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SZ Newsletter VOL.244「シンギュラリティの脱未来化」

シンギュラリティに対してプルーラリティ(多元性)という言葉を対置するオードリー・タンらが登壇して「WIRED UNIVERSITY」の“夏期講座”が開講する。その狙いを綴った、編集長からSZメンバーへのニュースレター。
編集長からSZメンバーへ:「シンギュラリティの脱未来化」SZ Newsletter VOL.244
imageBROKER/Michael Weber/GETTY IMAGES, WIRED JAPAN

今週はHondaグループの研究機関Honda Research Instituteの「Science Innovation Advisory Board」メンバーとして、欧州拠点であるドイツのフランクフルトに来ている。フランクフルトといえば書籍編集者時代には毎秋開催される世界最大の国際ブックフェアであるFrankfurter Buchmesseにおそらく10年ぐらい通い続けていたので、ある意味で勝手知ったる街なのだけれど(だから、ドイツ人自身が「ドイツで最も退屈な都市」と言うのもよくわかる)、それでも足を伸ばしてデュッセルドルフまで新幹線のようなICEで日帰りしたり、ライン川沿いの古き良き町並みとワイン畑が広がるラインガウ地方でオフサイトがあったりと、“初めてのドイツ”をたくさん経験することができた。

モビリティつながりで言えば、今週は『WIRED』の新ビデオシリーズ「The Big Interview」日本版がスタートした。栄えある初回のゲストとしてお迎えしたのが、ソニー・ホンダモビリティの川⻄泉さんだ。このシリーズではUS版の「The Big Interview」と同様、『WIRED』が注目するビジョナリーやイノベーター、ビッグシンカーたちが登場予定なのだけれど、そのフォーマットには人工知能(Ai)を使ったひねりを加えている。別の記事で書いたものをご紹介しよう。

つまり、このSZニュースレターで4月から始めたフォーマット「脱未来化(De-Futuring)/再未来化(Re-Futuring)」を活かした構成になっているのだ。はたして「モビリティ」の未来を川西さんはどう“再未来化”するのか、ぜひ本編を楽しんでいただきたい。

新たな告知という意味では、久しぶりのWIRED UNIVERSITYが開講となる。テーマは「多元的未来を体感する特別講座」。『WIRED』日本版と日本科学未来館の教師で、講師には台湾の元デジタル発展省大臣オードリー・タンや天才経済学者グレン・ワイル、そして『WIRED』のこのSZメンバーシップでも連載をもつ鈴木健らが名を連ねる。

「脱未来化(De-Futuring)/再未来化(Re-Futuring)」というフォーマットに加えて、『WIRED』日本版が特集カンファレンスなどでも度々取り組んできたテーマが「多元的な未来」だ。改めて、今回の“夏期講座”でなぜ「Plurality(多元性)」という言葉を起点にこの「多元的未来」を学ぶのか、こちらも別の記事で書いたものをご紹介する。

これは大きな問いだが『WIRED』が「コモンズ」特集「Web3」特集以来、取り組んできたライフワークでもある。今回、国内外の豪華ゲストを迎えてのセッションによって、ひとつの結節点が生まれることをいまから楽しみにしている。残念ながらこちらのイベントは満席となってしまったが、グレンとオードリーは同時期に開催されるEDOCON202Funding the Commons TOKYO 202のための来日であり、ぜひそちらもチェックしてみてはいかがだろうか。

そして付け加えるなら、『WIRED』日本版では「WIRED Singularity」というイベントも準備中だ。……と書くとまるでメディア特有のスキゾフレニーだと思われるかもしれないけれど、そうではなく、シンギュラリティ/プルーラリティを二項対立に閉じないためにも、ふたつをつないでいく作業というのは、“未来を実装するメディア”としての『WIRED』の役割ではないかと思っている。

『WIRED』日本版編集長
松島倫明

※SZ NEWSLETTERのバックナンバーはこちら(VOL.229以前はこちら)。

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「無知の知」を唱えたのは古代ギリシアのソクラテスだけれど、いまや哲学者ばかりか脳科学者やAI研究者までもが「意識のありか」を探求してる。今週、東京で開催された国際意識学会ASSC27からこの大問題の現在地を考えるSZ会員向けニュースレター。