる。
「テスラはドライバーの監視について真剣に取り組むべきです。オートパイロットの使用は、そこで機能するようにつくられている道路に限定してもらいたいと、声を大にして訴えたいのです」と、自律走行車の安全性などを研究しているカーネギーメロン大学工学部教授のフィル・クープマンは言う。もっと真剣にテスラが介入しなければ、今後何年にもわたって調査とリコールが繰り返されることになりかねないと、クープマンは指摘する。
なお、消費者情報誌『Consumer Reports』で自動車安全性を担当する専門家たちは、テスラのリコールによるアップデートはオートパイロットの誤用を防ぐものではないと、今年2月に判断を下している。
最悪のタイミングでの調査
ここ数年で最悪の売上高と収益の伸びに直面しているこの電気自動車(EV)メーカーにとって、今回の新たな調査は最悪のタイミングで開始されたといえる。テスラは昨年秋に規制当局に提出した書類において、オートパイロット機能と、バッテリー駆動EVの航続距離の表示方法について、米司法省の調査を受けていることも明らかにしている。
このタイミングもまた、テスラにとって非常に厄介である。テスラは現在、自動運転の自律性をさらに推し進めようとしているからだ。
4月23日に開催した投資家向け決算説明会で、最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクは最近の業績悪化に動じている様子を見せなかった。それどころか、自律走行に対するテスラの取り組みと、完全自律走行による配車サービスの運営計画に焦点を当てている。
「本当のところ、わたしたちは人工知能(AI)やロボット工学の会社と考えられるべきです」と、マスクは語っている。「テスラを普通の自動車メーカーと同じように評価するなら、それは根本的に間違った考え方です」
マスクは、テスラ専用設計の自動運転タクシー「サイバーキャブ」を披露するイベントを8月に開催すると説明している。ちょうど今週、テスラはより高度な運転支援機能「フルセルフドライビング ケイパビリティ(FSD)」の価格を、米国で3分の1の8,000ドル(約125万円)に引き下げた。
さらに3月には、FSDの30日間の無料トライアルを顧客に提供し始めている。そしていま、テスラの原点である自動運転技術に新たな厳しい目が向けられている。
(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)
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